アプレピタントの効果と副作用
アプレピタント用量設定と制吐効果
シスプラチンなど高度催吐性レジメンでは「125 mg→80 mg×2日」の3日間投与が国際標準。国内第Ⅱ相試験では全期間の完全制御率70.5%とプラセボ群50.3%を大きく上回った[PMDA承認審査資料]。
●急性期(0–24h)は5-HT₃拮抗薬+デキサメタゾン併用で相乗効果。
●遅発期(24–120h)はNK1拮抗薬の真価が発揮され、嘔吐抑制率が約20%向上。
●延長投与については5日間超の有効性が未確立だが、BEP療法での解析では5日間投与により患者QOLが有意改善との報告もある[学会抄録]。
表1は催吐リスク別推奨レジメン。
リスク | アプレピタント投与 | 併用薬 |
---|---|---|
高度 | 125 mg + 80 mg×2日 | 5-HT₃拮抗薬+Dex |
中等度 | 80 mg×2日 | 5-HT₃拮抗薬±Dex |
軽度 | 原則不要 | Dex単剤など |
アプレピタント作用機序とNK1受容体
本剤は中枢および末梢のサブスタンスP(NK1)受容体を選択的に遮断し、嘔吐反射経路を根本抑制する。
・サブスタンスPは延髄弧束核で嘔吐中枢を活性化、NK1遮断で信号を遮断。
・血液脳関門通過性が高く、脳内受容体占有率は投与4hで>90%に達するとのPET解析[薬効薬理資料]。
・5-HT₃拮抗薬と異なり遅発期のセロトニン枯渇時も効果を維持。
意外なトピックとして、サブスタンスPは痛覚やうつ症状にも関与し、アプレピタントは難治性うつ病の治験で一部効果を示したがCYP3A4誘導の副作用で開発中止となった経緯がある。
アプレピタント副作用一覧と対策
市販後調査で副作用発現率23.3%(n=150)。主なものは以下。
・しゃっくり10.0%
・AST/ALT上昇4.0% / 2.7%
・便秘・下痢 各2.0%
・皮膚粘膜眼症候群、穿孔性潰瘍、アナフィラキシーは頻度不明ながら重篤。
機序的にはNK1受容体が延髄横隔神経経路にも存在し、興奮抑制バランスが変調→しゃっくり誘発説が有力。
対策:
●しゃっくりはバクロフェン5 mg内服で改善報告あり。
●肝酵素上昇はCYP3A4競合阻害が一因、ピトバスタチンなど代替経路薬へ切替を検討。
●重篤皮膚障害は早期の紅斑・眼充血で直ちに中止。
アプレピタント相互作用と禁忌薬
CYP3A4強力阻害薬(イトラコナゾールなど)併用でAUC↑、逆にリファンピシン併用でAUC↓約11%。
分類 | 禁忌/注意 | 臨床影響 |
---|---|---|
カルシニューリン阻害薬 | 注意 | 血中濃度↑→腎障害リスク |
ドセタキセル | 注意 | 好中球減少↑ |
ワルファリン | 注意 | CYP2C9誘導→INR↓ |
・デキサメタゾンはAUC2倍になるため抗がん剤当日8 mg→6 mgへ減量が標準。
・最新報告でタミバロテン併用時にQT延長例。心電図モニタリングを推奨。
アプレピタント費用対効果とQOL向上
独自視点として、FP療法延長投与の費用対効果解析ではICER=1,840,000円/QALYでわずかに一般的受容範囲内[費用対効果解析]。
●嘔吐抑制は脱水・再点滴コストを削減し、入院延長を平均0.8日短縮。
●患者報告アウトカムで「食事摂取量維持」「外来通院継続」がQOLを+0.12改善(QOLスコア0–1)。
●高リンパ球減少例では制吐達成→免疫能保持→感染対策費用も減少する可能性。
現場では「1レジメン3日分で約8,000円の上乗せ」が採算ライン。病棟薬剤師による適正使用介入で無駄投与を11%削減できた実例も報告されている。
制吐ガイドライン推奨根拠と延長投与安全性