ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の種類と作用機序と効果

ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の種類と特徴

 

ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の基本情報
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降圧作用

アンジオテンシンIIの血管収縮作用を阻害し、血管を拡張させることで血圧を下げます

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臓器保護作用

心臓、腎臓、血管などの臓器を保護する作用があり、糖尿病性腎症や心不全の治療にも有効です

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副作用の少なさ

ACE阻害薬と比較して空咳などの副作用が少なく、忍容性に優れています

 

高血圧治療において重要な位置を占めるARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)は、Ca拮抗薬に次いで処方頻度の高い降圧薬です。降圧効果だけでなく、様々な臓器保護作用を持つことから、特に心疾患や腎疾患を合併する高血圧患者さんに対して第一選択薬として用いられることが多くなっています。

ARBは1970年代に開発が始まり、ACE阻害薬の副作用である空咳を改善する目的で研究が進められました。現在では、その優れた有効性と忍容性から、世界中で広く使用されています。日本の高血圧治療ガイドライン2019においても、ARBはCa拮抗薬、ACE阻害薬、利尿薬とともに高血圧治療の第一選択薬として位置づけられています。

ARBの種類と先発医薬品・後発医薬品の一覧

現在、日本で使用されているARBには7種類あります。それぞれ特徴が異なるため、患者さんの状態に合わせて選択されています。以下に主なARBの種類と商品名を一覧にまとめました。

【先発医薬品】

  • ロサルタン(ニューロタン)
  • カンデサルタン(ブロプレス)
  • バルサルタン(ディオバン)
  • テルミサルタン(ミカルディス)
  • オルメサルタン(オルメテック)
  • イルベサルタン(アバプロ、イルベタン)
  • アジルサルタン(アジルバ

【後発医薬品(ジェネリック医薬品)】

  • ロサルタンK
  • カンデサルタン
  • バルサルタン
  • テルミサルタン
  • オルメサルタン
  • イルベサルタン

各ARBは化学構造や薬物動態が異なるため、効果の発現時間や持続時間、体内での代謝経路などに違いがあります。例えば、テルミサルタンは半減期が24時間と長く、1日1回の服用で安定した降圧効果が得られます。一方、ロサルタンは活性代謝物(EXP 3174)に変換されて作用するという特徴があります。

ARBの作用機序とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

ARBの作用を理解するためには、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)について知る必要があります。RAASは血圧調節に重要な役割を果たしているホルモン系です。

RAASの流れは以下のようになります:

  1. 腎臓の傍糸球体細胞からレニンが分泌される
  2. レニンが肝臓で作られるアンジオテンシノーゲンに作用し、アンジオテンシンIを生成
  3. アンジオテンシン変換酵素(ACE)がアンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換
  4. アンジオテンシンIIがアンジオテンシンII受容体(AT1受容体)に結合
  5. 血管収縮、アルドステロン分泌促進、ナトリウム再吸収などが起こり、血圧上昇

ARBはこの過程の最終段階で、アンジオテンシンIIがAT1受容体に結合するのを阻害します。これにより、アンジオテンシンIIの血管収縮作用や水・ナトリウム貯留作用が抑制され、血圧が低下します。

ACE阻害薬がアンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害するのに対し、ARBはアンジオテンシンII自体の作用を直接ブロックします。重要な点として、アンジオテンシンIIの生成はACE以外の経路(キマーゼなど)でも行われますが、ARBはこれらの経路で生成されたアンジオテンシンIIの作用も阻害できるという利点があります。

ARBの適応症と臓器保護作用について

ARBは単なる降圧薬としてだけでなく、様々な臓器保護作用を持つことが臨床研究で示されています。主な適応症と臓器保護作用は以下の通りです:

  1. 高血圧症:すべてのARBに共通する基本的な適応症です。
  2. 糖尿病性腎症:ロサルタン(ニューロタン)は「高血圧及び尿蛋白を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症」に適応があります。ARBは糸球体内圧を低下させ、尿タンパクを減少させることで腎機能の悪化を防ぎます。
  3. 心不全:カンデサルタン(ブロプレス)は「慢性心不全(軽症~中等症、ACE阻害薬の投与が適切でない場合)」に適応があります。心臓のリモデリング(肥大や線維化)を抑制し、心不全の進行を遅らせます。
  4. 腎実質性高血圧:カンデサルタン(ブロプレス)に適応があります。

その他、臨床研究では以下のような臓器保護作用が報告されています:

  • 心保護作用:心筋肥大の抑制、心筋線維化の抑制
  • 血管保護作用:動脈硬化の抑制、血管内皮機能の改善
  • 脳保護作用:脳卒中予防、認知機能低下の抑制
  • インスリン感受性改善作用:糖代謝の改善

これらの臓器保護作用は、単に血圧を下げるだけでなく、アンジオテンシンIIの組織レベルでの作用を阻害することで得られると考えられています。

ARBとACE阻害薬の違いと使い分け

ARBとACE阻害薬は、どちらもレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に作用する降圧薬ですが、作用機序や副作用プロファイルに違いがあります。

作用機序の違い

  • ACE阻害薬:アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害
  • ARB:アンジオテンシンII受容体(AT1受容体)へのアンジオテンシンIIの結合を阻害

副作用の違い

  • ACE阻害薬:空咳(15-20%)、血管浮腫(稀だが重篤)、味覚障害などが特徴的
  • ARB:ACE阻害薬で見られる空咳がほとんどなく、全般的に忍容性が高い

使い分けのポイント

  1. ACE阻害薬で空咳が出現した患者→ARBへの切り替えを検討
  2. 心筋梗塞後の左室リモデリング抑制→ACE阻害薬の方がエビデンスが豊富
  3. 糖尿病性腎症→ARB、ACE阻害薬ともに有効
  4. 心不全→両剤とも有効だが、忍容性ではARBが優れる

両薬剤の併用は、高カリウム血症腎機能障害のリスクが高まるため、一般的には推奨されていません。特に糖尿病患者でのアリスキレン(直接的レニン阻害薬)との併用は禁忌とされています。

ARBの副作用と禁忌:医療現場での安全な使用のために

ARBは一般的に忍容性の高い薬剤ですが、いくつかの副作用や注意すべき禁忌があります。医療現場で安全に使用するために、以下の点に注意が必要です。

主な副作用

  • 高カリウム血症:特に腎機能障害患者や高齢者、カリウム保持性利尿薬併用例で注意
  • 腎機能低下:両側腎動脈狭窄患者や脱水状態の患者で注意
  • 血圧低下:特に利尿薬併用例や高齢者で注意
  • めまい、ふらつき:血圧低下に伴う症状
  • 肝機能障害:稀だが発生することがある

禁忌

  1. 妊婦・妊娠の可能性のある女性:胎児の腎機能障害、頭蓋形成不全、羊水過少症などのリスクがあり、妊娠が判明した場合は直ちに投与を中止する必要があります。
  2. 授乳婦:乳汁中への移行が報告されています。
  3. 重症肝障害患者:肝臓での代謝に影響を与える可能性があります。
  4. アリスキレン投与中の糖尿病患者:高カリウム血症、低血圧、腎機能障害のリスクが高まります。

使用上の注意点

  • 腎機能、電解質(特にカリウム)のモニタリングが重要
  • 高齢者では少量から開始し、慎重に増量
  • 脱水状態(下痢、嘔吐、発熱など)では一時的に休薬を検討
  • 手術前24時間は休薬を検討(麻酔による血圧低下のリスク)

ARBは副作用の少ない薬剤ですが、適切な患者選択とモニタリングにより、さらに安全に使用することができます。特に腎機能障害や高カリウム血症のリスクがある患者では、定期的な血液検査による評価が重要です。

以上、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の種類、作用機序、適応症、副作用などについて解説しました。ARBは優れた降圧効果と臓器保護作用を持ち、忍容性も高いことから、高血圧治療の重要な選択肢となっています。患者さんの状態に合わせた適切な薬剤選択と、副作用に注意した慎重な使用が重要です。

日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2019の詳細情報
日本腎臓学会による腎疾患患者における降圧薬選択のガイドライン