病院食の種類と治療食の特徴と献立の工夫

病院食の種類と特徴

病院食の基本分類
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一般食

特別な栄養制限のない患者向けの食事。年齢や体格に合わせた栄養量を提供。

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特別治療食

疾患に応じた食事療法を必要とする患者向け。医師の指示に基づき栄養素を調整。

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形態調整食

咀嚼・嚥下機能に合わせて食材の硬さや形状を調整した食事。

病院食は患者の治療や回復を支える重要な役割を担っています。入院中の患者さんには、その病状や栄養状態に合わせて適切な食事が提供されます。病院食は大きく分けて「一般食」と「特別治療食」の2種類に分類され、さらに細かく多くの種類に分けられています。

医療機関によって若干の違いはありますが、一般的な病院では約30種類の食種・約200種類の食事基準が設けられており、患者一人ひとりの状態に合わせた食事提供が可能となっています。これらの食事は、医師の指示のもと、栄養士や管理栄養士によって計画・提供されています。

病院食は単に空腹を満たすだけでなく、治療の一環として位置づけられています。適切な栄養素の摂取は、病気の回復を促進し、体力の維持・向上に貢献します。また、入院生活の中で食事は患者さんの楽しみの一つでもあり、QOL(生活の質)の向上にも関わる重要な要素です。

病院食の一般食とは何か

一般食とは、特別な栄養成分の制限や強化を必要としない患者さんに提供される食事です。特殊な食事療法を必要としていない患者さんが対象となります。しかし、「制限がない」とはいえ、入院中は患者さんの活動量が減少するため、日常生活と同じ食事内容ではエネルギー過多になる可能性があります。

一般食は、患者さんの年齢や体格、活動量などを考慮して、適切なエネルギー量と栄養バランスに調整されています。一般的な一般食の種類には以下のようなものがあります。

  1. 常食:一般的な食事で、特に制限のないメニュー
  2. 軟食/軟菜食:硬い食材を避け、消化しやすく調理した食事
  3. 五分菜食/三分菜食:さらに消化に配慮した食事
  4. 流動食:固形物がなく、液体状の食事

一般食でも、患者さんの状態によって主食の形態(米飯、全粥、七分粥、五分粥など)や副食の硬さを調整することがあります。これは、消化吸収力や咀嚼・嚥下機能に合わせた対応です。

また、小児向けの幼児食や学童食、産婦向けの分娩食なども一般食の一種として提供されています。これらは年齢や状態に応じたエネルギー量や栄養バランスに調整されています。

病院食の特別治療食の種類と対象患者

特別治療食は、病気の治療のために特定の栄養素を調整した食事です。医師の指示に基づいて提供され、患者さんの疾患や状態に合わせて様々な種類があります。主な特別治療食には以下のようなものがあります。

エネルギーコントロール食

  • 対象患者:糖尿病脂質異常症高尿酸血症痛風、肥満症、脂肪肝など
  • 特徴:食品交換表に基づき献立作成され、炭水化物は60%で設定。主食量はエネルギーに準じて調整されます。

たんぱく質コントロール食

  • 対象患者:糖尿病性腎症、腎炎、腎不全、肝不全など
  • 特徴:たんぱく質の摂取量を制限し、エネルギーを確保するために炭水化物や脂質で補います。重症度に応じてP40、P50、P60などのレベルがあります。

脂質コントロール食

  • 対象患者:脂質異常症、膵炎、胆嚢症、胆石症など
  • 特徴:脂身の多い食材と油脂を減らした食事。脂質の種類にも配慮します。

塩分コントロール食(心臓病食・高血圧食)

  • 対象患者:心疾患、高血圧、脳血管疾患など
  • 特徴:塩分を6g未満に制限し、朝の汁物を控えるなどの工夫がされています。

消化器系疾患食

  • 対象患者:胃潰瘍、下痢症、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎など
  • 特徴:調理法は煮炊きもの中心で、食物繊維の多い食材や生ものを除いた消化のよい食事です。

透析食

  • 対象患者:人工透析を受けている患者
  • 特徴:エネルギー、たんぱく質の摂取量を維持しながら、カリウム、リン、水分を制限した食事です。

これらの特別治療食は、疾患の種類や重症度に応じてさらに細かく分類されることがあります。例えば、糖尿病食でもエネルギー量によってE1200、E1400、E1600、E1800などの区分があります。

特別治療食は単に栄養素を制限するだけでなく、患者さんが食事を楽しめるよう、見た目や味にも工夫が凝らされています。栄養士や管理栄養士は、制限がある中でも美味しく食べられる献立作成に努めています。

病院食の形態調整食と嚥下機能への配慮

形態調整食は、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)機能に問題がある患者さんのために、食材の硬さや形状を調整した食事です。高齢者や脳卒中後の患者さん、口腔内の手術後の患者さんなどに提供されます。

主な形態調整食の種類:

  1. 軟食/軟菜食:硬い食材を避け、やわらかく調理した食事です。歯が弱い方や高齢者に適しています。
  2. きざみ食:食材を小さく刻んで食べやすくした食事です。咀嚼機能が低下している方に提供されます。
  3. きざみとろみ食:刻んだ食材にとろみをつけて、飲み込みやすくした食事です。
  4. ミキサー食:食材をミキサーにかけてペースト状にした食事です。咀嚼が困難な方に提供されます。
  5. 嚥下訓練食:日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類に基づいた段階的な食事です。嚥下機能の回復訓練に使用されます。
    • 嚥下開始食(学会分類0j):ゼリー状の食事
    • 嚥下食1(学会分類1j):均一なピューレ状
    • 嚥下食2(学会分類2-1):やわらかいペースト状
    • 嚥下食3(学会分類3):やわらかい固形物

形態調整食は、単に食材を柔らかくするだけでなく、見た目や味、栄養価にも配慮して提供されます。例えば、ミキサー食では食材を個別にミキサーにかけて色分けし、盛り付けの際に元の料理の形に近づける工夫がされています。

また、嚥下機能に問題がある患者さんは誤嚥肺炎のリスクが高いため、とろみ剤の使用や食事姿勢の指導など、多職種による包括的なケアが行われています。形態調整食は、患者さんの回復状況に合わせて段階的に調整され、最終的には通常の食事に戻ることを目指しています。

病院食の献立作成と栄養管理の工夫

病院食の献立作成は、栄養士や管理栄養士によって行われ、患者さんの栄養状態の改善や疾患の治療に貢献することを目的としています。献立作成では以下のような点が考慮されています。

栄養バランスの確保

病院食は、主食、主菜、副菜などバランスよく組み合わせられています。一般的な病院食の構成は。

  • 主食(米飯・粥・パンなど):1品
  • 主菜(魚・肉料理など):1品
  • 副菜(野菜料理など):2品程度

この構成で、たんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素をバランスよく摂取できるように設計されています。

季節感の演出

季節の食材を取り入れることで、患者さんに季節を感じてもらう工夫がされています。例えば。

  • 夏季(4~9月):さっぱりした料理やスパイスの利いたカレーなど
  • 冬季(10~3月):煮込み料理やあんかけ料理など

また、ひなまつり、子どもの日、クリスマスなどの行事食も提供され、入院生活に彩りを添えています。

献立サイクルの設定

多くの病院では、献立は一定期間(例:28日間)でサイクルするように設計されています。これにより、栄養バランスの確保と食材の偏りを防ぎつつ、効率的な食事提供が可能になります。

調理システムの工夫

病院によって異なりますが、「ニュークックチルシステム」などの調理システムを採用している場合があります。これは調理したものを急速冷却し、配膳直前に再加熱するシステムで、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく提供できるメリットがあります。

個別対応の実施

食物アレルギーを持つ患者さんには、管理栄養士が直接聞き取り調査を行い、アレルゲンを除去した食事を提供しています。また、食欲不振の患者さんには「さわやか食」「プチセレクト食」「あきほ食」など、少量でも栄養価の高い食事が用意されています。

嗜好調査の実施

多くの病院では、定期的に患者さんの嗜好調査を実施し、食事の満足度を評価しています。調査結果をもとに、メニューの改善や調理方法の見直しが行われ、より患者さんに喜ばれる食事提供を目指しています。

これらの工夫により、病院食は治療効果を高めつつ、患者さんの食事の楽しみを支える重要な役割を果たしています。

病院食の選択メニューと患者QOL向上への取り組み

近年、多くの病院では患者さんのQOL(生活の質)向上を目指し、選択メニューの導入や食事環境の改善など、様々な取り組みが行われています。これらの取り組みは、患者さんの食事満足度を高め、治療への意欲向上にもつながっています。

選択メニューの導入

多くの病院では、患者さんが複数のメニューから好みの料理を選べる「選択メニュー」を導入しています。例えば。

  • 主菜を魚料理か肉料理から選択できる
  • 和食と洋食から選べる
  • 朝食をご飯かパンから選べる

このような選択肢を設けることで、患者さんの嗜好に合わせた食事提供が可能になり、食事の満足度や摂取量の向上につながっています。

特別な日の行事食

病院では、季節の行事に合わせた特別メニューを提供することで、入院生活に変化と楽しみをもたらしています。

  • ひなまつり:ちらし寿司や桃の形をしたデザートなど
  • 子どもの日:こいのぼり形のデザートや柏餅など
  • クリスマス:チキンやケーキなど
  • お正月:おせち料理など

また、出産祝いの特別食や、地域の祭りに合わせたメニューなど、病院独自の取り組みも見られます。

食欲不振患者への対応

治療の副作用や病状により食欲が低下している患者さんには、少量でも栄養価の高い特別メニューが用意されています。

  • 「さわやか食」:少量で栄養価の高い食事
  • 「プチセレクト食」:少量の料理を複数提供
  • 「あきほ食」:食欲不振の患者向けに調整された食事
  • 「味彩(化学療法食)」:化学療法中の患者向けの食事

これらの食事は、見た目や香り、味に特に配慮され、少しでも食べたいと思える工夫がされています。

小児患者への配慮

小児患者には、年齢に応じた食事量や内容が提供されるとともに、おやつの提供も行われています。

  • 幼児食:子どもが好む料理(オムライス、ハンバーグなど)
  • 学童食:年齢に応じた量の調整
  • おやつ:手作りの蒸しパンやプリンなど、栄養価に配慮したもの

患者の声を反映するシステム

多くの病院では、定期的な嗜好調査だけでなく、日常的に患者さんの声を聞く仕組みを設けています。

  • 病棟担当の管理栄養士による定期的な訪問
  • 食事に関する相談窓口の設置
  • 退院後の食事指導の実施

これらの取り組みにより、患者さんの声を直接聞き、迅速に食事内容に反映させることが可能になっています。

病院食は単なる栄養補給の手段ではなく、患者さんの治療意欲を高め、入院生活の質を向上させる重要な要素です。選択メニューや行事食の導入など、患者さんの満足度を高める取り組みは、治療効果の向上にも寄与しています。

病院食における栄養士・管理栄養士の役割と専門性

病院食の計画・提供において、栄養士・管理栄養士は中心的な役割を担っています。彼らの専門知識と技術は、患者さんの栄養状態の改善と疾患の治療に大きく貢献しています。

臨床栄養管理の実践

栄養士・管理栄養士は、患者さんの病態を理解し、適切な栄養管理計画を立案します。

  • 患者さんの栄養アセスメント(評価)の実施
  • 疾患や治療内容に応じた栄養必要量の算出
  • 個々の患者に適した食事内容の決定
  • 栄養状態のモニタリングと計画の見直し

これらの業務には、臨床栄養学、病態生理学、食品学など幅広い知識が必要とされます。

献立作成と調理指導

病院食の献立作成は、栄養士・管理栄養士の重要な業務の一つです。

  • 栄養基準に基づいた献立の立案
  • 季節感や行事を取り入れた食事計画
  • 調理スタッフへの指導と連携
  • 新メニューの開発と評価

献立作成では、栄養価の計算だけでなく、見た目や味、食感なども考慮し、患者さんに喜ばれる食事を目指しています。

多職種連携の推進

栄養士・管理栄養士は、医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフなど他の医療職と連携し、チーム医療の一員として活動しています。

  • NST(栄養サポートチーム)への参加
  • 病棟カンファレンスでの栄養情報の共有
  • 嚥下評価・リハビリテーションへの協力
  • 薬剤と食事の相互作用に関する情報提供

多職種連携により、患者さんの状態に応じた総合的な栄養管理が可能になります。

患者・家族への栄養指導

入院中の食事だけでなく、退院後の食生活についても指導を行います。

  • 疾患に応じた食事療法の説明
  • 調理方法や食品の選び方のアドバイス
  • 食事記録の付け方や自己管理方法の指導
  • 家族を含めた栄養教育

これらの指導により、患者さんが退院後も適切な食生活を継続できるよう支援しています。

専門性の向上と研究活動

栄養士・管理栄養士は、常に最新の栄養学や医学の知識を学び、専門性の向上に努めています。

  • 学会や研修会への参加
  • 専門資格(NST専門療法士、糖尿病療養指導士など)の取得
  • 臨床研究や症例研究の実施
  • 栄養管理手法の開発と評価

京都栄養医療専門学校などの教育機関では、臨床栄養学実習を通じて、実践的な病院食の献立作成や調理技術を学ぶカリキュラムが組まれています。これにより、将来の栄養士・管理栄養士が病院食の重要性を理解し、患者さんの治療に貢献できる専門家として育成されています。

病院食における栄養士・管理栄養士の役割は、単なる食事提供にとどまらず