ベムラフェニブ添付文書の重要事項
食後投与でベムラフェニブの血中濃度が2.5倍上昇します。
ベムラフェニブの基本的な用法用量
ベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)は、BRAF V600遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫に対して使用される分子標的薬です。添付文書に記載された基本的な用法用量は、通常成人にはベムラフェニブとして1回960mgを1日2回経口投与することとされています。
つまり1日量は1,920mgです。
1錠あたり240mgの含有量のため、1回につき4錠を服用する計算になります。朝と夕方の2回に分けて服用することで、血中濃度を安定的に維持し、BRAF遺伝子変異陽性の悪性黒色腫細胞に対して持続的な増殖抑制効果を発揮します。
日本人を対象とした第I/II相臨床試験(JO28178試験)では、日本人患者においても海外と同様の用量で有効性と忍容性が確認されています。BRAF遺伝子変異は日本人悪性黒色腫患者の約25~30%に認められ、そのうち約95%がV600E変異、残り約5%がV600K変異とされています。
ただし副作用が発現した場合には、添付文書に規定された減量基準に従って用量調整を行う必要があります。Grade1以下に回復するまで休薬し、再開時には1回720mg(3錠)に減量するのが基本です。
PMDAのベムラフェニブ審査報告書には、承認時の詳細な臨床試験データと用法用量の設定根拠が記載されています。
ベムラフェニブ服薬時の食事影響と注意点
ベムラフェニブの添付文書で特に注意すべき点が食事の影響です。悪性黒色腫患者16例を対象とした薬物動態試験において、食後(高脂肪・高カロリー食)投与では絶食時投与と比較して、最高血中濃度(Cmax)が約2.5倍、血中濃度時間曲線下面積(AUC)が約4.6~5.1倍に増加することが報告されています。
どういうことでしょうか?
食事と一緒に服用すると、薬剤の吸収が著しく亢進し、予期せぬ高血中濃度により副作用リスクが増大する可能性があるということです。この理由から、添付文書では「食事の影響を避けるため、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避けることが望ましい」と明記されています。
患者への服薬指導では、この空腹時服用の重要性を必ず説明する必要があります。具体的には、朝食前と夕食前の少なくとも1時間以上前、または食後2時間以上経過してから服用するよう指導します。
これは使えそうです。
万が一食事と近い時間に服用してしまった場合、血中濃度が過剰に上昇することでQT延長、皮膚障害、肝機能障害などの副作用が増強される懸念があります。患者には服薬時間を記録するよう促し、毎日同じ時間帯に服用する習慣をつけることで、食事との間隔を確保しやすくなります。
医療用医薬品データベースでは、ベムラフェニブの食事影響に関する詳細な薬物動態データを確認できます。
ベムラフェニブの重大な副作用と発現時期
ベムラフェニブの添付文書に記載されている重大な副作用のうち、特に注意を要するのが皮膚有棘細胞癌(皮膚扁平上皮癌)とケラトアカントーマです。海外第III相試験(NO25026試験)では、ベムラフェニブ投与群の約24%に皮膚有棘細胞癌が発現したと報告されています。
意外ですね。
発現時期の中央値は投与開始から約7~8週とされており、比較的早期に発生するリスクがあります。この二次性悪性腫瘍は、BRAF阻害薬が野生型BRAFを有する細胞において、逆にMEK-ERK経路を活性化する「パラドックス効果」により引き起こされると考えられています。
投与開始前および投与中は定期的な皮膚の全身観察が必須です。2~3ヶ月ごとに皮膚科専門医による診察を受け、新たな皮膚病変の有無を確認します。発見された有棘細胞癌やケラトアカントーマは、外科的に切除することで対処可能であり、多くの場合はベムラフェニブの投与を継続できます。
その他の重大な副作用として、QT間隔延長(約2.0%)、肝機能障害、間質性肺疾患、重度の過敏症反応などが挙げられます。QT延長については、投与開始前、投与開始後1ヶ月、その後は定期的に心電図検査を実施し、QTc間隔が500msecを超える場合には休薬を検討します。
厳しいところですね。
J-Stageの症例報告では、ベムラフェニブ投与中の皮膚有棘細胞癌発生例の詳細が記載されています。
ベムラフェニブの副作用発現時の用量調整基準
添付文書には副作用発現時の詳細な用量調整基準が規定されています。忍容不能なGrade2以上の副作用、またはGrade3以上の副作用が発現した場合には、まずGrade1以下に回復するまで休薬します。
回復後の再開用量は段階的に設定されており、通常投与量960mgから1段階減量の720mg、2段階減量の480mg、そして投与中止という流れになります。1段階減量の720mgは1回3錠に相当し、2段階減量の480mgは1回2錠です。
ただし例外があります。
皮膚有棘細胞癌または新たな原発性悪性黒色腫が発現した場合には、用量調整なしで投与を継続し、外科的切除で対処します。また、網膜疾患やぶどう膜炎が発現した場合には、Grade2でも休薬を検討する必要があります。
海外第III相試験では、被験者の約67%が何らかの副作用により用量調整を必要としましたが、適切な休薬と減量により治療を継続できたケースが大半です。主な副作用として、発疹52.8%、関節痛48.1%、光線過敏症46.6%、脱毛症45.4%、疲労43.3%などが報告されています。
用量調整の判断には、副作用の重症度を正確に評価することが重要です。NCI-CTCAE(有害事象共通用語規準)に基づいたGrade判定を行い、患者のQOLと治療効果のバランスを考慮しながら、個別に対応を決定します。
Hokutoの適正使用ガイドには、副作用発現時の具体的な対応フローチャートが掲載されています。
ベムラフェニブ投与中の定期モニタリング項目
ベムラフェニブの安全性を確保するため、添付文書では定期的なモニタリングが推奨されています。投与開始前にはBRAF V600遺伝子変異検査が必須であり、コバスBRAF V600変異検出キットなどのコンパニオン診断薬を用いて確認します。
心電図検査は、投与開始前、投与開始後1ヶ月、その後は3ヶ月ごとを目安に実施します。QTc間隔が500msecを超える場合や、ベースラインから60msec以上延長した場合には休薬を検討し、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症)の補正を行います。
血液検査では、肝機能検査(AST、ALT、ALP、ビリルビン)を投与開始後1ヶ月は2週間ごと、その後は月1回実施します。肝機能障害が発現した場合には、Grade3以上ではGrade1以下に回復するまで休薬し、回復後に減量して再開します。
皮膚観察が基本です。
全身の皮膚を2~3ヶ月ごとに観察し、新たな皮膚病変(有棘細胞癌、ケラトアカントーマ、色素性病変など)の早期発見に努めます。また、患者自身にもセルフチェックを促し、異常があれば速やかに報告するよう指導します。
眼科検査も重要なモニタリング項目です。ぶどう膜炎や網膜静脈閉塞のリスクがあるため、視力低下、霧視、眼痛などの症状が出現した場合には速やかに眼科受診を勧めます。定期的な眼科検査の頻度については、患者の状態に応じて主治医が判断します。
これらのモニタリングは、副作用の早期発見と適切な対処により、治療継続率を高めることにつながります。1日あたりの薬剤費は約45,000円、月額では約135万円と高額ですが、高額療養費制度の利用により患者負担は軽減されます。
こばとも皮膚科のベムラフェニブ解説では、患者向けのモニタリング項目とセルフチェック方法がわかりやすくまとめられています。
ベムラフェニブと併用注意薬・患者背景での注意点
ベムラフェニブの添付文書には、多数の併用注意薬が記載されています。CYP3A4を強力に誘導する薬剤(リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピン、セイヨウオトギリソウ含有食品など)との併用により、ベムラフェニブの血中濃度が低下し、効果減弱の可能性があります。
逆にCYP3A4を強力に阻害する薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビルなど)との併用では、ベムラフェニブの血中濃度が上昇し、副作用増強のリスクがあります。やむを得ず併用する場合には、用量調整や慎重なモニタリングが必要です。
またベムラフェニブはCYP1A2、CYP2D6を阻害するため、これらの酵素で代謝される薬剤(テオフィリン、デキストロメトルファンなど)の血中濃度を上昇させる可能性があります。併用薬の選択や用量調整には細心の注意を払います。
痛いですね。
患者背景での注意点として、QT延長のリスクがある患者(先天性QT延長症候群、QT延長を起こす薬剤を併用している患者、電解質異常がある患者)には慎重投与が必要です。また肝機能障害を有する患者では、肝機能の悪化に注意しながら投与します。
妊娠中または妊娠の可能性のある女性には投与しないことが原則です。動物実験で胎児への移行と催奇形性が報告されており、投与中および投与中止後一定期間は適切な避妊を行うよう指導します。授乳中の患者にも投与を避けるか、投与する場合には授乳を中止します。
高齢者では一般に生理機能が低下しているため、副作用の発現に特に注意が必要です。ただし用量調整の必要性は示されておらず、通常用量から開始し、患者の状態を慎重に観察しながら投与を継続します。
日経メディカルのベムラフェニブ基本情報には、併用注意薬の一覧と相互作用メカニズムの詳細が記載されています。