ブピバカイン商品名と製剤特徴
日本では脊髄くも膜下麻酔専用製剤が未承認です。
ブピバカイン商品名マーカインの製剤概要
ブピバカインの代表的な商品名がマーカインです。サンドファーマ(現アスペン ジャパン)が製造販売する長時間作用性局所麻酔剤で、アミド型に分類されます。マーカインはラセミ体製剤であり、S体とR体が等量含まれています。
日本で承認されているマーカインは3種類の濃度があります。マーカイン注0.125%は硬膜外麻酔専用で、主に術後鎮痛や疼痛疾患の治療に使用されます。
薬価は1mLあたり12.5円です。
マーカイン注0.25%は伝達麻酔と硬膜外麻酔の両方に使用でき、薬価は14.3円/mLとなっています。マーカイン注0.5%も同様に伝達麻酔と硬膜外麻酔に適応があり、薬価は18.8円/mLです。
濃度が高いほど力価が強くなります。しかし興味深いことに、ブピバカインは低濃度では運動神経遮断効果が低く、感覚神経遮断効果が高いという分離麻酔作用を持ちます。
この特性が原則です。
他の局所麻酔薬と比較すると、ブピバカインの力価はリドカインの約4倍とされています。作用持続時間は現在使用されている局所麻酔薬の中で最も長く、硬膜外麻酔では3〜6時間程度の効果が期待できます。
つまり長時間手術に適した製剤です。
一般名はブピバカイン塩酸塩水和物(Bupivacaine Hydrochloride Hydrate)です。成人の標準投与量は体重1kgあたり2mgまでとされており、麻酔部位や年齢、全身状態によって適宜用量を調整します。
マーカインの詳細な用法用量、禁忌、副作用情報が確認できる公的データベースです。
ブピバカイン商品名ポプスカインの特徴
ポプスカインは丸石製薬が製造販売するレボブピバカイン塩酸塩製剤です。レボブピバカインはブピバカインの光学異性体のうちS体のみを含む製剤で、2008年に日本で承認されました。
ポプスカインには2種類の濃度があります。ポプスカイン0.25%注は術後鎮痛(硬膜外投与)の効能効果で承認されており、10mLバイアル、20mLバイアル、100mLバッグ、250mLバッグの規格があります。ポプスカイン0.75%注は硬膜外麻酔(手術中)と伝達麻酔の効能効果を取得しており、10mLアンプルと20mLアンプルで供給されています。
レボブピバカインの最大の特徴は心血管系への作用が低いことです。ブピバカインのラセミ体と比較して、レボブピバカインは心毒性が約40%低減されているとの報告があります。心停止が発現する用量と痙攣が発現する用量の差が大きいということですね。
麻酔効果としては、ブピバカインとほぼ同等の痛覚神経遮断作用を持ちます。ただし、等用量で比較した場合、運動神経遮断作用はやや弱い傾向があります。硬膜外麻酔における知覚神経遮断の平均作用持続時間は、0.25%製剤で約9時間と報告されています。
ポプスカインにアドレナリンを添加しても作用持続時間の延長は認められません。これはブピバカインが本来持つ脂溶性の高さと蛋白結合率の高さにより、すでに十分な作用時間が得られているためと考えられます。
この点は原則として覚えておけばOKです。
海外ではChirocaine®(カイロカイン)という商品名で販売されています。日本では主にアナペイン(ロピバカイン)の供給不足時の代替薬としても注目されています。
製造販売元による詳細な製品情報と臨床データが掲載されています。
ブピバカイン商品名の濃度別使い分け
ブピバカイン製剤は濃度によって使用目的が明確に区別されています。適切な濃度選択が安全性と有効性を左右します。
マーカイン0.125%は最も低濃度の製剤で、硬膜外麻酔による術後鎮痛や疼痛疾患の治療に特化しています。標準投与量は1回10mL(12.5mg)です。この濃度では運動神経遮断作用が最小限に抑えられ、感覚神経のみを選択的にブロックできます。患者が術後早期から歩行可能になるため、下肢の手術後のリハビリテーションに有利です。
マーカイン0.25%は伝達麻酔と硬膜外麻酔の両方に使用できる汎用性の高い濃度です。三叉神経ブロックでは1〜2mL、星状神経節ブロックでは5〜10mL、腕神経叢ブロック(腋窩法)では20〜30mL、硬膜外麻酔では15〜30mLが標準的な投与量となります。中程度の手術や疼痛管理に適した選択ということですね。
マーカイン0.5%は最も高濃度の製剤で、強力な麻酔効果が必要な場合に使用します。腕神経叢ブロックでは10〜20mL、硬膜外麻酔では15〜20mL(75〜100mg)が投与されます。この濃度では運動神経遮断作用も強くなるため、手術中の筋弛緩が必要な場合に選択されます。
ポプスカイン0.25%は術後鎮痛専用です。硬膜外持続投与では手術終了時に6mL/時(15mg/時)で開始します。ポプスカイン0.75%は硬膜外麻酔(手術中)と伝達麻酔に使用され、硬膜外麻酔では15〜20mL、伝達麻酔では最大30mLまで投与可能です。
濃度選択の原則は、必要最小限の濃度で必要最小限の量を使用することです。
これが原則です。
過量投与は中枢神経毒性や心毒性のリスクを高めます。
重要な注意点として、肋間神経ブロックでは0.25%製剤で5mL以下、0.5%製剤でも5mL以下(25mg以下)に制限されています。肋間神経周囲は血管が豊富で吸収が速いため、中毒症状が発現しやすいからです。
ブピバカイン製剤の光学異性体と安全性
ブピバカインの光学異性体の違いが安全性に大きく影響します。この化学構造の特性を理解することが臨床使用上極めて重要です。
ブピバカインは不斉炭素原子を持つため、S体(L体)とR体(D体)の光学異性体が存在します。マーカインはこれらが1対1で混合したラセミ体製剤です。ポプスカインはS体のみを含む単一エナンチオマー製剤です。どういうことでしょうか?
光学異性体は物理化学的性質(分子量、融点、溶解度など)はほぼ同じですが、生体内での作用は大きく異なります。ブピバカインの場合、R体はS体よりも心毒性が約2.5倍強いことが動物実験で確認されています。R体は心筋のナトリウムチャネルへの結合が強く持続的で、重篤な不整脈を誘発しやすいのです。
レボブピバカイン(S体)の中枢神経毒性もラセミ体より低いとされます。成人男性にレボブピバカインとブピバカインを持続静注した比較試験では、痙攣発現までの投与量がレボブピバカインで有意に多かったという結果が出ています。
つまり安全域が広いということですね。
ロピバカイン(アナペイン)も同じS体の局所麻酔薬ですが、側鎖構造が異なります。ロピバカインはブピバカインよりもさらに脂溶性が低く、心毒性が低いとされます。ただし、同等の麻酔効果を得るには1.3〜1.5倍の用量が必要です。
心毒性の強さを並べると、ブピバカイン(ラセミ体)>レボブピバカイン>ロピバカインの順になります。
これは臨床選択の基本です。
心血管系疾患のある患者や長時間の神経ブロックが必要な場合には、レボブピバカインやロピバカインの選択を検討すべきです。
血管内誤投与時のリスクも光学異性体によって異なります。ラセミ体ブピバカインでは痙攣が発現する用量と心停止が発現する用量の差が小さく、中枢神経症状が出現する前に突然の心停止を来すことがあります。レボブピバカインではこの差が大きいため、早期に中枢神経症状で異常を察知できる可能性が高まります。
光学異性体の薬理学的特性と臨床的意義について詳しく解説されている学術論文です。
ブピバカイン製剤の副作用と注意点
ブピバカインは力価が強い分、副作用のリスクも高い局所麻酔薬です。重大な副作用を早期に発見し適切に対応することが医療従事者の責務です。
最も重篤な副作用はショックと中毒症状です。血管内誤投与や過量投与により、数分以内に発現することがあります。中枢神経系の初期症状として、不安、興奮、多弁、口周囲の知覚麻痺、舌のしびれ、ふらつき、聴覚過敏、耳鳴、視覚障害、振戦などが出現します。症状が進行すると意識消失、全身痙攣が発生し、低酸素血症や高炭酸ガス血症を引き起こします。
最悪の場合、呼吸停止に至ります。
心血管系の症状も生命に関わります。血圧低下、徐脈、心筋収縮力低下、心拍出量低下、刺激伝導系の抑制、心室性頻脈、心室細動、循環虚脱、心停止などが報告されています。特に注意すべきは、鎮静下や全身麻酔下では中枢神経症状を伴わずに心血管系症状のみが突然出現することがあるという点です。
これは意外ですね。
ブピバカインの痙攣誘発閾値はリドカインの約1/5です。つまり、同じ血中濃度でもブピバカインの方が5倍痙攣を起こしやすいのです。
この数値を覚えておけばOKです。
肝機能障害も無視できません。持続硬膜外ブロックを長期間施行した場合、まれに黄疸、AST・ALT・Al-Pの上昇が認められます。ブピバカインは主にグルクロン酸抱合により肝臓で代謝されるため、肝機能障害患者では中毒濃度になりやすくなります。
神経学的合併症のリスクもあります。注射針やカテーテルが神経に触れることで一過性の異常感覚が発現することがあります。さらに、神経が注射針、薬剤、または虚血によって障害を受けると、持続的な異常感覚、疼痛、知覚障害、運動障害、硬膜外麻酔では膀胱直腸障害などの神経学的疾患が出現する可能性があります。
眼科領域での使用には特別な注意が必要です。球後麻酔や眼球周囲麻酔では持続性の眼筋運動障害が発現するおそれがあるため、できるだけ薄い濃度で必要最少量を用い、外眼筋内への注入は避けなければなりません。視神経鞘内への誤注入により一過性の失明や心肺停止を起こした報告もあります。
厳しいところですね。
中毒症状への対応として、振戦や痙攣が著明であればジアゼパムまたは超短時間作用型バルビツール酸製剤(チオペンタールナトリウムなど)を投与します。近年では脂肪乳剤(イントラリポス)の投与が局所麻酔薬中毒の救命に有効であることが報告されており、緊急時の準備として推奨されています。
予防策としては、試験的注入(test dose)の実施、吸引テストによる血管内留置の確認、できるだけ遅い注射速度の維持、バイタルサインの継続的モニタリングが基本となります。
静脈路の事前確保も望ましい対応です。
局所麻酔薬の安全使用に関する日本麻酔科学会の公式ガイドラインです。