ARB薬の種類と効果:降圧から心腎保護まで完全ガイド

ARB薬の基本知識と臨床応用

ARB薬の概要
💊

基本作用

アンジオテンシンII受容体を拮抗し血圧を下げる

🫀

臓器保護

心臓・腎臓への保護作用を発揮

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第一選択

高血圧治療ガイドラインで推奨される基本薬

ARB薬の作用機序とレニン・アンジオテンシン系の役割

ARB薬(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)は、レニン・アンジオテンシンアルドステロン系(RAAS)を阻害することで降圧効果を発揮します。

レニン・アンジオテンシン系は以下の流れで血圧上昇に関与します。

  • 腎臓からレニンが分泌される
  • アンジオテンシノーゲンがアンジオテンシンIに変換
  • ACE(アンジオテンシン変換酵素)によりアンジオテンシンIIが産生
  • アンジオテンシンIIがAT1受容体に結合し血管収縮・アルドステロン分泌を促進

ARB薬は、アンジオテンシンIIがAT1受容体に結合することを特異的に阻害します。この作用により、血管平滑筋の収縮を抑制し、副腎皮質からのアルドステロン分泌を減少させることで降圧効果を示します。

興味深いことに、一部のARB薬にはインバースアゴニスト作用があることが明らかになっています。これは、リガンド(アンジオテンシンII)が存在しなくても自律的に活性化するAT1受容体の働きを抑制する作用で、バルサルタンカンデサルタンオルメサルタンイルベサルタンが該当します。

ARB薬の種類と各薬剤の特徴比較

現在、日本では7種類のARB薬が使用可能です。各薬剤には独自の特徴があり、患者の状態に応じて選択する必要があります。

主要なARB薬の一覧:

一般名 商品名 特徴
ロサルタン ニューロタン 世界初のARB、腎保護作用が証明済み、尿酸低下作用
カンデサルタン ブロプレス 日本製、糖尿病の新規発症予防効果
バルサルタン ディオバン インバースアゴニスト作用を有する
テルミサルタン ミカルディス 唯一の3種配合剤(CCB+利尿剤)が存在
オルメサルタン オルメテック 早期かつ強力な降圧効果、アルブミン尿抑制
イルベサルタン アバプロ/イルベタン 比較的マイルドな降圧効果、ロサルタン様作用
アジルサルタン アジルバ 最新のARB、最も強力な降圧効果

特筆すべき点として、ロサルタンとイルベサルタンには尿酸低下作用があり、高尿酸血症を合併した高血圧患者に適しています。また、テルミサルタンには脂質代謝改善作用も報告されており、代謝性疾患を合併した患者への使用が推奨されます。

ARB薬の降圧効果と心腎保護作用のメカニズム

ARB薬の効果は単純な降圧作用にとどまりません。臓器保護作用という重要な効果があり、これがARB薬が第一選択薬として位置づけられる理由の一つです。

心保護作用のメカニズム:

  • 左室リモデリングの抑制
  • 心筋線維化の予防
  • 心房細動発症の抑制
  • 心不全の進行抑制

心不全治療においては、ARB薬は「基本中の基本薬」とされており、他の心不全治療薬の有効性はACE阻害薬またはARB薬が使用されている前提で証明されています。HFrEF(左室駆出率の低下した心不全)患者では、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)と併せて基本3剤として使用されます。

腎保護作用のメカニズム:

  • 糸球体内圧の低下
  • 尿蛋白・アルブミン尿の減少
  • 糸球体硬化の抑制
  • メサンギウム細胞増殖の抑制

ARB薬は輸出細動脈を輸入細動脈よりも拡張させる作用があり、これにより糸球体内圧を減少させて腎保護作用を発揮します。ただし、この作用により急性腎障害のリスクも存在するため、腎機能の定期的な監視が必要です。

ARB薬の副作用と注意すべき患者背景

ARB薬は比較的安全性の高い薬剤ですが、いくつかの重要な副作用と注意点があります。

主要な副作用:

  • 高カリウム血症 📈
  • 発生機序:アルドステロン分泌抑制によるカリウム排出低下
  • 症状:しびれ、脱力感、不整脈
  • 対策:定期的な血清カリウム値の測定
  • 低血圧 📉
  • 高リスク患者:高齢者、利尿薬併用患者、脱水状態の患者
  • 症状:めまい、ふらつき、失神
  • 対策:少量から開始し徐々に増量
  • 腎機能低下 🫘
  • 高リスク患者:既存の腎疾患、両側腎動脈狭窄
  • 機序:糸球体濾過圧の過度な低下
  • 対策:血清クレアチニン値の定期的監視

禁忌・慎重投与患者:

分類 理由 対応
妊婦 胎児への悪影響 絶対禁忌
重症肝障害 薬物代謝の低下 慎重投与
両側腎動脈狭窄 急性腎不全のリスク 原則禁忌
アリスキレン併用の糖尿病 相互作用による腎障害 禁忌

ACE阻害薬と異なり、ARB薬ではブラジキニンの分解阻止作用がないため、空咳や血管神経浮腫の発生頻度が低いことが利点です。

ARB薬とACE阻害薬の使い分けと配合剤の活用戦略

ARB薬とACE阻害薬は同じRAAS阻害薬ですが、使い分けには明確な指針があります。

ARB薬とACE阻害薬の比較:

項目 ARB薬 ACE阻害薬
作用点 AT1受容体拮抗 ACE阻害
空咳の頻度 低い(1-2%) 高い(10-20%)
血管浮腫 時々発生
心筋梗塞抑制 同等 やや優位
エビデンス量 豊富 より豊富

使い分けの指針:

  • ARB薬が第一選択 → ACE阻害薬で空咳が出現した患者
  • ACE阻害薬が第一選択 → 心筋梗塞の既往がある患者(より豊富なエビデンス)
  • どちらでも可 → 高血圧のみの患者

配合剤の活用戦略:

現在、以下の配合剤が利用可能です。

ARB + Ca拮抗薬配合剤:

  • エックスフォージ(バルサルタン + アムロジピン
  • レザルタス(オルメサルタン + アゼルニジピン
  • ユニシア(カンデサルタン + アムロジピン)
  • ミカムロ(テルミサルタン + アムロジピン)
  • アイミクス(イルベサルタン + アムロジピン)

ARB + 利尿薬配合剤:

配合剤の利点は服薬アドヒアランスの向上にありますが、用量調整の柔軟性が制限される点に注意が必要です。また、ARB薬は利尿薬との併用により代償的なレニン・アンジオテンシン系の亢進を抑制するため、理論的にも合理的な組み合わせです。

ARB薬の効果判定は投与開始から4-8週後に行うことが推奨されており、即効性を期待するものではない点も重要な臨床上の注意点です。