第vii因子の半減期と臨床的意義
活性値が1%未満でも出血症状がない患者がいます。
第vii因子の半減期が最も短い理由と臨床的影響
第vii因子はビタミンK依存性凝固因子の中で最も半減期が短く、血漿中での半減期は約3〜4時間とされています。この特性は凝固因子の中でも際立って短いものです。比較すると、同じビタミンK依存性凝固因子である第ix因子の半減期は20〜24時間、第x因子は1〜2日、第ii因子(プロトロンビン)は2.8〜4.4日となっており、第vii因子の半減期がいかに短いかが分かります。
つまり半減期は最短です。
この半減期の短さは、臨床現場での止血管理に大きな影響を与えます。血漿中の第vii因子濃度は約500ng/ml(10nM)で循環していますが、肝臓での産生が停止したり、ビタミンK欠乏状態に陥ると、他の凝固因子よりも先に急速に低下するのです。
ワルファリン投与開始時のモニタリングでは、この特性が特に重要になります。ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子の産生を抑制しますが、半減期が短い第vii因子が最も早く低下するため、PT(プロトロンビン時間)が延長し始めます。この現象により、PTはワルファリンの薬効評価として臨床検査の指標に用いられているのです。
PT-INRでの評価が基本です。
ただし、注意すべき点があります。第vii因子と同様に半減期が短い(6〜8時間)抗凝固因子であるプロテインCも同時に低下するため、ワルファリン投与開始時には一時的に血栓傾向を呈する可能性があります。プロテインCは第vii因子を除く他のビタミンK依存性凝固因子より半減期が短いため、ワルファリン導入時には少量から開始し、ヘパリンとの併用が推奨される理由の一つとなっています。
第vii因子の半減期と分子構造に関する詳細情報(日本血栓止血学会の先天性第VII因子欠乏症に関する論文)
第vii因子補充療法における半減期を考慮した投与間隔
第vii因子欠乏症の出血時や手術時には、半減期の短さを十分に考慮した補充療法が必要です。遺伝子組換え活性型第vii因子製剤(ノボセブンHI)を使用する場合、90〜120μg/kgを2〜3時間ごとに十分な止血効果が得られるまで投与します。
小児では半減期がさらに短くなります。
小児患者では成人よりも半減期が短いことが知られており、2時間ごとの投与が推奨されています。これは小児の代謝回転が速いため、血中からの第vii因子の消失がより早いことによります。インヒビター保有血友病患者に対する止血治療ガイドラインでも、小児では2時間ごとの投与間隔が明記されています。
新鮮凍結血漿(FFP)を用いる場合の補充療法では、投与量や投与間隔を患者の重症度と出血の程度、必要な止血レベル、そして半減期を考慮して治療計画を立てます。FFPは15〜20ml/kgを投与することで凝固因子全体を補充できますが、第vii因子の半減期を考えると頻回の投与が必要になる場合があります。
止血レベルは20%以上が目標です。
複合型第ix因子濃縮製剤を予防投与として用いる場合、週3回程度の投与で一定の第vii因子レベルを維持することが可能です。重症例の新生児期から予防投与を行うことで、頭蓋内出血などの致死的出血を予防できた報告もあります。ただし、活性型第vii因子製剤の半減期は2〜3時間と極めて短いため、予防投与には第vii因子抗原を含む製剤が現実的とする考え方もあります。
凝固因子製剤の投与量計算と投与間隔に関する情報(日本血液製剤協会)
第vii因子活性値と出血症状が相関しない臨床的特徴
第vii因子欠乏症では、活性値と出血症状の重症度が必ずしも一致しないという特徴的な臨床所見があります。一般的には第vii因子活性が健常人の2%以下を呈するホモ接合体例に出血症状が見られますが、無症候例も存在します。
検査結果だけでは判断できません。
日本血栓止血学会のデータベースに登録された277例の先天性第vii因子欠乏症例のうち、出血症状の記載があるものを分析すると興味深い事実が明らかになっています。重症出血例の67%がホモ接合体、26%が複合接合体でしたが、6%はヘテロ接合体で第vii因子活性が1%未満と記載されています。一方、無症候例では30%がホモ接合体、26%が複合接合体、40%がヘテロ接合体という分布を示しています。
特定の遺伝子変異では、この傾向がさらに顕著です。エキソン8に位置する第viiA244Tおよび第viiA244V変異例では、第vii因子活性が著しく低下しているにもかかわらず、ホモ接合体例および複合接合体例の全例が無症候であったと報告されています。
活性値1%未満でも無症候の例があります。
この現象の原因は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が考えられています。第vii因子の測定に使用する組織因子(TF)の抽出源となる動物種(ヒト、ウサギ、ウシ)の違いによって、活性値に差が生じる変異病型が存在することが分かっています。たとえば第viiR304Q変異例は、ウサギ脳由来組織因子で測定した活性値は著しく低下しますが、ヒト胎盤由来組織因子では基準値内にあります。
このため、第vii因子欠乏症の診断では、ヒトTF、ウサギTF、ウシTFを測定試薬として複数用いることで、より正確な評価が可能になります。止血管理は個々の症例の臨床症状に応じて行うことが重要であり、検査値だけで出血リスクを予測することは困難です。
先天性凝固第VII因子欠損症の臨床症状と検査所見の詳細(京都大学医学部附属病院輸血部)
第vii因子とワルファリン導入時の注意点
ワルファリン投与開始時には、第vii因子の半減期の短さが皮膚壊死のリスク因子となる可能性があります。ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子の産生を抑制しますが、半減期の違いにより各因子の低下速度が異なります。
半減期の短い因子から先に低下します。
第vii因子(半減期3〜4時間)とプロテインC(半減期6〜8時間)は、第ix因子(半減期20〜24時間)や第x因子(半減期1〜2日)より先に低下します。プロテインCは抗凝固因子として働くため、その低下は一時的に血栓傾向を引き起こす可能性があります。特にプロテインC欠乏症の患者では、ワルファリン投与開始後数日以内に皮膚および脂肪組織の壊死を発症するリスクがあります。
この合併症を予防するためには、ワルファリン導入時に少量から開始し、ヘパリンとの併用療法を行うことが推奨されています。ヘパリンは即効性があり、プロテインCレベルが十分に回復するまでの間、抗凝固作用を補完します。
併用療法が安全です。
ワルファリンの効果が安定するまでには数日を要します。これは半減期の長い第ii因子(プロトロンビン)が十分に低下するまでに時間がかかるためです。一方、ワルファリン中止時には、半減期の短い第vii因子やプロテインCが先に正常化するため、中止直後は凝固因子のバランスが整わない期間が存在します。
PT-INR測定は、主に半減期の短い第vii因子を反映するため、ワルファリンの薬効モニタリングとして有用です。ただし、納豆やクロレラ、青汁などビタミンKを含む食品の摂取により効果が変動するため、定期的な検査が必要です。
ワルファリンと凝固因子の半減期に関する詳細情報(京都大学医学部附属病院輸血部)
第vii因子測定における組織因子の種類と測定値の解釈
第vii因子活性の測定では、試薬に含まれる組織因子(TF)の由来動物種によって測定値が異なる場合があります。これは先天性第vii因子欠乏症の一部の変異型で顕著に認められる現象です。
TFの種類で活性値が変わります。
組織因子は外因系凝固反応の開始に必須の因子であり、第vii因子と複合体を形成して第vii因子を活性化します。臨床検査で使用される組織因子は、ヒト胎盤由来、ウサギ脳由来、ウシ脳由来のものがあり、それぞれが異なる特性を持っています。
特定の遺伝子変異を持つ患者では、TFの種類により第vii因子活性値に10倍以上の差が生じることがあります。たとえば第viiR304Q変異例では、ウサギTFで測定すると活性値が著しく低下しますが、ヒトTFでは基準値内を示します。同様に第viiR304W変異例でも、ヒトTFとウサギTF、またはヒトTFとウシTFによる測定値に解離が認められます。
複数のTFでの測定が推奨されます。
この現象は、第vii因子と組織因子の結合親和性が種特異的である可能性を示唆しています。変異により第vii因子の立体構造が変化すると、特定の動物種由来のTFとの結合能が低下することがあります。臨床的には、このような症例でヒトTF以外の試薬のみで測定すると、実際の止血能を過小評価してしまう危険性があります。
第vii因子欠乏症の確定診断では、活性測定に加えて免疫学的に検出される第vii因子抗原量の測定も行います。活性値と抗原量の関係から、Type1(両方とも欠如)、Type2(抗原量は正常だが活性欠如)、Type3(活性と抗原量が中等度減少)に分類されます。
診断には複数の指標が必要です。
変異病型の同定には、ヒトTF、ウサギTF、ウシTFの3種類を用いた活性測定を行い、それぞれの測定値のパターンから変異の種類を推定することができます。遺伝子解析と組み合わせることで、より正確な診断と予後予測が可能になります。
第VII因子活性検査の測定原理と臨床的意義(SRL総合検査案内)

血友病: 第8、9因子およびvonWillebrand因子の構造とその異常 (血液科学シリーズ 7)