アミノ基転移反応 ゴロ
アミノ基転移反応 ゴロでASTとALTを覚える
医療系の試験で頻出なのは、「ASTはアスパラギン酸とオキサロ酢酸」「ALTはアラニンとピルビン酸」が対応してアミノ基をやり取りする、というセット暗記です(ここが曖昧だと後続の尿素回路や糖新生で連鎖的に崩れます)。そのため、まず“対応表”を脳内に固定するのが最短ルートになります。
代表的なゴロのひとつが次です。
- 「朝起きて、ピル飲んだのにあら妊娠」:朝=アスパラギン酸、起き=オキサロ酢酸、ピル=ピルビン酸、あら妊=アラニン(AST/ALTの基質ペアをまとめて想起)
この形は、AST側(アスパラギン酸↔オキサロ酢酸)とALT側(ピルビン酸↔アラニン)が一文に同居するため、記憶のフックが作りやすいのが利点です。実際にゴロの解説として、アスパラギン酸↔オキサロ酢酸(AST)、アラニン↔ピルビン酸(ALT)、補酵素PLPが関与する可逆反応であることがまとめられています。
ただし、ゴロは“答えを出すための装置”であって“理解の代替”ではありません。臨床でAST/ALTを見るとき、単に「肝臓が悪い」ではなく、逸脱酵素としての意味、測定系の特性、補酵素状態などが絡みます。ゴロで入口を固めたら、次は「なぜ可逆で、なぜPLPが必要で、なぜ検査でズレることがあるか」へ進むと、現場で強い知識になります。
アミノ基転移反応でPLPとピリドキサールリン酸をつなぐ
アミノ基転移反応(トランスアミネーション)は、アミノ酸とα-ケト酸の間で“アミノ基だけ”を移す反応で、中心にいるのがピリドキサール5′-リン酸(PLP)です。PLPは単に「補酵素」ではなく、基質アミノ酸と共有結合性の中間体(シッフ塩基)を作り、電子の受け皿(いわゆる電子溜め)として働くことで、通常は起こりにくい結合の切断・再結合を進めます。これは、PLP酵素の反応機構の総説で、アルデヒド基にアミノ基が求核攻撃してシッフ塩基ができること、ピリジン環が“electron sink”として機能することとして説明されています。
https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2014/11/86-02-13.pdf
臨床の文脈で重要なのは、「PLPが不足すると、同じ酵素でも見かけ上の活性が変わり得る」という点です。特にALTはビタミンB6誘導体(PALP/PLP)を必要とし、PALPと結合して活性を持つホロ酵素と、結合していないアポ酵素が存在する、と整理されています。さらに国内で普及してきた測定法では、補酵素添加の有無が結果の見え方に影響することがある、と実務的に述べられています。
https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/CT_261_02.pdf
ここまでを“暗記に落とす”なら、次の1行に圧縮できます。
- PLP(ビタミンB6活性型)は「アミノ基を一時的に預かって別の分子へ渡す」ために、シッフ塩基などの中間体を作れる“化学的な手”である。
この1行が腹落ちすると、AST/ALTが単なる数値から「補酵素状態も含めた代謝の一断面」に見えてきます。
アミノ基転移反応でピルビン酸とオキサロ酢酸を整理する
試験でも臨床でも混乱が起きやすいのは、「ALT=アラニン」「AST=アスパラギン酸」までは覚えているのに、相手側のα-ケト酸が曖昧になるパターンです。ここはTCA回路・糖新生と接続して整理すると、暗記が“意味記憶”になります。
- ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):アラニンとピルビン酸のペア
- AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ):アスパラギン酸とオキサロ酢酸のペア
この対応は、ゴロサイトでも明示的にまとめられており、試験対策として非常に典型です。
臨床寄りの見方をすると、ピルビン酸は糖代謝(解糖・糖新生)の“交差点”で、オキサロ酢酸はTCA回路と糖新生の“入口”です。つまりALT/ASTは、肝細胞障害マーカーとしての顔だけでなく、エネルギー代謝の結節点に結びつく反応を担っている、という理解に変わります。さらにALTは「アラニンが血漿中で濃度が高く、肝でピルビン酸供給源となり糖新生などに利用される」という形で、アラニン-ピルビン酸軸の生理的意味も説明されています。
https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/CT_261_02.pdf
覚え方のコツとしては、機械的に2本線で対応させるより、次のように“代謝の場所”で覚える方が崩れにくいです。
- ピルビン酸:解糖の終点(=ALT側)
- オキサロ酢酸:TCAと糖新生の結節(=AST側)
ここに「ゴロ」を重ねると、思い出す経路が二重化して強固になります。
アミノ基転移反応とAST/ALTの検査の考え方
医療従事者として押さえたいのは、「AST/ALTが上がる」だけでなく、「AST/ALTが思ったより上がらない」「ALTだけ低すぎる」など、臨床像と合わない場面の扱いです。特にALTには“測定系×補酵素”という落とし穴があり得ます。
実務的なポイントを、現場で迷いやすい順に並べます。
- ✅ ALTにはホロ酵素(PALP結合)とアポ酵素(未結合)があり、測定法によってはホロ酵素中心に見えることがある。https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/CT_261_02.pdf
- ✅ PALP不足(ビタミンB6不足・欠乏など)でアポ酵素が相対的に増えると、見かけ上ALTが低く出る可能性がある。https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/CT_261_02.pdf
- ✅ 測定法の違いとして、補酵素PALPを試薬に添加しない条件だと、アポ酵素を拾えない特徴がある、と説明されています(国際標準法との比較文脈)。https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/CT_261_02.pdf
ここで重要なのは「ALT低値=良い」では必ずしもないことです。肝疾患の評価では高値に目が行きがちですが、臨床像と矛盾する場合には、補酵素状態、阻害要因、稀な分子異常など“検査学的に疑う視点”が必要になります。実際、ALT異常低値の原因としてPALP不足、尿毒症物質、免疫グロブリン結合、遺伝子変異などが整理され、解析フローまで提示されています。
https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/CT_261_02.pdf
医師・看護師・臨床検査技師で立場は違っても、共通して有用なのは次の一言です。
- 「数値が低い/高い」だけではなく、「その数値が“どう測られたか”」まで含めて解釈する。
この発想は、AST/ALTだけでなく、酵素活性測定全般のエラー回避に効きます。
アミノ基転移反応 ゴロの独自視点:副反応としてのアミノ基転移
検索上位のゴロ解説は「覚え方」に最適化されていますが、理解を一段深める“意外性”として知っておくと強いのが、PLP酵素の世界では「本来の反応とは別に、副反応としてアミノ基転移が起こり得る」という話です。つまり“アミノ基転移反応”は、AST/ALTの専売特許ではなく、PLPを使う酵素の反応設計次第で「起きてしまう」ルートにもなる、という視点です。
PLP酵素の反応機構総説では、ラセマーゼやデカルボキシラーゼなどで、本来の反応から外れて副反応としてアミノ基転移が進む現象が議論され、特に「abortive transamination(中断型のアミノ基転移)」という言葉で整理されています。さらに、デカルボキシラーゼでは副反応としてのアミノ基転移が一定頻度で起こり得ることが述べられています。
https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2014/11/86-02-13.pdf
この視点が臨床とどうつながるかというと、「PLPは万能鍵だが、万能であるがゆえに“誤作動”を防ぐ制御が必要」という理解につながります。酵素は、立体配置(どの結合を切りやすくするか)や、プロトン移動の制御、活性部位への水の侵入制限などで“望ましくないアミノ基転移”を避ける設計をしている、という説明が展開されています。
https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2014/11/86-02-13.pdf
ゴロ暗記を超えて、「なぜPLPが必要なのか」を語れるようになると、教育(新人指導)でも研究的なディスカッションでも信頼されやすくなります。覚える順序としては、
- ①ゴロで対応を固定 → ②PLP(シッフ塩基・電子溜め)で理由を理解 → ③検査・副反応で“現場のズレ”まで扱う
この流れが、忙しい医療現場でも実装しやすいはずです。
(PLP酵素の反応機構と、副反応としてのアミノ基転移の議論の根拠)
https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2014/11/86-02-13.pdf
(ALT測定とPALP/アポ酵素・ホロ酵素、ALT異常低値の整理:検査現場での参考)