バクロフェン作用機序とGABAB受容体抗痙縮効果解説

バクロフェン作用機序とGABAB受容体

経口バクロフェンは血液脳関門を通過しにくく、髄注の100分の1以下の脊髄濃度しか得られません。

📋 この記事で分かる3つのポイント
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GABAB受容体選択性

バクロフェンはGABAB受容体に選択的に結合し、GABAA受容体には作用しない特異的な作用機序を持つ

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脊髄反射抑制メカニズム

単シナプス反射と多シナプス反射の両方を抑制し、特に単シナプス反射への作用が強力である

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投与経路による効果の差

髄注療法では経口投与の数百分の一の用量で効果を発揮し、全身性副作用を大幅に軽減できる

バクロフェンとGABAB受容体の結合メカニズム

 

バクロフェンはγ-アミノ酪酸(GABA)の誘導体として開発された中枢性筋弛緩剤で、その化学構造はGABAに類似していますが、作用する受容体が明確に異なります。GABAには主にGABAA受容体とGABAB受容体という2つの受容体サブタイプが存在し、バクロフェンはGABAB受容体に選択的に結合します。

GABAA受容体がイオンチャネル型受容体として速い抑制性シナプス後電位を引き起こすのに対し、GABAB受容体はGタンパク質共役型受容体として遅い抑制性シナプス後電位を発生させます。

つまり作用の時間経過が異なるということですね。

バクロフェンがGABAB受容体に結合すると、受容体はGタンパク質を活性化し、細胞内のセカンドメッセンジャーシステムを介して神経伝達物質の放出を抑制します。この過程では、電位依存性カルシウムチャネルの抑制とカリウムチャネルの活性化が起こり、神経細胞の興奮性が低下します。

GABAB受容体はGABAB1とGABAB2という2つのサブユニットから構成される二量体化受容体です。GABAB1サブユニットがリガンド結合部位を持ち、GABAB2サブユニットがGタンパク質との相互作用を担当しています。バクロフェンはこの受容体複合体に結合することで、痙縮を引き起こす過剰な神経活動を抑制するわけです。

Sigma-AldrichのGABAB受容体に関する技術資料では、受容体の構造と機能について詳しい解説が掲載されています

バクロフェンの脊髄反射抑制作用の詳細

バクロフェンの主要な作用部位は脊髄であり、特に脊髄後角に多く分布するGABAB受容体に作用します。脊髄後角は感覚神経の入力を受ける部位であり、ここでバクロフェンが作用することで、痙縮の原因となる過剰な反射経路が抑制されます。

単シナプス反射は、感覚神経が脊髄で運動神経に直接接続して起こる最も単純な反射経路で、膝蓋腱反射(膝をたたくと足が跳ね上がる反射)が代表例です。多シナプス反射は、脊髄内で複数の介在ニューロンを経由して起こるより複雑な反射経路を指します。バクロフェンはこの両方の反射経路を抑制しますが、特に単シナプス反射への抑制作用が強力であることが動物実験で確認されています。

具体的な作用機序として、バクロフェンは以下の3つのメカニズムを介して抗痙縮効果を発揮します。まずγ-運動ニューロンの活性を持続的に抑制します。γ-運動ニューロンは筋紡錘の感度を調整する役割を持ち、これが過剰に活動すると筋肉が過度に緊張します。次に、抑制性介在ニューロンであるレンショウ細胞を活性化します。レンショウ細胞は運動ニューロンの活動を抑制するフィードバック機構として機能します。さらに、脊髄の単シナプス反射と多シナプス反射の電位を直接抑制します。

重要な点として、バクロフェンは筋紡錘や神経筋接合部には直接作用しません。作用は中枢神経系に限定されているということですね。これにより、末梢での筋収縮機能そのものは保たれつつ、過剰な反射活動だけを選択的に抑制できるわけです。

日本神経精神薬理学会誌の論文では、ITB療法における作用機序と臨床効果について詳細なレビューが掲載されています

バクロフェン経口投与の薬物動態と限界

バクロフェンを経口投与した場合、消化管からの吸収は良好ですが、血液脳関門を通過しにくいという大きな制約があります。血液脳関門は脳や脊髄を保護するための防御機構で、不必要な化学物質が中枢神経系に侵入するのを防いでいますが、これがバクロフェンの脊髄への到達を妨げてしまいます。

健康成人にバクロフェン5mgまたは10mgを経口投与した場合、投与後3時間で最高血中濃度に達します。5mg投与では82.8ng/mL、10mg投与では121.8ng/mLの血中濃度が得られますが、この血中濃度に対して脊髄の脳脊髄液中濃度は著しく低くなります。つまり血液中にはたくさん存在しても、肝心の作用部位である脊髄には十分届かないということですね。

経口バクロフェンの標準用量は1日30mgですが、これでも重度の痙縮には効果が不十分なことが多く見られます。用量を増やせば脊髄濃度も上がりますが、同時に全身性の副作用も増加します。主な副作用として眠気が9.8%、脱力感が5%以上、悪心が5%以上の患者に出現することが臨床試験で報告されています。

バクロフェンの生物学的半減期は5mg投与で4.5時間、10mg投与で3.6時間と比較的短く、1日2〜3回の分割投与が必要です。尿中排泄率は投与後24時間で約80%と高く、大部分が未変化体として腎臓から排泄されます。このため腎機能障害患者では血中濃度が上昇しやすく、意識障害や呼吸抑制などの重篤な副作用のリスクが高まります。腎機能低下がある場合は低用量から慎重に開始する必要があります。

経口投与では高用量を使用しても効果が限定的で、かつ副作用が多いという問題から、より効率的な投与方法として髄注療法が開発されました。

バクロフェン髄注療法の薬理学的優位性

バクロフェン髄注療法(ITB療法)は、薬剤を脊髄のクモ膜下腔に直接投与することで、経口投与の問題点を解決した画期的な治療法です。クモ膜下腔は脳脊髄液で満たされた空間で、脊髄を直接取り囲んでいます。ここにバクロフェンを投与すれば、血液脳関門を迂回して直接作用部位に到達できるわけです。

髄注療法では経口投与の数百分の一という微量で同等以上の効果が得られます。例えば経口で1日30mgが必要だった患者が、髄注では1日100〜300μg(0.1〜0.3mg)で十分な効果を得られることが多く見られます。

つまり使用量は100分の1以下ということですね。

この圧倒的な効率の良さには明確な理由があります。髄注では脊髄後角のGABAB受容体に直接バクロフェンが到達するため、受容体占有率が大幅に高まります。一方で血漿中バクロフェン濃度は経口投与時の100分の1以下のレベルにとどまるため、全身性の副作用は劇的に減少します。眠気や倦怠感といった中枢性副作用が大幅に軽減されるのはこのためです。

ITB療法では、腹部に植え込んだポンプから脊髄クモ膜下腔に留置したカテーテルを通じて、バクロフェンを24時間持続的に投与します。ポンプはプログラマブルで、患者の症状に合わせて投与速度や投与量を細かく調整できます。1日の投与パターンも設定可能で、例えば夜間の痙縮が強い患者では夜間の投与量を増やすといった個別化治療が可能です。

髄注療法を開始する前には必ずスクリーニングテストを行います。これは腰椎穿刺によってバクロフェンを単回投与し、効果を確認するテストで、通常25〜100μgを投与して数時間観察します。このテストで明確な効果が確認された患者のみが、ポンプ植込み手術の適応となります。無効な患者に手術を行うリスクを避けられるということですね。

亀田メディカルセンターの解説ページでは、ITB療法の実際の治療プロセスと作用機序について患者向けに分かりやすく説明されています

バクロフェン離脱症状と投与中断の危険性

バクロフェン治療、特に髄注療法において最も警戒すべき合併症が離脱症候群です。バクロフェンの投与が突然中止または中断されると、生命を脅かす重篤な離脱症状が出現する可能性があります。この離脱症状は経口投与でも起こりますが、髄注療法ではより急激で重篤な症状が現れることが報告されています。

離脱症状の初期症状として、痙縮の急激な増悪、筋硬直、高熱、発汗、不安感などが出現します。つまりもともとの症状が急に悪化したような状態になるということですね。これらの症状を見逃すと、進行して精神状態の変化(幻覚、錯乱、興奮状態など)、痙攣発作、血圧や心拍数の変動、意識障害へと進展します。

最も重篤なケースでは、横紋筋融解症、多臓器不全、さらには死亡に至ることもあります。実際に2025年8月には、長期間バクロフェンポンプを使用していた患者がポンプ除去後に心停止を起こした症例が報告されています。離脱症状による心停止は稀ではあるものの、発生する可能性があることが指摘されました。

離脱症状が起こる原因としては、長期投与によってGABAB受容体系が下方制御(ダウンレギュレーション)され、バクロフェンがない状態では神経系の抑制機能が著しく低下するためと考えられています。急にバクロフェンが減ると、抑制が効かなくなった神経系が過剰に興奮してしまうわけです。

離脱症状の対処として最も重要なのは、バクロフェン投与の速やかな再開です。ITB療法中の患者では、カテーテルの閉塞、ポンプの故障、薬液の枯渇などが原因で突然投与が中断されることがあります。このような場合、直ちに医療機関を受診し、髄注投与を再開するか、緊急措置として経口バクロフェンまたはベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパムなど)の投与が推奨されます。予防のためには定期的な外来受診でポンプ内の薬液を補充し、システムの動作を確認することが不可欠です。

経口投与を中止する際も、急な中止は避け、徐々に減量することが重要です。減量ペースは患者の状態によりますが、通常は数週間から数ヶ月かけて慎重に行います。

日本救急医学会の緊急情報では、ITB療法患者の離脱症状に関する詳細な対応ガイダンスが提供されています

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