鎮痛剤と種類の作用機序

鎮痛剤と種類の基礎知識
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主要なカテゴリー分類

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、オピオイド鎮痛薬、アセトアミノフェン、神経障害性疼痛治療薬など

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作用機序の違い

薬剤ごとに異なる神経経路や酵素系を標的とし、痛み伝達を抑制

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臨床使用の指標

WHO方式がん疼痛治療の三段階除痛ラダーに基づいた段階的投与

鎮痛剤と種類の作用機序と選択基準

鎮痛剤のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の作用メカニズム

 

NSAIDsは医療現場で最も頻繁に処方される鎮痛剤であり、ロキソニンボルタレンセレコックスなどが代表的です。これらの薬剤はシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害することで、プロスタグランジンの産生を抑制し、炎症を鎮め、鎮痛効果を発揮します。

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NSAIDsには大きく2つのCOX酵素があります。COX-1は正常組織で恒常的に発現し、胃粘膜保護、血管、血小板、腎臓など組織保護に作用する「ハウスキーピング酵素」で、COX-2は炎症部位で誘導される炎症応答型酵素です。NSAIDsはCOX-1とCOX-2の両方を阻害することで鎮痛効果を得ますが、同時にCOX-1に作用することで胃粘膜障害や腎機能低下などの副作用も生じやすくなります。

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NSAIDsは特に炎症を伴う痛みに有効であり、処方医は患者の病態に合わせてアスピリン、イブプロフェンナプロキセンロキソプロフェンなどから適切な薬剤を選択します。ただし、高齢者やCKD患者、ACE阻害薬ARB併用患者では腎機能障害のリスクが高まるため、用量と投与期間を最小限に抑える必要があります。

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鎮痛剤のアセトアミノフェンの中枢神経系での作用特性

アセトアミノフェンカロナールタイレノールなど)は、NSAIDsとは異なる作用機序を持つ鎮痛剤です。従来はCOX阻害による鎮痛と考えられていましたが、最新の基礎研究では、アセトアミノフェンは中枢神経系で作用し、セロトニン鎮痛系を介して痛みを抑制することが明らかにされています。

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具体的には、アセトアミノフェンは脊髄後角における痛み信号の伝達を抑制する下行性疼痛抑制系、特にセロトニン系路に作用します。ラット実験では、アセトアミノフェン投与後、中枢神経のセロトニン(5-HT)濃度が用量依存性に増加し、セロトニン合成酵素阻害時にはこの鎮痛効果が消失することが確認されています。​
アセトアミノフェンは炎症を抑える効果がほぼなく、代わりに脳をごまかすような形で作用し、副作用が比較的少ないのが特徴です。欧米では変形性関節症の第1選択薬となっており、胃が弱い患者や小児、妊婦にも使用可能な安全性の高い鎮痛剤として位置づけられています。​

鎮痛剤のオピオイド受容体と種類の薬理学的特性

オピオイド鎮痛薬(麻薬性鎮痛薬)は、モルヒネオキシコドンフェンタニルなどが含まれ、中等度から高度の強さの痛み管理に用いられます。オピオイド受容体には、μ(ミュー)受容体、κ(カッパ)受容体、δ(デルタ)受容体の3種類が存在し、特に神経系に多く分布しています。

参考)https://municipal-hospital.ichinomiya.aichi.jp/data/media/ichinomiya-hp/page/medical/druginformation/dinews2018.3.pdf


WHO方式がん疼痛治療の三段階除痛ラダーに基づいて、弱オピオイド(軽度~中等度の痛み用)と強オピオイド(中等度~高度の痛み用)に分類されます。弱オピオイドにはトラマドール(トラムセット配合剤)があり、強オピオイドには医療用麻薬に指定されるモルヒネやオキシコドンが含まれます。​
医療現場で使用されるオピオイド鎮痛薬は、経口薬(徐放製剤・速放製剤)、注射剤、貼付剤、坐剤など多様な投与形式があり、患者の痛みの種類と体の状態に合わせて選択されます。抜歯後の痛みなど、アセトアミノフェンと弱オピオイドの合剤(トラムセット)も保険適用されており、臨床で広く活用されています。

参考)https://www.sakura.med.toho-u.ac.jp/sinryoka/o1ht4q0000000hnf-att/iryouyoumayaku_hajimetetukau.pdf

鎮痛剤のNSAIDs副作用と選択的COX-2阻害薬の登場背景

NSAIDsの最大の課題は副作用の多さです。COX-1阻害による胃粘膜障害、腎機能障害、心血管合併症などが知られており、特に高齢患者では安易な処方は避けるべきです。腎臓ではCOX-1とCOX-2の両方が発現しているため、NSAIDs使用時には輸入細動脈の血管拡張作用が阻害され、血行力学的に腎機能障害を招きます。​
これらの副作用を最小限に抑えるため、選択的COX-2阻害薬が開発されました。現在、日本で使用可能なCOX-2阻害薬はセレコックス(セレコキシブ)のみです。セレコックスは胃腸障害がNSAIDsより少なく、特にリウマチ患者など長期使用が必要な患者に推奨されます。

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重要な点として、COX-2阻害薬でも用量が増加するとCOX-1阻害作用も出現する容量依存性があり、完全にCOX-2選択的ではないことに注意が必要です。腎臓ではCOX-2も発現しているため、腎機能障害のリスクはnon-selectiveなNSAIDsと同様程度にあると考えられています。​

鎮痛剤の種類選択における神経障害性疼痛治療薬の役割と独自視点

医療現場で見落とされやすい観点として、痛みの種類による鎮痛剤の効果の相違があります。NSAIDsは炎症を伴う痛み(侵害受容性疼痛)に有効ですが、神経障害性疼痛帯状疱疹後神経痛など)には効果が限定的です。こうした痛みに対しては、抗うつ薬(サインバルタなど)やノイロトロピンなど、下行性抑制系に作用する薬剤が第1選択となります。​
神経障害性疼痛治療薬は脳から痛みを抑えようとするシステムである下降性抑制系に作用し、その働きを強める仕組みで、日本ペインクリニック学会の神経障害性疼痛ガイドラインでも第1選択薬とされています。特にトラマールは体内で代謝されてオピオイド作用が生じるまでの間、下降性抑制系に作用する二重の効果を持つ独特の薬剤です。​
実臨床では単一の鎮痛剤より、異なる作用機序の薬剤を組み合わせたマルチモーダル鎮痛法が推奨されています。例えば、軽度から中等度の急性疼痛では、NSAIDsとアセトアミノフェンの併用で、単剤使用よりも低用量で効果的な鎮痛が得られ、副作用も軽減できることが報告されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6485506/


参考リンク:日本ペインクリニック学会のNSAIDsとアセトアミノフェンの解説 – NSAIDsの作用機序、副作用、使用指針について医学的に詳細に記載

https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keynsaids.html

参考リンク:オピオイド鎮痛薬の受容体メカニズムと臨床分類 – WHO方式がん疼痛治療ラダーに基づく段階的薬物選択について

https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keyopioid.html

参考リンク:医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)の種類と投与形式 – 患者向けの分かりやすい解説で、臨床使用可能な具体的な薬剤と投与方法を掲載

https://www.sakura.med.toho-u.ac.jp/sinryoka/o1ht4q0000000hnf-att/iryouyoumayaku_hajimetetukau.pdf

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