ビダラビンとヘルペス感染の治療効果
ビダラビンの作用機序とヘルペスウイルス阻害効果
ビダラビンは単純ヘルペスウイルスに対する強力な抗ウイルス作用を持つ核酸アナログ製剤です 。この薬剤は細胞内でチミジンキナーゼによってリン酸化され、活性型のビダラビン3リン酸となって効果を発揮します 。その作用機序には3つの特徴的な抗ウイルス作用があり、特に2つ目と3つ目の作用はビダラビン特有のものとされています 。
参考)ビダラビンの3つの抗ウイルス作用|アラセナS(口唇ヘルペス市…
第一の作用として、ビダラビン3リン酸がウイルスのDNA依存DNAポリメラーゼを強力に阻害し、DNA複製を停止させます 。この際、ウイルス由来の酵素と高い親和性を示すため、正常ヒト細胞にはほとんど影響を与えません 。第二の作用では、リボヌクレオチドレダクターゼの働きを阻害することで、DNAの材料であるヌクレオチド生成を抑制します 。
単純ヘルペス脳炎におけるビダラビンの重要性
単純ヘルペス脳炎の治療において、アシクロビルが第一選択薬として位置づけられていますが、治療抵抗性の症例ではビダラビンが重要な役割を果たします 。特に、十分量のアシクロビル投与後も髄液PCRでウイルス量が減少しない場合や画像所見が拡大する場合には、アシクロビルにビダラビン15mg/kg、1日1回点滴静注を追加することが推奨されています 。
参考)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/hse/herpes_simplex_2017_08.pdf
新生児ヘルペス脳炎では、アシクロビル不応例に対してビダラビンの使用が考慮されます 。また、成人例では通常1日10~15mg/kg、10日間の点滴静注が行われ、症状や腎障害の程度により適宜増減されます 。免疫抑制患者における帯状疱疹に対しては、通常1日5~10mg/kg、5日間の点滴静注が実施されます 。
参考)https://med.mochida.co.jp/interview/ara-a_n27.pdf
性器ヘルペスと口唇ヘルペスにおけるビダラビン外用治療
ビダラビン軟膏は単純疱疹および性器ヘルペスの外用治療薬として広く使用されています 。外用薬としての特徴は、局所に直接作用してウイルスの増殖を早期にブロックすることで、症状の悪化を防ぎ治癒を促進することです 。特に初期症状であるピリピリ感や赤みの段階から使用を開始することで、より高い効果が期待されます 。
参考)ビダラビン軟膏の効果や副作用について医師が解説!ヘルペスに効…
使用法としては、1日1~4回患部に適量を塗布または貼布し、発症から5日以内に使用開始することが推奨されています 。軟膏タイプは刺激が少なく、クリームタイプは塗りやすくべたつきにくい特長があります 。また、内服薬との併用により相乗効果が得られる場合があることも報告されています 。
参考)ビダラビン軟膏
アシクロビル耐性ヘルペスに対するビダラビン治療
近年、アシクロビル耐性単純ヘルペスウイルス感染症の症例が増加傾向にあり、このような症例においてビダラビンは重要な治療選択肢となっています 。ビダラビンはアシクロビル感受性株およびアシクロビル耐性株の両方に対して有効性を示すことが確認されています 。
参考)https://www.iwakiseiyaku.co.jp/dcms_media/other/vdoif20240808.pdf
特に免疫抑制患者や移植患者などでは、アシクロビル耐性ヘルペス感染症が問題となることがあり、このような症例でビダラビンの併用療法が奏効したとの報告があります 。治療抵抗性単純ヘルペス脳炎においても、アシクロビルとビダラビンの併用療法が推奨されており、髄液HSV DNA高感度PCRが2回連続して陰性であることを確認するまで投与継続されます 。
ビダラビンの副作用と安全性における注意点
ビダラビン軟膏の副作用として最も多いのは、塗布部位の局所的な皮膚症状です 。主な症状には接触皮膚炎(かぶれ)、ヒリヒリとした刺激感、そう痒感(かゆみ)、発赤(赤み)、丘疹(ぶつぶつ)などがあります 。これらの症状は薬剤そのものによる刺激や軟膏の基剤に対するアレルギー反応が原因で起こることが多く、多くは軽度で一時的ですが、症状が強い場合は使用を中止する必要があります 。
参考)ビダラビン(アラセナ)|こばとも皮膚科|栄駅(名古屋市栄区)…
点滴注射でビダラビンを投与した場合には、全身的な副作用が現れる可能性があります 。報告されている副作用には発疹、吐き気・嘔吐、食欲不振、下痢といった消化器症状、肝機能検査値の上昇などがあります 。まれに頭痛やめまい、眠気といった精神神経系の症状、さらに極めてまれですが骨髄抑制、精神神経症状、急性腎障害などの重篤な副作用も報告されています 。妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されます 。