ブドウ球菌の種類と感染症の病原性

ブドウ球菌の種類と分類

ブドウ球菌の主要分類
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黄色ブドウ球菌

最も病原性が高く、コアグラーゼ陽性で多種毒素を産生

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表皮ブドウ球菌

皮膚常在菌として免疫防御に重要な役割を担う

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コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

40種類以上が分類され、通常は低病原性

ブドウ球菌の基本的な種類分類

ブドウ球菌属(Staphylococcus属)は、現在49種類の菌が知られており、そのうち15種がヒトから分離されたことがあります 。初期の分類では、コロニーの色調によって「白色ブドウ球菌」「黄色ブドウ球菌」「橙色ブドウ球菌」に分けられていましたが、その後「表皮ブドウ球菌」「黄色ブドウ球菌」「腐性ブドウ球菌」の3菌種に改名されました 。

参考)ブドウ球菌 – Wikipedia

現在の医学分野では、コアグラーゼ(血漿を凝固させるタンパク質)の産生能によって分類する方法が広く使われています 。これは、コアグラーゼの産生能がヒトに対する病原性と密接に関連しているためです。

  • コアグラーゼ陽性:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
  • コアグラーゼ陰性:表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌その他多数の菌種

ブドウ球菌の主要な病原性の違い

ブドウ球菌の中で最も病原性が高いのは黄色ブドウ球菌です 。この菌は健常者に対しても化膿性疾患を中心とする各種疾患を引き起こすことがあります。一方、表皮ブドウ球菌は通常は非病原性であり、他の病原菌から表皮を守るバリアーや、表皮を健康に保つ役目を果たしています 。

参考)ブドウ球菌感染症 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュア…

黄色ブドウ球菌は多彩な毒素を産生します。エンテロトキシン(SE)は食中毒の原因毒素であり、現在SElXまで計23種類を含んだエンテロトキシンスーパーファミリーになりつつあります 。また、TSST-1(toxic shock syndrome toxin-1)はスーパー抗原として知られ、T細胞を強力に活性化させ、発熱や臓器障害を惹起します 。

参考)ブドウ球菌エンテロトキシンに関する最新の知見href=”https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfm/32/2/32_87/_article/-char/ja/” target=”_blank” rel=”noopener”>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfm/32/2/32_87/_article/-char/ja/amp;#x2014;…

黄色ブドウ球菌とMRSAの種類

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、抗生物質に対する感受性によってさらに分類されます。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、メチシリンなどのペニシリン剤をはじめ、セフェム系カルバペネム系ニューキノロン系、アミノグリコシド系薬剤などにも広く耐性を持った多剤耐性菌です 。

参考)https://www.maruishi-pharm.co.jp/medical/media/kansenshou_mrsa.pdf

MRSAは通常の黄色ブドウ球菌と生物学的には同一種ですが、高濃度のメチシリンやセフェム系抗菌薬が存在しても結合阻害されないPBP2´を産生するため、細胞壁合成を継続できることが耐性のメカニズムです 。1980年代後半から国内で問題となり、現在においても医療関連感染として重要な感染症の原因となっています。
MRSAの病原性と耐性メカニズムに関する詳細な医学的解説

表皮ブドウ球菌の種類と皮膚常在菌としての役割

表皮ブドウ球菌という名称は、実際にはひとつの菌種を表すものではありません 。表皮に生息するブドウ球菌の菌種は数多く、S. epidermidis、S. capitis、S. caprae、S. saccharolyticus、S. warneri、S. pasteuri、S. haemolyticus、S. hominis、S. xylosusなどが含まれます 。

参考)https://www.kanazawa-med.ac.jp/~kansen/situmon/staph-aure.html

これらの表皮ブドウ球菌は皮膚の善玉菌として重要な役割を果たしています。2017年にカリフォルニア大学の研究により、Staphylococcus epidermidisとStaphylococcus hominisを含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌がこれまで知られていなかった抗菌ペプチド(AMP)を産生し、黄色ブドウ球菌を選択的に死滅させることが明らかになりました 。

参考)消毒のしすぎ、手荒れに注意ー皮膚の善玉常在菌の表皮ブドウ球菌…

表皮ブドウ球菌は皮膚表面でグリセリンを産生し、皮膚のバリア機能を保つ役割があります 。通常は非病原性ですが、体内に侵入すると病原性を発することもあり、特にカテーテルや心臓弁などの医療用器具に付着して深在性の化膿症の原因になることがあります 。

参考)皮膚の常在細菌について

腐性ブドウ球菌とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の特徴

腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)は主として泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿路に侵入すると尿路感染症の原因となる場合があります 。特に女性の尿路感染症の原因菌の1群として知られています。
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS:coagulase negative staphylococci)は皮膚の常在菌叢として存在し、免疫能の低下した患者や人工物が挿入されている患者に日和見感染症や医原性感染症を引き起こします 。CNSの中でも病原性の高いStaphylococcus lugdunensisは敗血症や感染性心内膜炎などの原因となることが知られています 。

参考)コアグラーゼ陰性ブドウ球菌—Coagulase negati…

近年、CNSの薬剤耐性菌(MRCNSなど)の蔓延も問題となりつつあります 。白内障手術をはじめとする内眼手術後の眼内炎の起炎菌として頻度的にトップの座を占めており、術前の減菌法や消毒を行っても一部のケースで術野に残存するため、その制御が大きな課題となっています。

参考)https://www.jaoi.jp/study20/

コアグラーゼ陰性ブドウ球菌による眼内感染症の詳細な臨床情報

シプロフロキサシン副作用と安全管理指針

シプロフロキサシンの副作用

シプロフロキサシンの主要副作用
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重篤な副作用

ショック・アナフィラキシー、腱障害、中枢神経系症状

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頻出副作用

消化器症状、皮膚症状、精神神経系症状

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特殊な副作用

光線過敏症、偽膜性大腸炎、横紋筋融解症

シプロフロキサシンによる重篤な副作用とその機序

シプロフロキサシンは、フルオロキノロン系抗菌薬の代表的な薬剤として広く使用されていますが、複数の重篤な副作用が報告されています 。最も注意すべき副作用として、ショック・アナフィラキシーがあげられます。頻度は不明とされているものの、呼吸困難、浮腫、蕁麻疹等の症状が現れることがあり、投与開始直後から投与終了後まで十分な観察が必要です 。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00049279.pdf

アナフィラキシーの発症機序として、シプロフロキサシンに対するIgE抗体の関与が示唆されており、他のフルオロキノロン系薬剤との交叉反応も報告されています 。特に、抗生物質によるアレルギー歴の確認は必須であり、事前の問診により既往歴を詳細に聴取することが求められます 。

参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=0155F000005BRqKQAW

偽膜性大腸炎等の血便を伴う重篤な大腸炎も頻度不明の重大な副作用として位置づけられています 。シプロフロキサシンが腸内細菌叢に与える影響により、クロストリジウム・ディフィシレの異常増殖が起こることで発症します 。腹痛や頻回の下痢が現れた場合には、直ちに投与を中止し適切な処置を行う必要があります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC176395/

シプロフロキサシンの消化器系副作用と発現頻度

シプロフロキサシンによる消化器系副作用は比較的高頻度で発現し、患者の生活の質に大きく影響します 。主要な症状として、下痢、嘔気、胃不快感が報告されており、これらは軽度から中等度の症状として現れることが多いとされています。

参考)医療用医薬品 : シプロフロキサシン (シプロフロキサシン点…

下痢の発現頻度は約5%程度とされ、腸内細菌叢の変化による影響が考えられています 。シプロフロキサシンは静脈内投与時においても腸管粘膜を通じて腸管内に分泌されるため、経口投与と同様に腸内細菌に影響を与えます 。この作用により、正常な腸内細菌バランスが崩れ、消化器症状が引き起こされます。

参考)シプロフロキサシン(シプロキサン) href=”https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/ciprofloxacin/” target=”_blank” rel=”noopener”>シプロフロキサシン(シプロキサン) href=”https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/ciprofloxacin/” target=”_blank” rel=”noopener”>https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/ciprofloxacin/amp;#8211; 呼吸器治…amp;#8211; 呼吸器治…

嘔気の発現頻度は約10%と報告されており、特に高齢者や消化器疾患を有する患者では注意深い観察が必要です 。また、腹痛、消化不良、膵炎、食欲不振、腹部膨満感、嘔吐、口内炎なども報告されており、症状の重篤度に応じて適切な対症療法や投与中止の検討が求められます 。

シプロフロキサシンによるアキレス腱炎と腱障害リスク管理

シプロフロキサシンによる腱障害は、フルオロキノロン系抗菌薬に特徴的な副作用として広く認識されており、特にアキレス腱炎や腱断裂のリスクが重要視されています 。この副作用は投与開始から数日から数か月後に発症することがあり、投与終了数か月後の発現例も外国で報告されているため、長期的な経過観察が不可欠です。

参考)https://www.pmda.go.jp/files/000231556.pdf

腱障害のリスク因子として、60歳以上の高齢者、ステロイド治療中の患者、腎機能障害のある患者、臓器移植後の患者などが挙げられます 。これらの患者群では、腱周辺の痛み、浮腫、発赤等の症状が認められた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります 。
発症機序として、シプロフロキサシンがコラーゲン合成に関与する酵素を阻害することや、マグネシウム欠乏による影響が示唆されています 。運動選手や日常的に激しい運動をする患者では、腱への負荷が増大するため、特に慎重な投与判断が求められます。症状が軽微であっても、早期の対応により重篤な腱断裂を予防できる可能性があります 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11012167/

シプロフロキサシンの中枢神経系副作用と精神症状

シプロフロキサシンによる中枢神経系副作用は多様な症状を呈し、軽微なものから重篤なものまで幅広い範囲で報告されています 。頭痛、めまい、眠気などの比較的軽度な症状から、痙攣、幻覚、精神病様症状といった重篤な症状まで現れることがあります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11513374/

頭痛は持続的で鈍い痛みとして現れることが多く、めまいは立ちくらみや回転性めまいとして現れます 。不眠症状では入眠困難や中途覚醒が主体となり、患者の睡眠パターンに大きく影響します。特に高齢者では認知機能の一時的な低下や錯乱状態が生じる可能性があり、家族や介護者への十分な説明と協力が不可欠です。
痙攣は稀な副作用ですが重篤な症状として位置づけられており、てんかんの既往がある患者や中枢神経系疾患を持つ患者では特に注意が必要です 。フルオロキノロン系薬剤による精神障害については、FDA有害事象報告システムの解析により、不安、うつ病、不眠症、錯乱などの精神症状が報告されています 。これらの症状は薬剤のGABA受容体への影響や神経伝達物質の変化によるものと考えられています。

参考)http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se62/se6241008.html

シプロフロキサシンによる光線過敏症とその独自の管理戦略

シプロフロキサシンによる光線過敏症は、しばしば見逃されがちな副作用の一つですが、患者の日常生活に大きな影響を与える可能性があります 。この副作用は、薬剤が体内で光感受性物質を生成することに起因し、日光や紫外線に曝露されることで皮膚に発赤、かゆみ、水疱、色素沈着などの症状が現れます。

参考)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/05/di201704.pdf

光線過敏症の発症機序として、シプロフロキサシンが皮膚細胞内で活性酸素を生成し、DNA損傷や細胞膜の酸化を引き起こすことが考えられています。特に、UVA(315-400nm)やUVB(280-315nm)の波長域での反応が強く、通常の日焼け止めでは完全な防御が困難な場合があります。

独自の管理戦略として、患者には投与期間中および投与終了後数日間は、SPF30以上の日焼け止めの使用に加えて、UVA防御効果の高い製品の選択を推奨します。また、午前10時から午後4時までの紫外線が強い時間帯の外出を控え、長袖・長ズボン・帽子の着用を徹底することが重要です。室内でも窓越しの紫外線により症状が現れる可能性があるため、UVカットフィルムの使用も検討すべき対策の一つです 。

参考:薬剤性光線過敏症に関する詳細な情報

光線過敏症の症状と対策について(高の原中央病院 薬剤部資料)

参考:シプロフロキサシンの添付文書情報

シプロキサン錠の詳細な副作用情報(JAPIC添付文書)

参考:フルオロキノロン系薬剤の安全性情報

PMDAによるシプロフロキサシンの安全対策措置