頭頸部扁平上皮癌の症状と治療法〜早期診断から先進的治療まで

頭頸部扁平上皮癌と症状と治療法

頭頸部扁平上皮癌の包括的理解
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早期発見のための症状認識

声のかすれ、喉のつかえ感、首の腫れなどの症状から早期診断につなげる重要なポイント

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標準的治療法の選択

手術、放射線治療、化学療法の三大治療を病期や患者状態に応じて組み合わせた最適な治療戦略

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最新の治療選択肢

免疫チェックポイント阻害薬、アルミノックス治療、BNCT療法など第4・第5のがん治療法の展開

頭頸部扁平上皮癌の初期症状と疫学的特徴

頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)は世界で7番目に多いがん診断で、年間89万人が新たに罹患し、45万人が死亡している重要な疾患です。口腔、咽頭、下咽頭、喉頭、鼻腔、唾液腺を侵す悪性腫瘍の一群で、頭頸部がんの90%以上を占める代表的な組織型です。

初期症状の特徴として以下が挙げられます。

  • 声のかすれ:喉頭に発生した場合の代表的な症状
  • 喉のつかえ感:食道や下咽頭病変で顕著
  • 耳への放散痛:神経経路を通じた関連痛
  • 首の腫れ(リンパ節腫大):転移による二次的変化

症例報告では、男性の発症率が女性より高く(男女比3.6対1)、平均年齢は50-53歳となっています。初発症状として最も多いのは耳症状で、次に頸部腫脹、視器症状、鼻症状の順に続きます。

興味深いことに、診断までの期間は6ヵ月以内が66%と比較的短期間で診断に至るケースが多く、初診時にほとんどの症例で診断が可能です。ただし、症状の多様性から診断が遅れる場合もあり、1症例では初診2ヵ月後にようやく確診された例も報告されています。

頭頸部扁平上皮癌の診断プロセスと病理学的分類

頭頸部扁平上皮癌の診断は、臨床症状、画像診断、組織学的検査を組み合わせて行われます。病理組織型では、扁平上皮癌が最も多く、次いで未分化癌、腺癌、紡錘細胞癌の順となっています。

診断時の病期分布では、Stage IV期が過半数を占めることが特徴的です。これは頭頸部扁平上皮癌が発見時にすでに進行していることを示しており、全症例の67%がStage IVに属するという報告もあります。

組織学的分類では以下のタイプに分けられます。

  • 高分化扁平上皮癌:最も頻度が高い
  • 低分化扁平上皮癌:予後がより不良
  • 非角化型扁平上皮癌:リンパ節転移の頻度が高い

最新の病期分類にはAJCC/UICC TNM分類第8版が用いられ、重要な変更点として中咽頭癌でHPV感染の有無により病期が異なる点が挙げられます。HPV関連HNSCCは口腔よりも中咽頭、下咽頭、喉頭を侵すことが多く、生存期間中央値が有意に長い(130ヵ月 vs 20ヵ月)という特徴があります。

日本放射線腫瘍学会の頭頸部放射線治療ガイドラインには病期分類の詳細が記載されています

頭頸部扁平上皮癌の標準的手術療法と切除範囲

頭頸部扁平上皮癌の標準治療において、早期癌(Stage I/II)では手術もしくは放射線治療が選択され、局所進行癌では手術または化学放射線療法が基本となります。

手術療法の特徴と適応。

  • 早期癌での低侵襲手術:経口切除や内視鏡下手術が可能
  • 局所進行癌での拡大切除:大きな組織欠損を伴う切除術
  • 頸部廓清術:リンパ節転移に対する標準的手術

癌研有明病院の295例の解析では、根治治療を行ったのは245例(83%)で、5年死因特異的生存率はStage I:100%、II:88.8%、III:80.8%、IVa:53.8%、IVb:28.6%でした。Stage IIIまでは満足いく結果でしたが、全症例の67%を占めるStage IVの予後が不良で、主な非制御部位は遠隔転移38%頸部25%でした。

術後のQOL向上の工夫として、喉頭摘出後の音声再建にボイスプロステーシス(PROBOX2®)を用いた二期的シャント形成が積極的に行われ、良好な結果を得ています。これにより患者の社会復帰に大きく貢献しています。

特殊な病態として、肝硬変を併存する症例では治療選択が限定されます。Child-Pugh分類に基づく検討では、C群は放射線単独治療の完遂が困難で、A群でもすべての治療法を行えるが大規模手術後の合併症が目立つという課題があります。

頭頸部扁平上皮癌の放射線療法と化学放射線併用療法

頭頸部扁平上皮癌は放射線感受性が比較的高いことから、放射線治療への期待が大きい疾患です。形態・機能の温存が生活の質に大きく関わる部位であるため、治療計画には十分な注意が必要です。

化学放射線併用療法(CRT)の発展。

  • 白金製剤と5-FUを用いた化学放射線同時併用療法
  • CDDP、5-FUもしくはTS-1の術後併用
  • 補助化学療法の追加による治療効果向上

国立がん研究センターの画期的な研究により、術後補助療法の新たな標準治療が確立されました。従来のシスプラチン100mg/m²を3週毎に3コースとする方法に対し、シスプラチン毎週投与+放射線治療の非劣性が世界で初めて証明されました。

この新しい治療法の利点。

  • 有害事象の発現頻度がより低い
  • 全生存期間で非劣性を証明
  • 患者のQOL向上に寄与

特に術後再発リスクの高い因子(切除断端陽性、頸部リンパ節の節外浸潤陽性、頸部リンパ節転移の多発など)を有する患者に対して、この新しい標準治療が適用されます。

急性期有害事象として、咽頭・喉頭粘膜炎、皮膚炎、唾液分泌障害などが報告されていますが、適切な支持療法により管理可能です。

頭頸部扁平上皮癌の最新免疫療法とアルミノックス治療

頭頸部がん治療において、従来の三大治療(手術、放射線治療、化学療法)に加えて、第4、第5のがん治療として新しい治療選択肢が登場しています。

第4のがん治療:免疫チェックポイント阻害剤

再発または転移症例に対して使用される免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫細胞にかける「ブレーキ」を外す薬です:

第5のがん治療:先進的治療法

2020年以降に保険診療が開始された革新的な治療法です:

  • BNCT(ホウ素中性子捕捉療法):2020年6月承認
  • ホウ素を含む薬剤の点滴投与後、中性子線照射
  • がん細胞のみを選択的に破壊
  • 正常細胞への影響が小さい
  • アルミノックス治療(光免疫療法):2021年1月承認
  • 切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がんが適応
  • 従来の治療法とは全く異なるメカニズム

これらの新しい治療法は「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に対して保険診療として実施されており、従来治療に抵抗性の症例に新たな希望をもたらしています。

ステージ3以上の局所進行頭頸部扁平上皮がんでは、根治治療を行っても約50%が再発・転移をきたすため、これらの新しい治療選択肢の意義は大きく、今後さらなる治療成績の向上が期待されています。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会による頭頸部アルミノックス治療の詳細な説明があります