バイオアベイラビリティとFa・Fg・Fhの関係性

バイオアベイラビリティとFa・Fg・Fhの構成要素

バイオアベイラビリティの構成要素
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吸収率(Fa)

消化管管腔から上皮細胞への薬物移行効率

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消化管代謝回避率(Fg)

小腸上皮細胞での代謝を免れる薬物の割合

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肝代謝回避率(Fh)

肝臓での初回通過代謝を免れる薬物の割合

バイオアベイラビリティの基本概念と計算式

バイオアベイラビリティ(F)は、投与された薬物のうち未変化のまま全身循環血に到達する割合を示す重要な薬物動態パラメータです。経口投与された薬物の場合、全身循環血に到達するまでに複数の過程を経るため、その生体利用率は以下の式で表されます:

参考)HOME

F = Fa × Fg × Fh

この式において、Faは消化管管腔内からの吸収率、Fgは消化管上皮細胞で代謝を免れた割合、Fhは肝臓で初回通過効果を免れた割合を示します。静脈内投与では薬物が直接全身循環血に入るためF=1となりますが、経口投与では初回通過効果の影響により通常1未満の値となります。

参考)第107回薬剤師国家試験 問169(理論問題) バイオアベイ…

バイオアベイラビリティ測定における消化管吸収率Faの評価

消化管吸収率(Fa)は、投与部位から消化管上皮細胞への薬物移行効率を表す指標です。実際の臨床研究では、薬物Aの消化管上皮細胞への移行率が90%の場合、残り10%は消化管内で吸収されずに排泄されることを意味します。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpstj/64/6/64_342/_pdf/-char/ja

Faの測定は、門脈カニューレ法安定同位体標識化合物を用いた手法により行われます。同一個体において経口投与後の血漿中濃度とそのときにおける消失過程を分離評価する手法として、経口投与後に安定同位体で標識した同薬物を微量静脈内投与する手法が開発されており、個体間差が大きい場合や薬物相互作用惹起時での体内動態の定量的解析が可能です。

参考):: TCP :: Translational and Cl…

薬物の物理化学的性質、特に溶解性や膜透過性がFaに大きく影響します。Caco-2細胞系を用いた膜透過実験により、管腔側から血管側への薬物透過率を評価し、Faの予測が行われています。

バイオアベイラビリティに影響する消化管初回通過代謝Fg

消化管初回通過代謝率を免れる割合(Fg)は、小腸上皮細胞内で生じる薬物代謝の程度を反映します。小腸にはCYP3A4をはじめとする多くの代謝酵素が存在し、特にP-糖蛋白質(P-gp)による排出と相まって、薬物の生体利用率に大きな影響を与えます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt/44/3/44_268/_pdf/-char/ja

実際の計算例では、バイオアベイラビリティF=0.3、吸収率Fa=0.9、肝代謝回避率Fh=0.55の場合、F=Fa×Fg×Fhの式より、Fg≒0.6(60%)と算出されます。これは消化管上皮細胞で40%の薬物が代謝により消失することを示しています。
腸管初回通過効果の評価方法として、WS model(Wacher-Salphati model)やBenet らのモデルが用いられます。これらのモデルでは、吸収速度定数と代謝速度定数の比率により初回通過効果を定量化します。

参考)https://www.msd-life-science-foundation.or.jp/banyu_oldsite/symp/about/symposium_2003/seizai/img/mizuma.pdf

バイオアベイラビリティにおける肝初回通過効果Fhの計算

肝初回通過効果を免れる割合(Fh)は、肝抽出率(Eh)との関係で以下のように表されます:

Fh = 1 – Eh

肝抽出率が45%の場合、Fh = 1 – 0.45 = 0.55となり、55%の薬物が肝代謝を免れて全身循環に到達します。肝血流量(Qh)、肝内クリアランス、血液/血漿濃度比(Rb)などのパラメータから算出されます。

参考)https://www.apstj.jp/wp/wp-content/uploads/2018/12/67-6_404-406.pdf

安定同位体標識化合物を用いる新しい評価法では、経口投与後に同一個体で微量の標識薬物を静脈内投与することで、従来法では困難であった薬物相互作用時の変動要因を定量的に解析できます。これにより、CYP3A4やP-gpが関与する薬物相互作用の機序解明が進展しています。

参考)DMPK 31(6)に掲載された各論文の「著者から読者へのメ…

バイオアベイラビリティ向上のための製剤設計戦略

低いバイオアベイラビリティを示す薬物に対しては、様々な製剤技術による改善策が開発されています。微粒子化・ナノミリング技術では、Noyes-Whitneyの式に基づき、粒子径の縮小により表面積を増大させ、溶解速度を向上させます。

参考)バイオアベイラビリティの向上および安定性の改善のための製剤技…

固体分散体(Solid Dispersion)技術では、薬剤をポリマーキャリアに均一分散させ、結晶性から無定形状態に変換することで溶解度を大幅に改善します。スプレードライ法やホットメルトエクストルージョン(HME)法により製造され、特に難水溶性薬物の吸収性向上に有効です。
現代の製剤開発では、QbD(Quality by Design)アプローチが重視され、統計学的手法(DoE; Design of Experiment)を用いてパラメータ間の関係性を解析し、最適な製剤設計を構築します。また、プロセスアナリティカルテクノロジー(PAT)を活用したリアルタイム品質管理により、製造工程中の品質モニタリングが可能となっています。