COPD治療薬吸入の正しい方法と効果

COPD治療薬吸入の種類と選択

患者の8割が吸入手技でエラーを起こしています

この記事の3つのポイント
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COPD吸入薬の基本構成

LAMA・LABA・ICSの3成分の特徴と配合剤の使い分けを理解し、患者の病態に応じた適切な薬剤選択が可能になります

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デバイス選択の重要性

エリプタ・ブリーズヘラー・レスピマットなど各デバイスの特性を把握し、患者の吸入能力に合わせた選択で治療効果を最大化します

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吸入手技と副作用管理

正しい吸入手技の指導と吸入後のうがい徹底により、口腔カンジダや肺炎リスクを大幅に低減できます

COPD吸入薬の主要成分と配合剤の理解

 

COPD治療における吸入薬は、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)、吸入ステロイド薬(ICS)の3つの成分を中心に構成されています。これらの成分は単剤または配合剤として使用され、患者の病態や重症度に応じて選択されます。

LAMAはCOPD治療の一選択薬として位置づけられており、気管支平滑筋ムスカリン受容体に作用して気道を拡張します。代表的な薬剤にはチオトロピウム(スピリーバ)やグリコピロニウム(シーブリ)があります。LABAと比較すると、呼吸機能の改善効果はほぼ同等ですが、増悪の予防効果においてLAMAの方が優れているというエビデンスがあります。したがって、初期治療ではLAMAを優先的に選択することが推奨されます。

LABAは中枢気道だけでなく末梢気道にも作用し、気管支拡張効果を発揮します。インダカテロールホルモテロールなどが該当し、LAMAとの相加効果が知られているため、単剤で効果不十分な場合はLAMA/LABA配合剤へのステップアップを検討します。ウルティブロ、スピオルト、アノーロなどの2剤配合剤は中等症以上のCOPD患者で広く使用されています。

ICSの使用については注意が必要です。2017年の国際ガイドライン改訂以降、喘息を合併していないCOPDにおけるICSの使用は慎重になっています。ICSが推奨されるのは、気管支喘息の合併例、年2回以上の増悪歴がある症例、または末梢血好酸球数が300個/μL以上の症例に限定されています。テリルジー、ビレーズトリ、エナジアなどの3剤配合剤(ICS/LAMA/LABA)は、これらの条件を満たす患者に適応されます。

配合剤の選択は患者の病態だけでなく、経済的負担も考慮する必要があります。不必要なICS使用は肺炎リスクを増加させるため、適応を厳密に判断することが重要です。

日本呼吸器学会の「COPD診断と治療のためのガイドライン2022」では、薬剤選択のアルゴリズムが詳細に示されています

COPD吸入薬のデバイス特性と使い分け

吸入薬の治療効果を左右する重要な要素の一つが、デバイスの選択と正しい使用方法です。現在、国内で使用可能なデバイスは大きく分けて、ドライパウダー吸入器(DPI)、加圧式定量噴霧器(pMDI)、ソフトミスト吸入器(SMI)の3種類があります。

DPIは最も広く使用されているデバイスで、エリプタ、ディスカス、ブリーズヘラー、タービュヘイラーなどがあります。エリプタは操作が簡便で、カバーを開けるだけで1回分の薬剤がセットされるため、高齢者でも扱いやすい特徴があります。吸入抵抗は中程度で、約25cmH2Oの吸引圧が必要です。テリルジー、アノーロ、レルベアなどがこのデバイスを採用しています。

ブリーズヘラーはカプセルを装填するタイプで、比較的軽い吸入流速で吸えるため、吸う力の弱い高齢者にも適しています。必要な吸引圧は約12cmH2Oと低く設定されています。オンブレス、シーブリ、ウルティブロ、エナジアがこのデバイスです。カプセルから薬剤が放出される際に「カラカラ」という音がするため、患者自身が吸入できたことを確認しやすいメリットがあります。

SMIであるレスピマットは、ゆっくりとした霧状の薬剤を吸入するため、吸入のタイミングが合わせやすく、pMDIのような噴射と吸入の同期が苦手な患者に適しています。スピオルトがこのデバイスを使用しており、エアロゾル化された薬剤の肺到達率が高いという特徴があります。ただし、デバイスのセットアップがやや複雑なため、初回の指導は丁寧に行う必要があります。

デバイス選択で最も重要なのは、患者の吸入能力との適合性です。Medical Tribune誌に掲載された研究では、COPD患者の81.3%がDPI手技エラーを起こしていたことが報告されています。つまり、処方薬を選ぶだけでは不十分で、患者がそのデバイスを正しく使えるかどうかを確認する必要があります。

吸入能力の評価には、吸気流速の測定が有用です。高齢者や重症患者では吸気流速が不十分なことが多く、その場合はブリーズヘラーやレスピマットなど、比較的軽い吸入で使用できるデバイスを選択します。認知機能が低下している患者には、操作ステップが少ないエリプタが適しています。

COPD吸入薬の適正使用における患者指導のポイント

吸入薬の効果を最大限に引き出すためには、正しい吸入手技の習得が不可欠です。しかし現実には、多くの患者が誤った方法で吸入しています。国内外の研究では、吸入薬使用患者の70〜80%が何らかの手技エラーを起こしているというデータがあります。

指示通りに使用している割合は約40%に過ぎず、残りの患者は用法用量を守っていないか、手技が不適切な状態です。

吸入手技の代表的なエラーには以下のようなものがあります。DPI使用時に十分に息を吐いてから吸入していない、吸入速度が遅すぎるまたは速すぎる、吸入後に息止めをしない、通気口を手でふさいでしまう、カプセルに穴を開け忘れる、などです。特にエリプタでは、吸入口を上向きにして使用するエラーが海外で報告されており、GSK本社に確認したところ誤解であることが判明しています。通気口はどちらの向きでも機能しますが、正しい向きで使用することを指導すべきです。

効果的な吸入指導のためには、実物のデバイスまたは練習用トレーナーを使用して実際に操作してもらうことが重要です。口頭説明だけでは不十分で、視覚的・体験的な学習が必要です。初回指導時には以下のステップを確実に行います。

まず、吸入の目的と重要性を説明します。「毎日続けることで発作を予防する薬」であることを理解してもらい、症状がなくても継続する必要性を強調します。次に、デバイスの各部の名称と機能を示し、操作手順を段階的に実演します。その後、患者自身に実際に操作してもらい、正しくできているか確認します。

特に注意すべきポイントは、吸入前に十分に息を吐くこと、吸入口を唇でしっかりくわえること、力強く深く吸い込むこと(DPIの場合)、吸入後に5〜10秒息を止めることです。これらの各ステップができているかをチェックリストで確認し、できていない部分を繰り返し練習します。

再診時には必ず吸入手技の再確認を行います。初回指導で完璧にできていても、時間が経つと自己流になっていることがあります。「調子はどうですか」と聞くだけでなく、「今日は吸入の確認をさせてください」と声をかけて実際に見せてもらうことが重要です。

ベーリンガーインゲルハイムの医療従事者向けサイトでは、吸入指導の具体的なポイントが動画で解説されています

COPD吸入薬の副作用と管理方法

COPD治療における吸入薬は比較的安全性が高いとされていますが、適切な管理を怠ると重大な副作用が発生するリスクがあります。医療従事者として押さえるべき主要な副作用とその対策について理解しておく必要があります。

ICS含有吸入薬の最も重要な副作用は肺炎リスクの増加です。複数の大規模臨床試験やメタ解析により、COPD患者におけるICS使用が肺炎発症リスクを用量依存的に増加させることが示されています。特に高用量ICSの長期使用では、このリスクが顕著になります。そのため、喘息合併がない通常のCOPD患者にICSを安易に使用すべきではありません。

ICS使用が必要な患者においても、定期的な評価を行い、増悪がコントロールされて好酸球数が正常化している場合は、ICSの離脱を検討することが推奨されます。ただし、突然の中止は増悪リスクを高める可能性があるため、段階的な減量が望ましいとされています。

局所的な副作用として最も頻度が高いのは、口腔カンジダ症と嗄声(声のかすれ)です。ICSが口腔内や咽頭に付着すると、局所の免疫が抑制されてカンジダが増殖しやすくなります。この副作用は吸入後のうがいで大幅に予防できます。

うがいは「ブクブク」と「ガラガラ」の両方を行うことが理想的です。まず口の中に水を含んで「ブクブク」うがいをして口腔内の薬剤を洗い流し、その後「ガラガラ」うがいで咽頭部も洗浄します。高齢者や小児で「ガラガラ」が難しい場合は、「ブクブク」だけでも一定の効果があります。

水は飲み込まずに吐き出すことが重要です。

LABAの副作用としては、動悸や手の震え(振戦)があります。これはβ2受容体刺激作用による全身性の影響で、特に高用量使用時や使用開始初期に出やすい傾向があります。多くの場合は軽度で一過性ですが、心疾患を持つ患者では注意が必要です。症状が強い場合は用量調整や薬剤変更を検討します。

LAMAの副作用には口渇、便秘、排尿困難などの抗コリン作用に関連したものがあります。前立腺肥大症や閉塞隅角緑内障の患者では使用に注意が必要とされていますが、吸入薬は全身への吸収が少ないため、実際の臨床では問題になることは少ないとされています。ただし、添付文書上の禁忌事項は確認しておく必要があります。

副作用モニタリングのポイントは、定期的な問診と観察です。「吸入後に口の中が白くなっていませんか」「声が出しにくくなっていませんか」と具体的に質問することで、患者が自覚していない副作用を早期発見できます。

COPD吸入薬治療の継続支援と治療効果評価

COPD治療において最大の課題の一つが、吸入薬の継続率の低さです。国内の研究では、吸入薬処方患者のアドヒアランス良好率は40%程度という報告があり、これは治療効果を大きく損なう要因となっています。

吸入薬の中止や不規則使用が起こる理由は多岐にわたります。症状が改善すると「もう必要ない」と自己判断して中止する、毎日の吸入が面倒になる、効果が実感できない、副作用が気になる、経済的負担が大きい、などが主な理由です。医療従事者はこれらの理由を理解し、それぞれに対応した支援を行う必要があります。

効果を実感できない患者に対しては、治療目標を明確にすることが重要です。「息切れが楽になる」「階段が登りやすくなる」など、日常生活での具体的な改善を目標として設定します。また、肺機能検査の数値を見せながら「薬を使う前と比べて、肺の働きがこれだけ良くなっています」と視覚的に示すことも効果的です。

症状改善後の自己中断を防ぐためには、COPDの病態とコントローラー薬の役割を繰り返し説明します。「今は薬が効いて症状が落ち着いていますが、やめると再び悪化します。予防のために続けることが大切です」というメッセージを、診察のたびに伝えます。

FLAME試験のポストホック解析では、LAMAまたはICSの中止後3か月間は増悪リスクが急増することが示されています。特にLAMAを中止した患者では、フォローアップの最初の四半期で中等度から重度の増悪が有意に増加しました。このようなエビデンスを患者に説明することで、継続の重要性を理解してもらえます。

吸入操作が負担になっている患者には、デバイスの変更を検討します。1日2回吸入が負担であれば、1日1回で済むエリプタ製剤への変更が選択肢になります。操作が複雑と感じている場合は、よりシンプルなデバイスに切り替えます。ただし、デバイスを頻繁に変更すると混乱を招くため、慎重に判断する必要があります。

経済的負担への対応としては、ジェネリック医薬品の情報提供や、医療費助成制度の案内を行います。COPDは特定疾患に指定されていないため公的助成は限定的ですが、高額療養費制度の説明は有用です。

治療効果の評価は、症状の変化だけでなく客観的指標も用いて行います。修正MRC息切れスケールやCAT(COPD Assessment Test)などの質問票を定期的に記録し、治療前後での変化を追跡します。スコアが改善していれば「数値でもこれだけ良くなっていますよ」と示すことで、モチベーション維持につながります。

在宅酸素療法が必要な患者では、酸素流量の変化も指標になります。「吸入をしっかり続けたおかげで、酸素の量を減らせました」という具体的な成果を共有することが重要です。

薬局との連携も継続支援において重要な役割を果たします。処方日数から計算して吸入が予定通り行われているか、薬剤師に残数確認を依頼します。受診間隔が開いている患者では、薬局での吸入指導を定期的に実施してもらうことで、手技の質を維持できます。

環境再生保全機構の「ぜんそく予防なび」では、COPD治療の継続に関する患者向け資料が充実しています

吸入薬治療の成功には、医師、薬剤師、看護師、そして患者自身の協働が不可欠です。多職種が情報を共有し、一貫したメッセージを患者に伝えることで、治療継続率は大きく改善します。


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