アレルゲンカシューナッツの症状と検査方法

アレルゲンカシューナッツの基礎知識

この記事のポイント
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重篤な症状のリスク

カシューナッツはアナフィラキシーショックを含む重篤な症状を引き起こす頻度が高く、2025年度中に表示義務化される予定

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主要アレルゲンの理解

Ana o 1、Ana o 2、Ana o 3の3種類の貯蔵タンパク質が主要なアレルゲンコンポーネントとして関与

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交差反応性への注意

ピスタチオとの間に強い交差反応性があり、カシューナッツアレルギーの83%がピスタチオでも症状を示す

カシューナッツアレルギーの症状と重症度

カシューナッツアレルギーは、口の中や唇のかゆみ・腫れ・違和感といった口腔症状から始まり、蕁麻疹、腹痛、下痢、嘔吐といった消化器症状まで多様な症状を引き起こします。最も注意すべき点は、アナフィラキシーショックを含む重篤な症状を呈する頻度が比較的高いことです。消費者庁が令和6年度にまとめた全国実態調査では、カシューナッツによるアナフィラキシーショックの発症頻度は6.2%で全体の4位となっており、ピーナッツと比較してもリスクが高いと報告されています。

参考)カシューナッツアレルギーの症状・対策・注意すべき食べ物【食物…


カシューナッツアレルギーは摂取後15分から2時間程度で症状がみられることが多く、主な症状は皮膚症状、粘膜症状、呼吸器症状、消化器症状に分類されます。近年の調査では、即時型食物アレルギーの原因物質として木の実類が2021年度の13.5%から2024年度には24.6%に増加し、第2位となりました。木の実類の中ではくるみに次いでカシューナッツが279例(18.8%)と2位を占め、症例数全体に対する割合は2.9%から4.6%へと約1.6倍に増加しています。

参考)アレルギー表示制度の改正 ~カシューナッツ表示義務化とピスタ…


このような重篤な症状のリスクと症例数の著しい増加を踏まえ、消費者庁は2025年度中にカシューナッツを特定原材料(表示義務品目)へ移行する方針を示しました。これにより、カシューナッツを含む加工食品には必ず原材料表示が必要となり、アレルギー患者の安全性が向上することが期待されています。

参考)アレルギー表示義務、カシューナッツを追加 消費者庁 – 日本…

カシューナッツの主要アレルゲン成分

カシューナッツの主要抗原は、Ana o 1(7Sグロブリン・ビシリン)、Ana o 2(11Sグロブリン・レグミン)、Ana o 3(2Sアルブミン)の3種類の貯蔵タンパク質です。カシューナッツアレルギーを示す患者における各アレルゲンコンポーネントへの感作率は、Ana o 1が50%、Ana o 2が62%、Ana o 3が81%との報告があります。

参考)http://senoopc.jp/al/nutsallergy.html


特にAna o 3は、プロラミンスーパーファミリーに属する2Sアルブミンに分類され、2005年にRobothamらによってカシューナッツアレルギーの原因アレルゲンであることが示されました。Ana o 3は熱や消化に対して高い耐性を示すため、全身症状の発現に強く関与しています。血液検査でカシューナッツ特異的IgEとともにAna o 3が陽性の人は、カシューナッツを食べて症状が出る可能性が高い人と判断されます。

参考)ナッツアレルギー


興味深いことに、Ana o 3に対する高親和性のIgE抗体が、他の2つの主要アレルゲン(Ana o 1とAna o 2)とも交差反応を示すことが研究で明らかになっています。Ana o 1-3間のIgE交差抑制の中央値は84-99%と非常に高く、この広範な交差反応性がカシューナッツの高いアレルゲン性を説明する可能性があります。ヘーゼルナッツのレグミンであるCor a 9も、Ana o 1、2、3のIgE結合を75%、56%、48%抑制することが示されており、異なる木の実間での交差反応性も認められています。

参考)JIACI 揃 Journal of Investigati…

カシューナッツアレルギーの検査と診断方法

カシューナッツアレルギーの診断には、従来から使用されているカシューナッツ特異的IgE抗体検査(f202カシューナッツ)が用いられています。この検査は臨床的感度は十分であるものの、臨床的特異度が十分ではないことが指摘されており、検査陽性者の中にカシューナッツを摂取可能な患者が含まれることを意味します。これは、他の食品にも類似したコンポーネントが含まれており広範囲な交差反応を示すものの、症状発現との関係は強くないコンポーネントにのみ感作されている患者が存在するためです。​
より精度の高い診断のために、アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査が利用可能になっています。特にAna o 3(カシューナッツ由来)の測定は、粗抽出アレルゲンよりも臨床的特異度が高く、粗抽出アレルゲンと組み合わせて測定することにより、より精度の高い診断・経口負荷試験対象者の抽出および必要最小限の原因食物の除去に寄与することが期待されています。Ana o 3は種実類の貯蔵タンパク質である2Sアルブミンに属しており、熱や消化に安定であるため、全身症状の発現に関与しています。

参考)Ana o 3(カシューナッツ由来)


木の実アレルギーは、専門の病院で詳しい血液検査をすれば、食物経口負荷試験をしなくても診断できることがあります。カシューナッツアレルギーでは、Ana o 3の特異的IgE検査が診断の特異度を向上させるため、従来の検査では偽陽性の可能性があった患者に対して、より適切な診断と除去指導が可能になっています。判定基準としては、FEIA法で0.35 UA/mL以上が陽性とされ、数値が高いほど症状が出る可能性が高まります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9020091/

カシューナッツと交差反応性を示す食品

カシューナッツは同じウルシ科に属するピスタチオと血清学的にも臨床的にも高い交差反応性を示すことが知られています。臨床研究では、カシューナッツアレルギーの83%がピスタチオアレルギーを有し、ピスタチオアレルギーの97%がカシューナッツアレルギーであったと報告されています。この強い交差反応性は、アレルギー症状の誘発に強く関与する2Sアルブミンのアミノ酸配列の同一性が高いことに起因します。そのため、どちらかにアレルギーがあれば、両者を避けることが推奨されています。

参考)種実(ナッツ)類アレルギー|食物アレルギー研究会


一方で、その他のナッツ間の臨床的な交差抗原性は比較的低いことが示されています。例えば、クルミとペカンナッツの間には強い交差反応性がありますが(クルミアレルギーの75%はペカンで症状が誘発される)、カシューナッツとこれらの間の交差反応性は限定的です。また、カシューナッツアレルギー患者は、同じウルシ科に属するマンゴー、ピンクペッパー、スマックなどとも交差反応を示す可能性があることが研究で示唆されています。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/72/10/72_1205/_pdf/-char/ja


興味深いことに、カシューナッツとヘーゼルナッツの間にも部分的な交差反応性が認められています。ヘーゼルナッツのレグミン(Cor a 9)がカシューナッツのAna o 1、2、3のIgE結合を抑制することが確認されていますが、ビシリンや2Sアルブミン間では交差反応性は観察されていません。ピーナッツのAra h 2、クルミのJug r 1、カシューナッツのAna o 3は同じ2Sアルブミンに属しており、これらの間でも交差反応性が報告されています。

参考)NO.28 木の実類のアレルギーにご注意を!|えびしまこども…

カシューナッツが含まれる加工食品と表示義務

カシューナッツは、ケーキや焼き菓子といった洋菓子のトッピングで多く利用されています。最も注意が必要なのが、揚げ物用の油やパンのクリームといった液体やペーストに混ざっているものです。コクを出すためにスープやカレーのルウ、ラーメンスープにカシューナッツを入れている飲食店も存在します。カシューナッツはチョコレートスプレッドの原料としても使用されることがあり、加工食品における用途は多岐にわたります。

参考)【2022年版】カシューナッツアレルギーとは?症状や注意すべ…


現在、カシューナッツは「特定原材料に準ずるもの」として食品への表示が推奨されていますが、あくまで推奨であり、表示が義務付けられているわけではありません。そのため、商品によってはカシューナッツの表示がなくても、実際には原材料に含まれている可能性も十分に考えられます。原材料の表示がない加工食品を選ぶ際や外食をする際は、ナッツ類が含まれているかどうか、製造元のメーカーや飲食店へ確認した方が安全です。​
食品製造現場では、製造ライン間の交差汚染により意図しない混入のリスクも存在します。特にナッツ類やピーナッツを扱う工場では、製品間でのアレルゲンの混入を防ぐための厳格な管理が求められています。2025年度中にカシューナッツが特定原材料(表示義務品目)に追加されることで、原則全ての加工食品にカシューナッツの表示が必要となり、アレルギー患者の選択肢の幅が広がることが期待されています。表示義務化により、食品事業者はカシューナッツを含む全ての製品について、原材料欄への記載が求められるようになります。

参考)https://www.mdpi.com/2304-8158/11/5/728/pdf

カシューナッツアレルギーの自然寛解と治療の可能性

一般的にナッツアレルギーは生涯にわたって持続すると考えられていますが、興味深いことにカシューナッツアレルギーの自然寛解例が報告されています。2024年に発表された研究では、カシューナッツによる重度のアナフィラキシーを経験した5人の小児が、平均2.4年(範囲1-4年)の経過観察後に、皮膚プリックテスト(SPT)とカシューナッツ特異的IgEが陰性となり、Ana o 3に対する特異的IgEも陰性化したことが報告されています。4人の患者は累積7800mgのカシューナッツによる経口食物負荷試験に成功し、1人はピスタチオの負荷試験成功後に自宅でカシューナッツを1個摂取して症状が出ませんでした。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11321836/


現在、カシューナッツアレルギーに対する確立された治療法は存在せず、患者は制限的な食事療法を遵守し、自己注射型エピネフリンを携帯する必要があります。しかし、経口免疫療法(OIT)に関する研究が進められています。ピーナッツアレルギーに対して煮沸したピーナッツを用いた経口免疫療法(BOPI試験)が成功したことを受け、カシューナッツとピスタチオについても、水熱処理(1-4時間の浸漬と煮沸)によるアレルゲン性の低減が研究されています。この処理により、アレルゲンの力価が低下した修正アレルゲンへの段階的な曝露を行う「アレルゲンラダー」の開発基盤が提供されています。

参考)https://www.mdpi.com/2304-8158/13/21/3440


経口免疫療法は治療法としてはまだ確立されておらず、必ずしも全員が食べられるようになるとは限らないことを理解する必要があります。しかし、少数ではあるものの自然寛解の報告があることから、カシューナッツアレルギーの自然経過についてさらなる研究が必要とされています。現時点では、カシューナッツアレルギー患者に対して生涯にわたる回避が推奨されていますが、将来的には経口免疫療法やアレルゲン性を低減した食品を用いた治療法が選択肢として確立される可能性があります。

参考)https://dietfactor.com.pk/index.php/df/article/view/69


食物アレルギー研究会「種実(ナッツ)類アレルギー」- ナッツアレルギーの診断と管理に関する詳細なガイドライン
日本食品分析センター「アレルギー表示制度の改正とカシューナッツ表示義務化」- カシューナッツ表示義務化の背景と経緯についての解説
PMC「カシューナッツアレルゲンのIgE交差反応性」- カシューナッツとピスタチオ、マンゴーなどとの交差反応性に関する学術論文