びまん性汎細気管支炎とCOPDの違い
びまん性汎細気管支炎とCOPDの病態形成メカニズム
びまん性汎細気管支炎(DPB)は、呼吸細気管支という細い気管支を中心に慢性炎症が起こる疾患なんです。この疾患では呼吸細気管支領域の浮腫や分泌物の増加によって気道が狭められることが主な病態です。一方、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主にタバコの煙などの有害物質を長期に吸入することで、肺の組織が壊れた状態を指します。
COPDには慢性気管支炎・びまん性汎細気管支炎とは?原因不明の咳や痰が続…
DPBの病態として特徴的なのは、両側肺の呼吸細気管支領域にびまん性の慢性気道炎症を呈し、閉塞性呼吸機能障害をきたす点です。進行すると気管支の拡張も伴い、感染を繰り返して気管支の壁が破壊されると、細菌が付着しやすくなり感染リスクが高まるんです。
参考)副鼻腔気管支症候群とびまん性汎細気管支炎 (medicina…
びまん性汎細気管支炎とCOPDの症状の相違点
DPBの最も顕著な症状は持続する咳と膿性の痰で、特に痰の量が多いのが特徴的なんですよ。患者さんによって痰の量は変わりますが、200~300ミリリットルの痰が1日に出る方もいます。この大量の膿性痰は、COPDと鑑別する重要なポイントになります。
参考)B-02 びまん性汎細気管支炎 – B. 気道閉塞性疾患|一…
COPDの主な症状は慢性の咳や痰、動いた時の息切れですが、DPBほど痰の量は多くありません。COPDでは階段や坂道などの労作時に息切れが顕著になることが特徴です。症状は似ていますが、COPDや気管支喘息の患者さんと比較してDPBは難治性と言われるほど診断が難しいのです。
DPBでは、ほとんどの患者さんで慢性副鼻腔炎(蓄膿症)を合併するため、鼻づまり、膿性鼻汁、嗅覚低下などの症状があります。この副鼻腔炎の合併は、DPBとCOPDを鑑別する重要な臨床所見となっています。また、DPBの咳は朝方や夜間に悪化する傾向があり、患者さんの睡眠を妨げて日中の活動にも支障をきたす可能性が高いんです。
参考)びまん性汎細気管支炎(DPB. Diffuse panbro…
びまん性汎細気管支炎とCOPDの画像診断と検査所見
胸部CT検査では両疾患で明確な違いが認められます。DPBでは胸部X線および高分解能CTで、両側の肺全体に広がる小さな粒状の影(小葉中心性粒状影)や気管支壁の肥厚、気管支の拡張、肺の過膨張所見がみられるんですよ。この小葉中心性粒状影は呼吸細気管支領域の炎症が原因と考えられています。
参考)7. COPDの画像診断
COPDのCT所見は肺気腫の病態を反映し、肺の中が壊れて気腫の部分が黒く写ります。肺の破壊に伴って肺は膨張(過膨張)し、正常な肺構造が残り僅かとなるケースもあります。びまん性汎細気管支炎では明らかな肺気腫所見を認めないことが鑑別のポイントです。
参考)https://www.obayashihp.or.jp/kakuka/pdf/kensi_series4.pdf
呼吸機能検査では、両疾患ともに1秒率(FEV1/FVC)が70%未満に低下する閉塞性換気障害を示します。しかし、DPBでは画像検査で小粒状影が見られるため、画像診断は鑑別のヒントになるんです。血液検査では、DPBで白血球数の増加、赤沈、CRPの上昇、寒冷凝集素価の高値などがみられることがあります。
喀痰検査では、DPBではインフルエンザ菌や肺炎球菌が検出され、進行例では緑膿菌が検出されることが特徴的です。一方、COPDでは必ずしも特定の細菌が検出されるわけではありません。
びまん性汎細気管支炎とCOPDの原因と疫学的特徴
DPBは日本を中心として東アジアで多くみられる疾患で、欧米ではほとんど見られないんです。この地理的分布の偏りから、病気には人種特異性や遺伝的要因の関与が示唆されています。発症に男女差はほとんどなく、発症年齢は40~50歳代が多いですが、若年者や高齢者にもみられます。
参考)びまん性汎細気管支炎(びまんせいはんさいきかんしえん)とは …
COPDの原因の大多数は長期的な喫煙とされています。長期的に喫煙をすることで肺の中の気管支、肺胞に炎症が生じ、不可逆性の気流制限をきたす病気なんですよ。喫煙者では非喫煙者と比較して1秒量の経年的な減少速度が速いとされています。
DPBの明確な原因は不明ですが、環境因子と遺伝因子の両方が関与すると考えられているんです。親族にDPBを罹患している方や痰がよく出る方がいる場合は、呼吸器の専門施設への早期の受診が推奨されています。一方、COPDは通常は10~60歳(平均40歳)の男性の非喫煙者に多いDPBとは対照的に、大抵は喫煙歴のある患者さんに発症します。
参考)Table: COPDの鑑別診断-MSDマニュアル プロフェ…
びまん性汎細気管支炎とCOPDの治療方針と予後
DPBの治療において画期的なのは、マクロライド少量長期療法の導入です。1984年に工藤らによって少量エリスロマイシン療法が紹介され、それまで難治性であったDPBの予後は著しく改善しました。現在では診断し治療をすれば治癒が可能となっています。マクロライド療法導入前の1970年代初診の患者群は5年生存率62.9%、10年生存率35.6%と著しく悪かったのですが、1985年以後では5年生存率は91.4%と飛躍的に改善したんですよ。
参考)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/02/di201401.pdf
一方、COPDの治療では、まず禁煙が必須です。すでにCOPDを発症している方でも禁煙することで呼吸機能低下速度や死亡率を減少させます。薬物療法としては気管支拡張薬を用いて症状を軽減し、身体活動度を向上させて生活の質を高めるようにしますが、DPBのように治癒することはありません。
COPDの予後は気道閉塞の重症度から予測でき、5年生存率はFEV1(1秒量)が0.75L未満であれば約30~40%、FEV1が0.75~1.25Lであれば約40~60%とされています。これはDPBの適切な治療後の予後と比較すると大きな差があります。重症のCOPD患者さんには在宅酸素療法の導入を検討する必要があるんです。
DPBでは増悪の予防として栄養状態の改善やインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種も大切です。細菌感染により増悪した時は原因となる細菌に対する抗菌薬の投与が必要になります。COPDでも同様にワクチン接種は推奨されており、感冒や大気汚染物質の吸入により呼吸器症状が急激に悪化するCOPD増悪時には、短期間のステロイド治療や抗生剤の併用を検討します。
びまん性汎細気管支炎における診断の重要性
慢性閉塞性肺疾患を疑われている患者さんの中には、よく検査してみると実はCOPDではなくDPBの方がいるんです。びまん性汎細気管支炎は閉塞性肺疾患であるCOPDと症状がとても良く似ており、診断が難しい疾患の一つです。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/3987/
DPBが提唱されていなかった頃、この疾患は慢性気管支炎などと診断され、有効な治療方法もないまま進行して呼吸不全を呈している方もいました。しかし現在では抗生物質のマクロライドを長期的に少量投与することで治癒ができる疾患だと判明しているため、早期に確定診断ができれば治療効果が高いとされているんですよ。
症状が進行してしまうと呼吸不全を呈し、胸部X線やCTでも診断が困難になってきます。DPBでは問診が重要な診断の糸口になるため、医師は問診の際に家族歴などを質問する場合があります。長期に渡って咳や大量の痰が出る方は、DPBの可能性を考慮し呼吸器専門医への受診が推奨されます。
適切な鑑別診断を行うためには、喫煙歴や職業歴の聴取、呼吸機能検査、画像検査が必要です。特に慢性副鼻腔炎の合併、大量の膿性痰、小葉中心性粒状影の存在はDPBを強く示唆する所見となります。本疾患は現在では診断が確立され難治例が少なくなり、去りゆく疾患となりつつありますが、COPDとともに患者さんに啓発していくべき疾患なんです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/112/9/112_1699/_pdf/-char/ja
びまん性汎細気管支炎の診断と治療に関する詳細情報(メディカルノート)
びまん性汎細気管支炎の疾患解説(日本呼吸器学会)