脱水症と熱中症の違い
脱水症の原因と基本メカニズム
脱水症は、水分や電解質のからだに入る量と出る量のバランスが崩れ、体液量が減少した状態のことです 。体液をつくるのに必要な水分や電解質の摂取が不足したり、体液が過剰に失われたりすると、体液量が減少してしまいます。
参考)脱水症の症状とは?原因と予防のためにできること【セルフチェッ…
体内に取り込む水分よりも失う水分が多いことが原因で脱水症状が起こります。主な原因として以下が挙げられます。
参考)脱水症状の予防と検査について.運動時や夏は要注意です。健診会…
- 水分摂取量の減少:高齢者の場合、夜中のトイレのことを気にして水分補給を控えることがあります
- 水分喪失量の増加:気温の高い環境で激しく運動すると大量の汗が出て水分が失われます
- 口渇中枢の感受性の低下:特に高齢者は「口喝中枢」が低下しやすい傾向にあります
- 服用している薬の影響:利尿作用がある降圧剤は脱水症状の原因となります
脱水症は急性型と慢性型に分類され、急性型は暑熱環境で起こる熱中症や、感染症で起こる下痢、嘔吐、発汗などに伴う大量の体液喪失が主要因です。
参考)特集 脱水症を理解する
脱水症の症状と重症度分類
脱水症の症状は体重の減少率によって変化し、体重減少率が大きくなるほど症状は重症となります。脱水症の重症度は、健康時の体重に対して3~5%の体液が失われた状態を軽度、6~9%を中等度、10%以上を重度と判定されます。
参考)脱水
軽度脱水(体重減少1~2%)の症状。
- 喉の渇きや尿量の減少
- 軽い下痢や嘔吐、微熱
- のどの渇き、だるさ、めまい
中等度脱水(体重減少3~9%)の症状。
- 全身の倦怠感や頭痛、嘔吐、めまい
- 痰を出しにくい、血圧低下、臓器の血流低下
重度脱水(体重減少10%以上)の症状。
- 心臓・腎臓・呼吸機能不全
- 意識がもうろう、けいれん
- 死に至ることもある
特に脳、消化器、筋肉はたくさんの水分を必要とするため、脱水によって次のような症状が現れやすくなります:
- 脳 → 頭痛、立ちくらみ、めまい
- 消化器 → 食欲低下、便秘、下痢
- 筋肉 → 筋肉の痙攣、痛み、足がつる
熱中症の分類と症状の特徴
熱中症とは、高温多湿な環境下で起こる健康障害の総称を指します 。体内の水分や電解質のバランスが崩れたり、体温調節機能がうまく働かなかったりすると、体内に熱が溜まり、筋肉のけいれんや、吐き気やだるさなどが現れます。
2024年に日本救急医学会がI度〜IV度と分類し直しました。従来の分類では以下のような病型に分けられていました:
参考)熱中症① 〜熱中症とはどんな病気?〜|高輪みつるクリニック|…
熱失神
- 発汗による脱水と皮膚血管の拡張による循環不全により、一過性に血圧が低下
- 症状:めまい、一時的な失神、顔面蒼白、脈は速くて弱くなる
熱けいれん
- 大量の汗をかいた際に生じる水や塩分喪失がきっかけ
- 症状:筋肉痛、手足がつる、筋肉がけいれんする
熱疲労
- 発汗による脱水と皮膚血管の拡張による循環不全により様々な体調不良
- 症状:脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気
熱射病
- 体温上昇が継続したために生じる多臓器に障害をきたした状態
- 症状:体温が高い、意識障害、呼びかけや刺激への反応がにぶい、言動が不自然
新しい分類のI度(軽症)は、意識ははっきりしているものの手足の痺れやめまい、立ちくらみなどを認める状態で、自分で水分を取ることはできることが多いです。
高齢者における脱水症の特殊性
高齢者は特に脱水症になりやすく、注意が必要です。年齢を重ねると「口渇中枢(喉の渇きを感じる中枢)」の機能が低下するため、汗をかいて水分を必要としている場合でも、高齢者は喉の渇きを感じにくく、水分を摂取する機会を逃しがちです。
高齢者が脱水症になりやすい主な原因。
体内水分量の減少
- 人間は年齢が上がるごとに体内の水分量がだんだんと減り、高齢になると体重に対する水分量の割合が50%ほどになります
- 以前に比べて10%ほど少ないため、その分脱水症になりやすいのです
口渇中枢の機能低下
- 高齢になると喉の渇きを感じる「口渇中枢」が衰えることも、脱水症状になりやすい原因の一つです
- 水分が必要な状態になっていても自分ではなかなか実感できないので、水分補給が遅れてしまいます
食事からの水分摂取困難
- 高齢になると、食欲不振になったり、飲み込む力が弱まったりといったお体の状態が原因で、食事量が減ってしまう方もいらっしゃいます
- 腎臓病や糖尿病などの食事療法を行っていると、食事から十分な水分量を摂りにくくなる場合もあります
高齢者の脱水は脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な疾患のリスクを高めるため、特に注意が必要です。重度の脱水になると、脳への血流が不足し、認知機能の低下や意識障害を引き起こすことがあります。
参考)脱水症状を放置すると、どんな病気のリスクがある? – 大阪グ…
効果的な予防と対策方法
脱水症と熱中症の予防には、適切な水分補給と環境管理が重要です。「のどが渇く前の水分補給」が重要で、のどの渇きを感じる時点で、すでに軽度の脱水状態になっています。
参考)効果的な熱中症対策:正しい知識を手に入れて熱中症を予防しよう…
基本的な水分補給方法
- 環境省の熱中症予防情報サイトでは、1日当たり1.2リットルを目安としたこまめな水分補給を推奨しています
- 炎天下や暑い環境下にいるときは、少なくとも30分に1回を目安に水分を摂ること
- 塩レモン飴やスポーツドリンクなどをうまく活用し、水分と一緒に塩分の補給も行う
経口補水液の活用
経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)には糖分と塩分が入っているため、脱水症の水分補給、熱中症対策に役立ちます。発汗により体液がなくなると脱水症になり、脱水症を放っておくと熱中症になっていきます。
自家製経口補水液の作り方
水1Lの場合、砂糖40g(大さじ4と1/2)+塩3g(小さじ1/2)+お好みでレモン果汁を混ぜるだけです。
環境管理と服装
- 風通しの良い涼しい服装を心がけましょう
- 汗が空気に触れ蒸発することで効率よく熱を外に逃し、体温を下げることができます
- 室内でも温度を測り、適切な温度管理を行う
特に注意が必要な時期と条件
- 梅雨明け直後(体が暑さに慣れていない時期)
- 気温が30度以上、湿度が70%以上の日
- 前日との温度差が5度以上ある日
熱中症予防には、暑い・むし暑い環境を避けることに加えて、脱水症を予防することが重要です。子どもや高齢者は特に注意が必要で、周りの方も注意を払って見守ることが大切です。
参考)熱中症と脱水について