アルカローシスとアシドーシスの病態と管理法

アルカローシスとアシドーシスの病態

酸塩基平衡異常の基本概念
⚖️

アシドーシス(酸血症)

体内の酸が過剰または塩基が不足し、血液pHが7.35未満に低下する病態

📈

アルカローシス(アルカリ血症)

体内の塩基が過剰または酸が不足し、血液pHが7.45を超えて上昇する病態

🔄

代償機構

肺(呼吸による調節)と腎臓(代謝による調節)が協調してpHを正常範囲内に保つシステム


酸塩基平衡は、人体が正常に機能するために不可欠な生理学的システムです 。血液のpHは7.35~7.45という極めて狭い範囲に厳密に保たれており、この範囲を逸脱すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります 。

参考)アシドーシスとアルカローシス|捨てる(3)

アシドーシスとアルカローシスは、いずれも酸塩基平衡の異常を示す病態です 。これらの状態は疾患そのものではなく、様々な病気の結果として起こる生理学的過程を指しています 。血中pH値の実際の変化を表すアシデミア(pH<7.35)やアルカレミア(pH>7.45)とは区別されます 。

参考)酸塩基平衡の概要 – 12. ホルモンと代謝の病気 – MS…

酸塩基平衡異常は、主に「代謝性」と「呼吸性」の2つのカテゴリーに分類されます 。代謝性異常は血中重炭酸イオン(HCO3-)濃度の変化が原因となり、呼吸性異常は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の変化によって生じます 。

参考)酸塩基平衡障害 – 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 – MS…

アルカローシス呼吸性病態の特徴

呼吸性アルカローシスは、過換気により体内の二酸化炭素が過度に排出されることで発生します 。過度の不安、中枢神経系の炎症、脳腫瘍などによる呼吸中枢の刺激が原因となります 。

参考)呼吸性アルカローシス【ナース専科】

この病態では、肺から呼出される炭酸ガスの量が体内で産生される量を上回り、動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)が低下して血液のpHが上昇します 。患者は深くて速い呼吸、めまい、ふらつき、耳鳴り、四肢末梢の知覚異常、手足の痙攣、テタニーなどの症状を伴います 。
過換気症候群は、不安や緊張などの精神的ストレスによって引き起こされる典型的な例です 。この状態では、不安により呼吸が浅くなり回数が増え、過換気による血中のカルシウムイオンの減少により、手足のしびれから始まり、徐々に筋肉のけいれんや硬直が現れます 。

参考)過換気症候群とは? – 東京御嶽山呼吸器内科・内科クリニック

アシドーシス代謝性病態の発生機序

代謝性アシドーシスは、体内の酸性度が異常に高まる状態で、血液中の重炭酸イオン(HCO3-)が減少し、血液のpHが7.35未満に低下します 。この病態は、酸の生成が増加するか、酸の排泄が不十分なために起こります 。

参考)代謝性アシドーシスの症状、原因、鑑別|板橋区のNOBUヘルシ…

原因は多岐にわたりますが、主要なものには腎不全(酸の排泄不全)、乳酸アシドーシス(乳酸の過剰蓄積)、ケトアシドーシス(糖尿病等によるケトン体の過剰生成)、下痢(重炭酸イオンの喪失)などがあります 。
代謝性アシドーシスは、アニオンギャップ(AG)の値によって2つのタイプに分類されます 。アニオンギャップ増大性アシドーシスでは、乳酸やケトン体などの有機酸の蓄積が原因となり、正常アニオンギャップ性アシドーシスでは、主に消化管や腎からの重炭酸イオン喪失が原因となります 。

参考)代謝性アシドーシス – 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 – …

アルカローシス代謝性病態の病因

代謝性アルカローシスは、体内にアルカリが蓄積されるか、酸の喪失によって起こる病的な状態です 。この病態では血中重炭酸イオン(HCO3-)が増加し、pHが7.45を超えて上昇します 。

参考)アシドーシス・アルカローシスとは|症状、原因、phの評価

主な原因として、利尿薬の使用、嘔吐による胃酸の喪失、副腎皮質ホルモンの過剰分泌などが挙げられます 。特に入院患者では、利尿薬による塩化物欠乏性アルカローシスが頻繁に見られます 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10947768/

代謝性アルカローシスの診断において、尿中塩化物濃度の測定が重要な鑑別手段となります 。尿中塩化物濃度が低値の場合は塩化物反応性アルカローシス、高値の場合は塩化物非反応性アルカローシスと分類され、それぞれ治療法が異なります 。

参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2amp;pk=104

アシドーシス呼吸性病態の臨床像

呼吸性アシドーシスは、肺機能の低下により体内に二酸化炭素が蓄積し、炭酸が増加してpHが低下する病態です 。慢性閉塞性肺疾患COPD)、気管支喘息の重篤な発作、肺炎などの呼吸器疾患が主な原因となります 。

参考)酸塩基平衡|“コレ何だっけ?”な医療コトバ

この状態では、二酸化炭素が体内に蓄積し、CO2 + H2O ⇄ H2CO3 ⇄ H+ + HCO3- の反応により水素イオンが放出され、体液が酸性に傾きます 。軽度のアシドーシスでは、体内のセンサーがこれを検知し、脳の指令により呼吸を速めて二酸化炭素の排出量を増やそうとしますが、重度になると代償機能が破綻し、昏睡に陥る危険性があります 。
治療は原疾患の改善が最優先で、酸素投与や換気補助が必要となる場合があります 。重症例では気道確保や人工呼吸管理が必要となることもあります 。

参考)アシドーシス・アルカローシスの症状と原因、カリウムとの関係性…

アシドーシスとアルカローシスの検査診断法

酸塩基平衡異常の診断には、血液ガス分析が不可欠です 。診断の手順として、まずpHの値からアシドーシス(アシデミア)かアルカローシス(アルカレミア)かを判断し、次にHCO3-とPaCO2の値から呼吸性か代謝性かを決定します 。

参考)研修医レクチャー 血液ガス・酸塩基平衡の読み方

代謝性アシドーシスでは、アニオンギャップの計算が重要な診断手段となります 。アニオンギャップ = Na+ − Cl- − HCO3- の式で計算し、正常値は約12mEq/Lです 。アニオンギャップが増大している場合は、ケトン体や乳酸などの有機酸の蓄積を示唆します 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/11/106_2410/_pdf

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の診断では、高血糖、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシス、尿中ケトン体または血中ケトン体の存在が鍵となります 。血清β-ヒドロキシ酪酸の測定により、迅速で正確な診断が可能になります 。

参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12903

アシドーシス重篤例における治療管理

重篤なアシドーシスは呼吸・循環・中枢神経系に深刻な悪影響を及ぼすため、早期の原疾患治療が不可欠です 。代謝性アシドーシスの治療原則は、まず原疾患の治療を第一とし、補助的に補液の静注や重度の場合には重炭酸塩の輸液投与を行います 。

参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1084

慢性腎不全に伴う代謝性アシドーシスでは、血清重炭酸イオン濃度が22mEq/L未満で減少傾向が続く場合に、アルカリ補充療法を開始します 。必要な補充量は、[目標HCO3-濃度 – 測定HCO3-濃度] × 体重(kg) × 0.5 の計算式で求められます 。

参考)https://www.nc-medical.com/deteil/chemiphamation01_03.pdf

重篤な症例では、血液透析や持続的腎代替療法(CRRT)などの腎代替療法が必要となる場合があります 。最新の治療法として、ADVanced Organ Support(ADVOS)システムによる酸の直接除去技術も開発されており、従来の治療法では効果不十分な症例に対する新たな選択肢となっています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6751235/