アウトブレイク file2対応ガイド

アウトブレイク file2対応プロトコル

アウトブレイク対応の基本体制
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早期探知システム

平時からのサーベイランス体制により異常事態を迅速に検出

緊急対応チーム

施設管理者、感染対策担当者、関係部局の連携による迅速な初動

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外部連携支援

保健所、地方衛生研究所、感染管理専門家との協力体制

アウトブレイク file2定義と判断基準

アウトブレイクとは、特定の期間、場所、集団において通常の症例数を大きく超える数の症例が発生する異常事態を指します 。医療機関では薬剤耐性菌による院内集団発生が特に重要な課題となっており、適切な判断基準の設定が必要です 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001152081.pdf

アウトブレイク発生の判断は、時・場所・人の3つの観点から症例数のトレンドを評価することで行われます 。具体的には、1例目の発見から4週間以内に同一病棟において新規に同一菌種による感染症の発病症例が計3例以上特定された場合、または同一医療機関内で同一菌株と思われる感染症の発病症例が計3例以上特定された場合を基本とします 。

参考)https://amr.jihs.go.jp/pdf/201904_outbreak.pdf

薬剤耐性菌の種類によっては、より厳格な基準が適用されることがあります。CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)、MDRP(多剤耐性緑膿菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、多剤耐性アシネトバクター属については、保菌も含めて1例目の発見をもってアウトブレイクに準じて厳重な感染対策を実施する必要があります 。

アウトブレイク file2リスク評価システム

効果的なリスク評価は「変か?」「ひどいか?」「広がるか?」の3つの視点から実施されます 。この評価システムにより、支援の必要性と対策の優先度を適切に判断することが可能になります。
「変か?」の視点では、症例数のトレンドがベースラインと比較してどの程度異常であるか、症例の基本属性に変わった点はないかを検討します 。感染症発生動向調査等のデータと比較して、統計学的に有意な増加があるかどうかを評価することが重要です。
「ひどいか?」の評価では、重症例や死亡例の発生状況、影響を受けている対象が重症化のハイリスク集団であるかどうかを確認します 。特に免疫不全患者や高齢者が多数含まれる場合は、より迅速で厳格な対応が求められます。
「広がるか?」の視点では、感染源や感染経路の特定状況、症例の探知が十分になされているか、適切な感染拡大防止策が取られているかを評価します 。これらの要素を総合的に判断して、保健所や専門家による支援の必要性を決定します。

アウトブレイク file2初動対応プロトコル

アウトブレイクが疑われた場合の初動対応は、迅速性と的確性が生命線となります 。感染対策担当者は検出状況を把握した時点で、直ちに施設管理者と院内の当該部署に注意喚起を行い、緊急会議を開催する必要があります。
施設管理者は検出された対象病原体の原因が持ち込みか院内伝播かに関わらず、また保菌か感染症かに関わらず、院内で適切な拡大防止策を取らなければなりません 。この段階では、可能な限り早い段階から地域の感染管理専門家や保健所・地方衛生研究所・地方感染症情報センターの支援を受けることが重要です。
リスク評価の結果に基づき、保菌調査を含む強化サーベイランスの実施、追加の資材や人員の再配置を含む人的資源の投入、患者隔離の方針、新規患者の受け入れ方針、環境調査の実施等を迅速に決断します 。これらの対応は遅くとも1週間を超えないことが望ましいとされています。
初動対応では情報共有も極めて重要な要素です 。院内職員への緊急会議開催を通じた情報共有、外部との情報共有においては事前に院内で共有しておくこと、患者と家族への説明は外部への公表に先立って実施することが推奨されます。

アウトブレイク file2継続的監視体制

アウトブレイク対応における継続的な監視体制では、現状を時(発症日、検体提出日など)、場所(病棟など)、人(年齢、性別、診療科など)の観点からまとめ、施設管理者と共有することが基本となります 。
疫学情報の整理には「ラインリスティング」と呼ばれる手法が有効です 。これは症例情報を横(列)に項目を並べ、縦(行)に症例情報を並べていくリストで、「情報無し」と「情報未確認」とを区別して記録することが重要です。
流行曲線(エピカーブ)の作成により、発生パターンの把握が可能になります 。横軸は発症日時、縦軸は新規患者発生数として作成し、潜伏期間の検討や二次感染例の検討に活用できます。単一曝露、持続的感染源、二次感染といった感染パターンの判別が可能です。
病床マップの活用により、症例の空間的分布を視覚化できます 。これにより感染経路の推定や、特定の病棟やエリアでのクラスター形成の確認が容易になり、効果的な対策立案につながります。

アウトブレイク file2感染制御対策の実装

感染制御対策の実装では、標準予防策と感染経路別予防策の適切な実施が基盤となります 。院内、特に対象病原体が検出された病棟を中心に標準予防策の実施状況を確認し、直接観察による手指衛生遵守率の調査実施を考慮します。
手指衛生の5つのタイミング(患者に触れる前、清潔・無菌操作の前、体液に曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周囲の物品に触れた後)での確実な実施が不可欠です 。通常は擦式アルコール性手指消毒薬を使用しますが、目に見える汚れがある場合や嘔吐・下痢のある患者の診療・ケア後には流水と石鹸による手洗いを実施します。
個人防護具の適切な使用では、血液、体液、排泄物、損傷した皮膚、粘膜などの湿性生体物質に曝露されそうなときは必要な個人防護具(手袋、エプロン(ガウン)、マスク、フェイスシールド)を装着します 。個人防護具は使い捨てとし、着脱前後で手指衛生を実施することが重要です。
環境整備については、原則1日1回以上ベッド柵、テーブル、コールボタン、ドアノブ等の高頻度接触面の清掃(または環境消毒)を実施し、使い捨てクロスを使用します 。消毒薬使用は必須ではありませんが、使用する場合は低水準消毒薬、消毒用エタノール等を選択します。