亜鉛欠乏症による皮膚症状と画像
亜鉛欠乏症による皮膚症状の特徴的な発症部位
亜鉛欠乏症における皮膚症状は、特定の部位に好発する傾向があります。最も特徴的な発症部位は、四肢末端および開口部周辺です。具体的には、目や口の周り、耳、手足の指先に皮膚炎が生じやすく、これらの部位は外的刺激を受けやすい部分として知られています。
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開口部周辺では、眼囲、鼻孔、口囲、肛囲、外陰部などに、丘疹、小水疱、膿疱を伴う紅斑やびらん、結痂といった皮疹が現れます。これらの皮膚症状は、亜鉛が皮膚のたんぱく質合成に深く関与しているため、亜鉛不足により皮膚のターンオーバーがうまく行われなくなることが原因とされています。
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皮膚症状の形態は多様で、非特異的な紅斑性、膿疱性、びらん性、水疱性皮疹として現れることが報告されています。特に重要な点は、これらの皮疹が対称性に分布し、境界明瞭な特徴を持つことです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10258701/
亜鉛欠乏症の診断における血清亜鉛値と画像診断の役割
亜鉛欠乏症の診断は、臨床症状と血清亜鉛値の組み合わせによって行われます。日本臨床栄養学会の診断基準では、血清亜鉛値が60μg/dL未満を亜鉛欠乏症、60~80μg/dL未満を潜在性亜鉛欠乏と定義しています。
参考)亜鉛欠乏症の診療指針
血清亜鉛値の測定は、早朝空腹時に行うことが望ましいとされており、これは日内変動があるためです。また、血清亜鉛値とよく相関する血清アルカリホスファターゼ(ALP)が低値を示すことも診断の一助となります。
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皮膚症状の画像診断においては、典型的な分布パターンと形態学的特徴が重要な診断手がかりとなります。特に、四肢末端および開口部周辺の対称性皮疹の画像所見は、他の皮膚疾患との鑑別において極めて有用です。
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亜鉛欠乏症による皮膚の微細構造変化と病理学的所見
亜鉛欠乏による皮膚症状は、表皮の構造変化から始まり、進行すると真皮層にも影響を及ぼします。初期段階では、掻痒が最も早期に現れる症状として報告されており、これに続いて易発赤性、表皮内出血、剥皮、表皮の菲薄化などが生じます。
表皮の菲薄化は特徴的な所見で、皮膚がテカテカと光る外観を呈し、軽微な外力でも表皮内出血や剥皮が生じます。進行例では、真皮の菲薄化や脆弱性も加わり、広範囲な剥皮や裂創さえも生じることがあります。これらの変化は、亜鉛の表皮・真皮・皮下組織を含めた健常な皮膚の生成・維持機能の異常によるものと考えられています。
病理組織学的には、亜鉛欠乏により皮膚のターンオーバーが延長し、細胞分裂や蛋白質合成が障害されます。また、亜鉛は300以上の酵素の構成成分として機能しているため、その欠乏は皮膚の正常な代謝プロセスに広範囲な影響を与えます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9887131/
腸性肢端皮膚炎における特異的な皮膚症状と鑑別診断
先天性の亜鉛欠乏症である腸性肢端皮膚炎(Acrodermatitis Enteropathica: AE)は、SLC39A4(ZIP4)遺伝子の異常により腸管からの亜鉛吸収障害を来す常染色体劣性遺伝性疾患です。この疾患では、典型的な皮膚症状の三徴として、周口性皮膚炎、脱毛、下痢が知られています。
参考)301 Moved Permanently
皮膚症状は、四肢末端および開口部(口囲、鼻孔、眼囲、耳孔、耳介、肛囲、外陰)に、丘疹、小水疱、膿疱を伴う紅斑、びらん、結痂を呈します。さらに、爪変形、爪囲炎、全身の脱毛(全頭、眉毛、睫毛、毳毛)も特徴的な所見です。
参考)先天性腸性肢端皮膚炎 概要 – 小児慢性特定疾病情報センター
鑑別診断においては、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、乾癬などとの区別が重要です。特に、周口性皮膚炎と対称性の四肢末端皮疹の組み合わせは、亜鉛欠乏症に特徴的なパターンとして診断の手がかりとなります。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmed.2024.1399511/full
最近の報告では、典型的な低亜鉛血症を呈さないケースや、痤瘡様皮疹を呈するケースもあり、診断には注意深い観察が必要です。遺伝子検査により確定診断が可能ですが、臨床症状と亜鉛補充療法への反応性も重要な診断根拠となります。
亜鉛欠乏症の治療における皮膚症状改善の経時的変化
亜鉛欠乏症の治療では、亜鉛補充療法が標準的な治療法となります。成人では亜鉛として50~100mg/日、小児では1~3mg/kg/日または体重20kg未満で25mg/日、体重20kg以上で50mg/日を1日2回に分けて食後に経口投与します。
参考)http://jscn.gr.jp/pdf/aen2018.pdf
皮膚症状の改善は、適切な亜鉛補充療法により比較的短期間で観察されます。症例報告では、亜鉛補充開始後、掻痒の改善が最初に認められ、続いて剥皮や水疱形成の改善、表皮の肥厚化と健常化が段階的に進行することが示されています。
治療効果の判定には、血清亜鉛値の正常化と臨床症状の改善を総合的に評価します。血清亜鉛値が100μg/dL程度まで上昇すると、皮膚症状の急速な改善が期待できることが報告されています。
しかし、治療は生涯にわたって継続する必要があり、特に先天性の腸性肢端皮膚炎では、治療中断により症状の再発を繰り返すため、長期的な管理が不可欠です。また、亜鉛の吸収を促進する動物性たんぱく質との併用や、吸収を阻害するフィチン酸塩を含む食品との摂取タイミングの調整も重要な治療戦略となります。
参考)あなたの亜鉛不足してませんか?