母乳性黄疸 なぜ起こるのか
母乳性黄疸は、新生児期によく見られる症状の一つです。赤ちゃんの皮膚や白目が黄色く見える状態で、多くの母親が不安を感じる症状です。この記事では、母乳性黄疸がなぜ発生するのか、そのメカニズムと対処法について詳しく解説します。
母乳性黄疸 なぜ発生するのか 原因と仕組み
母乳性黄疸が発生する主な原因は、母乳に含まれる特定の成分がビリルビンの代謝に影響を与えるためです。具体的には、母乳中に含まれるβ-グルクロニダーゼという酵素が関与しています。この酵素は、肝臓で一度抱合(水溶性に変換)されたビリルビンを腸内で再び脱抱合し、非抱合型ビリルビンに戻してしまいます。
非抱合型ビリルビンは腸壁から再吸収されやすく、血液中に戻ることで血清ビリルビン値が上昇します。これが母乳性黄疸の主なメカニズムと考えられています。研究によれば、母乳中のβ-グルクロニダーゼ濃度が高いほど、黄疸が強く現れる傾向があります。
また、母乳には腸内でのビリルビン吸収を促進する未知の物質も含まれていると考えられています。これらの物質が腸肝循環を亢進させ、ビリルビンの排泄を遅らせる要因となっています。
母乳性黄疸と母乳哺育黄疸の違いとは
母乳に関連する黄疸には「母乳性黄疸」と「母乳哺育黄疸(breastfeeding jaundice)」の2種類があり、発生時期や原因が異なります。
母乳哺育黄疸は生後数日で発生し、典型的には生後1週間以内に治まります。これは母乳の摂取量が不足している場合に起こりやすく、脱水やカロリー摂取不足によってビリルビンの腸肝循環が亢進することが原因です。また、排便回数が少ないため、ビリルビンの排泄が減少することも要因の一つです。
一方、母乳性黄疸(breast milk jaundice)は生後1週目の終盤に発生し、生後2週間で治まる場合もありますが、数ヶ月にわたって続くこともあります。これは前述したように、母乳中の成分がビリルビンの代謝に直接影響を与えることが原因です。
この2つの黄疸は混同されやすいですが、発生メカニズムが異なるため、対応方法も変わってきます。母乳哺育黄疸は母乳摂取量を増やすことで改善しますが、母乳性黄疸の場合は母乳自体の成分が関与しているため、一時的に母乳を中止することで改善することがあります。
母乳性黄疸 なぜ心配する必要があるのか リスク評価
母乳性黄疸は多くの場合、自然に改善する生理的な現象ですが、ビリルビン値が非常に高くなると、核黄疸(kernicterus)と呼ばれる脳障害を引き起こすリスクがあります。
研究によれば、母乳性黄疸の中でも早発型の場合、血清ビリルビン値が342μmol/L(約20mg/dL)を超えると、中枢神経系に軽度の障害を引き起こす可能性があります。中国での174例の母乳性黄疸患者を分析した研究では、早発型母乳性黄疸32例中4例に聴力の軽度異常が見られたという報告があります。
ただし、母乳性黄疸の予後は一般的に良好で、適切な管理と治療を行えば後遺症を残すことはまれです。重要なのは、黄疸の程度を適切に評価し、必要に応じて医療機関を受診することです。
以下のような症状がある場合は、早めに小児科を受診することをお勧めします:
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黄疸が強く、お腹や胸まで黄色くなっている
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赤ちゃんの活気が乏しい
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母乳やミルクの飲みが悪い
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白やクリーム色の便が出る
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母乳栄養で1ヶ月以上黄疸が続く
母乳性黄疸 なぜ治療が必要な場合と治療法
母乳性黄疸は多くの場合、経過観察のみで自然に改善しますが、ビリルビン値が高い場合や症状が強い場合には治療が必要になることがあります。治療が必要かどうかは、血清ビリルビン値や赤ちゃんの全身状態、在胎週数などを考慮して判断されます。
主な治療法には以下のようなものがあります:
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母乳の一時中断:
母乳性黄疸の場合、2〜3日間母乳を中止し、人工乳に切り替えることで、ビリルビン値が急速に低下することがあります。中国での研究によれば、晩発型母乳性黄疸142例中89例(63%)は母乳を3日間停止するだけで改善したとの報告があります。母乳を再開しても多くの場合、ビリルビン値は再上昇しないか、上昇しても軽度にとどまります。
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光線療法(フォトセラピー):
赤ちゃんを特殊な光(主に青色光)に曝露する治療法です。この光によって、皮膚表面の非抱合型ビリルビンが水溶性の異性体に変換され、肝臓を経由せずに尿中に排泄されるようになります。光線療法は安全で効果的な治療法であり、重度の黄疸や母乳の一時中断だけでは改善しない場合に用いられます。
中国での研究では、早発型母乳性黄疸では平均22時間、晩発型では平均18時間の光線療法で効果が見られたと報告されています。光線療法中は赤ちゃんの目を保護するためにアイマスクを装着します。
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交換輸血:
非常に重度の高ビリルビン血症で、光線療法でも効果が不十分な場合に行われる治療法です。赤ちゃんの血液を少量ずつ抜き取り、同量の新鮮な血液と交換します。これにより、血中のビリルビン濃度を急速に下げることができます。ただし、母乳性黄疸だけで交換輸血が必要になることは非常にまれです。
治療の選択は、ビリルビン値の上昇速度や赤ちゃんの状態、リスク因子の有無などを総合的に判断して決定されます。軽度から中等度の母乳性黄疸であれば、多くの場合、母乳を継続しながら経過観察を行うことが可能です。
母乳性黄疸 なぜ予防できるのか 最新研究と対策
母乳性黄疸を完全に予防することは難しいですが、リスクを軽減するための対策はいくつかあります。最新の研究知見に基づいた予防法をご紹介します。
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早期からの頻回授乳:
生後早期から適切な頻度(8〜12回/日)で授乳することで、赤ちゃんの水分摂取量を確保し、排便を促進することができます。排便によってビリルビンを含む胎便の排泄が促進され、腸肝循環によるビリルビンの再吸収が減少します。
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腸内細菌叢の調整:
最新の研究では、口服活菌製剤(プロバイオティクス)の投与が新生児黄疸の改善に効果的である可能性が示唆されています。中国での研究によれば、口服活菌製剤を投与した治療群では、対照群と比較して黄疸の消退時間が短縮し(4.25±2.37日 vs 6.54±2.46日)、血清総ビリルビン値の低下も大きかった(115.97±38.71μmol/L vs 71.17±24.38μmol/L)という結果が報告されています。
プロバイオティクスは腸内細菌叢を整え、ビリルビンを再吸収されない代謝物に変換する腸内細菌の増加を促進する可能性があります。ただし、プロバイオティクスの使用については医師と相談の上で検討してください。
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適切な授乳姿勢と吸着:
正しい授乳姿勢と赤ちゃんの吸着を確保することで、効率的な母乳摂取を促進し、母乳哺育黄疸のリスクを減らすことができます。授乳指導を受けることで、これらの技術を習得することができます。
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母乳成分への配慮:
母親の食事内容が母乳の成分に影響を与える可能性がありますが、特定の食品を制限することで母乳性黄疸を予防できるという確立したエビデンスはありません。バランスの取れた食事を心がけ、十分な水分摂取を行うことが基本です。
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定期的な経過観察:
退院後も定期的に医療機関を受診し、赤ちゃんの黄疸の程度や体重増加、全身状態を評価してもらうことが重要です。早期発見・早期対応により、重症化を防ぐことができます。
母乳性黄疸の研究は現在も進行中であり、より効果的な予防法や治療法が開発される可能性があります。最新の医学的知見に基づいたケアを受けるために、定期的な小児科受診を心がけましょう。
母乳性黄疸は多くの場合、赤ちゃんの成長とともに自然に改善する生理的な現象です。母乳育児の多くのメリットを考慮すると、軽度から中等度の黄疸であれば、母乳を中止する必要はありません。適切な知識と対策を持ち、必要に応じて医療機関を受診することで、安心して母乳育児を続けることができます。
母乳性黄疸についての正確な知識を持つことで、不必要な不安を減らし、適切な対応ができるようになります。赤ちゃんの状態に変化があった場合は、迷わず小児科医に相談しましょう。
参考リンク:
母乳で育っている乳児における黄疸管理についてのガイドライン(ABM臨床指針) – 母乳育児と黄疸の関係について詳しく解説された医療専門家向けガイドライン
MSDマニュアル家庭版:新生児黄疸 – 一般向けにわかりやすく解説された新生児黄疸の情報