ぶどう膜炎の症状と治療方法
ぶどう膜炎の主要症状と発症メカニズム
ぶどう膜炎の症状は炎症の部位と程度によって大きく異なります。前部ぶどう膜炎では最も重篤な症状が現れ、激しい眼のうずき、結膜充血、羞明、視力の若干の低下が特徴的です。眼の表面で角膜の縁に顕著な血管拡張、房水中の白血球浮遊、角膜後面沈着物が観察されます。
中間部ぶどう膜炎は通常痛みを伴わず、視力低下や飛蚊症の増加が主症状となります。一方、後部ぶどう膜炎では視力低下と飛蚊症に加えて視神経炎を合併することがあり、小さな盲点から完全な失明まで様々な程度の視力障害をもたらします。
- 視力低下:硝子体混濁による霧視
- 充血:結膜・強膜の血管拡張
- 羞明:虹彩炎による光過敏症
- 飛蚊症:炎症細胞による硝子体混濁
- 眼痛:眼圧上昇や炎症による疼痛
炎症の程度が軽微な場合でも、慢性化すると症状を全く引き起こさない場合があり、刺激感や視力低下のみを呈することもあります。
ぶどう膜炎の原因と疫学的特徴
ぶどう膜炎は感染性と非感染性に大別され、本邦では非感染性ぶどう膜炎がぶどう膜炎全体の約47%を占めています。代表的な疾患としてサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、ベーチェット病、HLA-B27関連ぶどう膜炎が挙げられます。
日本では「ベーチェット病」「サルコイドーシス」「原田病」が全体の40%を占め、3大ぶどう膜炎と呼ばれています。これらの疾患は地理的・遺伝的要因が関与し、特にベーチェット病はシルクロード沿いに発病が多いため「シルクロード病」とも呼ばれます。
感染性ぶどう膜炎の病原体として、以下が報告されています。
- 細菌:ブドウ球菌、緑膿菌
- 真菌:カンジダ、フザリウム
- ウイルス:ヘルペス系ウイルス
- 寄生虫:トキソプラズマ、アカントアメーバ
年齢・性別による発症パターンも特徴的で、サルコイドーシスは50~60代の女性と20代の男性に多く、ベーチェット病は20~40代に好発します。
ぶどう膜炎の診断手順と鑑別診断
ぶどう膜炎の診断は感染性と非感染性の鑑別が最重要です。十分な鑑別を行わず、安易に感染性ぶどう膜炎に消炎治療のみを行うと感染により眼病変が急激に悪化する危険性があるため、慎重な鑑別が必要です。
診断プロセスでは以下の検査が行われます。
眼科的検査
- 細隙灯顕微鏡検査:前房内炎症細胞、角膜後面沈着物の確認
- 眼底検査:脈絡膜、網膜の炎症所見評価
- 眼圧測定:続発性緑内障の評価
- 蛍光眼底造影検査:網膜血管の炎症評価
全身検査
- 血液・尿検査:炎症マーカー、自己抗体検査
- 胸部X線・CT:サルコイドーシスの肺病変検索
- ツベルクリン反応:結核性ぶどう膜炎の除外
特殊検査
- 眼内液PCR検査:感染性病原体の同定
- HLA型検査:HLA-B27関連ぶどう膜炎の診断
- 体内共聚焦顕微鏡検査:角膜神経病変の評価
診断の際は問診や眼所見が参考になりますが、仮面症候群と呼ばれるリンパ腫が背景にある症例もあり、精査を行っても原因特定に至らない症例も混在するため注意が必要です。
ぶどう膜炎の治療選択肢と薬物療法
ぶどう膜炎の治療方針決定には原因検索が最重要です。感染性ぶどう膜炎の場合は原因微生物に対する治療と二次的炎症に対する治療を、免疫異常による非感染性ぶどう膜炎では免疫抑制治療を行います。
前部ぶどう膜炎の治療
点眼治療が中心となり、以下の薬剤を組み合わせます:
炎症が強い場合はステロイド眼軟膏や結膜下注射を追加します。
後部ぶどう膜炎・汎ぶどう膜炎の治療
点眼のみでは効果不十分なため、全身治療が必要です:
最新の治療選択肢
現在では眼内埋込型ステロイド徐放製剤が使用可能になり、活動性炎症と黄斑浮腫の治療に効果を示しています。また、サイトカインを標的とした生物学的製剤の開発が進み、従来治療に抵抗性の症例でも良好な治療成績が報告されています。
治療の成功のポイントは以下の通りです:
ぶどう膜炎の合併症管理と予後改善戦略
ぶどう膜炎は炎症そのものより合併症による視機能障害が問題となることが多く、長期的な管理が重要です。主な合併症として以下が挙げられます。
眼圧関連合併症
- 続発緑内障:炎症による房水流出障害
- 低眼圧:毛様体機能低下による房水産生減少
- 眼圧変動:急激な眼圧変化による視神経障害
水晶体関連合併症
- 併発白内障:慢性炎症による水晶体混濁
- 虹彩後癒着:虹彩と水晶体の癒着形成
網膜・硝子体合併症
- 黄斑浮腫:視力に直結する重要な合併症
- 網膜剥離:増殖性変化による牽引性剥離
- 硝子体混濁:炎症細胞や線維増殖による透明性低下
合併症の予防戦略
予防的散瞳薬使用により虹彩後癒着を防止し、定期的な眼圧測定による緑内障の早期発見が重要です。また、OCT(光干渉断層計)による黄斑浮腫の定量的評価と、蛍光眼底造影による血管透過性の評価を定期的に行います。
長期管理における注意点
ベーチェット病では虹彩炎の反復により前房蓄膿を起こし、水晶体癒着から併発白内障や続発緑内障へと進行する可能性があります。サルコイドーシスでは肉芽腫病変による構造的変化が視機能に長期的影響を与えるため、画像診断による定期的な病変評価が必要です。
治療抵抗性症例では多分野連携医療が重要で、膠原病内科や小児科との連携により全身疾患の管理を行いながら眼科治療を継続します。特に指定難病認定疾患では医療費助成制度の活用により、患者の経済的負担軽減と治療継続が可能となります。