中毒性表皮壊死融解症と皮膚粘膜眼症候群の症状と治療法

中毒性表皮壊死融解症と皮膚粘膜眼症候群の基本概念

中毒性表皮壊死融解症・皮膚粘膜眼症候群の特徴
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重篤な皮膚障害

高熱を伴い全身の皮膚・粘膜に水疱・びらんが出現する致命的疾患

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表皮剥離の分類

体表面積10%未満がSJS、10%以上がTENとして診断される

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薬剤性が主因

抗菌薬、抗けいれん薬、消炎鎮痛薬などが原因となることが多い

中毒性表皮壊死融解症の疾患概念と定義

中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)は、ライエル症候群とも呼ばれる重篤な薬疹の一つです。この疾患は広範囲な表皮壊死を特徴とし、体表面積の10%以上に水疱・びらんなどの表皮剥離が認められる病態として定義されています。

参考)中毒性表皮壊死症(指定難病39) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/4036″ target=”_blank” rel=”noopener”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/4036amp;#8211; 難病情報セ…

TENは皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群:SJS)と一連の疾患スペクトラムを形成しており、TENの多くはSJSから進展した病態と考えられています。発生頻度は人口100万人当たり年間0.4-1.3人と稀な疾患ですが、死亡率は20-40%と極めて高く、早期診断と適切な治療が生命予後を左右します。

参考)https://www.pmda.go.jp/files/000218909.pdf

TENの発症メカニズムは完全には解明されていませんが、薬剤や感染症を引き金とした免疫・アレルギー反応により、CD8陽性T細胞やNK細胞が表皮に浸潤し、可溶性Fasリガンドやグラニュライシンなどの細胞傷害性因子により表皮細胞の壊死が引き起こされると考えられています。

皮膚粘膜眼症候群の診断基準と重症度分類

皮膚粘膜眼症候群(SJS)の診断には、2016年に策定された診断基準が用いられます。主要所見として、皮膚粘膜移行部の広範囲で重篤な粘膜病変、皮膚の汎発性紅斑に伴う表皮の壊死性障害に基づくびらん・水疱(体表面積10%未満)、38℃以上の発熱が必須条件とされています。

参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2016/162051/201610039A_upload/201610039A0018.pdf

重症度分類では、粘膜疹、皮膚の水疱・びらん、発熱、呼吸器障害、表皮の全層性壊死性変化、肝機能障害の有無を評価し、スコア化を行います。合計点が2点未満を軽症、2点以上6点未満を中等症、6点以上を重症と分類し、中等症以上が医療費助成の対象となります。

参考)スティーヴンス・ジョンソン症候群および中毒性表皮壊死症の重症…

眼科的には、角膜・結膜の上皮欠損や偽膜形成が高度な症例では、スコアに関わらず重症に分類される特別な配慮がなされています。これは眼合併症が視力障害や失明などの重篤な後遺症を残しやすいためです。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/57/8/57_KJ00005018664/_pdf

中毒性表皮壊死融解症の初期症状と臨床経過

TENの初期症状は非特異的で、38℃以上の高熱、全身倦怠感、咽頭痛、頭痛から始まることが多く、しばしば感冒様症状と誤認されます。この前駆期に続いて、皮膚粘膜病変が出現し、急激に進行します。

参考)スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死融…

皮膚病変の特徴は、初期には四肢に多形紅斑様皮疹(flat atypical targets)が出現し、その後体幹部に拡大します。病変は浮腫性紅斑から始まり、数時間から数日で水疱形成、表皮剥離へと進行します。ニコルスキー現象陽性となり、外力により容易に表皮が剥離する状態になります。
粘膜病変では、口唇・口腔粘膜の出血性びらん・血痂形成、結膜の充血・眼脂、外尿道口・肛門周囲の発赤・びらんが認められます。眼病変は50-70%の症例で認められ、急性期の治療が眼科的後遺症を左右する重要な因子となります。
原因薬剤の服用から発症までの期間は通常2週間以内ですが、数日から1ヶ月以上の場合もあり、個人差が大きいのが特徴です。

皮膚粘膜眼症候群の眼科的管理と治療戦略

皮膚粘膜眼症候群における眼科的管理は、急性期から慢性期まで一貫した専門的治療が必要です。急性期眼病変に対しては、眼表面の炎症抑制、瞼球癒着の予防、二次感染の防止が治療の柱となります。
急性期治療では、0.1%ベタメタゾンの頻回点眼(1日6-8回)とベタメタゾン眼軟膏の併用により炎症を抑制します。偽膜が形成された場合は、清潔な綿棒を用いて丁寧に除去し、瞼球癒着を防ぐため硝子棒による機械的剥離を行います。
感染症予防として、初診時に結膜嚢培養検査を実施し、予防的抗菌点眼薬を投与します。本疾患では MRSA の検出頻度が高いため、薬剤感受性を考慮した抗菌薬選択が重要です。また、大量ステロイド使用により眼圧上昇のリスクがあるため、手指法による定期的な眼圧チェックが必要です。
慢性期には瘢痕性角結膜炎、睫毛乱生、瞼球癒着、重症ドライアイが主な問題となり、長期的な眼科的フォローアップが不可欠です。輪部支持型コンタクトレンズや羊膜移植などの外科的治療が適応となる場合もあります。

参考)https://www.tdc.ac.jp/Portals/0/images/igh/about/file/2020/20-32.pdf

中毒性表皮壊死融解症の治療法と予後改善戦略

中毒性表皮壊死融解症の治療は、原因薬剤の即座の中止と全身管理を基本とし、多職種チーム医療による集学的アプローチが必要です。

参考)重症薬疹: Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮…

薬物療法の第一選択はステロイド全身投与で、重症例では早期からのステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500mg-1g/日、3日間)が推奨されます。これにより病勢の急速進展を抑制し、救命率の向上が期待できます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/58/5/58_KJ00005648268/_pdf

重篤例や感染症併発例では、免疫グロブリン大量静注療法(400mg/kg/日、5日間)や血漿交換療法を併用します。血漿交換療法は週2-3回施行し、2回で効果が認められない場合は2週間まで継続可能です。
全身管理では、熱傷に準じた創傷管理、適切な補液・栄養管理、感染症予防が重要です。皮膚病変に対しては外用抗生物質製剤や外用ステロイド製剤を用い、粘膜面にはうがい・洗眼などの開口部処置を行います。

参考)東京都健康安全研究センター href=”https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/kj_shoku/qqbox/fukusayou/sjs/sjs1/” target=”_blank” rel=”noopener”>https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/kj_shoku/qqbox/fukusayou/sjs/sjs1/amp;raquo; 医薬品による重篤…

多臓器障害(肝機能障害、腎機能障害、呼吸器障害)の監視と対症療法も治療成功の鍵となります。経験豊富な医療機関では、全国平均を上回る救命率を達成しており、早期の専門医療機関への転送が予後改善に寄与します。
PMDA重篤副作用疾患別対応マニュアル – 中毒性表皮壊死融解症の詳細な診断・治療指針
難病情報センター – 中毒性表皮壊死症の患者・家族向け情報
MSDマニュアル プロフェッショナル版 – SJS/TENの医学的詳細情報