α遮断薬 一覧と作用機序及び副作用の特徴

α遮断薬 一覧と特徴

α遮断薬の基本情報
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作用機序

交感神経α受容体を遮断し、血管拡張作用により血圧を低下させます

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主な適応症

高血圧症、前立腺肥大症に伴う排尿障害など

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注意すべき副作用

起立性低血圧、めまい、頭痛、動悸など

α遮断薬は交感神経α受容体を遮断することで血管を拡張させ、血圧を下げる薬剤です。また、前立腺や膀胱の平滑筋に存在するα受容体にも作用するため、前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療にも用いられています。本記事では、α遮断薬の種類や特徴、作用機序、適応症、副作用などについて詳しく解説します。

α遮断薬の種類と商品名一覧

α遮断薬は大きく分けて「非選択的α遮断薬」と「選択的α1遮断薬」に分類されます。臨床で使用されている主なα遮断薬を以下に一覧でまとめました。

【先発医薬品】

分類 一般名 商品名 規格・剤形 主な適応症
選択的α1遮断薬 ウラピジル エブランチル カプセル15mg/30mg 高血圧症、前立腺肥大症
テラゾシン ハイトラシン、バソメット 錠0.25mg/0.5mg/1mg 高血圧症、前立腺肥大症
ドキサゾシン カルデナリン 錠0.5mg/1mg/2mg/4mg、OD錠 高血圧症
ブナゾシン デタントール 錠0.5mg/1mg、R錠3mg/6mg 高血圧症
フェントラミン レギチーン 注射液 褐色細胞腫の診断・治療
プラゾシン ミニプレス 錠0.5mg/1mg 高血圧症、前立腺肥大症

【前立腺肥大症専用α1遮断薬(高血圧の適応なし)】

一般名 商品名 規格・剤形 特徴
タムスロシン ハルナール D錠0.1mg/0.2mg α1A選択的
ナフトピジル フリバス 錠25mg/50mg/75mg、OD錠 α1A/D選択的
シロドシン ユリーフ 錠2mg/4mg、OD錠 α1A高選択的

【後発医薬品】

各先発医薬品に対応する後発医薬品も多数あります。例えば、ドキサゾシン、メシル酸ドキサゾシンなどがあります。

これらの薬剤は、それぞれ特性が異なるため、患者の状態や合併症に応じて適切な薬剤を選択することが重要です。

α遮断薬の作用機序とα受容体サブタイプ

α遮断薬の作用を理解するためには、まずα受容体のサブタイプについて知る必要があります。

α受容体は大きく分けて「α1受容体」と「α2受容体」の2種類があります。

  • α1受容体:主に効果器側(臓器側)に存在し、血管収縮作用をはじめとする収縮反応全般に関わります
  • α2受容体:主に中枢神経系の神経終末に存在し、ノルエピネフリンの再取り込みを調節する役割を持ちます

さらに、α1受容体は以下の3つのサブタイプに分類されます。

  1. α1A受容体:主に前立腺や尿道に多く分布し、前立腺平滑筋の収縮に関与
  2. α1B受容体:主に血管平滑筋に分布し、血管収縮に関与
  3. α1D受容体:膀胱や脊髄に分布し、排尿機能に関与

α遮断薬の世代による分類。

  • 第1世代α1遮断薬:α1サブタイプ非選択的(α1A、α1B、α1Dすべてに作用)

    例:プラゾシン(ミニプレス)、テラゾシン(ハイトラシン)、ウラピジル(エブランチル)

  • 第2世代α1遮断薬:α1Aあるいはα1Dに選択性がある

    例:タムスロシン(ハルナール)、ナフトピジル(フリバス)、シロドシン(ユリーフ)

第2世代α1遮断薬は、血管収縮に関わるα1B受容体への作用が弱いため、起立性低血圧などの副作用が少ないという特徴があります。そのため、高血圧を伴わない前立腺肥大症の患者には、第2世代の薬剤が選択されることが多いです。

α遮断薬の適応症と使用上の注意点

α遮断薬は主に以下の疾患に使用されます。

  1. 高血圧症
    • 本態性高血圧症
    • 腎性高血圧症
    • 褐色細胞腫による高血圧症
  2. 前立腺疾患
    • 前立腺肥大症に伴う排尿障害
    • 神経因性膀胱に伴う排尿困難
  3. その他
    • 褐色細胞腫の診断(フェントラミン)
    • レイノー症候群
    • 末梢循環障害

使用上の注意点として、特に重要なのは「初回投与現象」です。これは初回投与時に起立性低血圧によるめまい、動悸、失神などが現れる現象で、特に高齢者では注意が必要です。そのため、α遮断薬は少量から開始し、徐々に増量することが推奨されています。

また、ALLHAT試験(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)では、α遮断薬(ドキサゾシン)使用群で心不全発症リスクが高まることが示されました。このため、心不全合併例への使用は推奨されなくなっています。

ALLHAT試験の詳細についてはこちらを参照

さらに、早朝高血圧が心疾患のリスクレベルが高いため、就寝前投与が良いとされています。

α遮断薬の主な副作用と対策

α遮断薬の主な副作用は、その薬理作用に基づくものが多く、特に血管拡張作用に関連した副作用が中心となります。

主な副作用

  • 起立性低血圧(特に初回投与時)
  • めまい・ふらつき
  • 頭痛
  • 眠気・脱力感
  • 動悸
  • 鼻閉
  • 尿失禁(特に女性)
  • 射精障害(特にα1A選択的な薬剤)

副作用への対策

  1. 初回投与現象への対策
    • 就寝前に服用する
    • 少量から開始し、徐々に増量する
    • 初回服用後は横になるよう指導する
  2. 長期使用時の副作用対策
    • 定期的な血圧測定(特に起立時)
    • 他の降圧薬との相互作用に注意
    • 高齢者では転倒リスクに注意
  3. 特殊な状況での注意
    • 白内障手術予定患者:術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)のリスクがあるため、手術前に主治医に服用を伝える
    • PDE5阻害薬(バイアグラなど)との併用:血圧低下が増強される可能性があるため注意

α遮断薬とα2作動薬の違いと臨床的意義

α受容体に作用する薬剤には、α遮断薬の他にα2作動薬もあります。これらは作用機序が異なり、臨床的な使い分けが重要です。

α2作動薬の主な薬剤

  • メチルドパ(アルドメット)
  • クロニジン(カタプレス)
  • グアナベンズ(ワイテンス)

作用機序の違い

  • α遮断薬:主に末梢のα1受容体を遮断し、血管を拡張させて血圧を下げる
  • α2作動薬:中枢神経系のα2受容体を刺激し、交感神経活動を抑制することで血圧を下げる

臨床的な使い分け

  1. α遮断薬
    • 高血圧と前立腺肥大症を合併している患者に適している
    • 末梢血管疾患を合併している患者にも有用
    • 脂質代謝への悪影響が少ない
  2. α2作動薬
    • 妊娠高血圧症候群に対してはメチルドパが第一選択
    • 離脱症状があるため、急な中止は避ける
    • 中枢性の副作用(口渇、眠気など)が多い
  3. 併用療法の可能性
    • 作用機序が異なるため、理論的には併用可能
    • しかし、過度の血圧低下のリスクがあるため、慎重な血圧モニタリングが必要

α遮断薬とα2作動薬は、それぞれ特性が異なるため、患者の状態や合併症、ライフスタイルなどを考慮して適切な薬剤を選択することが重要です。

α遮断薬の臨床的位置づけと処方のポイント

高血圧治療におけるα遮断薬の位置づけは、日本高血圧学会のガイドラインでは第一選択薬ではなく、併用薬として推奨されています。しかし、特定の患者群では有用性が高い場合があります。

α遮断薬が特に有用な患者群

  1. 高血圧と前立腺肥大症の合併患者
    • 一剤で両方の症状を改善できる利点がある
    • 特にウラピジル(エブランチル)、テラゾシン(ハイトラシン)、プラゾシン(ミニプレス)が適している
  2. 代謝異常を伴う高血圧患者
    • インスリン感受性を改善する効果がある
    • 脂質代謝への悪影響が少ない
  3. 褐色細胞腫患者
    • 特にフェントラミン(レギチーン)は診断と治療に用いられる

処方のポイント

  1. 用法・用量
    • カルデナリン(ドキサゾシン):半減期が長いため1日1回投与が可能
    • エブランチル(ウラピジル):1日2回投与が基本
    • バソメット/ハイトラシン(テラゾシン):1日2回から開始し、状態に応じて1日1回に調整
  2. 投与タイミング
    • 初回投与現象を考慮し、就寝前投与が推奨される
    • 早朝高血圧対策としても就寝前投与が有効
  3. 他剤との併用
  4. 漸増法の重要性
    • 初回投与現象を避けるため、必ず少量から開始し徐々に増量する
    • 例:ドキサゾシンの場合、0.5mgから開始し、1~2週間かけて増量

α遮断薬は、適切な患者選択と用法・用量の調整により、その有用性を最大限に発揮できます。特に高血圧と前立腺肥大症を合併している患者では、QOL向上に大きく貢献する薬剤といえるでしょう。

日本高血圧学会ガイドライン2019の詳細はこちら

以上、α遮断薬の一覧と特徴について解説しました。α遮断薬は、その特性を理解し適切に使用することで、患者の血圧コントロールや前立腺肥大症状の改善に大きく貢献します。処方の際は、患者の状態や合併症、ライフスタイルなどを考慮し、最適な薬剤を選択することが重要です。