バビースモの効果
バビースモ(一般名:ファリシマブ)は、加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫の治療に用いられる抗体医薬品です。この薬剤は眼科領域において承認された初のバイスペシフィック抗体として注目されており、アンジオポエチン-2(Ang-2)と血管内皮増殖因子-A(VEGF-A)という2つの物質を同時に中和する画期的な作用機序を持っています。
参考)https://mieruwoitsumademo.jp/patients/treat/about.html
従来の抗VEGF薬との大きな違いは、VEGF-AだけでなくAng-2も阻害することで、血管の不安定化を多角的に抑制できる点にあります。Ang-2は血管をもろくする働きを持ち、VEGF-Aは炎症を起こす働き、新生血管をつくる働き、血液成分の漏出を促進する働きを持つため、両方を抑えることでより効果的な治療が期待されます。
参考)「バビースモ 硝子体注射薬」 中外製薬様による製品特徴等など…
臨床試験では、新生血管を伴う加齢黄斑変性に対して、従来の抗VEGF薬と比較して非劣性を示しながら、より少ない治療頻度で視力の改善を確認できることが報告されています。
参考)2022年07月20日|バビースモ、新たな2年データにより、…
バビースモの加齢黄斑変性への効果
加齢黄斑変性では、加齢に伴って眼の中に老廃物が溜まり組織がダメージを受けることで、Ang-2やVEGFという物質が増加します。これらの物質により、もろくなった血管や新生血管から血液や血液成分が漏れ出て、黄斑が障害され視力低下を引き起こします。
バビースモは硝子体内注射によって眼の中に投与され、Ang-2とVEGFの両方をつかまえてその働きを抑制します。治療の開始時は4週ごとに1回、通常連続4回注射し、その後の維持期では通常16週ごとに1回注射を続けます。
参考)https://mieruwoitsumademo.jp/patients/static/pdf/patient_karei.pdf
第III相臨床試験であるTENAYA試験およびLUCERNE試験では、バビースモによる治療がアフリベルセプトによる治療と比較して非劣性を示し、新生血管を伴う加齢黄斑変性に対して視力の改善効果が確認されました。特に注目すべき点として、約3分の2の患者で16週間隔での投与が可能となり、患者の通院負担が軽減されることが示されています。
参考)バビースモによる治療法 治療スケジュール|中外製薬 加齢黄斑…
バビースモの効果として、網膜のむくみを抑えることや新生血管を退縮させることで視力の改善が期待できます。ただし、抗体医薬品であるため治療効果は時間とともに減弱していくことから、治療効果を最大限に活かすためには適切な期間で投与を繰り返す必要があります。
参考)https://mieruwoitsumademo.jp/patients/static/pdf/qa_moumaku.pdf
バビースモの糖尿病黄斑浮腫への効果
糖尿病黄斑浮腫(DME)は、世界全体で約2,900万人が罹患しているとされ、治療せずに放置すると失明や生活の質の低下につながります。この疾患は損傷した血管からの漏出とそれに伴う浮腫が黄斑部に生じることで、読書や車の運転に必要な明瞭な視力が失われていきます。
参考)2024年07月24日|バビースモ、糖尿病黄斑浮腫(DME)…
バビースモは糖尿病黄斑浮腫に対しても有効性が確認されており、アンジオポエチン-2(Ang-2)と血管内皮増殖因子-A(VEGF-A)を中和することで、視力を脅かす2つの経路を標的として阻害します。Ang-2とVEGF-Aは血管構造の不安定化により、漏出を引き起こす血管を新たに形成し、炎症を起こすことで視力低下を引き起こすとされています。
参考)2025年05月19日|バビースモ、視力障害の原因となる網膜…
第III相臨床試験であるYOSEMITE試験およびRHINE試験では、糖尿病黄斑浮腫の患者に対するバビースモの有効性が実証されました。治療開始時は4週ごとに1回、通常連続4回注射し、その後は投与間隔を徐々に延長して通常16週ごとに1回の注射が可能となります。
長期試験のデータでは、バビースモによる治療が継続的な視力改善効果を示すとともに、より少ない投与頻度での治療が可能であることが確認されています。定期的に経過観察を行い、症状によって注射の間隔が調節されますが、疾患活動性を示唆する所見が認められた場合は投与間隔を4週、8週、または12週に短縮することが考慮されます。
中外製薬の公式発表では、糖尿病黄斑浮腫に対するバビースモの長期試験データと承認情報が詳しく紹介されています。
バビースモの網膜静脈閉塞症への効果
網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫は、網膜の静脈が閉塞することで血液の流れが滞り、黄斑部にむくみが生じる疾患です。この疾患においても、Ang-2とVEGFという原因物質が関与しており、バビースモはこれらの物質をつかまえてその働きを抑制します。
第III相グローバル臨床試験であるBALATON試験およびCOMINO試験では、24週時点において網膜静脈分枝閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、半側網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫に対するバビースモの良好なデータが発表されました。これらの試験において、バビースモによる治療はアフリベルセプトによる治療と比較して非劣性を示し、主要評価項目を達成しています。
参考)https://b2b-ch.infomart.co.jp/news/detail.page?IMNEWS1=3819752
副次評価項目としてバビースモ群の中心領域網膜厚(CST)を測定したところ、ベースラインから速やかな減少が示されました。これは網膜のむくみが効果的に抑えられていることを意味し、視力改善につながる重要な所見です。
治療スケジュールとしては、4週ごとに1回投与で開始した後、治療反応性に応じて投与間隔を徐々に延長することが考慮されます。その後は定期的に疾患活動性を評価し、疾患活動性を示唆する所見が認められた場合は投与間隔を短縮することが推奨されます。
バビースモの効果として、お薬の効果として網膜のむくみを抑えることや新生血管を退縮させることで視力の改善が期待されます。抗体医薬品であるため、治療効果を最大限に活かすためには適切な期間で投与を繰り返す必要があります。
バビースモの二重阻害メカニズム
バビースモの最大の特徴は、VEGF-AとAng-2という2つの異なる標的分子を同時に阻害できる点にあります。従来の抗VEGF薬(ルセンティスやアイリーアなど)はVEGF-Aのみを阻害するのに対し、バビースモは眼科領域初のバイスペシフィック抗体としてAng-2も同時に阻害します。
参考)バビースモ「バイスペシフィック抗体」薬価、特徴、分子量
アンジオポエチン-2(Ang-2)は血管内皮細胞から産生される物質で、血管の不安定化をもたらす重要な因子です。健常な状態ではアンジオポエチン-1(Ang-1)がTie-2受容体と優位に結合して血管を安定化させていますが、病的な状態ではAng-2が優位となり、血管新生や血管透過性亢進を促進してしまいます。
VEGF-Aは新生血管形成を促進する因子であり、異常な新生血管の形成、浮腫と炎症を引き起こします。脆弱で漏出性の高い新生血管が発生し、新生血管からの漏出や炎症が黄斑部の機能を損なって視力低下をもたらします。
バビースモはヒト化バイスペシフィックIgG1抗体として設計されており、VEGF-AとAng-2の両方を同時に阻害することで、炎症の抑制、血管透過性の低下、異常な新生血管の抑制という3つの主要な病態を同時に改善します。この二重作用により、VEGF阻害作用が効かない時にも効果発現の可能性があり、血管安定化によって再発しにくい環境を作ることができるとされています。
参考)バビースモ(ファリシマブ)の作用機序:類薬との違い・比較【加…
中外製薬の患者向けサイトでは、Ang-2の働きとバビースモの作用メカニズムがわかりやすく解説されています。
バビースモの副作用と安全性
バビースモの投与によって、眼の炎症や感染症、脳卒中などの副作用が報告されています。治療後に特に注意すべき眼局所の副作用として、眼内炎症、眼内炎(重度の眼内感染症)、網膜裂孔、裂孔原性網膜剥離などが挙げられます。
参考)バビースモ治療の副作用|中外製薬 加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮…
眼の炎症や感染症の兆候となる症状として、眼の強い痛みや充血が継続・悪化する、眼がかすむ、眼の不快感が悪化する、視力が極端に低下する、黒い影や濁りが見えるといった症状があらわれた場合は、すぐに医療機関に連絡する必要があります。
全身性の副作用としては、動脈血栓塞栓事象(脳卒中、心筋梗塞など)が発現する可能性があります。血管内でできた血栓が動脈をふさいでしまい、体に血液が行き届かなくなって障害をきたす事象です。頭痛、嘔吐、めまい、意識低下・消失、急にしゃべりにくくなる、胸の痛み・締めつけられる感じといった症状が突然あらわれた場合は、すぐに医療機関に連絡してください。
参考)https://www.e-pharma.jp/druginfo/info/1319408G1023
その他の副作用として、眼圧上昇(5%未満)、硝子体浮遊物、高眼圧症、角膜擦過傷、眼痛、眼部不快感、結膜出血、白内障、硝子体剥離、眼充血、霧視、視力低下などが報告されています。また、薬剤誘発性抗ファリシマブ抗体陽性が確認されることもあります。
臨床試験における安全性プロファイルは過去の試験と同様であることが確認されており、適切な管理下で使用することで安全に治療を継続できる薬剤とされています。記載されていない症状があらわれる可能性もあるため、気になる症状があれば医師、看護師、薬剤師に相談することが推奨されます。
バビースモと他の抗VEGF薬の比較における独自の利点
バビースモは従来の抗VEGF薬と比較して、投与間隔の延長が可能な点で大きな利点があります。加齢黄斑変性の治療では、ナイーブ症例(治療未経験の症例)において約3分の2の患者で16週間隔での投与が可能となることが示されています。
現在日本で使用されている主な抗VEGF薬には、ルセンティス(ラニビズマブ)、アイリーア(アフリベルセプト)、ベオビュ(ブロルシズマブ)がありますが、それぞれ分子量や作用機序が異なります。バビースモの分子量は約149,000であり、ルセンティス(約48,000)やベオビュ(約26,000)と比較すると大きいものの、Ang-2とVEGF-Aの両方を捕捉できる二重特異性抗体としての機能を持っています。
臨床試験データでは、バビースモはアイリーアに対して非劣性が認められており、効果としては同程度と考えられています。しかし、バビースモ独自の特徴として、Ang-2阻害作用による血管安定化効果があり、これによって再発しにくい環境を作ることができる点が挙げられます。
VEGF阻害作用が効かない症例においても、Ang-2阻害作用によって効果発現の可能性があるという点も重要です。従来の抗VEGF薬で十分な効果が得られなかった患者にとって、新たな治療選択肢となる可能性があります。
投与スケジュールの柔軟性も大きな特徴で、治療反応性に応じて投与間隔を調整できるため、個々の患者の状態に合わせた最適な治療が可能となります。これにより患者の通院負担が軽減され、生活の質の向上にもつながると期待されています。