中心静脈と末梢静脈の違い
中心静脈カテーテルの基本的特徴と挿入部位
中心静脈カテーテル(Central Venous Catheter、CVC)は、心臓に近い太い血管に直接挿入されるカテーテルです。一般的な挿入部位は鎖骨下静脈、内頸静脈、大腿静脈の3箇所です。このうち、内頸静脈または鎖骨下静脈からの挿入が臨床的に好まれる傾向にあります。これは大腿静脈からの挿入と比較して感染リスクが低く、心停止時の蘇生においても輸液や薬物を効率的に循環させることができるためです。
中心静脈の血流量は末梢静脈と比べて著しく豊富であり、1分間あたり数リットルの血液が流れています。このため、濃度の高い薬剤や刺激性の強い薬剤を投与しても、血管内で即座に希釈されるため、血管炎が起こりにくいという特徴があります。カテーテルの先端が心臓に近い位置にあるため、中心静脈圧(CVP)のモニタリングが可能で、患者の体液量や心機能の評価に役立つ重要な情報が得られます。
末梢静脈カテーテルと中心静脈カテーテルの挿入難度の違い
末梢静脈カテーテルの挿入は、看護師を含む多くの医療スタッフが施行できるため、臨床現場で最も頻繁に使用されるラインです。一方、中心静脈カテーテルの挿入には医師の技術と経験が必須となり、挿入時に気胸や血胸、動脈穿刺といった重大な合併症が発生する可能性があります。このリスクのため、中心静脈カテーテルの挿入には十分な学習と訓練を受けた医療者が当たることが重要です。
近年、末梢静脈を経由して中心静脈に到達させるPICC(末梢挿入式中心静脈用カテーテル)が注目されています。PICAは上腕または肘の末梢静脈から挿入され、カテーテルの先端は中心静脈に位置します。このカテーテルは従来の中心静脈カテーテルと比べて比較的容易に挿入でき、気胸や血胸といった重大な合併症を起こすリスクが低いという利点があります。しかし、内腔が狭いため閉塞のリスクが高く、肘から挿入した場合は肘の動きにより滴下速度が低下する可能性があります。
中心静脈への高カロリー輸液投与と末梢静脈のカロリー制限
中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition、TPN)では、生命活動や成長に必要な5大栄養素である炭水化物、タンパク質、アミノ酸、脂質、ミネラル、ビタミンのすべての栄養素が、完全な栄養サポートのため中心静脈から点滴により注入されます。高カロリー輸液は濃度が高く、末梢の細い静脈では血管炎を起こす可能性が高いため、必ず中心静脈からの投与が指定されています。
末梢静脈栄養(Peripheral Parenteral Nutrition、PPN)では、1日あたり約1,000Kcal程度のカロリーが投与されます。末梢静脈は血流量が少なく、高濃度の薬剤に対する耐性が低いため、1,000Kcalを超える栄養投与は血管炎を起こすリスクが著しく高まるため推奨されません。ただし、組み合わせにより1日1,000~1,200Kcalのエネルギー投与が可能です。このカロリー制限により、短期的な栄養補給や電解質・糖質の補給が末梢静脈の主な役割となっています。
中心静脈カテーテルと末梢静脈カテーテルの適応期間と臨床判断
中心静脈栄養が適応される主な条件は、栄養管理をする期間が7~14日以上の長期にわたる場合です。経口摂取や経腸栄養ができない患者、末梢静脈確保が困難な患者、または中心静脈圧測定が必要な患者が対象となります。長期留置が可能という特徴から、複数の薬剤の同時投与が必要な患者や、昇圧薬やカテコラミンなどの循環動態に影響する薬剤が必要な患者にも適しています。
末梢静脈栄養が適応される場合は、栄養管理期間が7~14日以内の短期的な補給が想定される場合です。感染予防の観点から、カテーテルは72~96時間の間に交換することが推奨されています。この交換タイミングは、臨床的に必要とされる場合のみ入れ替える中心静脈カテーテルやPICCとは大きく異なります。患者の状態、使用薬剤、経口摂取の可否などを総合的に判断して、どちらの栄養法を選択するかが決定されます。
中心静脈ラインと末梢静脈ラインの感染対策と管理の実際
中心静脈栄養では、カテーテルを長期間挿入していることによるカテーテル関連血流感染(CRBSI)の可能性があります。血管や血液への感染によって敗血性ショックを起こす可能性も高いため、挿入部の発赤、腫脹、熱感、発熱の有無の観察が重要な観察項目となります。カテーテル挿入部を被覆しているドレッシング材は、週1~2度のペースで交換することが推奨されます。複数のルーメン(内腔)を持つ中心静脈カテーテルでは、ルーメン数が増加するほどカテーテル関連感染の発生率も増加するため、ルーメン数は必要最低限に抑えることが推奨されています。
末梢静脈栄養では、感染予防の観点からカテーテルが72~96時間で交換されます。中心静脈栄養と同様に挿入部からの感染が考えられるため、挿入部の発赤、腫脹、熱感の有無を観察することが重要です。特に末梢静脈は体動が多い部位であるため、体動によって投与している薬剤が血管外へ漏出する可能性があります。漏出が発生すると、薬剤の種類によっては皮膚壊死や硬結などの重篤な皮膚障害を起こす可能性があります。挿入部の明らかな腫脹が見られた場合は、カテーテルを抜去し、別の血管へ再挿入することになります。固定時には患者の動きを制限せず、動いても抜けることがない適切な長さで固定することが重要です。
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