ARBの強さ一覧と比較
ARBの強さ一覧と降圧効果の比較
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、高血圧治療の第一選択薬として広く使用されていますが、その降圧効果は薬剤によって異なります 。一般的に、国内で承認されている用量における降圧効果の強さは、以下の順とされています 。
アジルサルタン > オルメサルタン > テルミサルタン > カンデサルタン > イルベサルタン > バルサルタン > ロサルタン
この序列は、複数の臨床研究やメタ解析によって支持されています。特にアジルサルタンは、他のARBと比較して有意に高い降圧効果を示すことが報告されています 。例えば、アジルサルタンとカンデサルタンを比較した臨床試験では、アジルサルタンが収縮期血圧をより強力に低下させることが示されました 。また、オルメサルタンもロサルタンやバルサルタンよりも優れた降圧効果を持つことが報告されています 。
以下に、各ARBの一般的な特徴と強さをまとめた表を示します。実臨床における薬剤選択の参考にしてください。
| 降圧効果の強さ | 一般名(製品名) | 特徴 |
|---|---|---|
| 非常に強い | アジルサルタン(アジルバ) | 最も強力な降圧効果を持つとされる。尿酸排泄促進作用も併せ持つ 。 |
| 強い | オルメサルタン(オルメテック) | 強力な降圧効果を持ち、早期から効果が発現する 。 |
| 中程度 | テルミサルタン(ミカルディス) | 半減期が長く、24時間にわたり安定した降圧効果を示す。PPARγ活性化作用による代謝改善効果も期待される 。 |
| カンデサルタン(ブロプレス) | 心不全や腎保護に関するエビデンスが豊富。AT1受容体への結合が強固 。 | |
| 比較的穏やか | イルベサルタン(アバプロ、イルベタン) | 腎保護効果のエビデンスがあり、特に糖尿病性腎症の患者に適する 。 |
| バルサルタン(ディオバン) | 心不全に対する大規模臨床試験(Val-HeFT)のエビデンスがある 。 | |
| 穏やか | ロサルタン(ニューロタン) | 最もマイルドな降圧効果。世界初のARBであり、尿酸排泄促進作用を持つ 。 |
ただし、ARBの降圧効果は用量依存的に増強される一方で、副作用の頻度は大きく増加しないことが特徴です 。そのため、単剤で効果不十分な場合には、安易な併用よりも高用量への増量を検討する価値があります。特に心血管イベントの抑制においては、低用量よりも高用量のARBが有効であったとの報告もあります 。
下記の参考リンクでは、循環器専門医の視点から見た各ARBの強さの目安や使い分けについて、さらに詳しく解説されています。
参考:循環器医から見た高血圧薬の選び方
https://iida-naika.com/blog/hypertension-medication/
ARBの作用機序と7つの種類の特徴
ARBは、血圧調整に重要な役割を果たすレニン・アンジオテンシン(RA)系において、最終産物であるアンジオテンシンⅡ(AⅡ)の作用をブロックすることで降圧効果を発揮します 。
具体的には、AⅡが血管や副腎などに存在するAT1受容体に結合するのを競合的に阻害します。AT1受容体はAⅡが結合すると、血管収縮、交感神経活性化、アルドステロン分泌促進などを引き起こし、血圧を上昇させます。ARBは、このAT1受容体をピンポイントで遮断することで、AⅡによる昇圧作用を抑制し、血管を拡張させて血圧を低下させるのです 。
ACE阻害薬も同様にRA系を抑制する薬剤ですが、AⅡ産生を抑制する作用機序のため、咳の原因となるブラジキニンの分解も抑制してしまいます 。一方、ARBはブラジキニン代謝に影響を与えないため、空咳の副作用が極めて少ないという大きなメリットがあります 。
現在、日本国内では以下の7種類のARBが使用されています 。
- ロサルタンカリウム(ニューロタン®):世界初のARB。降圧作用は穏やかですが、尿酸トランスポーター(URAT1)を阻害し、血清尿酸値を低下させる作用を併せ持ちます 。高血圧合併高尿酸血症患者に適しています。
- バルサルタン(ディオバン®):心不全患者を対象とした大規模臨床試験のエビデンスが豊富で、心保護効果が確立されています 。
- カンデサルタン シレキセチル(ブロプレス®):AT1受容体への結合が非常に強固で、持続的な降圧効果が期待できます。心不全や蛋白尿を伴う腎症にも適応があります 。
- テルミサルタン(ミカルディス®):半減期が約24時間と最も長く、1日1回投与で安定した血圧コントロールが可能です。後述するPPARγ活性化作用を持ちます 。
- オルメサルタン メドキソミル(オルメテック®):強力な降圧効果を示します。服用初期に下痢を起こすことがあるため注意が必要です 。
- イルベサルタン(アバプロ®/イルベタン®):2型糖尿病性腎症における腎保護効果のエビデンスがあります 。テルミサルタンと同様にPPARγ活性化作用も報告されています。
- アジルサルタン(アジルバ®):最も新しく、最も強力な降圧作用を持つARBです。ロサルタンと同様に尿酸排泄促進作用も有します 。
下記の資料では、ARBの作用機序が図解で分かりやすく説明されています。
参考:ACE 阻害薬と ARB について
https://kirishima-mc.jp/data/wp-content/uploads/2023/04/4fec1d886fad5de4fc9ef72f0878bec8.pdf
ARBの副作用と安全な使い分け
ARBは忍容性が非常に高く、副作用が少ない薬剤クラスとして知られています 。最も一般的な副作用は、降圧作用に起因するめまいやふらつきですが、その頻度は2%程度と低く報告されています 。
しかし、稀ながら注意すべき重大な副作用も存在します。
- 血管浮腫:ACE阻害薬より頻度は低いものの、顔面、口唇、舌、喉の腫れを特徴とする血管浮腫が報告されています。気道を閉塞させ、生命を脅かす可能性があるため、初期症状に注意が必要です。
- 高カリウム血症:アルドステロン分泌抑制作用により、血清カリウム値が上昇することがあります。腎機能障害のある患者や、カリウム保持性利尿薬、ACE阻害薬を併用している患者では特に注意が必要です 。
- 腎機能障害:腎血流量が低下している患者(特に両側性腎動脈狭窄症例)では、急性腎不全を誘発するリスクがあります。治療初期には腎機能(クレアチニン、eGFR)と血清カリウム値をモニタリングすることが重要です。
- ショック・失神・意識消失:急激な血圧低下により、ショックや意識消失をきたすことがあります。特に利尿薬を併用している場合や、厳格な減塩療法中の患者で注意が必要です 。
これらの副作用リスクを考慮し、患者背景に応じた適切な「使い分け」が求められます。
✅ 高尿酸血症を合併する高血圧
尿酸排泄促進作用を持つロサルタンやアジルサルタンが第一選択となり得ます 。
✅ 糖尿病やメタボリックシンドロームを合併する高血圧
インスリン抵抗性改善作用が期待できるPPARγ活性化能を持つテルミサルタンやイルベサルタンが合理的な選択です 。
✅ 心不全を合併する高血圧
大規模臨床試験で生命予後改善効果が証明されているカンデサルタン、バルサルタン、ロサルタンが推奨されます 。
✅ CKD(慢性腎臓病)を合併する高血圧
イルベサルタンやロサルタンは、糖尿病性腎症の進展抑制に関するエビデンスがあります 。蛋白尿減少効果も期待できます。
禁忌としては、妊婦または妊娠している可能性のある女性、アリスキレンを投与中の糖尿病患者が挙げられます。安全な薬物治療のためにも、添付文書の確認は不可欠です。
ARBの降圧効果以外の多面的効果(臓器保護・尿酸排泄)
ARBの魅力は、優れた降圧効果だけでなく、血圧低下とは独立した「多面的効果(Pleiotropic effects)」にあります 。これらは、AT1受容体ブロックを介した臓器保護作用や、特定の薬剤が持つユニークな作用に分けられます。
1. 心血管・腎臓保護作用 💖
ARBはAⅡによる心筋細胞の肥大、線維化、リモデリングを抑制し、心保護的に作用します 。また、腎臓においても、糸球体内圧を低下させ、蛋白尿を減少させ、腎線維化の進展を抑制することで腎保護効果を発揮します。これらの効果は、単なる降圧作用だけでは説明できない、ARBのクラスエフェクトと考えられています。
Messerli FH, et al. The Pleiotropic Effects of Angiotensin Receptor Blockers. Am J Hypertens. 2006.
2. 代謝改善作用(PPARγ活性化) 🍬
一部のARB、特にテルミサルタンとイルベサルタンは、核内受容体であるPPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)を活性化する作用を持ちます 。PPARγは脂肪細胞の分化や糖・脂質代謝に関与しており、その活性化はインスリン抵抗性の改善につながります。このため、これらのARBはメタボリックシンドロームや糖尿病を合併した高血圧患者において、特に有益である可能性があります。
二階堂雅彦, 他. ARB/ACE阻害薬. 日本臨床麻酔学会誌. 2020.
3. 尿酸排泄促進作用(URAT1阻害) 🦵
ロサルタンとその活性代謝物、そしてアジルサルタンは、腎臓の近位尿細管に存在する尿酸トランスポーター1(URAT1)を阻害する作用を持っています 。これにより尿酸の再吸収が抑制され、尿中への尿酸排泄が促進されます。高血圧患者は高尿酸血症を合併することが多いため、この作用は大きな利点となります。降圧治療と同時に血清尿酸値のコントロールが期待できるため、痛風の既往がある患者にも選択しやすい薬剤です。
4. 脳卒中予防に関する新たな視点(HMGB1/RAGE軸への影響) 🧠
最近の研究では、テルミサルタン、イルベサルタン、カンデサルタンが、炎症性メディエーターであるHMGB1とその受容体RAGEの発現を抑制する可能性が示唆されています 。このHMGB1/RAGE軸は、動脈硬化や脳卒中の病態に関与すると考えられており、これらのARBによる抑制効果が、脳卒中予防における付加的なベネフィットとなる可能性が期待されています。これは、ARBの多面的な効果の中でも特に注目される、比較的新しい知見です。
Mori, Y., et al. Potential of the Angiotensin Receptor Blockers (ARBs) Telmisartan, Irbesartan, and Candesartan for Inhibiting the HMGB1/RAGE Axis in Prevention and Acute Treatment of Stroke. Int J Mol Sci. 2013.
このように、ARBを選択する際には、降圧効果の強さだけでなく、患者一人ひとりの合併症や病態に合わせて、これらの多面的な効果を考慮することが、より個別化された最適な治療につながります。
