亜急性結膜炎 症状と原因
亜急性結膜炎 症状と経過の特徴
亜急性結膜炎という表現は、厳密な国際分類名ではなく、急性結膜炎ほどの激しさはないものの数日から数週間かけて持続・遷延する結膜炎を臨床的に指す場合が多い用語である。
典型的には、急性出血性結膜炎のような突然の強い充血や疼痛ではなく、軽度〜中等度の充血、少量の眼脂、異物感が徐々に出現し、改善も緩徐である経過をとる。
患者の主訴としては「最初は少し赤い程度だったが、1週間以上ぱっと良くならない」「痒みというよりゴロゴロ感が続く」といった訴えが多く、急性炎症に比べて受診のタイミングも遅れがちである。
亜急性経過をとる結膜炎では、視力障害は軽度であることが多いが、角膜上皮障害や上皮下混濁を伴う場合にはかすみや羞明を訴えることがあり、特にアデノウイルス関連の角結膜炎では留意が必要である。
結膜濾胞、乳頭、偽膜形成の有無は病因推定に役立ち、ウイルス性では濾胞優位、アレルギー性では乳頭優位となるが、亜急性の症例では両者が混在し判断を迷うケースも少なくない。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/conjunctivitis-7.pdf
全身症状としては、流行性角結膜炎や咽頭結膜熱の軽症例では微熱や咽頭痛がみられる一方、院内で問題となる急性出血性結膜炎では突然の結膜下出血と強い充血が目立ち、経過は比較的短い点で臨床像が異なる。
亜急性結膜炎 ウイルス性結膜炎との関連
ウイルス性結膜炎の代表である流行性角結膜炎や咽頭結膜熱は、アデノウイルスが原因となり、潜伏期は概ね1週間前後と比較的長く、症状が出そろうまでの立ち上がりが亜急性経過に見えることがある。
流行性角結膜炎では、充血・大量の眼脂・流涙に加え、耳前リンパ節腫脹や眼痛がみられ、重症例では角膜上皮下混濁が数週間〜数か月残存するため、臨床的には「急性期を超えても炎症後変化が長く続く亜急性の結膜炎」として認識されやすい。
咽頭結膜熱は発熱や咽頭炎を伴う小児例が多く、結膜症状自体は流行性角結膜炎より軽いことが多いが、解熱後も軽度の充血や異物感が続くケースがあり、この時期にも他者への感染性が完全には消失していない可能性がある。
一方、急性出血性結膜炎はエンテロウイルス70型やコクサッキーウイルスA24変異株が原因で、潜伏期は1日前後と短く、突然の充血と結膜下出血で発症し、10日前後で急速に軽快するため、経過としては典型的な「急性」の結膜炎である。
参考)ウイルス性結膜炎
興味深い点として、急性出血性結膜炎は爆発的な院内・地域流行を起こすが、流行期間は比較的短く、一方でアデノウイルス性結膜炎は流行が長期化し、同一施設内で亜急性感染がだらだら持続する形で問題化することが多い。
また、アデノウイルスはDNAウイルスで変異頻度は比較的低いとされるが、D亜属の一部血清型は院内感染を繰り返す中で異なる遺伝子型への変異が報告されており、現場では「同じような亜急性結膜炎が毎年のように続く」印象に直結している。
参考)https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=277amp;dispmid=909
亜急性結膜炎 診断 診察のポイント
亜急性結膜炎を診察する際には、発症からの経過日数、症状のピークのタイミング、改善の速度を詳細に聴取し、急性出血性結膜炎のような急峻な立ち上がりとの違いを意識して問診することが重要である。
家族内・職場内での類似症状の有無、プール・スポーツ施設の利用歴、医療機関・介護施設の勤務歴などの疫学情報は、流行性角結膜炎やプール熱、院内クラスターの早期探知に直結するため、ルーチンで確認したい。
診察では、視力、眼圧、前眼部スリットランプ所見に加え、耳前リンパ節の触診、咽頭所見、皮疹の有無など全身所見も合わせて評価し、ヘルペス性結膜炎や重篤な角膜病変を見逃さないことが求められる。
アデノウイルス迅速診断キットは、感度・特異度に限界があるものの、院内感染対策上は「陽性であれば隔離・就業制限の根拠として利用しやすい」というメリットがある一方、陰性だからといってウイルス性結膜炎を完全に否定しない姿勢が必要である。
日本眼科学会のウイルス性結膜炎ガイドラインでは、臨床的に流行性角結膜炎が疑われる場合、必ずしもウイルス学的検査を行わずに診断・対応が進められている現状が指摘されており、「臨床診断名先行」の文化がウイルス同定や疫学解析を難しくしているとされる。
診察時には、偽膜形成や角膜上皮欠損がある場合には痛みが強く患者負担も大きいため、除去や眼軟膏の選択を含めた処置方針を明確にし、ステロイド点眼の導入可否についても眼表面の状態を慎重に見極める必要がある。
亜急性結膜炎 治療と感染対策
アデノウイルス結膜炎に対しては、現時点で有効性が確立した抗ウイルス点眼薬は実用化されておらず、主な治療は二次性細菌感染の予防を目的とした抗菌薬点眼と、炎症・疼痛を和らげる対症療法が中心となる。
ステロイド点眼は角膜上皮下混濁や偽膜形成に対して有効なことが多い一方、ウイルス排泄期間を延長させる可能性も示唆されており、視機能への影響や社会的背景を考慮して使用期間・用量を慎重に設定する必要がある。
急性出血性結膜炎では経過が比較的短いため、治療の主眼は疼痛・異物感の軽減、二次感染予防に置かれ、原則として自然軽快を待つことになるが、爆発的流行を抑えるための厳格な接触予防策が不可欠である。
院内感染対策としては、患者の眼脂や涙液に含まれるウイルスが医療従事者の手指や器具、環境表面を介して拡散することが多く、十分な流水による物理的洗浄と速乾性手指消毒薬の併用が推奨される。
参考)https://www.kinpodo-pub.co.jp/kinpodowp/media/sample/sp1875-4.pdf
特に診察用スリットランプや視力検査機器、検査室のボタン・ノブなどは、清拭・消毒の頻度が不十分だと院内クラスターの温床となるため、患者ごとあるいは一定時間ごとのルール化が望ましいとされている。
医療従事者自身がアデノウイルス結膜炎を発症した場合、ガイドラインでは発症後おおむね2週間の就業制限が目安とされるが、症状経過や職種・部署によって調整が必要であり、現場では病院内の感染対策委員会との連携が重要である。
亜急性結膜炎 医療従事者への意外な落とし穴
亜急性結膜炎の患者は症状が比較的軽度であるため、「花粉症の悪化」「疲れ目」程度と自己判断し、コンタクトレンズ装用やアイメイクを継続したまま来院が遅れることがあり、結果として角膜障害や感染拡大のリスクが高まる。
医療現場では、アデノウイルス結膜炎が疑われる患者を診察した医師・看護師が、その直後に免疫抑制患者や新生児を診察するケースが実務上起こり得るが、手指衛生と器具の消毒が不十分な場合、気付かないうちにハイリスク患者にウイルスを運んでしまう可能性がある。
また、眼科以外の診療科では、軽度の結膜充血を伴う上気道感染症が「一般的なウイルス性上気道炎の一部症状」として扱われ、アデノウイルス結膜炎として隔離すべきかどうか判断に迷う場面があるため、院内でのコンサルトフローを整備しておくことが望ましい。
意外なポイントとして、急性出血性結膜炎は1969年のアポロ11号月面着陸の年に世界的な流行が初めて報告され、「アポロ病」とも呼ばれており、名称のインパクトから一般市民には強い疾患イメージが残る一方、医療従事者内ではアデノウイルス結膜炎に比べて日常診療で遭遇する頻度が低く、油断しがちな疾患でもある。
アデノウイルス8型など一部血清型は試験管内での発育が遅く、中和試験での同定が難しいため、消毒薬の効果評価もin vitroでは判定しにくいという問題があり、実際の院内環境でのウイルス残存リスクを過小評価しない姿勢が重要とされる。
さらに、角膜上皮下混濁が長期に残存する症例では、患者の「もう感染性はないのか」「視力は戻るのか」という不安が強く、適切な予後説明とフォローアップを行わないと、満足度低下や訴訟リスクにもつながり得る点は医療従事者が見落としやすい側面である。
ウイルス性結膜炎に関する日本眼科学会の詳細な解説と医療従事者向け説明例