第四世代セフェム一覧と特徴
第四世代セフェムは注射薬のみで経口剤がありません
第四世代セフェム系抗菌薬の種類と商品名
第四世代セフェム系抗菌薬は、日本国内で使用できる注射用製剤が3種類存在します。これらは「CEZ + CAZ = CFPM」という式で表現されるように、第一世代セファゾリン(CEZ)のグラム陽性菌への活性と、第三世代セフタジジム(CAZ)のグラム陰性菌への活性を併せ持つ特徴があります。
つまり広域スペクトラムです。
第四世代セフェム系の代表的な薬剤は以下の通りです。
- 商品名:マキシピーム
- 規格:注射用0.5g、1g
🔹 セフォゾプラン塩酸塩(CZOP)
- 商品名:ファーストシン
- 規格:静注用0.5g、1g
🔹 セフピロム硫酸塩(CPR)
- 商品名:硫酸セフピロム「マイラン」
- 規格:静注用0.5g、1g
これら3剤はいずれも注射薬としてのみ提供されており、経口剤は存在しません。第三世代までは経口セフェムが存在しますが、第四世代には経口剤の開発がなされていないため、入院患者や外来での点滴治療が必要な重症感染症に対してのみ使用されます。
第四世代が注射薬のみなのは設計思想が関係しています。
開発段階において、第四世代セフェムは院内感染症や重症感染症をターゲットとして設計されました。特に緑膿菌やESBL産生菌などの耐性菌に対する活性を重視したため、より高い血中濃度を安定的に維持できる注射剤としての開発が優先されたのです。経口剤では消化管吸収の問題や、食事の影響によるバイオアベイラビリティの変動が生じるため、確実な治療効果を得るには注射剤が適していると判断されました。
セフェム系抗菌薬の世代別分類と特徴について詳しく解説されています(日本薬剤師会の公式資料)
第四世代セフェムの抗菌スペクトラムと特徴
第四世代セフェム系抗菌薬の最大の特徴は、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に対して強力な抗菌活性を持つ広域スペクトラムです。この特性により、起炎菌が特定できていない重症感染症の経験的治療において、第一選択薬として選択される場面が多くなっています。
グラム陽性菌への活性では、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)や各種レンサ球菌に対して第一世代セフェムに匹敵する強い効果を示します。一方でMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)には無効である点は他のセフェム系と同様です。また、腸球菌に対してもセフェム系全般が無効であることは変わりません。
グラム陰性菌への活性が優れています。
大腸菌、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス属などの腸内細菌科に対して強力な殺菌作用を発揮します。さらに重要なのは、第四世代セフェムのうちセフェピムとセフォゾプランは緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対しても有効性を持つ点です。緑膿菌に有効なセフェム系はセフタジジム(第三世代)とこれら第四世代の2剤に限られるため、臨床的な価値が高いといえます。
βラクタマーゼに対する安定性も向上しています。ESBL(基質拡張型βラクタマーゼ)産生菌の一部に対しては活性を保つことができますが、完全ではないため、耐性菌が疑われる場合はカルバペネム系抗菌薬への変更が検討されます。
髄液移行性を有するのが利点です。
第三世代以降のセフェム系は髄膜炎時に髄液への移行が良好であり、第四世代も同様の特性を持ちます。中枢神経系感染症が疑われる場合には、髄液移行性の良い抗菌薬選択が必須となるため、この点は重要な選択理由となります。
ただし嫌気性菌には弱いという弱点があります。バクテロイデス属などの嫌気性菌に対する活性は不十分であるため、腹腔内感染症や骨盤内感染症など嫌気性菌の関与が疑われる場合には、メトロニダゾールなどの嫌気性菌カバー薬の併用が必要です。あるいは最初からカルバペネム系やβラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系を選択する方が合理的な場合もあります。
第四世代セフェムの臨床での使い分けポイント
第四世代セフェム系抗菌薬の使い分けは、感染部位、重症度、患者の腎機能、そして施設での採用状況によって決まります。臨床現場で最も使用頻度が高いのはセフェピム(CFPM)で、次いでセフォゾプラン(CZOP)となっています。
発熱性好中球減少症(FN)では第一選択です。
抗がん化学療法や造血幹細胞移植後に好中球数が500/μL未満に減少し、かつ38.0℃以上の発熱を認めた場合、起炎菌が判明する前に経験的に広域抗菌薬を開始する必要があります。この場面でセフェピムは国際的なガイドラインでも推奨されており、グラム陽性菌と緑膿菌を含むグラム陰性菌の両方をカバーできる利点から標準的な選択肢となっています。
院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎(VAP)においても有用性が高いです。これらの感染症では、緑膿菌やESBL産生菌などの多剤耐性菌が起炎菌となるリスクが高いため、初期治療から広域スペクトラムの抗菌薬が求められます。セフェピムは緑膿菌への活性を保ちながらグラム陽性菌もカバーできるため、単剤での経験的治療が可能です。ただし、MRSA感染が強く疑われる場合には、バンコマイシンやリネゾリドなどの抗MRSA薬を併用します。
セフォゾプランはどう使い分けるのか。
セフォゾプランもセフェピムとほぼ同等の抗菌スペクトラムを持ちますが、緑膿菌に対する活性ではセフェピムがやや優れているとする報告があります。一方で、セフォゾプランは国内で開発された薬剤であり、日本の臨床現場では長い使用実績があります。施設によってはセフォゾプランを第一選択としているところもあり、医師の慣れや経験も選択に影響します。
腎機能障害がある患者では慎重投与が原則です。
第四世代セフェムは主に腎排泄型の薬剤であるため、腎機能低下時には血中濃度が上昇し、神経毒性のリスクが高まります。特にセフェピムでは、腎機能障害患者においてセフェピム脳症と呼ばれる中枢神経系の副作用が報告されています。過去の報告では、セフェピム投与後に神経毒性を発症した患者の87%が腎機能障害を有していたというデータがあります。
脳症の症状には注意が必要です。
意識障害、見当識障害、ミオクローヌス(筋肉の不随意運動)、痙攣などが典型的な症状で、脳波検査では三相波(triphasic waves)という特徴的なパターンが見られることがあります。これらの症状が出現した場合、セフェピムを中止し、必要に応じて血液透析で薬剤を除去することで症状が改善します。
腎機能に応じた投与量調整が必須です。クレアチニンクリアランス(CCr)が30〜60 mL/分の場合は投与量を半減、30 mL/分未満ではさらに減量または投与間隔を延長する必要があります。透析患者では透析後に投与するなど、薬物動態を考慮した投与設計が求められます。
腎不全患者におけるセフェピム脳症の発生頻度と対策について詳しく解説されています(日経メディカルの専門記事)
第四世代セフェムと他世代セフェムの違い
第四世代セフェムは、第一世代から第三世代までのセフェム系抗菌薬とどのように異なるのでしょうか。世代間の違いを理解することで、適切な薬剤選択が可能になります。
第一世代セフェムとの比較から見ていきましょう。
第一世代セフェム(セファゾリン:CEZなど)は、MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)をはじめとするグラム陽性菌に対して非常に強い抗菌活性を持ちます。皮膚軟部組織感染症や手術部位感染症の予防・治療において第一選択となる場面が多いです。しかし、グラム陰性菌への活性は限定的で、大腸菌や肺炎桿菌の一部には効果がありますが、緑膿菌には無効です。また、髄液移行性がないため中枢神経系感染症には使用できません。
第四世代は第一世代のグラム陽性菌への強さを保ちつつ、グラム陰性菌や緑膿菌へのカバー範囲を大きく拡大しています。つまり第一世代が得意とする分野を捨てずに、活性範囲を広げたのが第四世代の特徴です。
第二世代セフェムはどうでしょうか。
第二世代(セフメタゾール:CMZ、セフォチアム:CTM、フロモキセフ:FMOXなど)は、第一世代よりもグラム陰性菌への活性が向上し、さらにセフメタゾールやフロモキセフは嫌気性菌(特にバクテロイデス属)にも有効という特徴があります。このため、腹腔内感染症や婦人科感染症など、嫌気性菌が関与する感染症に適しています。しかし、緑膿菌には無効であり、髄液移行性も不十分です。
第四世代は嫌気性菌には弱いのです。
この点が第二世代との決定的な違いで、腹腔内感染症などでは第二世代の方が適している場面があります。あるいは第四世代を使う場合は嫌気性菌カバーのために別の薬剤を併用する必要があります。
第三世代セフェムとの比較が最も重要です。
第三世代(セフトリアキソン:CTRX、セフォタキシム:CTX、セフタジジム:CAZなど)は、グラム陰性菌に対して非常に強い活性を持ち、市中肺炎の原因菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスに加えて、腸内細菌科全般に優れた効果を示します。また、髄液移行性が良好で、細菌性髄膜炎の標準治療薬となっています。
グラム陽性菌への活性が低下したのが難点です。第三世代ではMSSAに対する活性が第一世代や第二世代と比べて明らかに劣るため、黄色ブドウ球菌感染症が疑われる場合には第一世代に戻すか、別の薬剤を選択する必要があります。
第四世代はこの弱点を克服しています。グラム陽性菌への活性を保ったまま、第三世代と同等以上のグラム陰性菌カバー範囲を持つのが第四世代の最大の利点です。「CEZ + CAZ = CFPM」という覚え方は、まさにこの特性を表しています。
世代が進むほど良いわけではありません。
感染症治療の基本原則は、「起炎菌が判明したら、可能な限り狭域の抗菌薬にde-escalation(段階的縮小)する」ことです。第四世代セフェムは広域スペクトラムであるがゆえに、濫用すると耐性菌出現のリスクを高めます。グラム陽性菌感染症であれば第一世代、嫌気性菌関与があれば第二世代、市中肺炎であれば第三世代と、感染症の種類に応じて最適な世代を選ぶことが抗菌薬適正使用につながります。
第四世代は重症例や複雑な感染症の初期治療、起炎菌不明時の経験的治療において真価を発揮する薬剤であり、安易な使用は避けるべきです。
第四世代セフェム使用時の副作用と注意点
第四世代セフェム系抗菌薬は広域スペクトラムで有用性が高い一方で、いくつかの重要な副作用と使用上の注意点があります。特に腎機能障害患者での神経毒性は、臨床上最も警戒すべき有害事象です。
セフェピム脳症の発症率は決して低くありません。
腎機能低下患者にセフェピムを投与した場合、約1〜15%の患者で脳症が発症するという報告があります。この大きな幅は、対象患者の腎機能の程度や併存疾患、投与量調整の有無によって変動するためです。重度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30 mL/分未満)を有する患者では、特に発症リスクが高まります。
脳症の症状は多彩です。意識レベルの低下や混乱、見当識障害といった認知機能障害から始まり、ミオクローヌス(筋肉のピクつき)、全身性痙攣発作、さらには昏睡状態に至ることもあります。高齢者では認知症の悪化と誤認されやすく、診断が遅れる危険性があります。
診断には脳波検査が有用です。
セフェピム脳症に特徴的な所見として、三相波(triphasic waves)と呼ばれるパターンが脳波で観察されることがあります。これは肝性脳症などの代謝性脳症でも見られる波形ですが、セフェピム投与中の患者で意識障害と三相波が確認されれば、脳症の診断根拠となります。
治療は薬剤中止と透析です。セフェピムを直ちに中止し、必要に応じて血液透析を行うことで薬剤を体外に除去します。セフェピムは透析で除去可能な薬剤であり、透析後には症状が速やかに改善することが多いです。ほとんどの症例で予後は良好ですが、高齢者や重症例では後遺症が残る可能性もあるため、早期発見・早期対応が重要です。
他のβラクタム系抗菌薬との交差アレルギーにも注意が必要です。
セフェム系抗菌薬はペニシリン系と同じβラクタム環を持つため、ペニシリンアレルギーの既往がある患者では、セフェム系でもアレルギー反応を起こす可能性があります。交差反応率は約5〜10%程度とされていますが、ペニシリンでアナフィラキシーショックを起こした患者には原則として使用を避けるべきです。
発疹や蕁麻疹、発熱などの軽度のアレルギー反応から、血管浮腫、気管支痙攣、アナフィラキシーショックといった重篤な反応まで起こりうるため、初回投与時は特に注意深い観察が必要です。
アレルギー歴の確認は投与前に必ず行います。
消化器症状も頻度の高い副作用です。下痢、悪心、腹痛などが投与患者の5〜10%程度に認められます。ほとんどは軽度で投与中止を要しませんが、重症の下痢や血便、発熱を伴う場合は偽膜性大腸炎(Clostridioides difficile感染症)を疑う必要があります。広域抗菌薬の使用は腸内細菌叢を乱し、C. difficileの異常増殖を招くリスクがあるため、不必要な長期投与は避けるべきです。
血液毒性として好中球減少や血小板減少が報告されています。頻度は低いものの、長期投与時には定期的な血算チェックが推奨されます。特に高齢者や栄養状態の悪い患者では注意が必要です。
利尿薬との併用で腎障害が増強する可能性があります。フロセミドなどのループ利尿薬とβラクタム系抗菌薬を併用すると、腎障害のリスクが高まるとの報告があるため、併用する場合は腎機能を慎重にモニタリングします。
投与中は定期的な検査が重要です。腎機能(血清クレアチニン、推算糸球体濾過量)、肝機能(AST、ALT)、血算(白血球数、好中球数、血小板数)を適宜チェックし、異常の早期発見に努めます。特に腎機能は投与量調整の指標となるため、投与開始前と投与中の定期的な評価が必須です。