デヒドロエピアンドロステロンとテストステロンの関係

デヒドロエピアンドロステロンとテストステロン

この記事の要点
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DHEAとは

副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンで、テストステロンやエストロゲンの前駆物質。別名「ホルモンの母」「若返りホルモン」

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変換メカニズム

DHEAはアンドロステンジオンを経てテストステロンに変換され、さらにエストラジオールへと代謝される

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加齢変化

DHEA分泌は20代がピークで、75歳頃にはピーク時の約10%まで減少。テストステロンも同様に低下

デヒドロエピアンドロステロンの分泌メカニズムと副腎の役割

デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は、主に副腎皮質の網状層から分泌されるステロイドホルモンです。脳の下垂体前葉から分泌されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)により分泌が促進され、血中では主にDHEA硫酸塩(DHEA-S)として安定的に存在しています。

参考)デヒドロエピアンドロステロンとは – ウィメンズヘルスケアオ…


DHEAの生合成は、コレステロールを原料として複雑なプロセスを経て行われます。コレステロールからプレグネノロンが生成され、さらにDHEAへと変換されるという段階的な経路をたどります。興味深いことに、過剰なストレスがかかると、プレグネノロンからDHEAへの経路は遮断され、ストレスホルモンであるコルチゾールが優先的に産生されるため、DHEA分泌が低下する可能性があります。

参考)デヒドロエピアンドロステロン – Wikipedia


DHEAはヒトにおいて最も豊富に存在するホルモンであり、「マザーホルモン(mother hormone)」とも呼ばれています。その理由は、約50種類以上ものホルモンに変換される前駆物質であるためです。特に女性では、閉経後のエストロゲン供給の約90%がDHEAに由来しており、テストステロンの40~75%も副腎のDHEA由来とされています。

参考)満岡内科・循環器クリニック

デヒドロエピアンドロステロンからテストステロンへの変換経路

DHEAがテストステロンに変換される経路は、ステロイドホルモンの代謝において中心的な役割を果たしています。DHEAはまずアンドロステンジオンに変換され、その後テストステロンへと代謝されます。さらにテストステロンは、アロマターゼという酵素によってエストラジオールに変換されることもあります。

参考)副腎機能障害の女性におけるデヒドロエピアンドロステロンの補充…


テストステロンは男性では主に精巣(約95%)と副腎(約5%)で産生されますが、DHEAを介した変換経路も存在します。テストステロンのアンドロゲン活性を100とすると、DHEAの活性はその約5%程度であり、DHEAは比較的弱い男性ホルモン作用を持っています。しかし、成人女性においては、アンドロステンジオンとともに主要なアンドロゲンとして重要な役割を果たしています。

参考)満岡内科・循環器クリニック


副腎でのDHEA産生には、CYP17A1(ステロイド17α-ヒドロキシラーゼ/17,20-リアーゼ)という酵素が重要な役割を担っており、この酵素の働きにより効率的にDHEAが生成されます。また、DHEA-Sへの硫酸化を促進するSULT2A1という酵素も、過剰な活性型アンドロゲンの蓄積を防ぐために重要です。

参考)https://www.mdpi.com/1422-0067/25/4/2072/pdf?version=1707384842

加齢によるデヒドロエピアンドロステロン分泌量の変化

DHEAの分泌量は、年齢とともに劇的に変化することが知られています。DHEA分泌は7歳頃から血中に現れ始め、思春期に急激に増加し、20~25歳頃にピークを迎えます。その後は加齢とともに減少し、75歳頃にはピーク時の約10%にまで減少します。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics1964/40/5/40_5_421/_pdf/-char/ja


この加齢に伴うDHEA分泌の低下は、「adrenopause(副腎更年期)」という用語で表現されることもあり、女性の閉経(menopause)と対比されています。興味深いことに、元気な高齢者や長寿の人の体内にはDHEAが多く、血中のDHEA減少が老化の一因であると考えられています。実際に、Rothらの研究によれば、ヒトの寿命と血中DHEA-S濃度との関連性が示されています。

参考)2020年4月 栄養士の豆知識 – サプリメント専門店 ヘル…


加齢によるDHEA減少に伴い、様々な健康問題が生じる可能性があります。更年期障害は女性特有のものではなく、男性にも起こり、倦怠感やうつ症状などの不定愁訴に悩む方が増えています。また、免疫力の低下、脳機能の低下、高血圧や高コレステロール、糖尿病などの生活習慣病のリスクが高まることも報告されています。​

デヒドロエピアンドロステロン補充療法の効果

DHEA補充療法は、特に血中DHEA-S濃度が低下した閉経後女性や高齢男性において、さまざまな効果が報告されています。1日50~100mgのDHEAを3~24ヶ月間経口投与すると、血中DHEA-S濃度は若年者と同等のレベルまで増加します。また、血中テストステロンとエストラジオールの濃度も女性ではわずかに増加することが確認されています。​
腎機能障害の女性を対象とした臨床研究では、DHEA治療により、治療開始時に低値を示していたDHEA、DHEA-S、アンドロステンジオン、テストステロンの血清中濃度が正常範囲にまで上昇しました。さらに、抑うつと不安のスコアが改善され、総合的な心身の幸福感も有意に向上したことが報告されています。​
不妊治療の分野でも、DHEAの効果が注目されています。男性ホルモン作用を持つDHEAは、排卵誘発剤に反応する前の小さな卵胞の発育に重要であることが報告されており、卵巣予備能の指標となるAMH値が低下した方に推奨されています。4~5ヶ月のDHEA摂取により、流産率の低下、着床率の改善、卵子の質や妊娠率が有意に増加するという臨床学的な報告もあります。

参考)DHEAとは?不妊治療における効果とサプリ服用の注意点|桜十…


さらに、高齢男性では体脂肪が減少することや、副腎機能が低下している高齢女性では生活の質と抑うつが改善する可能性も示されています。性欲の増強、夜間の睡眠の質の向上、コレステロール値の低下、筋力と骨密度の増加、体脂肪の減少、老化する皮膚の外観の改善など、多岐にわたる効果が期待されています。

参考)デヒドロエピアンドロステロン(DHEA) – 24. その他…

デヒドロエピアンドロステロン摂取時の副作用と注意点

DHEA摂取時の副作用としては、倦怠感、脂性肌、不眠、興奮などが報告されていますが、短期間、適正量を摂取すれば安全性が示唆されています。臨床現場で最も多く見られる副作用はニキビや肌荒れで、約10%未満の患者に認められます。その他、鼻づまり、頭痛、稀に頻脈や不整脈、動悸なども報告されています。

参考)DHEAとED治療薬の同時摂取の重要性を徹底解説


特に注意が必要なのは、ホルモン感受性のがんに対するリスクです。長期間の摂取または大量摂取は、前立腺がん乳がんなどホルモン感受性のがんのリスクが高まる危険性があります。特にエストロゲン受容体陽性の乳がん患者では、服用を避けるべきとされています。前立腺がんの診療ガイドライン(2006年版)によれば、前立腺がん細胞内の男性ホルモンの40%をDHEAが占めるとされており、前立腺がんの存在が否定されていない壮年男性がDHEAサプリメントを服用した場合、がんの増殖を促進させてしまう懸念があります。

参考)DHEA 〜効果と服用の注意点〜


妊娠中・授乳中の摂取は危険性が示唆されており、妊娠成立後は直ちに中止する必要があります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合、DHEAの持つアンドロゲン作用により病態を悪化させてしまう可能性があるため注意が必要です。また、乳がんなどの性ホルモンにより増殖するタイプのがんや肝障害と診断されたことがある方にも推奨されません。​
他のホルモン療法と同様、血液凝固異常や肝臓障害のリスクが高まる可能性があり、心拍異常や血液凝固亢進の既往歴のある人は使用を避けたほうがよいとされています。糖尿病や脂質異常症(高コレステロール血症、高脂血症)、甲状腺異常、その他の内分泌異常の人も注意して使用する必要があります。​
日本ではDHEAは医薬品指定を受けているため、医師の処方の下に服用することが推奨されています。海外ではサプリメントとして販売されていますが、日本国内では医療機関で処方されたものを使用すべきです。また、DHEAの不眠の副作用を回避するために、夜の服用を避け朝の服用が推奨されています。さらに、DHEAは筋肉増強剤としてドーピング薬物に指定されているため、スポーツ選手が服用する場合には十分な注意が必要です。​

デヒドロエピアンドロステロン産生を高める生活習慣と食事

普段の食事は、DHEA分泌に大きな影響を与えます。DHEAの材料となるのはコレステロールであるため、極端なダイエットで肉や乳製品などの動物性食品を控えすぎると、コレステロール不足によりDHEA産生が低下する可能性があります。オメガ3系脂肪酸が豊富な青魚や亜麻仁油、えごま油などは積極的に摂取することが推奨されます。

参考)テストステロンは体のどこで作られて、どのように分泌しています…


コレステロールからDHEAが作られる過程では、ビタミンC、ビタミンB群、マグネシウムなどが必要となります。ビタミンC豊富な野菜や果物、ビタミンB群が豊富な玄米や豚肉、マグネシウムが豊富な魚介や海藻、大豆製品などを食事に取り入れることが重要です。また、副腎にダメージを与える活性酸素に対抗するため、ビタミンA、E、セレニウム、亜鉛などの抗酸化栄養素も必要です。​
DHEA含有食品としては山芋があり、特に自然薯にはビタミンC、E、亜鉛なども含まれているため、DHEA産生という観点では効果的な食材です。一方、DHEA分泌を妨げる食事には注意が必要です。血糖値を急激に上昇させる食事は、インスリンの過剰分泌を引き起こし、それに反応してコルチゾールも分泌されます。これが続くと副腎疲労を起こし、DHEA分泌低下につながるため、甘いものの摂りすぎや食べる順番に配慮することが大切です。​
また、カフェインやアルコールの過剰摂取もDHEA分泌を妨げるとされています。食事以外では、十分な睡眠や適度な運動がDHEA分泌を促進することが知られています。ホルモン分泌は感情との関わりも深く、常に前向きな気持ちで過ごすことでも活性化されるため、心の健康も重要な要素となります。​
MSDマニュアル プロフェッショナル版では、DHEAの効能や副作用について医療従事者向けの詳細な情報が記載されています。
三ツ岡クリニック「誌上ディベート」DHEA補充では、DHEAの代謝経路やステロイド合成について図解付きで詳しく解説されています。