大動脈解離の症状
大動脈解離の典型的症状
大動脈解離の最も特徴的な症状は、突然発症する激烈な胸背部痛なんです。患者さんは「過去に経験したことのない強い痛み」「引き裂かれるような痛み」と表現することが多く、この突発性と痛みの性質が診断の重要な手がかりになりますよ。
参考)大動脈解離とは?原因・前兆・症状・治療・手術方法|ニューハー…
Stanford A型解離では前胸部痛が約80%の患者さんに認められ、Stanford B型解離では背部痛が主症状として現れます。解離が進行すると、痛みの部位が胸部から腹部、さらに下肢へと移動していくことがあり、これは解離の進展範囲を示唆する重要な所見です。
国立循環器病研究センター「大動脈瘤と大動脈解離」では、発症48時間以内に約半数の患者が死亡すると報告されており、早期診断・早期治療の重要性が強調されています。
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日本循環器学会が発行した「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン2020年改訂版」によれば、急性大動脈解離の84.8%が突然発症を示し、典型的な症状を呈することが明らかにされています。
参考)急性大動脈解離
大動脈解離の非典型的症状と診断の落とし穴
見逃されやすいのが非典型的症状を呈する大動脈解離です。実は、急性大動脈解離の約6%は無痛性であり、失神や意識障害のみで発症することがあるんです。
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失神は急性大動脈解離患者の9~20%に認められ、心タンポナーデや脳虚血、あるいは疼痛による迷走神経反射によって引き起こされます。また、主訴が腰痛や頸部痛である症例も26.9%存在し、さらに両上肢の血圧に左右差が見られない症例も20.7%報告されています。
参考)https://www.m3.com/clinical/news/1284559
「急性大動脈解離で遭遇した非典型的な症状・所見の経験」というm3.comの調査では、約3割の医師が非典型的症状の経験があると回答しており、臨床現場で注意が必要です。
参考)https://www.m3.com/clinical/news/1284560
背部や胸部の症状が起こる患者さんは約50~60%程度で、「バットで殴られたような痛み」など言い表せないほどの強い痛みを訴えますが、残りの約40~50%は他の症状で来院する可能性があることを念頭に置く必要があります。
大動脈解離の合併症による症状
大動脈解離では、解離そのものによる症状だけでなく、合併症による多彩な症状が出現します。主な合併症は破裂、臓器虚血(malperfusion)、その他の3つに分類されるんですよ。
心タンポナーデと破裂
上行大動脈解離における最も致命的な合併症が心タンポナーデで、剖検例では死因の約70~85%を占めます。心嚢内への血液貯留により血圧低下、ショック状態に陥り、緊急処置が必要となります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/44/3/44_304/_pdf
臓器虚血症状
解離により大動脈の分枝血管への血流が障害されると、以下のような臓器虚血症状が出現します:
参考)大動脈解離とは?定義・分類、症状、治療方針 | 大動脈瘤・解…
- 冠動脈虚血:3~7%に発症し、心筋梗塞症状を呈する
- 脳虚血:3~7%に合併し、意識障害や片麻痺などの神経症状を示す
- 腸管虚血:2~7%に発症し、腹痛・下血を引き起こす
- 腎虚血:約7%に認められ、乏尿や血尿、高血圧の原因となる
- 下肢虚血:7~18%に合併し、脈拍消失や疼痛が出現する
脊髄虚血による対麻痺は約4%の患者さんに発症し、下肢の運動障害を引き起こします。これはAdamkiewicz動脈の血流障害により発生するため、胸腹部大動脈解離で特に注意が必要です。
大動脈解離症状の分類別特徴
Stanford分類による症状の違いを理解することは、迅速な診断と適切な治療方針決定に不可欠です。
参考)大動脈解離 – 04. 心血管疾患 – MSDマニュアル プ…
分類 | 主な症状部位 | 典型的な訴え | 重篤な合併症 |
---|---|---|---|
Stanford A型 | 前胸部(80%) | 胸痛、呼吸困難 | 心タンポナーデ、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈虚血 |
Stanford B型 | 背部(50~60%) | 背部痛、腹痛 | 腸管虚血、腎障害、下肢虚血 |
Stanford A型では上行大動脈に解離が及ぶため、心臓に近い構造が影響を受けやすく、緊急手術の適応となることがほとんどです。一方、Stanford B型は基本的に降圧保存療法が選択されますが、合併症を伴う場合には血管内治療や外科手術が必要になります。
参考)解離性大動脈瘤(DAA)
大動脈解離における血圧と身体所見の特徴
大動脈解離患者の血圧パターンは多様で、必ずしも高血圧を示すわけではありません。実際、A型・B型ともに収縮期血圧が150mmHg以上の患者は約3割、110~149mmHgが約3割、100mmHg以下が約3割という分布を示します。
上肢血圧の左右差(>20mmHg)は重要な診断所見で、腕頭動脈や鎖骨下動脈への解離進展を示唆します。A型解離の約半数で上肢血圧の左右差が認められ、2~15%で臨床的な上肢虚血症状を伴います。
参考)http://www.bandoheart.jp/column/004.htm
大動脈弁閉鎖不全の心雑音は、上行大動脈解離患者の約半数で聴取され、新たに出現した拡張期雑音は大動脈解離を強く疑う所見となります。また、胸痛を訴える患者でこれまで聴取していなかった血管雑音を頸部や腹部で聴取する場合も、大動脈解離の可能性を考慮すべきです。
診断においては、ADD-RS(大動脈解離診断リスクスコア)とDダイマー値の組み合わせが有用で、ADD-RS 0~1点かつDダイマー<0.5μg/mLの場合、感度99%で大動脈解離を除外できるとされています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/45/9/45_1085/_pdf/-char/en
「急性大動脈解離のガイドライン」では、Dダイマー0.5μg/mLをカットオフ値とすると感度96.6%、特異度46.6%と報告されており、除外診断に有用な検査です。
大動脈解離の症状は極めて多彩であり、典型的な激烈な胸背部痛から非典型的な症状まで幅広く認められます。医療従事者は常に大動脈解離の可能性を念頭に置き、疑わしい症例では速やかに造影CT検査を実施することが患者の予後改善につながりますよ。