勃起不全の治療方法
勃起不全治療におけるPDE5阻害薬の種類と特徴
勃起不全の治療において、PDE5阻害薬は第一選択薬として広く使用されています。日本性機能学会と日本泌尿器科学会が発行する「ED診療ガイドライン第3版」では、PDE5阻害薬がED治療の標準的治療と位置づけられています。
参考)https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/26_ed_v3.pdf
PDE5阻害薬は、陰茎海綿体に存在するホスホジエステラーゼ5型(PDE5)という酵素を阻害することで、環状グアノシン一リン酸(cGMP)の分解を抑制します。cGMPは陰茎海綿体の平滑筋を弛緩させ、血流を増加させる作用があるため、PDE5阻害薬の投与により勃起の発現と維持が促進されます。
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国内で承認されているPDE5阻害薬には、シルデナフィル(バイアグラ)、バルデナフィル(レビトラ)、タダラフィル(シアリス)の3種類があり、それぞれ異なる薬物動態学的特性を持っています。バイアグラは1999年に日本で初めて承認されたED治療薬で、服用後30分から1時間程度で効果が現れ、4~5時間程度持続します。勃起が比較的固くなりやすいという特徴がありますが、食事の影響を受けやすく、空腹時に服用する必要があります。
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レビトラは即効性が最大の特徴で、服用後15分から30分程度で効果が現れ、約8時間持続します。バイアグラと比較して食事の影響を受けにくく、勃起の硬さや刺激に対する感度においても優れた特性を持っていますが、現在はジェネリック製品のみが流通しています。
シアリスは持続時間の長さが特徴で、服用後1時間から2時間程度で効果が現れ、30~36時間という長時間にわたり効果が持続します。この長時間作用により「ウィークエンドピル」とも呼ばれ、マイルドで自然な効果が得られるため、タイミングを気にせずパートナーと時間を過ごせるというメリットがあります。
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上記ガイドラインには、PDE5阻害薬の詳細な使用方法、副作用、併用禁忌薬などの重要な情報が記載されています。
ED治療薬 | 有効成分 | 効果発現時間 | 持続時間 | 主な特徴 |
---|---|---|---|---|
バイアグラ | シルデナフィル | 30分~1時間 | 4~5時間 | 勃起が固くなりやすい、食事の影響を受けやすい |
レビトラ | バルデナフィル | 15分~30分 | 約8時間 | 即効性が高い、食事の影響を受けにくい |
シアリス | タダラフィル | 1~2時間 | 30~36時間 | 長時間作用、自然でマイルドな効果 |
2025年5月には、エスエス製薬がタダラフィルの要指導・一般用医薬品への転用に関する評価検討会議に出席しており、将来的にED治療薬の一部が市販化される可能性も示唆されています。ただし、2025年7月時点ではシアリスを含むED治療薬の市販化は未定とされており、安全に入手するには医療機関での医師の処方が必要です。
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勃起不全における心理療法とカウンセリング
心因性EDは心理的な要因が大きく関与するため、薬物療法と併用して心理療法を取り入れることで根本的な改善が期待できます。「ED診療ガイドライン」でも、心因性EDの治療においては、ED治療薬と心理療法の併用がより高い治療効果をもたらすことが記されています。
心理療法には精神分析療法、支持的精神療法、感覚集中訓練、自立訓練法、脱感作療法、マリッジ・カウンセリング、性教育、コミュニケーションと性的な技術訓練、マスターベーション訓練など多様なアプローチがあります。認知行動療法は特に効果的とされており、ネガティブな思考パターンを修正し、不安やプレッシャーを軽減することで、より自然な勃起が起こりやすくなります。
参考)心因性EDの原因と治し方 • メンズケアクリニック新橋院
ED治療薬とあわせて認知行動療法などの心理療法を行うと、治療効果が高まりやすいとの研究結果があります。心因性EDの場合は、ED治療薬を使ってセックスの成功体験を積み重ね、自信回復や不安解消につなげる効果が期待できるためです。
参考)【医師監修】心因性ED(機能性ED)になったらどうすればいい…
カウンセリング形式で行うことが一般的ですが、パートナーも一緒に参加できる「カップル療法」は、二人のコミュニケーションを深めるため、特に効果的と考えられています。専門家によるカウンセリングを複数回行うことで、ED治療薬で改善しなかった症状が改善するケースもあります。
ただし、心理療法による治療は1回で効果が出るものではなく、症状を改善するには継続してカウンセリングを受けたり、通院したりする必要があります。また、ED治療のための心理療法を行う医療機関は少ないのが現状であるため、まずはED治療薬による治療を選択し、効果がみられなければ心理療法も検討するというのが、心因性ED治療の一般的な流れとなっています。
心因性EDの背景にうつ病やパニック障害など重い精神疾患がある場合は、精神科の診察による薬物治療(抗うつ薬・抗不安薬など)が優先されます。精神症状が落ち着き、少量の薬や心理療法でコントロールできるようになってから本格的にED治療を進めるケースも少なくありません。
勃起不全に対する衝撃波治療の効果とメカニズム
衝撃波治療(ESWT)は、陰茎に低強度の衝撃波を照射することで血管の若返りや毛細血管の増加を促し、血流を改善する治療法です。ED治療薬が一時的に血管を拡張させるのに対し、衝撃波治療は血管そのものを再生させる点が大きな違いとなっています。
参考)医師が語るED衝撃波治療|効果を最大化する7つの条件 – 泌…
日本国内では「レノーヴァ」という治療機器が代表的で、既に1万人以上の患者に治療を行い、その有効性が確認されている信頼性の高い治療法です。レノーヴァの最大の特徴は「低出力の衝撃波」であり、専用の装置を陰茎に当て、ごく微弱で痛みを感じない程度の衝撃波を照射します。
参考)レノーヴァは効果なし?実感できない5つの理由と対処法を解説
衝撃波治療の具体的なメカニズムは、陰茎に直接衝撃波を照射すると、陰茎内の血管が振動し、新しい血管を形成する「細胞増殖因子」が放出されます。これにより新しい血管が増え、EDの症状が改善されるという仕組みです。衝撃波は神経組織の再生も促進し、神経成長因子(NGF)の放出を促し、損傷した神経の修復を助けます。
参考)衝撃波治療について
さらに、衝撃波治療には抗炎症作用もあり、慢性的な炎症は血管や神経の機能を低下させる要因となりますが、衝撃波はこの炎症を抑制し、組織の修復環境を整えます。これらの作用が複合的に働くことで、陰茎の血流が改善され、勃起機能の回復につながります。
治療効果を実感するまでには、週1回を4週間継続し、治療終了後1ヶ月から3ヶ月ほど経過した頃から徐々に効果を感じる方が多いようです。衝撃波治療は即効性のある治療法ではなく、時間をかけて血管新生を促すため、数週間程度経過後に効果を実感する患者が多いとされています。
参考)レノーヴァの効果はいつから?3つの主な効果と最大化するポイン…
上記リンクには、衝撃波治療の詳細な仕組みと治療プロトコルについての説明が記載されています。
血流の低下や血管障害などが原因で発症する器質性EDであれば、根本的な改善が期待できる治療法です。従来のED治療薬の服用に抵抗がある方、根本的な改善を目指したい方、持病のためにED治療薬の内服が困難な方に適した選択肢となっています。
勃起不全治療における生活習慣改善の重要性
生活習慣の改善はED治療の基本となり、健康的な食事、適度な運動、禁煙、適正飲酒、ストレス管理などの生活習慣改善だけでも、軽度から中等度のED症状が30~40%改善するという報告があります。ED診療ガイドライン第3版でも、生活習慣への介入が勃起機能改善に有効であることが示されています。
参考)EDになる原因と対策!治るきっかけとなりやすい人からわかる改…
肥満とED の関連について、米国における医療従事者フォローアップ研究(HPFS)では、40~75歳の男性22,086名を14年以上フォローアップした結果、BMIが23kg/m²以下であった群と比較して、BMIが30kg/m²以上の最も重度の肥満群の相対リスクは1.7と有意に高いことが明らかになっています。
運動とEDの関連では、同じHPFS研究において、2.7METs/週未満しか運動しない群を対照とすると、32.6以上の運動強度群では相対リスクが0.7(0.7-0.8)と、運動強度の増加に伴ってEDのリスクは低下していました。週に2.5時間以上のランニングはEDの相対リスクを対照群に比較して30%低下させたという結果も報告されています。
肥満・運動不足に対して介入したランダム化比較試験では、35~55歳の男性でBMI30kg/m²以上の肥満があり、かつIIEF-5スコアが21点以下の110名を2群に分け、介入群にはカロリー摂取と身体活動に関するきめ細かい指導を個別に行い、10%以上の体重減少を達成させました。2年後、介入群ではIIEF-5のスコアが13.9から17.0に上昇したのに対し、対照群では13.5から13.6と改善がみられませんでした。
生活習慣分野 | 具体的な改善策 | 期待できる効果 | 実践のコツ |
---|---|---|---|
食事改善 | 地中海式食事法、野菜・果物増量 | 血管機能改善、NO産生促進 | 加工食品削減、魚・オリーブ油増量 |
運動習慣 | 週150分の有酸素運動、筋トレ | テストステロン増加、血流改善 | まずは毎日10分のウォーキング |
睡眠改善 | 7-8時間の質の良い睡眠 | ホルモンバランス調整 | 就寝時間の規則化、ブルーライト制限 |
体重管理 | BMI 25以下の維持 | テストステロン回復、血管機能改善 | 少量ずつの減量(月2kg程度) |
禁煙 | 完全な禁煙 | 血管機能回復 | 禁煙外来の活用 |
喫煙とEDの関連については、多くの横断研究で有意な関連が示されており、イタリアでは非喫煙者に対するオッズ比が1.74、スペインでは2.54、オーストラリアでは1.86(>20本/日)と報告されています。2013年に報告されたメタアナリシスでは、28,586名のデータを統合解析し、オッズ比が1.51で有意であったとされています。
勃起不全治療における薬物療法以外の選択肢
PDE5阻害薬が無効または禁忌の勃起不全患者に対しては、いくつかの代替治療法が存在します。陰茎海綿体注射(ICI)療法は、血管拡張作用を持つ薬剤を陰茎海綿体に直接注射する方法で、自分で性行為の際に注射を打つ手段です。
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陰茎海綿体注射に使用される薬剤として、プロスタグランジンE1(PGE1)、フェントラミン、パパベリンなどがあり、これらは陰茎海綿体の平滑筋を直接弛緩させることで勃起を誘発します。ED診療ガイドライン第3版では、PDE5阻害薬に反応しない患者への対応として、陰茎海綿体注射療法が推奨されています。
陰圧式勃起補助具(VED)は、陰茎を筒状の装置に入れ、ポンプで空気を抜いて陰圧を作り出すことで陰茎に血液を集め、勃起を補助する器具です。勃起が得られた後、陰茎の根元にゴム製のリングを装着して血液の流出を防ぎ、勃起を維持します。
不妊治療を行っているご夫婦で一定の条件を満たしていれば、シアリスとバイアグラは保険での処方も可能となっています。これは2025年時点での重要な情報であり、医療従事者として患者に適切に情報提供する必要があります。
テストステロン低下を伴ったEDに対しては、テストステロン補充療法(TRT)が有効な場合があります。ED診療ガイドライン第3版のCQ1では、性腺機能低下症の患者に限り、テストステロン補充療法によってEDが改善するとされています。
前立腺肥大症による下部尿路症状(LUTS)を合併するED患者に対しては、PDE5阻害薬が勃起機能だけでなく、下部尿路症状の改善にも効果を示すことが報告されています。タダラフィルは前立腺肥大症による排尿障害の治療薬としても承認されており、「ザルティア」という商品名で処方されています。
参考)PDE5阻害薬とは?種類や服用方法、副作用について解説
勃起不全の再生医療分野では、低強度衝撃波療法(LiSWT)、幹細胞療法(SCT)、間質血管細胞分画(SVF)、多血小板血漿(PRP)などの新しい治療法が研究されています。これらの治療法は、従来の対症療法とは異なり、病変組織を再生させ、EDの潜在的な「治癒」を提供することを目的としています。 参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8240368/ 参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10216368/ 参考)https://www.mdpi.com/2076-3425/13/5/802
勃起不全治療における最新の再生医療アプローチ
低強度衝撃波療法は、陰茎に極低出力の衝撃波を照射することで「血管の若返り」や「血管の新生」を促す効果が期待できる治療法です。Sexual Medicine Society of North America(SMSNA)の2021年の見解声明では、再生療法としての低強度衝撃波療法の臨床試験データを検討し、さらなる研究が必要な要素を特定しています。
幹細胞療法は、患者自身の骨髄や脂肪組織から採取した幹細胞を陰茎海綿体に注入し、損傷した組織の修復と血管新生を促進する治療法です。動物実験では有望な結果が報告されていますが、ヒトでの臨床試験はまだ限られており、安全性と有効性の確立には更なる研究が必要とされています。
多血小板血漿(PRP)療法は、患者自身の血液から血小板を濃縮した血漿を作成し、陰茎海綿体に注入する治療法で、血小板に含まれる成長因子が組織の修復と血管新生を促進すると考えられています。しかし、PRPの調製方法や投与プロトコルが標準化されていないため、治療効果にばらつきがあることが課題となっています。
これらの再生医療アプローチは、従来のED治療薬やデバイスによる治療とは異なり、勃起機能の根本的な回復を目指す点で画期的ですが、現時点では研究段階にあり、臨床応用には慎重な検討が必要です。ED診療ガイドライン第3版では、これらの新規治療法についての記載は限定的であり、今後のガイドライン改訂時に新たなエビデンスが追加される可能性があります。
再生医療分野の研究は急速に進展しており、2023年の総説では、ED治療における新たな治療戦略として、ドーパミンD4受容体作動薬やメラノコルチン受容体作動薬など、中枢性勃起経路を標的とする新薬の開発も進められていることが報告されています。医療従事者として、これらの最新情報を常にアップデートし、患者に適切な情報提供を行うことが重要です。