アルブミン製剤適正使用ガイドラインと病態別治療指針

アルブミン製剤の適正使用と治療効果

アルブミン製剤の適正使用ポイント
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製剤の種類

等張液(5%)と高張液(20%・25%)の使い分けが重要

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ガイドライン遵守

科学的根拠に基づいた適正使用指針の理解と実践

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病態別投与

患者の病態に応じた適切な投与判断と効果測定

アルブミン製剤の種類と投与方法の基本

アルブミン製剤は濃度により等張液と高張液に分類され、それぞれ異なる治療目的で使用されます。等張液である5%製剤は血漿の膠質浸透圧と等張で、主に循環血漿量の補充を目的として使用されます。一方、高張液である20%および25%製剤は血漿の膠質浸透圧の約4~5倍の濃度を有し、膠質浸透圧の改善を主目的として投与されます。

📊 製剤の種類と特徴

  • 等張液(5%):循環血漿量補充、出血性ショック、敗血症
  • 高張液(20%):膠質浸透圧改善、低蛋白血症に伴う浮腫
  • 高張液(25%):難治性腹水、肺水腫、ネフローゼ症候群

投与方法については、静脈内投与されたアルブミンは10~15分で血管内に均一に拡散し、4~7日で血管外プールに分布するため、最終的に約60%は血管外に移動します。65kg成人男性に25%製剤50ml(12.5g)を投与した場合、血管内回収率を40%として期待上昇濃度を計算できます。

投与速度は毎分5~8ml以下とされており、過度な投与速度は循環負荷を招く可能性があります。特に心機能が低下している患者では、投与速度の調整が重要となります。

アルブミン製剤ガイドラインによる適正使用指針

日本輸血・細胞治療学会より発表された「科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用ガイドライン」は、2015年の初版から2024年の第3版まで改訂が重ねられ、現在の臨床における適正使用の指針となっています。

このガイドラインの作成目的は、医療従事者がアルブミン使用において適切な判断を行うための支援を目的とし、アルブミンの適正使用を推進し、治療の向上を図ることです。ガイドラインでは以下の17の病態について検討されています。

🔍 ガイドライン対象病態

  • 循環血液量減少性ショック
  • 敗血症
  • 腹水を伴う肝硬変
  • 難治性の浮腫、肺水腫を伴うネフローゼ症候群
  • 循環動態が不安定な血液透析等の体外循環
  • 凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換療法
  • 重症熱傷
  • 低蛋白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫

ガイドラインでは、エビデンスレベルと推奨グレードを「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0」に準じて決定しており、科学的根拠に基づいた推奨となっています。

適正使用推進の効果として、ある大学病院での取り組みでは、投与前評価の徹底、投与根拠の明確化、不適切使用対策、保険査定対策を実施した結果、高張製剤投与前アルブミン値3.0g/dl以上での投与が14.6%から2.3%へ減少し、適正使用が大幅に改善されました。

アルブミン製剤の病態別使用効果と投与判断

アルブミン製剤の病態別使用については、各疾患の病態生理を理解した上での適切な投与判断が重要です。肝硬変に伴う難治性腹水では、アルブミンは血漿浸透圧の維持と利尿薬の効果増強に有用で、腹水消失率を高めるとともに腹水再発を抑制し、外来で長期投与すると生存率も改善することが示されています。

💡 病態別の使用効果

  • 肝硬変腹水:腹水消失率向上、再発抑制、生存率改善
  • ネフローゼ症候群:難治性浮腫・肺水腫の改善
  • 重症熱傷:循環血漿量維持、予後改善
  • 敗血症:循環動態安定化(ただし予後改善効果は限定的)

敗血症については、重症患者の予後改善に対するアルブミン製剤の有効性は示されていないため、循環動態の安定化が主目的となります。出血性ショックでは等張アルブミン製剤の投与が推奨されますが、他の膠質液との比較では明確な優位性は示されていません。

妊娠高血圧症候群では、タンパク尿や血管外漏出に伴う低タンパク血症に対して、降圧剤投与後に利尿が減少し乏尿となるような症例では等張アルブミン製剤投与が推奨されますが、過剰投与は病態悪化を来すことに注意が必要です。

投与判断においては、各病態での低アルブミン血症におけるアルブミン投与の目標値を2.0~2.5g/dLとするガイドラインはありますが、明確なトリガー値はないため、病態評価に基づく個別判断が重要となります。

アルブミン製剤の透析での使用実態と課題

血液透析におけるアルブミン製剤の使用は、透析中の低血圧回避を主目的として行われますが、ガイドライン上の推奨は限定的です。透析中の低血圧は、低アルブミン血症や心機能低下により血漿リフィリングが遅延し、血圧維持の代償機能が働かないことが原因となります。

🔄 透析でのアルブミン使用の実態

  • 使用目的:透析中低血圧の回避、血管内水分保持
  • 投与方法:Vチャンバーまたは回路からの投与
  • 投与速度:高張液50mLを30分で投与(100mL/hr)
  • 選択傾向:高張液(25%)が50%、等張液が28%

しかし、ガイドラインでは「循環動態が不安定な血液透析等の体外循環施行時の等張アルブミン使用は原則として推奨されない」とされており、推奨グレード2C(使用しないことについての弱い推奨)となっています。第一選択は生理食塩水であり、降圧薬の調整、血管作動薬の使用、持続透析などでの対応が推奨されています。

透析施設での使用実態調査によると、エビデンスに乏しいため使用していない施設が13%、状態に応じて等張液と高張液を使い分けている施設が9%となっており、施設間で使用方針に差があることが明らかになっています。

CART(腹水濾過濃縮再静注法)では、自己腹水中のアルブミンを回収し経静脈投与する方法が30年近く実施されており、滲出性腹水で66.5g、漏出性腹水で31.1gのアルブミンが回収されています。この方法は、アルブミン製剤の使用量削減に貢献する可能性があります。

アルブミン製剤の薬価と医療経済性の考察

アルブミン製剤の医療経済性は、国内自給率の低さと高い薬価が大きな課題となっています。我が国のアルブミン国内自給率は50%前後と低く、輸入依存度が高い状況が続いています。

💰 主要製剤の薬価(2025年現在)

  • 献血アルブミン5%静注5g/100mL「JB」:4,525円
  • 献血アルブミン25%静注12.5g/50mL「JB」:4,436円
  • アルブミナー5%静注12.5g/250mL:4,362円
  • アルブミン-ベーリング20%静注10.0g/50mL:4,288円

これらの薬価は、1日に成人が産生するアルブミン量(約12.5g)に相当する製剤価格であり、継続投与時の医療費負担は大きくなります。

遺伝子組換えヒト血清アルブミン(rHSA)製剤「メドウェイ」は、治療用途では世界で初めて承認された国産のアルブミン製剤として2007年に発売されました。この製剤は感染リスクが理論的にゼロであり、安定供給の観点から重要な位置づけにあります。

適正使用推進による経済効果として、ある病院での取り組みでは、患者一人一カ月あたりの高張製剤投与量が65.0gから51.0gまで減少し、保険査定率も11.9%から2.8%へ改善されました。これは、適正使用により医療費削減と査定率改善の両方が達成できることを示しています。

肝細胞癌切除術後の検討では、アルブミン製剤使用を制限しても術後経過に有意な悪影響を及ぼさなかったことが報告されており、適正使用により使用量削減の可能性が示唆されています。

医療経済性の観点から、アルブミン製剤の適正使用は単なる医療の質の向上だけでなく、医療費適正化の重要な要素となっています。今後も科学的根拠に基づいた使用指針の遵守と、継続的な使用状況の評価が必要です。

科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用ガイドライン第3版