デブリードマンとは感染組織を除去する重要な処置

デブリードマンとは感染組織を除去する処置

デブリードマンの基本概要
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目的と効果

死滅した組織や細菌感染巣を除去し、創傷治癒を促進する外科処置

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手技の種類

外科的・化学的・物理的・生物学的など複数の方法が存在

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適応条件

感染・壊死組織の存在、創傷治癒の妨げとなる組織の除去が必要な場合

デブリードマンの定義と目的

デブリードマン(debridement)は、死滅した組織、成長因子などの創傷治癒促進因子の刺激に応答しなくなった老化した細胞、異物、およびこれらにしばしば伴う細菌感染巣を除去して創を清浄化する治療行為です 。フランス語で「切開」を意味するdebridementに由来し、略して「デブリ」、あるいはデブリドマン、デブリードメントとも呼ばれています 。

参考)デブリードマン :医療・ケア 用語集

この処置の目的は、感染・壊死組織を除去し、創を清浄化することで他の組織への影響を防ぐことにあります 。感染・壊死組織は正常な肉芽組織の成長の妨げとなるため、デブリードマンは創傷外科治癒の原則とされています 。

参考)デブリードマン – Wikipedia

デブリードマンの歴史と変遷

デブリードマンの歴史は18世紀まで遡り、フランスのDesalt(1744-1795)が創始したとされています 。その後、彼の弟子でナポレオンの首席外科医であったLarrey(1766-1842)が軍陣外科の現場で実践したことから普及しました 。

参考)https://www.chikamori.com/group/approach/asset/75_Hiroppa-202207.pdf

現在でもフランス(語圏)の外科医は「デブリードマン:débridement」という言葉の由来に忠実に「切開して締めつけを解くこと(removal of constriction by incision)」を意味して使用しています 。この歴史的背景により、現代でも外科的処置としての概念が強く残されています。

参考)創傷管理(2)—デブリードマン(Débridement)とは…

興味深いことに、「デブリードマン」という用語はフランス語読みであるため、英語圏では通じない場合があり、医療現場での国際的な意思疎通において注意が必要です 。

参考)外国人患者さんには通じない医療用語|デブリ・デブリードマン|…

デブリードマンの種類と手技

デブリードマンには主要な5つの方法が存在し、それぞれ異なる適応と特徴があります :

参考)デブリードマンとは? どんな創に行う? 5つの方法

外科的デブリードマン

メスやハサミを用いて創の異物、壊死組織を切除する方法で、サージトロンなどによる電気焼却も含まれます 。表面および深部の壊死組織を除去できるため、バイオフィルムも含め広範囲に除去することができます 。

参考)特集1 キズの治療に重要なバイオフィルムの知識と応用|花王ハ…

化学的デブリードマン

蛋白分解酵素(ブロメライン軟膏など)による方法で、外用剤を用いて創の異物、壊死組織を溶解します 。

物理的デブリードマン

高圧洗浄、水治療法、超音波洗浄などの機械的方法や、wet-to-dryドレッシング法が含まれます 。近年では超音波キャビテーションにより壊死組織やバイオフィルムを乳化し破壊する超音波式デブリードマンが注目されています 。

自己融解デブリードマン

閉鎖性ドレッシング(ハイドロコロイド材など)を用いて自己融解作用を利用する保存的な方法です 。

生物学的デブリードマン

1990年代から導入された、医療用無菌化されたヒロズキンバエの幼虫(ウジ)を用いたマゴットセラピーです 。組織を液化させる酵素を分泌すると同時に抗菌物質も分泌し、組織コラーゲンマトリックスを破壊して静菌効果を発揮します 。

参考)デブリードマン

デブリードマンと感染・バイオフィルムの関係

近年の創傷治療において、バイオフィルムの除去がデブリードマンの重要な目的の一つとして注目されています 。バイオフィルムは細菌が形成する保護膜で、通常の抗生物質治療では除去が困難な構造体です。
Wound hygiene conceptでは、軟膏などを使用する融解性デブリードマンでは時間とコストがかかるわりに、感染リスクが高まるため不十分であるとされています 。バイオフィルムを破壊し、再形成を防ぐためには、物理的な力と剪断力が必要で、界面活性剤、消毒剤、抗菌剤を使用することで最適化できます 。

参考)https://www.woundhealing-center.jp/seihin/images/woundhygiene.pdf

自己融解性デブリードマンのように点状出血しないデブリードマンでは、物理的にバイオフィルムを除去できない場合があるため、機械的、シャープ、超音波、または生物学的なデブリードマンが推奨されています 。

デブリードマンの診療報酬と保険適用

デブリードマンは診療報酬点数表上でK-002に分類され、面積に応じて点数が設定されています :

参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_10_1_1_1%2Fk002.html

  • 100平方センチメートル未満:1,620点
  • 100平方センチメートル以上3,000平方センチメートル未満:4,820点
  • 3,000平方センチメートル以上:11,230点

特別な加算として、骨、腱又は筋肉の露出を伴う損傷については深部デブリードマン加算(1,000点)、水圧式デブリードマン加算(2,500点)、超音波式デブリードマン加算(2,500点)が設けられています 。
通常は当初の1回に限り算定されますが、熱傷により全身の20パーセント以上に植皮を行う場合又はA群溶連菌感染症に伴う壊死性筋膜炎の場合においては、5回に限り算定可能です 。これは重篤な症例における複数回のデブリードマンの必要性を考慮した制度設計となっています。