ビグアナイド薬の種類と特徴
ビグアナイド系糖尿病薬は、2型糖尿病の治療において重要な位置を占める薬剤です。この薬剤は中東原産のガレガというマメ科の植物から有効成分が発見され、古くから糖尿病治療に用いられてきました。現在、日本で使用されているビグアナイド系糖尿病薬は「メトホルミン」と「ブホルミン」の2種類があります。これらの薬剤はインスリン分泌を促進するのではなく、主に肝臓に作用して糖新生を抑制するという特徴を持っています。
ビグアナイド薬は、スルホニル尿素(SU)薬より数年遅れて販売された薬剤です。SU薬が膵臓に作用するのに対して、ビグアナイド薬は主に肝臓に作用するという点が大きな違いとなっています。また、食欲を抑制する効果もあるため、肥満を伴う2型糖尿病患者の第一選択薬として用いられることも多いです。
ビグアナイド薬の主なメトホルミン製剤とその特徴
メトホルミン製剤は、ビグアナイド系糖尿病薬の中でも最も広く使用されている薬剤です。日本で使用されているメトホルミン製剤には以下のようなものがあります:
- グリコラン錠®250mg(日本新薬)
- 1日の用量上限が750mgと定められています
- 薬価:9.8円/錠
- メトグルコ錠®250mg、メトグルコ錠®500mg(住友ファーマ)
- 1日の用量上限が2,250mgと、グリコラン錠より多く設定されています
- 薬価:10.1円/錠
- フランスのMerck Santeと提携して製造販売されています
- メトホルミン塩酸塩錠(各ジェネリックメーカー)
- 「メトホルミン塩酸塩錠250mgMT「〇〇」」、「メトホルミン塩酸塩錠500mgMT「〇〇」」という名称で販売
- 「〇〇」の部分には各ジェネリックメーカーの名前が入ります(例:三和、トーワ、TE、JG、ニプロなど)
- 薬価:多くは10.1円/錠
- メーカーによって用法用量が異なる場合があるため注意が必要です
これらのメトホルミン製剤は同じ有効成分を含んでいますが、用法用量が異なるため、医療現場では注意が必要です。特にグリコラン錠®とメトグルコ錠®は同じ成分であるにもかかわらず、上限量が異なるため、処方時に間違いが生じることがあります。
ビグアナイド薬のブホルミン製剤と使用上の注意点
ブホルミン製剤は、メトホルミン製剤と並んで日本で使用されているもう一つのビグアナイド系糖尿病薬です。現在、日本で使用されているブホルミン製剤には以下のようなものがあります:
- ジベトス錠®50mg(日医工)
- 後発品として薬価収載されています
- 薬価:9.8円/錠
- ブホルミン塩酸塩腸溶錠50mg「KO」(寿製薬)
- 腸溶性の製剤となっています
ブホルミン製剤もメトホルミン製剤と同様に、主に肝臓での糖新生を抑制することで血糖値を下げる作用を持っています。ただし、メトホルミン製剤と比較すると、日本での使用頻度は低い傾向にあります。
ブホルミン製剤を使用する際にも、乳酸アシドーシスのリスクに注意する必要があります。特に高齢者や腎機能が低下している患者では、このリスクが高まるため、慎重な投与が求められます。また、脱水状態や重度の感染症、手術前後などの状況でも、一時的に投与を中止することが推奨されています。
ビグアナイド薬の作用機序と血糖降下メカニズム
ビグアナイド系糖尿病薬の作用機序は、他の糖尿病治療薬とは異なる特徴を持っています。主な作用機序は以下の通りです:
- 肝臓での糖新生抑制
- 肝臓で行われる糖新生(糖を新たに作る働き)を抑制します
- 乳酸を介した肝臓での糖の生産を制御することで、体内の血糖値を安定させます
- インスリン非依存性の血糖降下作用
- インスリンに関与することなく血糖値を下げる働きがあります
- これにより、インスリン分泌能が低下している患者でも効果が期待できます
- 末梢組織でのインスリン感受性改善
- 筋肉などの末梢組織におけるインスリン感受性を高めます
- これにより、同じ量のインスリンでより効果的に血糖値を下げることができます
- 腸管からの糖吸収抑制
- 腸管からの糖の吸収を緩やかにする効果もあります
- 食後の急激な血糖上昇を抑える効果が期待できます
これらの作用により、ビグアナイド薬はインスリン分泌を促進せずに血糖値を下げることができるため、低血糖のリスクが比較的低いという特徴があります。このため、医療現場では糖尿病患者に対して食事療法や運動療法で血糖値の改善が見られない場合に、薬物治療の第一選択薬として用いられることが多いです。
ビグアナイド薬の副作用と乳酸アシドーシスのリスク管理
ビグアナイド系糖尿病薬を使用する際に最も注意すべき副作用は「乳酸アシドーシス」です。これは、体内に乳酸が蓄積することで起こる重篤な副作用で、以下のような症状が現れることがあります:
- 疲労感や倦怠感
- 脱水症状
- 口渇
- 意識低下
- 昏睡状態(重症の場合)
乳酸アシドーシスが発生するメカニズムは、ビグアナイド薬の作用機序と関連しています。これらの薬剤は肝臓での糖新生を抑制することで血糖値を下げますが、その過程で糖を作るルートが遮断されることにより、出発点の物質である乳酸が体内に蓄積してしまうことがあります。
乳酸アシドーシスのリスクを管理するために、以下のような対策が重要です:
- 適切な患者選択
- 高齢者や重度の腎機能低下患者には原則として禁忌とされています
- 肝機能障害のある患者にも注意が必要です
- 水分摂取の維持
- 体内の水分量が少ないと乳酸アシドーシスの症状が出やすくなります
- 適切な水分摂取を心がけるよう患者に指導することが重要です
- 定期的な腎機能検査
- 腎機能の状態を定期的にモニタリングし、悪化が見られる場合は用量調整や投与中止を検討します
- 一時的な投与中止が必要な状況の把握
- 脱水、重篤な感染症、手術前後などの状況では一時的に投与を中止することが推奨されています
- ヨード造影剤を用いる検査の前後も投与中止が必要な場合があります
これらの対策を適切に実施することで、乳酸アシドーシスのリスクを最小限に抑えながら、ビグアナイド薬の有効性を最大限に引き出すことが可能となります。
ビグアナイド薬の配合剤と適応外使用の可能性
ビグアナイド系糖尿病薬は単剤での使用だけでなく、他の糖尿病治療薬との配合剤としても使用されています。日本で使用されている主なビグアナイド薬の配合剤には以下のようなものがあります:
- メタクト配合錠LD®/メタクト配合錠®
- ピオグリタゾン(チアゾリジン系)とメトホルミンの配合剤
- インスリン抵抗性の改善と肝臓での糖新生抑制という異なる作用機序を組み合わせています
- エクメット配合錠LD®/エクメット配合錠HD®
- ビルダグリプチン(DPP-4阻害薬)とメトホルミンの配合剤
- インクレチン効果の増強と肝臓での糖新生抑制を同時に狙った配合剤です
- イニシンク配合錠®
- アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬)とメトホルミン塩酸塩の配合剤
- こちらもインクレチン効果の増強と肝臓での糖新生抑制を組み合わせています
これらの配合剤は、異なる作用機序を持つ薬剤を組み合わせることで、より効果的な血糖コントロールを目指しています。また、複数の薬剤を1つの錠剤にまとめることで、服薬の負担を軽減するというメリットもあります。
一方、ビグアナイド薬には糖尿病治療以外の適応外使用の可能性も報告されています。特に興味深いのは、メトグルコ錠®が排卵抑制の副作用を利用して不妊治療に使用されているケースです。これは添付文書には記載されていない使用法ですが、海外や国内の研究結果に基づいて、医師の管理のもとで処方されることがあります。
また、ビグアナイド薬には体重減少効果があることから、肥満治療の補助として使用されることもあります。特に肥満を伴う2型糖尿病患者では、この効果が治療上のメリットとなることがあります。
このように、ビグアナイド薬は糖尿病治療の枠を超えて、様々な臨床場面で活用される可能性を秘めています。ただし、適応外使用については十分なエビデンスの蓄積と慎重な患者モニタリングが必要であることは言うまでもありません。
医療従事者として、ビグアナイド薬の多様な使用可能性を理解しつつも、安全性を最優先に考えた薬剤選択と患者指導を心がけることが重要です。特に乳酸アシドーシスのリスクについては、患者に十分な説明を行い、異常を感じた場合には速やかに医療機関を受診するよう指導することが求められます。
ビグアナイド薬は、その独特の作用機序と比較的安全性の高さから、今後も糖尿病治療の中心的な役割を担い続けるでしょう。同時に、新たな適応や使用法の開発により、その臨床的価値がさらに広がっていく可能性も期待されます。
日本糖尿病学会による「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会報告」- ビグアナイド薬の安全な使用に関する詳細なガイドライン
医薬品医療機器総合機構(PMDA)による「メトホルミン製剤の「重要な基本的注意」等の改訂について」- 安全性情報の最新アップデート