ベジタリアンとヴィーガンの違い
ベジタリアンの定義と種類
ベジタリアンとは、肉や魚を食べない食生活を送る菜食主義者の総称です。ただし、ベジタリアンと一口に言っても、その種類は多岐にわたり、何を食べて何を食べないかによって細かく分類されています。国際ベジタリアン連合(IVU)が認める正式なベジタリアンから、部分的に菜食を取り入れるセミ・ベジタリアンまで、さまざまなスタイルが存在します。
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ベジタリアンの主な種類には、以下のようなタイプがあります。ラクト・ベジタリアンは乳製品は食べますが肉や魚、卵は食べません。オボ・ベジタリアンは卵は食べますが肉や魚、乳製品は避けます。ラクト・オボ・ベジタリアンは乳製品と卵の両方を食べるタイプで、肉や魚だけを排除します。このタイプは、タンパク質に関する懸念から選択されることが多いとされています。
セミ・ベジタリアンとしては、ペスカタリアン(ペスコ・ベジタリアン)があり、魚介類・乳製品・卵は食べる菜食主義者を指します。このスタイルは和食文化に根付き、日本で多くの支持を得ています。また、ポロタリアン(ポーヨー・ベジタリアン)は鶏肉のみ食べるタイプですが、豚・牛・羊などの赤身肉は食べません。ただし、セミ・ベジタリアンはIVUでは正式なベジタリアンとは認められていない点に注意が必要です。
参考)http://www.ethicalvegan.jp/vegetarianism/
ヴィーガンの定義と種類
ヴィーガンはベジタリアンのカテゴリに分類されるうちのひとつで、ピュア・ベジタリアンとも呼ばれます。肉や魚だけでなく、卵や乳製品、はちみつといった動物性食品を一切食べない完全菜食の食生活を送る人々を指します。ヴィーガンは単なる食事スタイルではなく、人間の衣食住に関わる目的のために動物に痛みを与えたり、搾取したりする行為をできるだけ避けようとするビーガニズムの思想を持つ方々です。
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ヴィーガンの中にも、細かな考え方の違いによっていくつかのタイプが存在します。一般的なヴィーガンは、動物性食品を一切食べず、動物製品(シルクやウール、革製品など)も身に着けません。フルータリアンは、動物性食品は一切食べず、植物性食品については食べても生命が絶えないフルーツと種子類のみを食べます。リンゴの実を食べても木は死なないが、人参は食べると生命が絶えてしまうので食べないという考え方です。
ロー・ヴィーガンは、動物性食品は一切食べず、「酵素が体に良い」との考えのもと、酵素を壊さないよう生のままか、46度以下で加熱した植物性食品のみを食べます。一方、ダイエタリー・ヴィーガンは動物性食品は一切食べませんが、食用以外の動物製品(シルクウールや皮製品など)は必ずしも避けようとしないタイプです。このように、ヴィーガンの中でも実践の厳格さや理念には幅があります。
ベジタリアンとヴィーガンの栄養面での違い
ベジタリアンとヴィーガンでは、摂取できる栄養素に違いがあります。ベジタリアンのうち、乳製品や卵を食べるラクト・オボ・ベジタリアンは、これらの食品からタンパク質、ビタミンB12、カルシウムなどを摂取できます。一方、ヴィーガンは動物性食品を一切摂取しないため、これらの栄養素が不足するリスクが大幅に高くなります。
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ヴィーガンにとって、タンパク質の次に不足が指摘される栄養素がビタミンB12です。ビタミンB12は血管、皮膚、粘膜、さらに骨髄や赤血球の生成、脳(中枢神経)や末梢神経の機能に重要な役割を果たします。ビタミンB12が不足すると、貧血や神経障害などの健康問題を引き起こす可能性があります。サプリメントを摂取して補っている人も少なくありませんが、そうであっても十分に補充されていない可能性が指摘されています。
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ヴィーガン食には健康上のメリットもあります。飽和脂肪酸やコレステロールが少なく、食物繊維や抗酸化物質が豊富なため、心筋梗塞や狭心症など虚血性心疾患の発症リスクを大きく下げる効果があります。また、BMI・血中コレステロールが低下し、代謝改善や生活習慣病予防に効果的とされています。ただし、きちんと計画を立てて、バランスの取れた食事を取っているベジタリアンやヴィーガンでなければ、栄養不足のリスクは避けられません。
ベジタリアンとヴィーガンを選ぶ動機の違い
ベジタリアンやヴィーガンになる理由は人それぞれですが、大きく「宗教」「健康」「環境」「動物愛護」の4つが主な転向理由です。世代によっても動機に違いがあり、若い世代は道徳的理由や環境的理由に賛同する傾向が強く、41~60歳の世代は健康上の理由に賛同する傾向が強いという研究結果があります。
参考)https://www.mdpi.com/2072-6643/2/5/523/pdf
健康上の理由でベジタリアンやヴィーガンになる人も増えています。野菜類は消化が早く内臓にかかる負担が少なく、カロリーが抑えられることや、ビタミン、ミネラルを豊富に摂れることがメリットです。また、ベジタリアンはがんの発生率が低いという研究結果も報告されています。病気を患って肉類やカロリーの制限が必要になったことをきっかけに、ベジタリアンになる人もいます。
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環境保護や動物愛護の観点から、ベジタリアンやヴィーガンを選択する人も多くいます。食用肉を作るのに多くの水を必要とし、家畜の排泄物は水質汚染などにつながるケースもあります。また、牛のゲップに含まれるメタンガスが地球温暖化の原因のひとつになっており、家畜の餌を栽培するために森林が伐採されて農地に変えられている現状もあります。ヴィーガンと比較すると、環境を動機とするベジタリアンにとって食生活は、より利他的・道徳的で、個人的でない目標を達成するための手段と捉えられています。
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ベジタリアンとヴィーガンの健康リスクと対策
ベジタリアンやヴィーガンの食事には健康上のメリットがある一方、特定の栄養素が不足しやすい点に注意が必要です。ベジタリアンの食事は、タンパク質、亜鉛、ビタミンB群、カルシウムなどが不足しがちで、筋力や免疫力の低下を引き起こす可能性があります。特にヴィーガンの場合、こうした栄養素が不足するリスクは大幅に高くなります。
ヴィーガンが不足しやすい栄養素には、ビタミンB12、タンパク質、鉄分、カルシウム、亜鉛、オメガ3脂肪酸などがあります。ビタミンDを摂取するためには、キノコやキクラゲを食べるのが効果的です。たとえばキノコ類でもビタミンDを多く含んでいるとされるアラゲキクラゲは、100gあたり豊富なビタミンDを含んでいます。タンパク質については、豆類やナッツ、種子類を積極的に摂取することで補うことができます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9149309/
適切に計画されたベジタリアンやヴィーガンの食事は健康的で、栄養的に適切であり、非感染性疾患の予防と治療において健康上の利点を提供する可能性があると、米国栄養学会は述べています。しかし、研究では全てのグループで重要な栄養素の不足が確認されており、適切な栄養摂取を確保するために個別の栄養コンセプトを開発する必要性が強調されています。定期的な血液検査や栄養状態のチェック、必要に応じたサプリメントの活用が推奨されます。
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日本におけるベジタリアンとヴィーガンの現状
日本国内でのベジタリアンとヴィーガンの人口は、近年増加傾向にあります。2023年の調査によると、日本全国在住の20~69歳の男女2,755人を対象とした調査で、ヴィーガンは1.4%、フレキシタリアンとベジタリアンを含めると、ヴィーガン・ベジタリアン消費者は5.4%となりました。別の調査では、2023年1月時点で日本のベジタリアン率は5.9%と報告されており、ベジタリアン4.5%とヴィーガン2.4%の合計から重複回答を差し引いた数値となっています。
参考)【23年1月】日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリア…
日本では、ペスカタリアンのスタイルが和食文化に根付いており、多くの支持を得ています。魚介類を食べ続けながら、鶏肉、豚肉、牛肉など他の陸生動物性タンパク質を食事から排除する菜食主義は、昔の日本人の食生活に近いスタイルとも言えます。このため、日本人にとってペスカタリアンは取り入れやすいベジタリアンのスタイルの一つとなっています。
参考)ベジタリアンとは?6つの種類・ヴィーガンとの違いも解説
世界的に見ると、インドは最も高い割合でベジタリアンとヴィーガンの人口を擁しています。インドでのベジタリアンの実践は、道徳的理由や健康上の理由、環境問題への懸念と関連しています。日本でも、健康志向や環境問題への意識の高まりとともに、ベジタリアンやヴィーガンの選択肢を検討する人が増えてきています。個々の動機や好みあるいは生活環境によって自分のスタイルを選ぶことができ、几帳面すぎることなく、自分や家族に適した持続可能なスタイルで栄養バランスのとれた食事を心がけることが大切です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11314235/