第三世代セフェム内服の適正使用
あなたが処方する第三世代セフェム内服薬は8割が排泄されます
第三世代セフェム内服薬のバイオアベイラビリティ
経口第三世代セフェム系抗菌薬は、消化管での吸収率が極めて低いという重大な問題を抱えています。代表的な薬剤であるセフジトレンピボキシル(メイアクト®)のバイオアベイラビリティはわずか14~16%、セフカペンピボキシル(フロモックス®)は約20%、セフジニル(セフゾン®)も15~20%程度にとどまります。これは他の経口抗菌薬と比較すると驚くほど低い数値です。
つまり服用した薬剤の約80%が体内に吸収されることなく、そのまま腸管を通過して糞便として排泄されてしまいます。この特性から、専門家の間では「だいたいウンコ(Daitai Unko)」を略してDU薬という通称で呼ばれることもあります。
わずか2割程度しか吸収されません。
一方で、同じβラクタム系抗菌薬でもアモキシシリン(サワシリン®)のバイオアベイラビリティは約90%、セファレキシン(ケフレックス®)は約95%と非常に高い値を示しています。この数値を見れば、第三世代セフェム内服薬の吸収効率がいかに劣っているかが明確に理解できるでしょう。
吸収されなかった薬剤成分は腸管内に留まり、腸内細菌叢に影響を及ぼします。これが耐性菌の選択圧として働き、薬剤耐性菌の出現リスクを高める要因となっています。さらにクロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)のリスク増加とも関連していることが指摘されています。感染病巣に十分な薬剤濃度が到達しにくいということですね。
バイオアベイラビリティが低い薬剤を選択する場合、患者さんにとってのメリットが本当にあるのか慎重に検討する必要があります。抗菌薬適正使用の観点から、より吸収率の高い代替薬への切り替えを検討することが重要です。
プライマリ・ケアのための感染症情報サイト – バイオアベイラビリティの詳細解説
第三世代セフェム内服が頻用される疾患と問題点
日本の外来診療では、経口第三世代セフェムが中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎、軽度のCOPD増悪、膀胱炎など幅広い感染症に対して頻繁に処方されてきました。しかし、これらの疾患の多くでは、実際には抗菌薬が不要であったり、より適切な代替薬が存在したりするケースが少なくありません。
急性上気道炎や気管支炎の大半はウイルス性であり、そもそも抗菌薬の適応がない場合が多いのです。にもかかわらず第三世代セフェムが処方されてしまうと、患者さんには薬剤の副作用リスクや医療費負担だけが残ります。
抗菌薬は必要ありません。
小児の急性中耳炎や副鼻腔炎については、若干状況が異なります。2018年に改訂された小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、インフルエンザ菌やモラクセラ・カタラーリスといった原因菌に対して、経口第三世代セフェムが一定の有効性を示すことが認められています。特にβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)に対しては、高用量のアモキシシリンでも効果が不十分な場合があり、セフジトレンピボキシルの倍量投与が選択肢となることがあります。
ただし小児においても、第一選択薬は高用量アモキシシリン(1回10~20mg/kg)であることが原則です。第三世代セフェムは、アモキシシリンが無効または使用できない場合の代替薬として位置づけられています。
安易な使用は避けるべきですね。
尿路感染症に関しても、軽症の膀胱炎であれば第一世代セフェムやホスホマイシンで十分対応可能です。バイオアベイラビリティの低い第三世代セフェムをあえて選択する理由はほとんどありません。感染症の重症度と原因菌を適切に評価し、最も効果的で副作用の少ない抗菌薬を選択することが医療従事者には求められています。
AMR(薬剤耐性)対策アクションプランでは、2020年までに経口第三世代セフェムの使用量を2013年比で50%削減するという目標が掲げられました。この目標達成のためには、各医療機関での処方見直しが不可欠です。
第三世代セフェム内服の耐性菌リスク
経口第三世代セフェムの使用が耐性菌の出現を促進することは、多くの研究で示されています。特に基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌の増加との関連が強く指摘されており、この点が使用を控えるべき大きな理由の一つとなっています。
ESBL産生菌は、第三世代セフェムだけでなく多くのペニシリン系やセフェム系抗菌薬を分解する酵素を持つ耐性菌です。一度医療機関内で広がると、治療選択肢が大幅に制限され、カルバペネム系などの最終手段的な抗菌薬に頼らざるを得なくなります。
ESBL産生菌が拡大しています。
さらに問題なのは、吸収されずに腸管内に残った約80%の薬剤成分が、腸内細菌叢全体に選択圧をかけることです。本来標的とすべき感染病巣には十分な量が到達しないにもかかわらず、腸内の常在菌に対しては影響を与え続けるという最悪のシナリオが展開されます。つまり治療効果は低いまま耐性化だけが進行するということですね。
クロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)のリスク上昇も見逃せません。CDIは抗菌薬投与により腸内細菌叢のバランスが崩れることで発症する偽膜性大腸炎の原因菌で、重症化すると致死的になることもあります。特に高齢者や免疫不全患者では注意が必要です。
WHO(世界保健機関)の2014年の試算によれば、薬剤耐性対策を講じなければ、2050年には年間1000万人が耐性菌による感染症で死亡すると予測されています。この数字は、がんによる死亡者数を上回る規模です。一人ひとりの医療従事者が抗菌薬適正使用を実践することが、将来の医療を守ることにつながります。
耐性菌対策のためには、必要最小限のスペクトラムを持つ抗菌薬を、適切な期間だけ使用するという原則を守ることが重要です。広域抗菌薬を安易に使用しないことが基本です。
環境感染学会誌 – 経口第三世代セファロスポリン系抗菌薬削減の取り組み(PDF)
第三世代セフェム内服の代替薬選択
経口第三世代セフェムの使用を減らすためには、具体的な代替薬を知っておくことが不可欠です。感染症の種類と重症度に応じて、より適切な抗菌薬を選択する必要があります。
皮膚軟部組織感染症や軽症の尿路感染症に対しては、第一世代セフェムであるセファレキシン(ケフレックス®)が優れた選択肢となります。黄色ブドウ球菌や連鎖球菌、大腸菌に対して十分な抗菌活性があり、バイオアベイラビリティは約95%と非常に高い値を示します。1回250~500mgを1日3~4回投与することで、安定した血中濃度が得られます。
呼吸器感染症においては、高用量アモキシシリン(サワシリン®)が第一選択薬として推奨されています。成人では1回500mgを1日3回、小児では1回10~20mg/kgを1日3回投与します。肺炎球菌やインフルエンザ菌に対する活性が高く、市中肺炎の原因菌をカバーできます。
バイオアベイラビリティは約90%です。
アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン®、クラバモックス®)は、βラクタマーゼ産生菌が原因となる中耳炎や副鼻腔炎に対して有効です。クラブラン酸がβラクタマーゼを阻害することで、アモキシシリンの抗菌活性が維持されます。ただし下痢などの消化器症状が出やすいため、食後服用を徹底することが大切です。
歯科領域や嫌気性菌感染症が疑われる場合は、アモキシシリン・クラブラン酸に加えて、クリンダマイシン(ダラシン®)やメトロニダゾール(フラジール®)も選択肢となります。
嫌気性菌に効果があります。
ペニシリンアレルギーがある患者さんに対しては、マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシン(クラリス®、クラリシッド®)やアジスロマイシン(ジスロマック®)、またはテトラサイクリン系のドキシサイクリン(ビブラマイシン®)を検討します。ただしマクロライド系は耐性率が高いため、感受性を確認してから使用することが望ましいです。
代替薬選択の際には、単に「第三世代セフェムを避ける」だけでなく、各抗菌薬の薬物動態、抗菌スペクトラム、副作用プロファイルを理解した上で、個々の患者さんに最適な薬剤を選ぶことが重要です。
第三世代セフェム内服の供給問題と今後の展望
2024年には、経口セフェム系抗菌薬の専用工場である長生堂製薬の川内工場において不正製造が発覚し、製造停止に追い込まれました。この影響で主要な第三世代セフェム系抗菌薬では、先発医薬品・後発医薬品を問わず、全品目が供給停止または限定出荷の状態となっています。
この供給問題は、図らずも抗菌薬適正使用を見直す契機となりました。これまで習慣的に第三世代セフェムを処方していた医療機関でも、代替薬への切り替えを余儀なくされ、結果としてペニシリン系や第一世代セフェムの使用が増加しています。供給が再開されても安易に戻さないことが大切です。
厚生労働省が策定した「抗微生物薬適正使用の手引き」第三版では、急性気道感染症や急性下痢症に対する抗菌薬の適応を厳格に定めており、経口第三世代セフェムの使用を推奨していません。この手引きは、日常診療における抗菌薬選択の指針として広く活用されています。
今後の展望としては、抗菌薬スチュワードシップ(ASP)活動のさらなる推進が期待されます。ASPとは、適正な抗菌薬使用を組織的に実践する取り組みで、感染症専門医や薬剤師が中心となって処方支援を行います。薬剤師による処方提案や後発的介入が効果的です。
東京医科歯科大学の報告によれば、薬剤師による継続的な抗菌薬適正使用プロジェクトにより、歯科外来における経口第三世代セフェム系抗菌薬の処方が著明に減少しました。このような取り組みを各医療機関で展開することで、国全体での使用量削減が実現できます。
医療従事者一人ひとりが抗菌薬適正使用の重要性を認識し、日常診療で実践することが何より重要です。患者さんへの説明も丁寧に行い、「抗菌薬は万能ではない」「ウイルス感染症には効かない」という基本的な知識を共有することで、不必要な処方の要求を減らすことができます。将来世代のために行動することが求められています。
国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター – 歯科外来における抗菌薬適正使用の取り組み
第三世代セフェム内服を使用すべき例外的状況
これまで経口第三世代セフェムの問題点を指摘してきましたが、実際に使用が妥当とされる例外的な状況も存在します。すべての場面で避けるべきというわけではありません。
小児の急性中耳炎において、高用量アモキシシリン(1回20mg/kg、1日3回)による初期治療が無効で、原因菌がβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)と判明した場合には、セフジトレンピボキシルの高用量投与(1回9mg/kg、1日3回)が選択肢となります。ただしカルニチン欠乏症のリスクがあるため、長期使用は避けるべきです。
高齢者施設での肺炎球菌性肺炎の集団発生時に、予防的にセフジトレンを投与したところ、翌日から発症が著減したという報告もあります。このように限定的な状況下では、集団感染の拡大防止という観点から使用が正当化される場合があります。
緊急的な集団感染対策に限られます。
腎機能障害が高度な患者さんで、腎排泄型の抗菌薬が使用しにくい場合にも、胆汁排泄型の第三世代セフェムが選択されることがあります。ただしこの場合でも、セフトリアキソン(ロセフィン®)などの注射薬の方が治療効果は確実です。
ペニシリン系とセファレキシンの両方にアレルギーがあり、マクロライド系にも耐性がある場合など、他に選択肢がない状況では、やむを得ず第三世代セフェムを使用することもあり得ます。
代替薬がない場合に限ります。
しかし、こうした例外的状況はあくまで少数例に限られるべきです。日常診療で安易に「とりあえず第三世代セフェム」という処方パターンに陥らないよう、常に「本当にこの薬が最適か」と自問する姿勢が大切です。感染症専門医や薬剤師に相談することも有効な方法です。
抗菌薬適正使用は、個々の患者さんの利益だけでなく、社会全体の公衆衛生にも貢献する重要な医療行為です。
Please continue.