ダクラタスビル アスナプレビル併用療法
治療開始12週以内に肝不全で死亡する例があります。
ダクラタスビル・アスナプレビルの作用機序と特徴
ダクラタスビル・アスナプレビル併用療法(DCV/ASV併用療法)は、C型肝炎ウイルス(HCV)の複製に必要な異なる2つのタンパク質を阻害する直接作用型抗ウイルス薬(DAA)です。ダクラタスビルはNS5Aを阻害し、アスナプレビルはNS3/4Aプロテアーゼを阻害することで、ウイルス複製過程の複数箇所を同時に遮断します。wikipedia+1
この治療法は、従来のインターフェロン(IFN)注射を必要としない「インターフェロンフリー治療」として、2014年9月に日本で発売されました。
つまり経口薬のみです。
適応はセログループ1(ジェノタイプ1型)のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変で、IFN治療不適格や不耐容例にも使用できる点が画期的でした。治療期間は24週間で、従来のIFN療法の1/2から1/3に短縮されました。wikipedia+1
ダクラタスビル・アスナプレビル療法のSVR率と有効性
DCV/ASV併用療法の持続的ウイルス消失(SVR)率は、臨床試験において82~90%と高率を示しました。初回治療例では90~95%のSVR率が報告されており、IFN治療のnull responder(無効例)を対象とした試験でも一定の効果が認められました。pmda+2
しかし治療効果には大きな落とし穴があります。NS5A領域に薬剤耐性変異(Y93またはL31変異)を持つ患者では、治療効果が著しく低下することが判明しました。jstage.jst+1
耐性変異を持たない患者集団では高いSVR率が期待できましたが、既存の耐性変異がある場合は治療成功率が大幅に下がります。このため治療前のウイルス遺伝子検査が重要でした。
参考)https://hiroshima.repo.nii.ac.jp/record/2004019/files/k7555_2.pdf
SVR達成の可否が事前検査で予測できる点は、医療資源の適正配分に貢献しました。
ダクラタスビル・アスナプレビルの重大な副作用
DCV/ASV併用療法では、複数の重大な副作用が報告されています。最も注意すべきは肝機能障害・肝不全で、臨床試験においてもALT(GPT)増加が8.6%、AST(GOT)増加が5.6%の患者に認められました。jstage.jst+1
このリスクに対応するため、投与開始12週目までは少なくとも2週ごと、それ以降は4週ごとに肝機能検査を実施することが義務付けられました。肝予備能低下から肝不全に至る例も存在します。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000205988.pdf
2015年には厚生労働省の医薬品・医療機器等安全性情報で、多形紅斑が重大な副作用として追加されました。血小板減少や間質性肺炎も重大な副作用として認識されています。gemmed.ghc-j+3
5%以上の患者に好酸球増加症、発熱、倦怠感、頭痛が出現するため、患者の自覚症状モニタリングも欠かせません。これらの副作用発現率は決して低くないですね。
ダクラタスビル・アスナプレビル治療における耐性変異の問題
DCV/ASV併用療法の重要な課題は、治療失敗後に多剤耐性変異が出現する可能性です。特にviral breakthrough(治療中のウイルス再燃)が生じた症例では、NS5A領域やNS3領域に複数の耐性変異が蓄積します。jstage.jst.go+1
治療不成功例の再治療において、さらなる耐性変異の獲得が問題となります。DCV/ASV治療で失敗した患者に、ダクラタスビル・アスナプレビル・ベクラブビル(DCV/ASV/BCV)配合剤で再治療を行った症例では、NS5B領域にP495L耐性変異が新たに検出されたケースが報告されました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/58/12/58_667/_pdf
国内第3相臨床試験ではNS5B領域のP495変異は1例も認められていなかったため、この発見は臨床上の重要な警告となりました。耐性変異の蓄積は後続治療の選択肢を狭めます。
DAA難治例に対する治療法選択では、過去の治療歴と耐性変異パターンを慎重に評価する必要があります。現在では、より耐性変異を生じにくい次世代DAA薬が優先されています。
ダクラタスビル・アスナプレビルの販売中止と代替治療
DCV/ASV併用療法は2021年に販売が中止されました。販売中止の主な理由は、より効果的で安全性の高い次世代DAA薬への治療体系の転換です。med.myclimatejapan+1
グレカプレビル・ピブレンタスビル配合錠(マヴィレット)などの第二世代、第三世代DAAは、SVR率が100%近く、治療期間も12週間またはそれ以下に短縮され、耐性変異への懸念も大幅に軽減されました。
特に重要なのが耐性変異対策です。
keiju.co+1
ソホスブビル/レジパスビル配合錠も、NS5A薬剤耐性変異(Y93およびL31変異)の存在下でも高い治療効果を示し、多剤耐性変異出現のリスクがなくなりました。
これにより患者の予後が改善されました。
C型肝炎治療ガイドライン第8.3版(2024年5月)では、ダクラタスビル、アスナプレビルの販売中止に伴い、治療推奨から削除されています。現在のC型肝炎治療は、3剤のIFNフリーDAA(ソホスブビル/レジパスビル、グレカプレビル/ピブレンタスビルなど)が主流となり、90%以上の高いSVR率と安全性の大幅な向上が実現しています。jsh+1
ダクラタスビル・アスナプレビル療法の特殊な投与状況
DCV/ASV併用療法では、薬物相互作用に関する厳格な管理が求められました。ダクラタスビルとアスナプレビルは共にCYP3A4の基質であり、複数のトランスポーター(P-gp、OATP1B1、1B3、BCRP)と相互作用します。kegg+1
禁忌薬剤として、リファンピシン、リファブチン、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、デキサメタゾンが指定されていました。
これらはCYP3A4誘導薬です。
セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品の摂取も禁忌とされ、患者への服薬指導が重要でした。
食品との相互作用は見落としやすいですね。
腎機能低下患者に対しても使用可能であった点は、この治療法の利点の一つでした。透析患者を含む腎機能障害例での安全性データが蓄積されていました。jstage.jst.go+1
治療中の定期的なモニタリングでは、ウイルス量測定と肝機能検査の両方が必須であり、viral breakthroughの早期発見が耐性変異対策の鍵となりました。医療現場での厳密な管理体制が求められた治療法でした。