ボセンタン作用機序と受容体阻害効果

ボセンタン作用機序と受容体阻害

ボセンタンで肝機能検査を怠ると薬剤中止を余儀なくされます

📌 この記事の3つのポイント
💊

ETA・ETB両受容体を非選択的に阻害

ボセンタンはエンドセリン-1による血管収縮と細胞増殖を両方の受容体を介して抑制する経口薬です

🔬

肝機能障害の発生頻度は約20%

投与開始3ヵ月間は2週に1回、その後は月1回の定期的な肝機能検査が必須です

🏥

シクロスポリンとの併用は禁忌

CYP3A4を介した相互作用によりボセンタンの血中濃度が最大30倍まで上昇するリスクがあります

ボセンタンのエンドセリン受容体阻害機序

 

ボセンタンは肺動脈性肺高血圧症(PAH)治療における重要な経口薬で、1992年にスイス・ロッシュ社により開発された世界初の非選択的エンドセリン受容体拮抗薬です。この薬剤の最大の特徴は、エンドセリンA(ETA)受容体とエンドセリンB(ETB)受容体の両方に結合する点にあります。分子式はC₂₇H₂₉N₅O₆S・H₂Oで、分子量は569.63です。

エンドセリン-1(ET-1)は体内で最も強力な血管収縮物質の一つとして知られています。PAH患者ではET-1の血漿濃度が健常者と比較して有意に上昇しており、重症度や予後とも相関することが報告されています。ET-1は血管収縮作用だけでなく、血管平滑筋細胞や線維芽細胞の増殖を促進し、血管リモデリングを進行させる作用も持っているのです。

つまり多角的な効果です。

ボセンタンがETA受容体とETB受容体の両方に非選択的に結合することで、ET-1による複数の病的作用が同時に抑制されます。ETA受容体の阻害により主に血管収縮が抑制され、肺動脈圧の低下がもたらされます。一方、ETB受容体は血管平滑筋では血管収縮に関与する一方で、血管内皮細胞では一酸化窒素を介した血管弛緩を誘導するという二面性を持っています。病的状態のPAHではETB受容体の血管収縮作用が優位になっている可能性が指摘されており、両受容体の同時阻害が理論的根拠となっています。

京都大学と東北大学の共同研究により、ボセンタンとヒト由来エンドセリン受容体B型の複合体の立体構造が2017年に決定されました。この研究により、ボセンタンが受容体の構造変化を抑えることで阻害薬として機能することが分子レベルで明らかになりました。

京都大学研究ニュース – ボセンタンの作用機構に関する詳細な立体構造解析結果

ボセンタンの血管拡張と抗リモデリング効果

ボセンタンの薬理作用は単なる血管拡張にとどまりません。動物実験では、あらゆる肺高血圧症モデルにおいて肺血行動態の改善、右室肥大の抑制、生存期間の延長が確認されています。特に注目すべきは、血管内皮機能の改善、肺動脈リモデリングの抑制、肺線維化の抑制という長期的な構造改善効果です。

ラット低酸素性肺高血圧症モデルを用いた研究では、ボセンタン投与群でプラセボ群と比較して肺動脈壁厚が有意に減少することが示されました。これは血管リモデリングが改善されたことを意味します。

改善が基本です。

細胞レベルでの作用機序を見ると、ボセンタンはET-1のETA及びETB両受容体を介した細胞増殖を阻害します。自然発症高血圧ラットから採取した動脈血管平滑筋細胞および気管平滑筋細胞において、ET-1刺激による細胞増殖が抑制されることが確認されています。またヒト伏在静脈の組織培養系では血管内膜過形成を抑制し、ヒト血管においてはアセチルコリンによる血管拡張作用を増強する効果も報告されています。

これらの多面的な作用により、ボセンタンは単に血管を広げるだけでなく、病的な血管構造の改善という根本的な治療効果をもたらすのです。肺動脈性肺高血圧症の進行を遅らせ、患者の運動耐容能やQOLを改善することが複数の臨床試験で実証されています。

実際の臨床試験データでは、BREATHE-1試験において213例のPAH患者を対象にボセンタン投与群とプラセボ群を比較した結果、16週後の6分間歩行距離がプラセボ群に比しボセンタン群で平均44m増加しました。これは日常生活動作の改善につながる臨床的に意義のある変化です。

ボセンタン投与における肝機能モニタリングの重要性

ボセンタン使用において最も注意すべき副作用は肝機能障害です。日本における発生頻度は約20%と報告されており、決して稀ではありません。重篤な肝機能障害の発生頻度は1.3%で、AST、ALT等の上昇を伴います。さらに投与開始数ヵ月から数年後に自己免疫性肝炎が発現する可能性も報告されています。

厳しいところですね。

このため添付文書の警告欄には、肝機能検査を必ず投与前に行い、投与中においても少なくとも1ヵ月に1回実施することが明記されています。特に投与開始3ヵ月間は2週に1回の検査が望ましいとされています。肝機能検査値の異常が認められた場合は、直ちにボセンタンの減量または中止を検討する必要があります。

肝酵素値が正常上限値の3倍を超える場合や8倍を超える場合には、それぞれ明確な対応基準が定められています。その後少なくとも2週間ごとにAST、ALT値を測定し、それらが治療前値に回復した場合には適宜投与を継続または再開します。中等度以上の肝機能障害を生じた場合には、以後のボセンタンの使用は避けるべきとされています。

肝機能モニタリングを怠ると、肝障害の進行に気づかず重症化するリスクがあります。医療従事者はこの定期検査の重要性を患者に十分説明し、確実な実施体制を構築する必要があります。外来通院が困難な場合でも、訪問診療や近隣医療機関との連携により検査体制を維持することが求められます。

患者自身も倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸などの症状が現れた場合には、すぐに主治医に連絡する必要があります。軽度の肝機能障害はほとんどがボセンタンの減量あるいは中止により改善しますが、早期発見が鍵となります。

KEGG医薬品データベース – ボセンタンの副作用発現頻度と対応方法の詳細

ボセンタンと他剤との薬物相互作用

ボセンタンは主に肝臓でチトクロームP450(CYP2C9およびCYP3A4)により代謝されます。経口投与後約3時間で最高血中濃度に達し、半減期は5.4時間、バイオアベイラビリティは約50%です。この代謝経路のため、CYPの阻害薬や誘導薬との併用により、併用薬あるいはボセンタンの血中濃度が大きく変動する可能性があります。

最も重要な併用禁忌はシクロスポリンとタクロリムスです。シクロスポリンのCYP3A4活性阻害作用および輸送タンパク質阻害による肝細胞への取込み阻害により、ボセンタンの血中濃度が急激に上昇します。健康成人を対象とした試験では、シクロスポリン併用により初回投与後のボセンタンのトラフ濃度が約30倍、定常状態では約3~4倍に上昇したとの報告があります。

30倍は危険です。

一方、ボセンタン自身もCYP3A4の誘導作用を持つため、シクロスポリンやタクロリムスの血中濃度を低下させ、その効果を減弱させるおそれがあります。この双方向の相互作用により、併用は絶対禁忌とされています。

その他の注意すべき併用薬として、グリベンクラミドがあります。ボセンタンとグリベンクラミドを併用すると胆汁酸塩の排泄阻害を惹起し、肝酵素値上昇の発現率が2倍に増加することが報告されています。

このためグリベンクラミドも併用禁忌です。

併用注意薬にはワルファリン、シンバスタチン、カルシウム拮抗薬、PDE-5阻害薬などがあります。ボセンタンのCYP誘導作用により、これら薬剤の血中濃度を低下させる恐れがあるため、併用時には効果の減弱に注意が必要です。特にワルファリンは国際標準化比(INR)のモニタリングを強化し、必要に応じて用量調整を行います。

シルデナフィルとの併用では、機序は不明ですがシルデナフィルがボセンタンの血中濃度を上昇させる一方、ボセンタンのCYP3A4誘導作用によりシルデナフィルの血中濃度が低下する可能性があります。併用する場合には両剤の効果と副作用を慎重にモニタリングする必要があります。

これらの薬物相互作用を理解し、処方時に他の服薬内容を必ず確認することが医療安全上極めて重要です。

ボセンタンの選択的受容体拮抗薬との違い

ボセンタンは非選択的エンドセリン受容体拮抗薬ですが、同じクラスの薬剤には選択的ETA受容体拮抗薬も存在します。代表的なものがアンブリセンタンで、ETA受容体に対する親和性がETB受容体の約260倍高い選択性を示します。この選択性の違いが臨床効果や副作用プロファイルにどう影響するかは重要な論点です。

理論的には、ETA受容体が主に血管収縮に関与し、ETB受容体は血管内皮では血管弛緩を誘導することから、ETA選択的阻害薬の方が有利ではないかという仮説がありました。PAHの病態により深く関与するのはETA受容体と考えられているためです。

意外ですね。

しかし実際の臨床試験では、非選択的なボセンタンも選択的なアンブリセンタンも、いずれもPAH患者の運動耐容能や肺血行動態を有意に改善することが示されています。むしろ重要な違いは副作用プロファイルにあります。アンブリセンタンはボセンタンに比べて薬剤性肝機能障害の発現頻度が低く、ARIES試験では肝酵素が正常値上限の3倍以上に上昇した症例はありませんでした。また併用薬との相互作用が起こりにくく、ワルファリンとの薬物相互作用も認められていません。

投与回数も違います。ボセンタンは1日2回投与ですが、アンブリセンタンは1日1回投与が可能で、患者のアドヒアランス向上に寄与します。

現在の日本では、ボセンタンは2005年から使用されており長期使用実績があります。アンブリセンタンも承認され臨床使用が可能です。患者の病態、併用薬、肝機能、服薬アドヒアランスなどを総合的に評価し、個々の患者に最適な薬剤を選択することが求められます。

肝機能障害のリスクが高い患者や多剤併用が必要な患者では、選択的ETA受容体拮抗薬の使用を検討する価値があります。一方、長期使用実績があり血管リモデリング抑制効果が十分に実証されているボセンタンは、標準的な治療選択肢として重要な位置を占め続けています。

日経メディカル – アンブリセンタンとボセンタンの臨床的特徴の比較

センタン クランチシュガーコーン バニラ 5個×8箱