アルブミン補充療法の基本と効果
アルブミンは肝臓で産生されるタンパク質で、血漿タンパクの約60%を占める重要な成分です。体内では水分調節や様々な物質の運搬など、多岐にわたる生理機能を担っています。アルブミン値が低下すると、むくみ(浮腫)や腹水、胸水などの症状が現れ、全身状態の悪化につながることがあります。
アルブミン補充療法は、血中アルブミン濃度が低下した状態(低アルブミン血症)に対して、アルブミン製剤を静脈内投与することで改善を図る治療法です。この治療法は、単に血中アルブミン濃度を上げるだけでなく、アルブミンが持つ様々な生理作用を回復させることを目的としています。
アルブミン補充療法の適応となる低アルブミン血症の状態
低アルブミン血症に対するアルブミン補充療法の適応は、病態によって異なります。一般的に以下のような状況で考慮されます。
- 急性の低アルブミン血症:大量出血、重症熱傷、敗血症などによる急激なアルブミン低下
- 慢性の低アルブミン血症:肝硬変、ネフローゼ症候群などによる長期的なアルブミン低下
- 特定の病態:特発性細菌性腹膜炎、肝腎症候群など
アルブミン製剤の使用に関するガイドラインでは、急性病態では血清アルブミン濃度3.0g/dL未満、慢性病態では2.5g/dL未満を治療目標値としています。ただし、アルブミン値だけでなく、患者の全身状態や病態を総合的に評価して投与を判断することが重要です。
アルブミン補充療法で使用される製剤の種類と特徴
アルブミン補充療法で使用される製剤は、主に以下の2種類があります。
- 等張アルブミン製剤(4.4〜5%)
- 循環血漿量の是正が主な目的
- 出血性ショックや手術時の循環血液量減少に使用
- 水分量が多く調整されており、少ない輸血量で多くの血漿容量を回復可能
- 高張アルブミン製剤(20〜25%)
- 膠質浸透圧の改善が主な目的
- 浮腫や腹水の改善に効果的
- 血漿の4〜5倍の膠質浸透圧を有し、血管外の水分を血管内に引き込む作用がある
製剤の選択は、患者の病態や治療目的に応じて行われます。例えば、5%製剤250mlと25%製剤50mlはともに12.5gのアルブミンを含有しますが、含まれる水分量が大きく異なるため、使用目的に合わせた選択が必要です。
アルブミン補充療法の投与量計算と効果判定方法
アルブミン補充療法の投与量は、以下の計算式で算出されることが一般的です。
総投与量(g) = [アルブミン濃度の期待値-実測値](g/dL) × [0.4×体重(kg)] × 2.5
ここで、0.4×体重(kg)は循環血漿量(0.4dL/kg)を示し、2.5は投与されたアルブミンが血管内外に分布することを考慮した係数です(血管内回収率を40%と仮定)。
例えば、体重65kgの患者に25%アルブミン製剤50ml(12.5g)を投与した場合の血清アルブミン濃度の期待上昇値は次のように計算されます。
期待上昇濃度(g/dL) = {投与アルブミン量(g)/循環血漿量(dL)}×0.4
= {12.5g/(65kg×0.4dL)}×0.4
≈ 0.48g/dL
投与速度については、一般的に1時間あたりアルブミン10〜15g以内とされています。効果判定は、投与後の血清アルブミン濃度の上昇だけでなく、臨床症状(浮腫の改善、腹水量の減少など)も含めて総合的に評価します。
アルブミン補充療法が特に効果的な肝硬変関連合併症
肝硬変患者においては、アルブミン補充療法が特に効果的な合併症があります。
- 大量腹水穿刺時
- 4L以上の大量排液では1Lあたり6〜8gの高張アルブミンの投与が推奨
- 循環不全、低ナトリウム血症、腎障害の予防に有効
- 特発性細菌性腹膜炎(SBP)
- 抗生剤治療にアルブミン補充を併用することで腎障害や死亡率が有意に減少
- 推奨投与量:初日1.5g/kg体重、3日目に1g/kg体重
- 肝腎症候群(HRS)
- 高張アルブミンと血管収縮薬の併用が効果的
- 推奨投与量:初日1g/kg体重、その後20〜40g/日
これらの病態では、アルブミン補充療法が単なる対症療法ではなく、予後改善にも寄与することが臨床試験で示されています。特に特発性細菌性腹膜炎に対するアルブミン投与は、抗生剤単独治療と比較して腎障害発症率を33%から10%に、死亡率を29%から10%に低減することが報告されています。
アルブミン補充療法の抗酸化作用と免疫調整効果
アルブミン補充療法の効果は、単に膠質浸透圧の維持だけではありません。近年の研究では、アルブミンが持つ多様な生理作用が注目されています。
- 抗酸化作用
- 免疫調整効果
- 炎症性サイトカインの調整に関与
- エンドトキシンの中和作用
- 免疫細胞の機能調整
- 物質運搬機能
- 薬物や脂質、ホルモンなどの運搬
- 有害物質の結合・解毒作用
これらの作用は、人工膠質液では代替できないアルブミン特有の機能です。低アルブミン血症の患者では、これらの機能が低下することで病態が悪化する可能性があります。アルブミン補充療法は、これらの生理作用を回復させることで、単なる血漿量や膠質浸透圧の改善以上の効果をもたらすと考えられています。
特に敗血症患者においては、アルブミンの抗酸化作用や抗炎症作用が予後改善に寄与する可能性が示唆されています。ALBIOS研究などの大規模臨床試験では、敗血症患者に対するアルブミン投与が、生存率の明確な改善には至らなかったものの、治療開始から7日間は平均血圧の維持や体液バランスの改善に効果があったことが報告されています。
アルブミン補充療法の適正使用と費用対効果の考察
アルブミン製剤は血液製剤の一種であり、限られた資源です。また、製剤の価格も比較的高価であることから、適正使用が求められます。
- 適応の厳格化:明確な適応がある場合にのみ使用
- 投与量の最適化:必要最小限の量を投与
- 代替療法の検討:晶質液や人工膠質液で対応可能な場合はそれらを優先
費用対効果の観点からは、全ての低アルブミン血症に対してアルブミン製剤を投与することは推奨されません。例えば、ネフローゼ症候群による低アルブミン血症では、投与されたアルブミンが速やかに尿中に排泄されるため、効果は一時的であり費用対効果は低いとされています。
一方、特発性細菌性腹膜炎や肝腎症候群などの特定の病態では、アルブミン補充療法が予後改善に寄与することが示されており、費用対効果も良好と考えられています。
アルブミン補充療法の適正使用を促進するためには、各医療機関での使用指針の策定や、定期的な使用状況の評価が重要です。また、栄養状態の改善や原疾患の治療など、低アルブミン血症の根本的な原因に対するアプローチも並行して行うことが望ましいでしょう。
アルブミン補充療法は、適切な適応と投与方法を守ることで、患者の予後改善に貢献する重要な治療法です。しかし、その効果を最大化するためには、患者の病態を総合的に評価し、他の治療法と組み合わせた包括的なアプローチが必要です。