鎮咳薬一覧と成分分類による効果の違い

鎮咳薬一覧と効果的な使い分け方

鎮咳薬の基本情報
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作用機序による分類

中枢性と末梢性に大別され、それぞれ異なる作用点で咳を抑制します

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主な成分の特徴

麻薬性と非麻薬性があり、効果の強さや副作用プロファイルが異なります

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処方時の注意点

患者の年齢や症状、基礎疾患に応じた適切な選択が重要です

鎮咳薬は咳を抑制するための医薬品であり、様々な種類と成分があります。咳は体内の異物を排出するための防御反応ですが、長期化すると体力の消耗や睡眠障害などを引き起こすため、適切な鎮咳薬の選択が重要になります。本記事では、医療従事者向けに鎮咳薬の種類や特徴、適切な使い分け方について詳しく解説します。

鎮咳薬の分類と主な成分一覧

鎮咳薬は大きく分けて「中枢性鎮咳薬」と「末梢性鎮咳薬」に分類されます。中枢性鎮咳薬はさらに「麻薬性」と「非麻薬性」に分けられます。

【中枢性麻薬性鎮咳薬】

  • コデインリン酸塩:規格は末、散1%/10%、錠5㎎/20mgがあり、各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静、疼痛時における鎮痛、激しい下痢症状の改善に適応があります。20㎎は麻薬30日処方制限があり、12歳未満は禁忌です。
  • ジヒドロコデインリン酸塩:規格は末、散1%/10%で、コデインと同様の適応があります。末と散10%は麻薬30日処方制限があり、12歳未満は禁忌です。
  • オキシメテバノール(メテバニール):規格は錠2㎎で、肺結核、急・慢性気管支炎、肺癌、塵肺、感冒に伴う咳嗽に適応があります。麻薬14日処方制限があります。

これらの麻薬性鎮咳薬は、モルヒネと化学構造が類似しており、延髄の咳中枢に直接作用して強力な鎮咳効果を発揮します。しかし、依存性のリスクがあるため、処方には注意が必要です。

【中枢性非麻薬性鎮咳薬】

  • チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン):規格は散10%、錠10㎎/20mg、シロップ0.5%、DS2%があります。感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎などに伴う咳嗽及び喀痰喀出困難に適応があります。副作用として褐色尿が報告されています。
  • デキストロメトルファン(メジコン):規格は散10%、錠15㎎、配合シロップがあります。感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎などに伴う咳嗽に適応があります。非麻薬性ですが、依存の可能性が指摘されています。
  • ジメモルファン(アストミン):規格は散10%、錠10㎎、シロップ0.25%、DSがあります。上気道炎、肺炎、急性気管支炎などに伴う鎮咳に適応があります。
  • エプラジノン(レスプレン):規格は錠5㎎/20mg/30mgがあります。肺結核、肺炎、気管支拡張症などの鎮咳及び去痰に適応があります。
  • ペントキシベリンクエン酸塩:規格は錠15㎎で、感冒、喘息性(様)気管支炎などに伴う咳嗽に適応があります。コリン作用、局所麻酔作用を有します。
  • クロペラスチン(フスタゾール):規格は散10%、糖衣錠10㎎、錠小児用2.5mgがあります。感冒、急性気管支炎などに伴う咳嗽に適応があります。抗コリン作用、弱い気管支拡張作用を有します。
  • クロフェダノール(コルドリン):規格は顆粒、錠12.5㎎で、急性気管支炎、急性上気道炎に伴う咳嗽に適応があります。気管支収縮作用があります。

これらの非麻薬性鎮咳薬は、麻薬性鎮咳薬と比較すると鎮咳効果は穏やかですが、依存性のリスクが低いため、比較的安全に使用できます。

鎮咳薬と去痰薬の配合剤一覧と特徴

咳と痰は密接に関連しているため、鎮咳薬と去痰薬を組み合わせた配合剤も多く使用されています。主な配合剤は以下の通りです。

【鎮咳去痰配合剤】

  • ジヒドロコデイン・エフェドリン・塩化アンモニウム(セキコデ):配合シロップとして提供され、急性気管支炎、慢性気管支炎、感冒・上気道炎に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難に適応があります。
  • 桔梗流エキス・車前草エキス・芍薬エキス(オピセゾールA):液剤として提供され、上気道炎、急性気管支炎に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難に適応があります。
  • ジヒドロコデイン・メチルエフェドリン・クロルフェニラミンマレイン酸塩(フスコデ):配合錠、配合シロップとして提供され、急性気管支炎、慢性気管支炎、感冒・上気道炎、肺炎、肺結核に伴う咳嗽に適応があります。

これらの配合剤は、鎮咳作用と去痰作用を同時に発揮するため、咳と痰の両方の症状がある患者に適しています。しかし、個々の成分の副作用も組み合わさるため、注意が必要です。

【去痰薬】

去痰薬は、痰の粘度を下げたり、気道分泌を促進したりすることで、痰の排出を容易にする薬剤です。主な去痰薬には以下のようなものがあります。

  • 気道粘液溶解薬:アセチルシステイン(ムコフィリン)、L-エチルシステイン(チスタニン)など
  • 気道粘液修復薬:カルボシステイン(ムコダイン)
  • 気道分泌細胞正常化薬:フドステイン(クリアナール、スペリア)
  • 気道潤滑薬:アンブロキソール(ムコソルバン)
  • 生薬去痰薬:キョウニンエキス(キョウニン水)

これらの去痰薬は、単独で使用されることもありますが、鎮咳薬と併用されることも多いです。特に、乾いた咳(空咳)には鎮咳薬が、痰を伴う湿った咳には去痰薬が適しているため、症状に応じた選択が重要です。

鎮咳薬の作用機序と効果の違い

鎮咳薬の効果は、その作用機序によって大きく異なります。ここでは、主な鎮咳薬の作用機序と効果の違いについて解説します。

【中枢性鎮咳薬の作用機序】

中枢性鎮咳薬は、延髄にある咳中枢に直接作用して咳反射を抑制します。

  • 麻薬性鎮咳薬(コデイン、ジヒドロコデインなど):延髄の咳中枢にあるμオピオイド受容体に結合し、咳反射を強力に抑制します。鎮咳効果は非常に高いですが、依存性や呼吸抑制などの副作用のリスクがあります。
  • 非麻薬性鎮咳薬(デキストロメトルファン、ノスカピンなど):σ受容体やその他の受容体を介して咳中枢に作用し、咳反射を抑制します。麻薬性鎮咳薬と比較すると鎮咳効果は穏やかですが、依存性や呼吸抑制のリスクは低いです。

【末梢性鎮咳薬の作用機序】

末梢性鎮咳薬は、気道の知覚神経終末に作用して咳反射を抑制します。

  • 局所麻酔薬(ベンゾナテート、ペントキシベリンなど):気道の知覚神経終末を麻痺させ、咳反射を抑制します。
  • 抗コリン薬(イプラトロピウム、チオトロピウムなど):気道の平滑筋を弛緩させ、気管支を拡張させることで咳を抑制します。

【効果の比較】

鎮咳効果の強さは一般的に以下の順になります。

  1. 麻薬性中枢性鎮咳薬(コデイン、ジヒドロコデインなど)
  2. 非麻薬性中枢性鎮咳薬(デキストロメトルファン、ノスカピンなど)
  3. 末梢性鎮咳薬(ベンゾナテート、ペントキシベリンなど)

ただし、効果の強さだけでなく、副作用のリスクや患者の状態に応じた選択が重要です。例えば、高齢者や呼吸機能が低下している患者には、呼吸抑制のリスクが低い非麻薬性鎮咳薬や末梢性鎮咳薬が適している場合があります。

鎮咳薬の適応疾患と処方時の注意点

鎮咳薬は様々な疾患に伴う咳に対して使用されますが、疾患によって最適な鎮咳薬が異なります。また、処方時には様々な注意点があります。

【適応疾患】

  • 急性上気道炎(感冒):一般的に非麻薬性鎮咳薬が選択されます。症状が軽度であれば、デキストロメトルファンやチペピジンなどが適しています。
  • 急性気管支炎:非麻薬性鎮咳薬と去痰薬の併用が一般的です。痰を伴う場合は、去痰薬(カルボシステイン、アンブロキソールなど)との併用が効果的です。
  • 慢性気管支炎・COPD:気管支拡張薬や去痰薬が主体となりますが、夜間の咳が強い場合などには鎮咳薬が追加されることがあります。
  • 気管支喘息:基本的には気管支拡張薬や抗炎症薬が主体となりますが、咳が強い場合には非麻薬性鎮咳薬が追加されることがあります。
  • 肺結核:咳が強い場合には麻薬性鎮咳薬が使用されることがあります。

【処方時の注意点】

  1. 年齢による制限。
    • 12歳未満の小児には、コデインやジヒドロコデインは禁忌です。これは、特定の遺伝子多型を持つ小児では、これらの薬剤が急速に代謝されて高濃度のモルヒネが生成され、重篤な呼吸抑制を引き起こす可能性があるためです。
    • 高齢者では、鎮咳薬の感受性が高まっていることが多いため、通常よりも低用量から開始することが推奨されます。
  2. 基礎疾患による注意。
    • 呼吸機能が低下している患者(COPD、肺線維症など)では、麻薬性鎮咳薬による呼吸抑制のリスクが高まるため、非麻薬性鎮咳薬が推奨されます。
    • 肝機能障害のある患者では、多くの鎮咳薬が肝臓で代謝されるため、用量調整が必要な場合があります。
    • 腎機能障害のある患者では、一部の鎮咳薬(特に代謝物が腎排泄される薬剤)の用量調整が必要な場合があります。
  3. 薬物相互作用。
    • 麻薬性鎮咳薬は、他の中枢神経抑制薬(ベンゾジアゼピン系薬剤、アルコールなど)と併用すると、相加的に中枢神経抑制作用が増強され、呼吸抑制や鎮静のリスクが高まります。
    • デキストロメトルファンは、MAO阻害薬やSSRIなどのセロトニン作用薬と併用すると、セロトニン症候群のリスクが高まります。
  4. 依存性のリスク。
    • 麻薬性鎮咳薬は依存性のリスクがあるため、長期使用は避けるべきです。
    • デキストロメトルファンも、高用量での乱用や依存の報告があるため、注意が必要です。
  5. 咳の原因の特定。
    • 鎮咳薬を処方する前に、咳の原因を特定することが重要です。例えば、ACE阻害薬による咳であれば、薬剤の変更が根本的な解決策となります。
    • 慢性咳嗽の場合、咳喘息、胃食道逆流症、後鼻漏症候群などの原因疾患の治療が優先されます。

鎮咳薬一覧における漢方薬の位置づけと効果

西洋医学的な鎮咳薬に加えて、漢方薬も咳の治療に広く用いられています。漢方薬は、複数の生薬を組み合わせることで、様々な症状に対応することができます。ここでは、咳に対して用いられる主な漢方薬とその特徴について解説します。

【主な鎮咳作用を持つ漢方薬】

  • 麦門冬湯(ばくもんどうとう):乾いた咳、のどの乾燥感、微熱などを伴う咳に適しています。気管支炎や気管支喘息の慢性期、感冒の回復期などに用いられます。
  • 小青竜湯(しょうせいりゅうとう):水様の鼻水、くしゃみ、咳、痰などのアレルギー性鼻炎や気管支喘息の症状に適しています。冷えを伴う場合に特に効果的です。
  • 麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう):発熱、のどの渇き、息切れ、咳などを伴う急性気管支炎や気管支喘息の発作期に適しています。
  • 五虎湯(ごことう):乾いた咳、のどの痛み、発熱などを伴う急性気管支炎や上気道炎に適しています。
  • 清肺湯(せいはいとう):痰を伴う咳、胸部の圧迫感、息切れなどを伴う慢性気管支炎や気管支喘息に適しています。

【漢方薬の特徴と西洋薬との比較】

漢方薬は、西洋薬と比較して以下のような特徴があります。

  1. 多成分系薬剤:漢方薬は複数の生薬から構成され、それぞれの生薬に含まれる多数の成分が複合的に作用します。そのため、一つの漢方薬で複数の症状に対応できる場合があります。
  2. 証に基づく処方:漢方薬は、病名だけでなく、患者の体質や症状の現れ方(「証」と呼ばれる)に基づいて選択されます。例えば、同じ咳でも、乾いた咳か痰を伴う咳か、寒がりか暑がりか、などによって最適な漢方薬が異なります。
  3. 副作用プロファイル:一般的に、漢方薬は西洋薬と比較して重篤な副作用が少ないとされていますが、肝機能障害や間質性肺炎などの副作用が報告されている漢方薬もあります。
  4. 効果発現の時間:西洋薬は一般的に効果の発現が早いのに対し、漢方薬は徐々に効果が現れることが多いです。そのため、急性期の強い症状には西洋薬が、慢性期の症状管理には漢方薬が適している場合があります。

【漢方薬と西洋薬の併用】

漢方薬と西洋薬は、それぞれの特性を活かして併用することができます。例えば、急性気管支炎の初期には、症状を速やかに緩和するために西洋薬(非麻薬性鎮咳薬や去痰薬)を使用し、症状が落ち着いてきたら、体質改善や再発予防のために漢方薬に切り替えるという方法があります。

また、慢性的な咳の管理には、西洋薬と漢方薬を併用することで、西洋薬の用量を減らし、副作用のリスクを低減しながら症状をコントロールすることができる場合もあります。

ただし、漢方薬と西洋薬の相互作用については、まだ十分に解明されていない部分もあるため、併用する際には注意が必要です。特に、複数の漢方薬を併用する場合や、肝代謝に影響を与える西洋薬と併用する場合には、肝機能のモニタリングなどが推奨されます。

漢方薬の鎮咳効果に関する詳細な研究はこちらで確認できます

鎮咳薬一覧における市販薬と処方薬の違い

鎮咳薬は、医療機関で処方される処方薬と、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬(OTC薬)に分けられます。ここでは、市販薬と処方薬の違いについて解説します。

【成分の違い】

処方薬と市販薬では、含まれる成分や配合量に違いがあります。

  • 処方薬:コデインやジヒドロコデインなどの麻薬性鎮咳薬、高用量の非麻薬性鎮咳薬(デキストロメトルファン、ノスカピンなど)が含まれることがあります。単一成分の製剤も多く、症状に応じた細かい調整が可能です。
  • 市販薬:非麻薬性鎮咳薬(デキストロメトルファン、ノスカピンなど)が主体で、麻薬性鎮咳薬は含まれません。また、複数の成分を組み合わせた総合感冒薬として販売されていることが多く、鎮咳成分だけでなく、解熱鎮痛成分、抗ヒスタミン成分などが含まれています。

【効果の違い】

一般的に、処方薬は市販薬よりも効果が強いとされています。これは、処方薬には市販薬では使用できない成分や、より高用量の成分が含まれているためです。特に、麻薬性鎮咳薬は強力な鎮咳効果を持ちますが、市販薬には含まれていません。

【安全性の違い】

市販薬は、一般の人が医師の指導なしに使用することを前提としているため、安全性が重視されています。そのため、副作用のリスクが比較的低い成分や用量に制限されています。一方、処方薬は医師の判断と指導のもとで使用されるため、より強力な成分や用量が使用可能ですが、それに伴い副作用のリスクも高まる場合があります。

【使用上の注意点】

  • 市販薬。
    • 用法・用量を守ることが重要です。特に、複数の市販薬を併用する場合、同じ成分が重複して過量投与になる可能性があるため注意が必要です。
    • 症状が長期間(1週間以上)続く場合や、高熱、呼吸困難などの重篤な症状がある場合は、医療機関を受診することが推奨されます。
    • 基礎疾患(喘息、COPD、心疾患、肝疾患、腎疾患など)がある場合や、他の薬剤を服用している場合は、薬剤師に相談することが重要です。
  • 処方薬。
    • 医師の指示通りに服用することが重要です。特に、麻薬性鎮咳薬は依存性のリスクがあるため、処方された期間を超えて使用しないようにします。
    • 副作用(眠気、便秘、吐き気など)が現れた場合は、医師に相談します。
    • 他の薬剤との相互作用があるため、他の医療機関で処方された薬剤や市販薬を服用している場合は、医師に伝えることが重要です。

    【市販薬の選び方】

    市販の鎮咳薬を選ぶ際には、以下のポイントを考慮することが重要です。

    1. 咳の種類:乾いた咳(空咳)には鎮咳成分が主体の薬剤、痰を伴う咳には去痰成分が含まれる薬剤が適しています。
    2. 他の症状:発熱や鼻水などの症状がある場合は、それらの症状にも対応できる総合感冒薬を選択することも一つの方法です。
    3. 基礎疾患:喘息やCOPDなどの呼吸器疾患がある場合は、それらの疾患に適した薬剤を選ぶ必要があります。
    4. 年齢:小児や高齢者では、年齢に適した薬剤を選ぶことが重要です。
    5. 生活スタイル:眠気の副作用がある薬剤は、運転や機械操作を行う場合には避けるべきです。

    市販薬の代表的な製品としては、パブロンSせき止め(ブロムヘキシン塩酸塩配合)、メジコン錠(デキストロメトルファン配合)、ブロン液(デキストロメトルファン配合)などがあります。これらの薬剤は、それぞれ特徴が異なるため、症状や体質に合わせて選択することが重要です。

    日本病院薬剤師会による鎮咳薬の適正使用ガイドラインはこちらで確認できます

    以上、鎮咳薬一覧と効果的な使い分け方について解説しました。鎮咳薬は、咳の種類や原因、患者の状態に応じて適切に選択することが重要です。医療従事者は、これらの情報を参考に、患者に最適な鎮咳薬を選択し、適切な指導を行うことが求められます。