アバトロンボパグによる慢性ITP治療
他のTPO受容体作動薬無効例でも約6割が反応
アバトロンボパグITPへの適応追加の経緯
アバトロンボパグは2025年8月25日に「持続性及び慢性免疫性血小板減少症」の適応を取得した経口のトロンボポエチン(TPO)受容体作動薬です。本剤は既に慢性肝疾患患者における血小板減少症の適応で使用されていましたが、今回の適応追加により慢性ITP治療の選択肢が広がりました。
適応追加の根拠となった国内第III相試験(AVA-ITP-307試験)では、慢性ITP患者19例を対象に26週間の投与が行われました。主要評価項目である血小板反応(血小板数50,000/μL以上)が得られた累積週数の中央値は14.0週を示し、持続血小板反応率は42.1%という結果でした。つまり、対象患者の約4割が長期的に安定した血小板数を維持できたということですね。
海外の第III相試験(E5501-G000-302試験)では、より大規模な検証が行われています。1種類以上の前治療を受けた成人ITP患者を対象に、プラセボとの比較試験が実施され、アバトロンボパグ群で有意に優れた結果が得られました。注目すべきは、投与開始後早期から効果が確認されている点です。
免疫性血小板減少症への新治療薬による診療戦略(CareNet)
上記リンクでは、アバトロンボパグの臨床試験データと診療戦略について詳しく解説されています。
適応対象は免疫性血小板減少症の発症または診断後6ヶ月以上経過した患者に限定されます。これは、急性期ITPの多くが自然寛解する可能性があるためで、持続性・慢性化した症例に対する治療薬として位置づけられているわけです。
既存のTPO受容体作動薬であるエルトロンボパグやロミプロスチムは2010~2011年に承認され、高い奏効率を示してきました。エルトロンボパグは経口薬ですが食事の前後2時間を空ける必要があり、ロミプロスチムは週1回の皮下注射という投与形態でした。アバトロンボパグは食後投与が可能という点で、服薬アドヒアランスの向上が期待されています。
アバトロンボパグITP治療における反応率と効果発現時期
アバトロンボパグITP治療の大きな特徴は、早期から効果が確認される点にあります。国内第III相試験では、投与8日目の血小板反応率が63.2%(95%信頼区間38.4%~83.7%)という結果が示されました。わずか1週間程度で6割以上の患者に効果が現れたということです。
より詳しく見ると、完全奏効率(血小板数100,000/μL以上かつ出血・救済治療なし)は投与8日目で26.3%、26週目で26.7%でした。長期投与においても初期の効果が維持されている点が重要です。持続血小板反応率、つまり26週間の投与期間中の最後の8週間で、救援療法なしに血小板数が50,000/μL以上を75%以上の週で達成した患者の割合は42.1%でした。
海外第III相試験でも同様の傾向が確認されています。26週間のうち血小板反応が認められた累積週数を主要評価項目として、プラセボに対する優越性が検証されました。アバトロンボパグ群では持続的な血小板増加が観察され、出血イベントの減少も確認されています。
国内試験の詳細な有効性データは上記リンクで確認できます。各評価時点での血小板数推移や反応率が図表で示されています。
小児・青年期ITP患者を対象とした研究でも、全体の血小板反応率は89.3%と非常に高い有効性が示されました。血小板反応までの期間の中央値は報告により異なりますが、多くの患者で初期用量から反応が得られています。原発性ITPだけでなく二次性ITPでも同様の反応が確認されており、幅広い病態への有効性が示唆されます。
重要なのは、他のTPO受容体作動薬で効果不十分だった患者でもアバトロンボパグで反応が得られる可能性がある点です。エルトロンボパグやロミプロスチムからアバトロンボパグへの切り替え例でも、持続的な反応率は33.3%~48.4%に達したという報告があります。反応持続期間の中央値は7~10日程度でしたが、難治例への新たな選択肢として評価できますね。
アバトロンボパグITP治療の用法用量調節の実際
アバトロンボパグのITP治療における用法用量は、患者の血小板数に応じて細かく調節する必要があります。初回投与量は20mgを1日1回、食後に経口投与するのが原則です。この初回用量から開始し、血小板数の推移を見ながら段階的に調節していく流れになります。
投与開始後、血小板数が安定するまでの期間、具体的には少なくとも4週間にわたり用量調節せずに血小板数が50,000/μL以上を維持できるまでは、毎週血小板数を測定する必要があります。測定頻度が多いと感じるかもしれませんが、安全な用量設定のために重要です。
用量調節は2週間ごとに検討しますが、同一の用法・用量レベルは最低2週間は維持するというルールがあります。ただし、血小板数が50,000/μL未満または400,000/μL超の場合は、1週間に1回の調節も可能です。つまり、極端な値の場合は早めの対応が許容されているわけですね。
用法・用量レベルは以下のように設定されています。
- レベル1:20mg 週1回
- レベル2:20mg 週3回
- レベル3:20mg 連日
- レベル4:40mg 連日
血小板数が50,000/μL未満の場合は用量レベルを1段階上げます。ただし、最高投与量の40mg連日を4週間投与しても臨床上重大な出血があり、かつ血小板数が30,000/μL未満の場合は、本剤による治療効果が期待できないため投与中止を検討します。
逆に、血小板数が200,000/μL超400,000/μL以下で推移する場合は用量レベルを1段階下げます。400,000/μL超になった場合は投与を中止し、150,000/μL以下に減少してから1段階下げたレベルで再開するという流れです。これは血栓症リスクを避けるための重要な安全対策となっています。
上記リンクでは用量調節の詳細な手順と表が掲載されており、実臨床での参考になります。
血小板数が安定した後も、4週に1回を目安に血小板数を測定し続けることが推奨されています。また、強いまたは中程度のCYP2C9およびCYP3A4を同時に阻害する薬剤、あるいは同時に誘導する薬剤と併用する場合は、薬物相互作用を考慮した用量調節が必要です。
併用薬がある場合は特に注意が必要ですね。
アバトロンボパグと他のTPO受容体作動薬との比較
アバトロンボパグを理解する上で、既存のTPO受容体作動薬との違いを把握することが重要です。現在、ITP治療に使用可能なTPO受容体作動薬には、エルトロンボパグ(レボレード)、ロミプロスチム(ロミプレート)、そして今回のアバトロンボパグ(ドプテレット)があります。
それぞれ異なる特徴を持っています。
エルトロンボパグは経口薬ですが、最大の制約は食事制限です。服用の前後2時間は食事を摂れないため、患者の生活リズムに制約が生じやすいという課題がありました。一方で、慢性ITPだけでなく再生不良性貧血にも適応を持つという利点があります。効果発現は通常1~2週間かかり、用量調整には少なくとも2週間、肝障害のある患者では3週間の観察期間が必要です。
ロミプロスチムは週1回の皮下注射という投与形態です。経口薬ではないため通院が必要になりますが、食事の影響を受けないという利点があります。開始用量は1μg/kgで、最大10μg/kgまで増量可能です。血小板数に応じて週単位で用量調整を行います。
これに対してアバトロンボパグの最大の特徴は、食後投与が可能で食事制限が不要という点です。食事と一緒に服用できるため、患者の服薬アドヒアランスが向上すると期待されています。食事による吸収への影響も安定しており、予測可能な薬物動態が得られます。
有効性の面では、費用対効果分析においてアバトロンボパグはロミプロスチムに対して「ドミナント」(より効果的かつ安価)であり、エルトロンボパグに対しては増分費用効果比(ICER)が1 QALY(質調整生存年)あたり良好という結果が報告されています。つまり、コストパフォーマンスの観点からも優れている可能性があるということです。
アバトロンボパグの費用対効果分析(CareNet Academia)
上記リンクでは、各TPO受容体作動薬の費用対効果比較の詳細が解説されています。
安全性プロファイルも比較のポイントです。エルトロンボパグでは肝機能障害のリスクが知られており、定期的な肝機能モニタリングが必要です。アバトロンボパグでも肝酵素上昇の報告はありますが、非ペプチド性TPO受容体作動薬全般で比較した研究では、ITPにおける肝酵素異常リスクは対照群と有意差がなかったとされています。
重要な知見として、他のTPO受容体作動薬で効果不十分だった患者がアバトロンボパグに切り替えて反応を示す例が報告されています。これは作用機序の微妙な違いや、TPO受容体への結合様式の差異が影響している可能性があります。エルトロンボパグやロミプロスチムで十分な効果が得られなかった難治例に対して、アバトロンボパグは新たな治療選択肢となり得るわけですね。
日常活動やメンタルヘルスへの影響を調査した国際研究では、アバトロンボパグとエルトロンボパグが日常活動とメンタルヘルス全体で報告された改善率が最も高かったという結果が出ています。経口薬であることの利便性が、患者のQOL向上に寄与している可能性があります。
アバトロンボパグITP治療における副作用と注意点
アバトロンボパグのITP治療における安全性プロファイルを理解し、適切なモニタリングを行うことが重要です。国内第III相試験で報告された主な副作用(発現割合5%以上)には、白血球増加症(5.3%)、動悸(5.3%)、血圧上昇(5.3%)、頭痛(5.3%)、蕁麻疹(5.3%)がありました。発現頻度は比較的低いものの、これらの症状には注意が必要です。
重篤な副作用として特に警戒すべきは血栓塞栓症です。海外第III相試験のコア期において、アバトロンボパグ群で3例の血栓塞栓症が認められました。内訳は脳血管発作1例(重篤)、深部静脈血栓症1例(重篤)、肺塞栓症1例です。血小板数が過度に上昇すると血栓リスクが高まるため、血小板数400,000/μL超になった場合は速やかに投与を中止する必要があります。
他の重篤な副作用として報告されているものに、頭痛2例、悪心、嘔吐、血小板数減少、浮動性めまいなどがあります。これらは発現頻度14.9%(7/47例)で観察されました。頭痛が比較的多く報告されている点は注目すべきですね。
投与中の定期的なモニタリングが安全管理の鍵となります。血小板数の測定は前述の通り、投与開始後は毎週、安定後も4週に1回実施します。血小板数が急激に上昇する場合や、逆に十分に上昇しない場合は、用量調節や投与中止を検討する必要があります。
肝機能についても注意が必要です。TPO受容体作動薬では肝機能障害のリスクが指摘されており、定期的な肝機能検査の実施が推奨されます。特に肝疾患の既往がある患者では慎重な観察が求められます。
併用薬にも注意が必要です。アバトロンボパグは主にCYP2C9とCYP3A4で代謝されるため、これらの酵素を阻害または誘導する薬剤との併用時には薬物相互作用が生じる可能性があります。強いまたは中程度のCYP2C9およびCYP3A4阻害薬を併用する場合は、アバトロンボパグの血中濃度が上昇し副作用リスクが高まります。逆に誘導薬との併用では効果が減弱する可能性があるため、用量調節が必要です。
添付文書の全文は上記リンクで確認でき、禁忌、併用注意薬、詳細な安全性情報が記載されています。
禁忌は本剤の成分に対する過敏症のみですが、慎重投与が必要な患者群があります。血栓症のリスク因子を有する患者、肝機能障害のある患者、高齢者などでは特に注意深い観察が必要です。
患者への服薬指導では、必ず食後に服用すること、定期的な血液検査が必要であること、出血症状や血栓症を疑う症状(突然の頭痛、胸痛、呼吸困難、下肢の腫脹など)が出現した場合は速やかに医療機関を受診することを伝える必要があります。また、他の医療機関を受診する際はアバトロンボパグを服用していることを必ず伝えるよう指導することも重要ですね。