アズトレオナムとアレルギー
アズトレオナムの基本特性とアレルギー機序
アズトレオナムは1978年にスクイブ医学研究所のSkyesらによって土壌細菌から発見された世界初のモノバクタム系抗生物質です 。この薬剤の最も重要な特徴は、β-ラクタム環が単独で存在する単環構造(モノサイクリック構造)を有することです 。他のβ-ラクタム系抗生物質がラクタム環に別の環が結合しているのに対し、アズトレオナムは独特な構造的特徴を持ちます 。
参考)モノバクタム – Wikipedia
この構造的な違いが、アレルギー反応における交差反応性の低さに直結しています。β-ラクタム系抗菌薬のアレルギーは、β-ラクタム環自体によるアレルギーと側鎖によるアレルギーの2種類が存在し、側鎖によるアレルギーの寄与が大きいとされています 。アズトレオナムの場合、他のβ-ラクタム系薬剤との構造的類似性が極めて少ないため、免疫学的な交差反応を起こしにくいという利点があります 。
作用機序については、感受性細菌のペニシリン結合蛋白(PBP)のうち、特にPBP3に高い結合親和性を有し、細胞壁合成阻害により強い殺菌作用を示します 。この時間依存性の作用により、グラム陰性菌に対して強力な抗菌効果を発揮します 。
参考)https://faq-medical.eisai.jp/faq/show/17989?category_id=2amp;site_domain=faq
アズトレオナムとペニシリン系薬剤との交差反応
ペニシリン系抗菌薬とモノバクタム系のアズトレオナムの間には、免疫学的な交差反応がないことが実証されており、ペニシリンアレルギーの患者にも安全に投与できることが確認されています 。この安全性は、構造的な違いに基づく科学的根拠に裏付けられています。
参考)https://ameblo.jp/kachyomasa/entry-12699622037.html
ペニシリン系抗菌薬アレルギーの交差性は6位側鎖構造の依存度が高く、6位に類似構造をもつペニシリン系抗菌薬は高い交差性を示します 。しかし、アズトレオナムはこのような類似構造を持たないため、ペニシリン系との交差反応率は0.001%未満と極めて低い値が報告されています 。
臨床的には、ペニシリンアレルギーのある患者において、グラム陰性菌をカバーする必要がある場合の第一選択薬として位置づけられています 。特に、β-ラクタム系薬剤に対する重篤なアレルギーがあり、それにもかかわらずβ-ラクタム系薬剤による治療を必要とする重症好気性グラム陰性桿菌感染症(髄膜炎など)の患者に使用されます 。
実際の使用において、薬剤添付文書ではペニシリンアレルギーに慎重投与となっていますが、基本的にはセフタジジムのみ交叉反応があることが知られています 。この点は次の項目で詳しく説明します。
アズトレオナムとセフタジジムの特殊な交差反応
アズトレオナムの安全性において最も注意すべき点は、第三世代セファロスポリンのセフタジジムとの間に存在する交差反応です。この2つの薬剤は共通のR側鎖を持っているため、両者の間には交差反応があることが報告されています 。
具体的には、アズトレオナムとセフタジジムは同一のR-1側鎖構造を有しており、これが交差過敏反応の原因となります 。セフィデロコルも同様の側鎖を持つため、同じく注意が必要です 。しかし、これら以外の他のβ-ラクタム系薬剤との交差過敏反応を起こす可能性は極めて低いとされています 。
この交差反応のメカニズムは、側鎖によるアレルギー反応に基づいています。β-ラクタム系抗菌薬のアレルギーでは、β-ラクタム環自体よりも側鎖構造が重要な役割を果たしており、同一または類似の側鎖を持つ薬剤間で交差反応が生じやすくなります 。
臨床での対応としては、セフタジジムまたはセフィデロコルに重度のアレルギーのある人では、アズトレオナムの使用が避けられることがあります 。一方で、その他のペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系など他のβ-ラクタム系抗菌薬に対するアレルギーがある人には、一般的に使用可能とされています 。
アズトレオナムの臨床適応と耐性菌対策
アズトレオナムの臨床適応は主に好気性グラム陰性菌感染症に限定されます。承認済有効菌種には、淋菌、髄膜炎菌、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、インフルエンザ菌、緑膿菌が含まれます 。
参考)アズトレオナム (Aztreonam):抗菌薬インターネット…
グラム陽性菌および嫌気性菌には全く効果を示さないため、「Mr. GNR(グラム陰性桿菌)」とも称される特殊な抗菌スペクトラムを持ちます 。このため、グラム陽性菌や嫌気性菌のカバーが必要な場合は、他の抗菌薬との併用が必要となります 。
耐性菌対策の観点では、アズトレオナムはβ-ラクタマーゼに安定であり、産生誘導能も小さいという利点があります 。特に、メタロ-β-ラクタマーゼの作用を受けにくいため、細菌がこの酵素を有するために他のβラクタム系抗菌薬が効かない感染症に有用となる可能性があります 。
投与量については、腎機能に問題がなければ1-2g q8hrが標準投与量とされており 、時間依存性の抗菌薬として血中濃度がMICを上回る時間を十分に確保することが重要です 。アミノグリコシド系と似た抗菌スペクトルを持つため、腎機能低下患者に対する代用薬として用いられることもあります 。
アズトレオナムアレルギーの実際の副作用と管理
アズトレオナムの副作用プロファイルは、他のβ-ラクタム系抗菌薬と比較して特徴的な点があります。注射による投与での一般的な副作用には、注射部位の不快感や腫れ、下痢、吐き気、嘔吐、発疹などが挙げられます 。吸入投与の場合は、喘鳴、咳、嘔吐などが報告されています 。
参考)アズトレオナム – Wikipedia
重篤な副作用として最も注意すべきはショック症状です。不快感、口内異常感、喘鳴、眩暈、便意、耳鳴、発汗等があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行う必要があります 。また、急性腎障害、偽膜性大腸炎等の血便を伴う重篤な大腸炎、中毒性表皮壊死融解症、溶血性貧血なども重大な副作用として報告されています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00003050.pdf
過敏症反応については、発疹、発熱、蕁麻疹、瘙痒感、発赤などが0.1~5%未満の頻度で発現することが知られています 。重度の副作用にはクロストリジウム・ディフィシル感染症やアナフィラキシーなどのアレルギー反応も含まれます 。
臨床管理においては、他のβ-ラクタムに対してアレルギーがある人でも、アズトレオナムに対してのアレルギー反応率は低いという安全性データが重要な判断材料となります 。ただし、セフタジジムとの交差反応については常に念頭に置く必要があり、これらの薬剤に対する既往歴の確認は欠かせません。
妊娠中の人への投与は安全とみられており 、特別な制限はありませんが、授乳期の使用については慎重な検討が求められます。長期投与時には、菌交代症として口内炎やカンジダ症、ビタミンK欠乏症状やビタミンB群欠乏症などの栄養障害にも注意が必要です 。