第二次性徴が来ない病気
第二次性徴が来ない病気の代表的なものは思春期遅発症です。男子では14歳頃、女子では13歳頃までに二次性徴が見られない場合、この病気が疑われます。思春期遅発症は、脳の視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン、下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン、そして精巣や卵巣から分泌される性ホルモンという3種類のホルモン分泌が低下していることが原因となります。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E6%80%9D%E6%98%A5%E6%9C%9F%E9%81%85%E7%99%BA%E7%97%87
思春期遅発症は、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)の作用の仕方によって「高ゴナドトロピン性性腺機能不全」と「低ゴナドトロピン性性腺機能不全」の2つに大別されます。高ゴナドトロピン性性腺機能不全には染色体異常によるターナー症候群が含まれ、低ゴナドトロピン性性腺機能不全には体質性思春期遅発症や過度なダイエットによる体重減少、肥満などが含まれます。
参考)「思春期遅発症」を疑うべき症状とは 何歳まで様子を見るげき?…
思春期遅発症の中で、下垂体ゴナドトロピン分泌低下が成人期になっても持続し回復しないために性腺機能低下症が持続するものを、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と呼びます。カルマン症候群はこの低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の一種で、嗅覚障害を伴うことが特徴です。
参考)カルマン(Kallmann)症候群 概要 – 小児慢性特定疾…
第二次性徴遅延を引き起こす体質性思春期遅発症
体質性思春期遅発症は特発性思春期遅発症とも呼ばれ、思春期遅発症の原因として最も多いタイプです。両親や兄弟姉妹の中に二次性徴の発来が遅かった人がいる場合に多く見られることが特徴で、遺伝的要素が関与していると考えられています。
この病気は単に思春期における二次性徴の発来が遅れているだけであり、年齢を重ねるとともに兆候が見られるため、特別な治療を行わない場合もあります。LHRH負荷試験という検査では低反応を示しますが、中枢性性腺機能低下症(ゴナドトロピン分泌不全症)との鑑別が困難なこともあります。
参考)思春期のこと
体質性思春期遅発症の場合、最終的には正常な第二次性徴を迎えることができますが、同年代との発達の違いによる心理的ストレスが問題となることがあります。そのため、本人や家族の希望に応じて、ホルモン療法による治療を検討することもあります。
ターナー症候群による第二次性徴の遅れ
ターナー症候群は女児に起こる先天性の染色体異常による疾患で、2本のX染色体のうち1本の一部または全体が欠失していることが原因です。世界全体で見ると、女児の出生2500例当たり約1例の頻度で発生しています。
参考)ターナー症候群とは(見た目に特徴ある?)|FMF胎児クリニッ…
ターナー症候群の主な症状には、低身長、二次性徴の遅れまたは欠如、首の後ろの皮膚のたるみ、学習障害などがあります。性腺機能不全により、乳房の発達が見られず、月経も来ないことが特徴です。高ゴナドトロピン性性腺機能不全に分類され、卵巣の機能が低下しているため性腺刺激ホルモンが高値を示します。
診断は染色体の分析によって確定されます。治療では成長ホルモンによる低身長の改善と、女性ホルモン補充療法により二次性徴を発来させることができます。思春期の適切な時期に治療を開始することで、身体的・精神的な発達をサポートすることが可能です。
日本内分泌学会によるターナー症候群の詳細情報と診断基準について
カルマン症候群と第二次性徴不全
カルマン症候群は、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に嗅覚障害を伴う疾患です。視床下部における性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌低下が原因で、思春期になっても第二次性徴が発来しません。
この病気の特徴的な症状は、嗅覚の低下または完全な喪失(無嗅覚症)です。男性では精巣の発育不全、陰茎の発育不良、声変わりの欠如、ひげや体毛の欠如が見られ、女性では乳房の発育不全、初潮の欠如が特徴です。遺伝性の疾患であり、複数の遺伝子変異が関与していることが分かっています。
参考)カルマン(Kallmann)症候群 診断の手引き – 小児慢…
診断には血液検査でのゴナドトロピン(LH、FSH)測定、性ホルモン(テストステロン、エストラジオール)測定、嗅覚機能検査、MRIによる脳下垂体と嗅球の評価が行われます。治療は性ホルモン補充療法が基本となり、男性にはテストステロン製剤、女性にはエストロゲン・プロゲステロン製剤が使用されます。
小児慢性特定疾病情報センターによるカルマン症候群の概要と診断の手引き
第二次性徴が来ない時の検査と診断方法
第二次性徴が来ない場合の診断には、複数の検査を組み合わせて原因を特定します。まず身体的評価として、身長・体重の測定、二次性徴の進行度(タナー段階)の評価、栄養状態の確認が行われます。
参考)思春期遅発 – 19. 小児科 – MSDマニュアル プロフ…
血液検査では、ゴナドトロピン(黄体形成ホルモンLH、卵胞刺激ホルモンFSH)、性ホルモン(男性ではテストステロン、女性ではエストラジオール)、成長ホルモン関連因子(IGF-I)、甲状腺ホルモンのレベルを測定します。LHRH負荷試験という特殊な検査も重要で、原発性性腺機能低下症は高反応、中枢性性腺機能低下症と思春期遅発症は低反応を示します。
画像検査では、骨年齢のX線検査により骨の成熟度を評価し、MRIで脳下垂体や視床下部の異常、性腺の発育状態を確認します。遺伝子検査は染色体異常が疑われる場合に実施され、ターナー症候群やクラインフェルター症候群などの診断に役立ちます。これらの検査結果を総合的に評価することで、適切な治療方針を決定することができます。
第二次性徴遅延における生活習慣と栄養の影響
第二次性徴の遅れには、生活習慣や栄養状態が大きく影響することがあります。過度なダイエットによる体重減少は、低ゴナドトロピン性性腺機能不全の原因の一つとして知られています。エネルギー不足や栄養素の不足が長期間続くと、身体的な成長やホルモンの分泌に影響を与え、思春期の始まりが遅れる可能性があります。
肥満も思春期遅発症の原因となることがあります。肥満によるホルモンバランスの乱れが、性腺刺激ホルモンの分泌に悪影響を及ぼすことが指摘されています。適切な体重管理と栄養バランスの取れた食事は、正常な第二次性徴の発来に不可欠です。
長期間にわたる心理的なストレスや身体的なストレスも、ホルモンの分泌に影響を与え、思春期の始まりを遅らせる可能性があります。激しいスポーツ活動や過度な学業のプレッシャーなども、視床下部-下垂体-性腺軸の機能に影響を与えることがあります。栄養不良が原因である場合には、栄養の改善が推奨され、心理的な問題がある場合には、カウンセリングや心理療法が役立つことがあります。
第二次性徴が来ない病気の治療法
第二次性徴が来ない病気の治療は、原因に基づいて個別に計画されます。ホルモンの分泌が不足している場合、性ホルモンの補充療法が中心となります。男子の思春期遅発症には、テストステロン製剤や蛋白同化ホルモン治療が有効です。女子にはエストロゲンとプロゲステロンの補充療法が行われ、段階的に投与量を増やすことで自然な第二次性徴の進行を模倣します。
体質性思春期遅発症の場合、自然に第二次性徴が始まるのを待つこともありますが、本人の心理的ストレスが大きい場合には短期間のホルモン療法を行うこともあります。ターナー症候群では成長ホルモン療法と女性ホルモン補充療法を組み合わせて治療を行います。カルマン症候群では、生涯にわたる性ホルモン補充療法が必要となることが多いです。
栄養不良が原因である場合には、栄養管理と食事指導が重要です。適切なカロリー摂取と栄養バランスの改善により、ホルモン分泌が正常化することがあります。精神的なストレスや心理的な問題がある場合、カウンセリングや心理療法が役立つことがあります。治療の開始時期や方法については、専門医と十分に相談し、個々の状況に応じた最適な治療計画を立てることが大切です。
MSDマニュアルによる思春期遅発の診断と治療に関する専門的情報