調剤後薬剤管理指導料と日医工
調剤後薬剤管理指導料の算定要件と点数
調剤後薬剤管理指導料は、令和6年度改定で「調剤後薬剤管理指導加算」から独立し、薬学管理料の中の新設項目として位置づけられました。調剤後フォローアップ業務を“薬局・医療機関連携”として評価する流れが明確になった点が実務上の最大ポイントです。
点数は区分「1」「2」に分かれ、いずれも60点/月1回までと整理されています(糖尿病患者を中心とした区分と、慢性心不全患者を中心とした区分)。制度の狙いは、服薬開始直後や変更直後に起こりがちな副作用・アドヒアランス低下・生活上の困りごとを拾い上げ、処方医へ戻す循環を作ることにあります。
算定の“必須パーツ”は大きく4つです。
- 地域支援体制加算の届出を行っている保険薬局であること。
- 医師の指示、または患者等の求めがあり(患者起点の場合は薬剤師が必要性を認め、医師の了解を得る)、対象患者に対し実施すること。
- 調剤後に電話等で、使用状況や副作用の有無等を確認し、必要な薬学的管理指導を行うこと(調剤と同日実施は不可)。
- その結果を医療機関に文書で情報提供すること。
ここで“ありがちな誤解”が2つあります。
1つ目は「フォローの電話をした=算定できる」ではないことです。電話は入口で、最終的には医療機関への文書提供が要件に組み込まれているため、電話だけで止める運用だと算定の形になりません。
2つ目は「算定タイミング=電話した日」ではないことです。算定は、情報提供を行った後、患者が処方箋を持参したときに算定する運用が想定されます(患者への説明不足だと明細で疑問を招くため、事前説明が重要です)。
調剤後薬剤管理指導料の電話等フォローアップ(同日除く)
調剤後薬剤管理指導料で強調されるのが「調剤と同日に電話等で確認した場合は算定できない」という縛りです。これは形式的な意地悪ではなく、調剤直後は“まだ飲んでいない/変化が出ていない”ことが多く、フォローアップとしての情報価値が低いという制度設計上の思想が背景にあります。
現場では「いつ電話するか」が運用品質を左右します。例えば、糖尿病用剤の新規開始や用量変更では、低血糖症状の有無、食事量や生活リズムの変化、自己測定の状況などが数日で情報として立ち上がることがあります。一方、慢性心不全領域では、体重増加、浮腫、息切れ、飲水・塩分、利尿薬の飲み方など、生活背景が治療成否に直結するため、電話で拾える「日常のズレ」が処方最適化の材料になります。
フォロー時に確認したい項目は、闇雲に増やすより「処方変更に紐づける」ほうが医師に伝わりやすいです。
- 服用状況:飲み忘れの頻度、飲めない理由(勤務・食事・嚥下・認知)。
- 有害事象:症状の具体(いつから、程度、増悪/軽快、対処)。
- 生活情報:食事、飲水、塩分、運動、睡眠。
- 併用薬・OTC:追加したもの、飲み合わせ上の懸念。
- 患者の理解度:誤解(例:頓用扱い、自己判断中止)を探す。
意外と盲点なのが「電話がつながらない」ケースです。つながらない事実も薬学的管理上の重要情報になり得ます(受診中断・服薬中断・生活破綻のサインの可能性)。ただし、算定のために無理やり回数を稼ぐのは本末転倒なので、連絡困難時のルール(何回で打ち切るか、次回来局時にどう拾うか)を薬局内で決めておくと、運用が安定します。
調剤後薬剤管理指導料の文書情報提供と記録(薬剤服用歴等)
調剤報酬は「やったつもり」では守れず、“根拠として残る記録”が必要です。厚生労働省の「保険調剤の理解のために(令和7年度)」でも、薬剤服用歴等は患者ごとに必要に応じ直ちに参照できるよう保存・管理し、オンライン資格確認等で得た情報も含めて必要事項を記載することが整理されています。さらに、記載は要点でよい一方、定型文の画一的貼り付けは避け、実施した薬剤師が必要事項を判断して記載するよう求めています。
文書情報提供(いわゆるトレーシングレポート等)で重要なのは、「医師が次のアクションを選べる書き方」になっているかです。現場でありがちな失敗は、情報が多いのに“判断材料”がないパターンです。例えば「副作用あり」だけだと弱く、以下のように粒度を揃えると医師が動きやすくなります。
- 事実:症状、発現時期、頻度、程度、自己対処、受診の要否。
- 推定:原因薬の候補、相互作用や生活要因の可能性。
- 提案:継続可否の考え方、用量調整や別剤、検査提案など(断定は避ける)。
また、同一月内の他の情報提供系評価との関係も設計思想として押さえるべきです。通知上の細部は確認が必要ですが、少なくとも「調剤後薬剤管理指導料」と“服薬情報等提供料”が競合・制限関係になる場面があり得るため、薬局内で「目的がフォローアップ評価なのか、一般的な情報提供評価なのか」を切り分ける運用が安全です。
ここで、あまり知られていない現場的な工夫として「文書の型を“疾患別”ではなく“変更理由別”にする」方法があります。例えば、糖尿病用剤なら「新規開始」「用量増」「併用追加」「自己中断疑い」、心不全なら「利尿薬調整後」「SGLT2阻害薬開始後」「β遮断薬増量後」など、変更のイベントでテンプレを分けると、医師への戻しが読みやすくなり、薬剤師側も“書くべき要点”がブレにくくなります。
調剤後薬剤管理指導料と地域支援体制加算の届出
調剤後薬剤管理指導料は、地域支援体制加算の届出が前提条件として組み込まれているため、個々の患者対応以前に「薬局としての届出要件・実績要件」が土台になります。令和6年度改定の全体像では、地域支援体制加算を含む薬局の体制評価が見直され、要件の強化や点数の整理が示されています。
この構造が示唆するのは、調剤後薬剤管理指導料を“個人技”で回すのには限界があることです。つまり、薬局の体制(在宅対応、夜間休日対応、情報提供実績、研修等)が整っていないと、フォローアップの評価だけを伸ばすのは難しい設計です。
実務の着眼点としては、次の3つを先に整備すると、算定が安定しやすいです。
- 入口整備:医師の指示・患者の求め→医師了解、の取り方(口頭指示の記録ルール含む)。
- 運用整備:誰がいつ電話し、つながらない場合にどうするか、文書は何を使うか。
- 監査整備:薬歴に「要点」と「根拠」を残す項目(電話日時、確認事項、指導、文書送付、送付先、患者説明)を固定する。
地域支援体制加算の要件は広範で、いきなり全てを完璧化するのは現実的ではありません。そこで、調剤後薬剤管理指導料を起点にするなら「フォローアップを制度に載せるための最低限の体制」を先に作り、年度内に実績を積み上げる計画のほうが運用が崩れにくいでしょう。
調剤後薬剤管理指導料と日医工の資料の使い方(独自視点)
「日医工」という狙いワードが含まれる検索意図の中には、日医工が運営・提供する改定解説資料(例:Stu-GE等)を参照しながら、算定要件や点数体系を素早く理解したいニーズが含まれます。実際、メーカー資料は“図解・一覧性”が高く、忙しい薬局現場で制度変更の全体像を掴む入口として有用です。
ただし、ここが独自視点として最重要です。メーカー資料は便利な一方で、一般に「作成日時点の情報に基づく」「正確性を保証しない」趣旨の注記が置かれることが多く、制度運用の最終根拠にはなりません。したがって、日医工資料は“理解の補助線”として使い、実際の請求判断は必ず厚労省の告示・通知・疑義解釈で確認する、という役割分担が安全です。
では、日医工資料をどう使うと効果が高いか。おすすめは次の順番です。
- ①日医工の改定スライドや点数体系の図で「どの項目が新設・再編されたか」を俯瞰する。
- ②その上で、厚労省資料(改定概要、保険調剤の理解のために、留意事項通知)で算定要件・記録要件を一次情報として確定する。
- ③自薬局の運用に落とす際は、チェックリスト(電話実施日、同日除外、文書提供、薬歴要点、患者説明)に変換して、スタッフ間のばらつきを潰す。
この手順のメリットは、AIやSNSで流れる“それっぽい解説”に引きずられずに、現場の標準手順書(SOP)まで一気に落とし込めることです。特に2024改定は、医療DX・体制評価・対人業務評価が同時に動いており、断片知識で運用すると矛盾が起きやすいので、「図解で全体→一次資料で確定→SOP化」という流れが最短ルートになります。
必要に応じて、文中に関連する論文の引用も、という指示でしたが、本テーマ(調剤後薬剤管理指導料の算定要件そのもの)は行政通知・制度資料が一次根拠であり、臨床論文よりも制度文書の参照価値が高い領域です。そのため本記事では、監査・請求の根拠になる一次資料リンクを優先します。
制度の全体像(令和6年度改定の調剤・薬局業務の方向性の参考)。
薬歴・調剤録・薬学管理の記録要件(実務の根拠、保存・記載の考え方の参考)。