アルツハイマー治療薬一覧
アルツハイマー治療薬の分類と作用機序
アルツハイマー型認知症の治療薬は、主に3つのカテゴリーに分類されます。
コリンエステラーゼ阻害薬
脳内でアセチルコリンを分解する酵素を阻害することで、神経伝達物質の濃度を維持する薬剤群です。
NMDA受容体拮抗薬
- メマンチン:グルタミン酸の過剰な神経毒性から神経細胞を保護、中等度~高度に適応
疾患修飾薬(Disease-Modifying Drugs)
アミロイドβプラークの除去により疾患進行を遅らせる新しいカテゴリーです。
- レカネマブ:2023年7月FDA承認
- ドナネマブ:2024年7月FDA承認
これらの薬剤は脳浮腫や脳出血といったアミロイド関連画像異常(ARIA)のリスクを伴うため、慎重な適応判断が必要です。
国内承認済みアルツハイマー治療薬一覧と特徴
日本国内で承認されているアルツハイマー治療薬の詳細な一覧を以下に示します。
ドネペジル(アリセプト)
- 発売年:1999年
- 適応症:アルツハイマー型認知症(軽度~高度)、レビー小体型認知症
- 剤形:錠剤(3mg、5mg、10mg)、口腔内崩壊錠、細粒、ゼリー
- 薬価:3mg錠 51.2円、5mg錠 76.1円、10mg錠 130.2円
- 用法:1日1回経口投与
- 特徴:唯一高度アルツハイマー型認知症に適応を持つ経口薬
リバスチグミン(イクセロンパッチ・リバスタッチパッチ)
- 発売年:2011年
- 適応症:軽度~中等度のアルツハイマー型認知症
- 剤形:貼付剤(4.5mg、9mg、13.5mg、18mg)
- 用法:1日1回貼付
- 特徴:嚥下困難患者にも使用可能、皮膚刺激に注意が必要
ガランタミン(レミニール)
- 発売年:2011年
- 適応症:軽度~中等度のアルツハイマー型認知症
- 剤形:錠剤(4mg、8mg、12mg)、口腔内崩壊錠、内用液
- 薬価:4mg錠 55.9円、8mg錠 100.8円、12mg錠 121円
- 用法:1日2回経口投与
- 特徴:ニコチン受容体調節作用も併せ持つ、心伝導障害に注意
メマンチン(メマリー)
- 発売年:2011年
- 適応症:中等度~高度のアルツハイマー型認知症
- 剤形:錠剤(5mg、10mg、20mg)、口腔内崩壊錠
- 用法:1日1回経口投与
- 特徴:NMDA受容体拮抗薬、他薬との併用が一般的
アリドネパッチ(ドネペジル貼付剤)
- 適応症:軽度~高度のアルツハイマー型認知症
- 剤形:貼付剤(27.5mg、55mg)
- 薬価:27.5mg 286.4円、55mg 437.6円
- 特徴:高度アルツハイマー型認知症に適応を有する初の貼付剤
新規アルツハイマー治療薬の承認状況
2025年に入り、アルツハイマー治療薬の承認状況が大きく変化しています。
リバルエンLAパッチ(週2回製剤)
東和薬品が開発した日本初の持続放出性リバスチグミン経皮吸収型製剤が2025年3月27日に承認されました。
- 製品名:リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg
- 特徴:週2回貼付で済む利便性の向上
- 発売予定:2025年5月28日
- 臨床試験:既存の1日1回貼付製剤との非劣性が検証済み
この製剤は患者さんとご家族の負担軽減に大きく貢献することが期待されています。貼付頻度の減少により、皮膚刺激のリスク軽減と服薬アドヒアランスの向上が見込まれます。
疾患修飾薬の動向
海外では疾患修飾薬の承認が相次いでいます。
- レカネマブ:2023年7月FDA完全承認取得
- ドナネマブ:2024年7月FDA承認、日本での承認審査中
- ケサンラ(ドナネマブ):薬価66,948円(350mg/20mL)
これらの薬剤は脳内アミロイドβプラークを除去することで疾患進行を遅らせる作用を持ちますが、ARIA(アミロイド関連画像異常)のリスク管理が重要な課題となっています。
アルツハイマー治療薬の薬価と経済的負担
アルツハイマー治療薬の薬価は剤形や薬剤により大きく異なります。月額の薬剤費を比較すると以下のようになります。
経口薬の月額薬剤費(30日分)
- ドネペジル5mg:2,283円
- ドネペジル10mg:3,906円
- ガランタミン8mg(1日16mg):6,048円
- ガランタミン12mg(1日24mg):7,260円
- メマンチン20mg:薬価情報要確認
貼付剤の月額薬剤費(30日分)
- アリドネパッチ27.5mg:8,592円
- アリドネパッチ55mg:13,128円
- リバスチグミン貼付剤:約8,000~12,000円程度
新規疾患修飾薬の薬剤費
ドナネマブ(ケサンラ)は1バイアル66,948円と高額ですが、投与間隔や治療期間により総費用が決まります。
高額な薬剤費に対しては、高額療養費制度や医療費控除の活用が重要です。また、ジェネリック医薬品の使用により薬剤費を抑制できる場合があります。
アルツハイマー型認知症の治療では、薬物療法のみならず非薬物療法との組み合わせも重要であり、総合的な医療経済評価が必要です。
アルツハイマー治療薬選択の臨床的考慮点
実臨床におけるアルツハイマー治療薬の選択では、複数の要因を総合的に判断する必要があります。
重症度に応じた薬剤選択
- 軽度:全ての薬剤が選択可能、コリンエステラーゼ阻害薬を第一選択
- 中等度:コリンエステラーゼ阻害薬単剤またはメマンチンとの併用
- 高度:ドネペジルまたはメマンチン、もしくは両剤の併用
患者背景による剤形選択
嚥下機能に問題がある患者さんでは貼付剤の選択が重要になります。アリドネパッチは高度認知症まで適応があるため、進行例での選択肢として価値があります。
副作用プロファイルの考慮
- 消化器症状:ドネペジルで最も頻度が高い、食事との関係を考慮
- 皮膚刺激:貼付剤使用時の貼付部位ローテーション
- 心血管系:ガランタミンでは心電図モニタリングが推奨
薬物相互作用への注意
ドネペジルはCYP3A4、CYP2D6で代謝されるため、これらの酵素を阻害する薬剤との併用に注意が必要です。
治療継続性の評価
週2回貼付のリバルエンLAパッチの登場により、アドヒアランス向上が期待されます。患者さんとご家族の負担軽減は治療継続において重要な要素です。
BPSD(行動・心理症状)への対応
ガランタミンはBPSDの発現を遅らせる効果が報告されており、行動症状が懸念される症例では考慮すべき選択肢です。
将来の治療戦略
疾患修飾薬の導入により、早期診断・早期治療開始の重要性が高まっています。バイオマーカーを用いた診断精度の向上と併せて、治療パラダイムの変化に対応した診療体制の構築が求められます。
国立長寿医療研究センターの最新研究情報については以下を参照してください。