アスナプレビル販売中止の理由と経緯について

アスナプレビル販売中止の理由と経緯

アスナプレビル販売中止の主要因
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重篤な肝機能障害

肝不全に至る重篤な副作用の頻発が問題となった

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新規治療選択肢の普及

より安全で効果的なDAA製剤の登場により需要が減少

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市場での競争力低下

経済的な理由により製造販売継続が困難となった

アスナプレビルの販売中止時期と決定要因

アスナプレビル(商品名:スンベプラ)は、2021年3月に販売が中止された直接作用型抗ウイルス薬(DAA)である 。2015年3月に承認されたこの薬剤は、C型肝炎ウイルスのNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤として機能し、インターフェロンフリー治療として期待されていた 。

参考)アスナプレビル – Wikipedia

販売中止の主要な理由として、重篤な肝機能障害の頻発が挙げられる 。厚生労働省は投与開始12週目までは少なくとも2週ごと、それ以降は4週ごとに肝機能検査を行うよう注意喚起していた 。特に、ALT(GPT)が基準値上限10倍以上に上昇した場合には直ちに投与を中止し、再投与しないよう指示されていた 。

参考)https://www.pmda.go.jp/files/000205988.pdf

併用薬の制限も販売中止に影響した要因の一つである 。アスナプレビルは多数の薬剤との相互作用があり、アゾール系抗真菌剤、クラリスロマイシン、リファンピシンなど多くの薬剤が併用禁忌とされていた 。

アスナプレビルの副作用プロファイルと安全性上の問題

アスナプレビルの副作用発現率は高く、重大な副作用として肝機能障害が最も懸念されていた 。臨床試験では、ALT(GPT)増加の発現率が17.4%、AST(GOT)増加の発現率が14.4%と高い数値を示していた 。
2015年4月には、厚生労働省がアスナプレビルに対して多形紅斑という重大な副作用について注意を呼びかけた 。この副作用は皮膚粘膜に現れる重篤な症状で、患者の生活の質に大きな影響を与える可能性がある 。

参考)C型肝炎治療薬のアスナプレビル、多形紅斑などの重大な副作用に…

肝機能障害以外にも、好酸球増加症、発熱、倦怠感、頭痛、下痢、悪心が5%以上の患者に発現するという報告があった 。これらの副作用の頻度の高さは、日常診療における使用において医療従事者と患者双方にとって大きな負担となっていた 。

参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000056603.pdf

血小板減少や間質性肺炎といった生命に関わる可能性のある副作用も報告されており、特に高齢者や併存疾患を持つ患者において慎重な観察が必要とされていた 。

アスナプレビル治療の効果と限界について

アスナプレビルとダクラタスビルの併用療法は、当初高いSVR(持続性ウイルス学的著効)率を示していた 。第III相臨床試験(AI447031試験)では、SVR24率が86.6%と良好な成績を収めていた 。
しかし、治療効果には限界もあった。適応患者がセログループ1(ジェノタイプ1)のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変に限定されており、全てのC型肝炎患者に適用できるわけではなかった 。
薬剤耐性の問題も治療の限界として指摘されていた。治療不成功例では高頻度でNS5A耐性変異Y93H、L31M/Vが同定され、これらの耐性変異を認めていた患者でもSVRとなる場合があったものの、薬剤耐性ウイルスの発現は治療効果に影響を与える要因であった 。
中等度以上の肝機能障害患者や非代償性肝疾患のある患者には禁忌とされており、重篤な肝疾患を持つ患者には使用できないという制限があった 。

アスナプレビル販売中止後の治療選択肢への影響

アスナプレビルの販売中止により、C型肝炎治療ガイドラインから推奨が削除された 。日本肝臓学会のC型肝炎治療ガイドライン第8.3版では、ダクラタスビル、アスナプレビルの販売中止に伴い治療推奨から記載が削除されている 。

参考)https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/C_v8.3_20240605.pdf

現在のC型肝炎治療では、グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠(マヴィレット)やソホスブビル/ベルパタスビル配合錠(エプクルーサ)などの新世代DAA製剤が主流となっている 。これらの薬剤は、アスナプレビルと比較してより高いSVR率と優れた安全性プロファイルを示している 。

参考)https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/C_v8.4_202506.pdf

アスナプレビル販売中止後も、透析患者など特殊な患者群における治療選択肢に関する議論は継続されている 。透析患者への投与において、ダクラタスビルと共に常用量で適用してSVR12は95.5%という良好な成績が報告されていたが、現在は他の治療選択肢への移行が進んでいる 。

参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/1658.pdf

医薬品の相互作用に関する添付文書からも、アスナプレビルに関する記載が削除されている 。これにより、併用禁忌薬の確認において、医療従事者は現在利用可能な薬剤の相互作用について改めて確認する必要がある 。

参考)https://npi-inc.co.jp/medical/info/file/944

アスナプレビル販売中止が示すDAA治療の進歩

アスナプレビルの販売中止は、C型肝炎治療における技術進歩の象徴的な出来事である。2014年にインターフェロンフリー治療として導入されたアスナプレビルは、当時としては画期的な治療選択肢であったが、その後のDAA開発により、より安全で効果的な治療薬が登場した 。

参考)そのほかの治療方法

現在のパンジェノタイプDAA製剤は、ゲノタイプ1〜6型すべてに対して有効であり、治療期間も8〜12週間と短縮されている 。これにより、患者の治療負担が大幅に軽減され、より高いSVR率(ほぼ100%)が達成可能となっている 。
副作用の面でも大幅な改善が見られており、現在の主流DAA製剤では重篤な肝機能障害の頻度は著しく低下している 。これにより、より幅広い患者層への適用が可能となり、C型肝炎の根治を目指す治療がより現実的なものとなっている 。
薬剤耐性の問題についても、新世代DAA製剤では複数の作用機序を持つ薬剤の配合により、耐性ウイルスの出現リスクが大幅に低減されている 。これにより、治療失敗のリスクが最小化され、より確実な治療成果が期待できるようになっている 。

参考)https://www.pharm-hyogo-p.jp/renewal/kanjakyousitu/sk56.pdf

経済的な観点からも、アスナプレビルの販売中止は合理的な判断であったと考えられる。より効果的で安全な治療選択肢が利用可能となった現在、限定的な適応と高い副作用リスクを持つ薬剤の継続販売は、医療経済学的に正当化が困難であった。現在の治療選択肢は、長期的な医療費削減にも寄与している 。

参考)慢性C型肝炎 |杉並ももい内科内視鏡クリニック荻窪院|内科 …