NPPVの基本と適応から導入までの管理法

NPPVの基本と適応から導入までの管理法

NPPVの基本知識
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非侵襲的換気療法

気管挿管せず、マスクを介して陽圧をかける換気療法

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主な適応疾患

急性・慢性呼吸不全、COPD、神経筋疾患など

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換気モード

CPAP(持続陽圧)とBilevel PAP(二相性陽圧)の2種類

NPPVの定義と基本的な仕組み

非侵襲的陽圧換気療法(Non-invasive Positive Pressure Ventilation: NPPV)は、気管挿管や気管切開などの侵襲的気道確保を行わずに、マスクを介して経気道的に陽圧をかける換気療法です。この治療法は1990年代から普及し始め、現在では急性呼吸不全・慢性呼吸不全を問わず、第一選択の人工呼吸法として広く認知されています。

NPPVの陽圧のかけ方には主に2種類あります。

  1. 持続的陽圧呼吸(Continuous Positive Airway Pressure: CPAP)
  2. 二相性陽圧換気(Bilevel Positive Airway Pressure: Bilevel PAP)

CPAPは一定の陽圧を常にかけ続ける方式で、PEEPとして平均気道内圧を上昇させることで、肺の虚脱箇所への換気を改善し、呼吸仕事量を減少させる効果があります。また、左室後負荷減少により血行動態に有益な影響を与え、肺胞レベルでのガス交換改善が主な作用となります。

一方、Bilevel PAPは吸気時と呼気時で異なる圧をかける方式です。吸気時には呼気時より高い圧力を吸気圧(Inspiratory Positive Airway Pressure: IPAP)として設定し、呼気時には吸気圧より低い圧力を呼気圧(Expiratory Positive Airway Pressure: EPAP)として設定します。IPAPとEPAPの差をプレッシャーサポート(Pressure Support: PS)と呼び、このPSによって患者の吸気仕事量が軽減され、肺胞換気量が増加することで吸気筋疲労が軽減され、二酸化炭素分圧(PaCO₂)が低下する効果があります。

NPPVの最大の特徴は、その「非侵襲性」にあります。気管挿管を必要としないため、患者は会話や食事が可能で、鎮静の必要性も低く、人工呼吸器関連肺炎(VAP)などの合併症リスクも低減できます。

NPPVの適応疾患と導入基準

NPPVは様々な呼吸不全状態に適応があり、適切な症例選択が治療成功の鍵となります。主な適応疾患は以下の通りです。

急性呼吸不全

  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪
  • 心原性肺水腫
  • 免疫不全患者の肺炎
  • 術後呼吸不全
  • 抜管後の呼吸不全予防

慢性呼吸不全

  • COPD
  • 神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィーなど)
  • 胸郭変形
  • 肥満低換気症候群
  • 間質性肺疾患

NPPVの導入基準としては、以下のような臨床所見や検査所見が参考になります。

  1. 臨床所見
    • 呼吸困難の増悪
    • 頻呼吸(呼吸数 > 24回/分)
    • 補助呼吸筋の使用
    • 奇異性呼吸(腹部と胸部の非同期運動)
  2. 血液ガス所見
    • 急性呼吸性アシドーシス(pH < 7.35)
    • 高二酸化炭素血症(PaCO₂ > 45mmHg)
    • 低酸素血症(PaO₂/FiO₂ < 300)

一方で、NPPVには禁忌や適応外となる状況もあります。

絶対的禁忌

  • 心停止
  • 呼吸停止
  • 気道確保が困難な状態
  • 顔面外傷や手術後で適切なマスク装着が不可能な場合

相対的禁忌

  • 意識障害(Glasgow Coma Scale < 10)
  • 多量の気道分泌物
  • 嘔吐のリスクが高い状態
  • 血行動態が不安定な状態

NPPVの導入を検討する際は、これらの適応と禁忌を慎重に評価し、患者の状態に応じた適切な判断が求められます。また、導入後も定期的に効果を評価し、必要に応じて侵襲的人工呼吸への移行を検討することが重要です。

NPPVのマスク選択とフィッティングのコツ

NPPVの成功には適切なマスクの選択とフィッティングが極めて重要です。「NPPVマスクを制する者はNPPVを制す」とも言われるほど、マスク選択とフィッティングは治療効果に直結します。

マスクの種類と特徴

NPPVで使用されるマスクは、カバーする部位によって大きく3つのタイプに分類されます。

  1. 鼻タイプ
    • 鼻マスク(ネーザルマスク):鼻全体を覆うタイプ
    • ネーザルピローマスク:鼻孔に直接装着するタイプ
    • 特徴:会話や食事が比較的容易、閉口困難な患者に適する
    • 欠点:口呼吸の患者ではリークが多くなる
  2. 鼻口タイプ(フルフェイスマスク)
    • “Over-the-nose”タイプ:鼻と口を覆うタイプ
    • “Under-the-nose”タイプ:鼻の下から口を覆うタイプ
    • 特徴:口呼吸の患者でも効果的、急性期に適している
    • 欠点:閉所恐怖感、会話や食事が困難
  3. 顔全体タイプ
    • トータルフェイスマスク:顔全体を覆うタイプ
    • ヘルメットタイプ:頭部全体を覆うタイプ
    • 特徴:顔面の形状に関わらず使用可能、皮膚への圧迫が分散される
    • 欠点:閉所恐怖感が強い、装着感が悪い

マスクフィッティングのコツ

適切なマスクフィッティングは、患者の快適性と治療効果を左右する重要なスキルです。

  1. マスクサイズの選定
    • 各メーカーのサイジングゲージを使用して適切なサイズを選択
    • 小さすぎると圧迫感が強く、大きすぎるとリークが多くなる
  2. 装着手順
    • マスクを顔に軽く当て、適切な位置を確認
    • ヘッドギアを過度に締めつけず、均等に調整
    • 「指2本分の隙間」を目安に締め付け具合を調整
  3. リーク対策
    • リークは完全に防ぐのではなく、許容範囲内に抑える
    • 特に目の周囲へのリークは結膜炎の原因となるため注意
    • マスクの位置調整やクッション材の追加で対応
  4. 皮膚トラブル予防
    • 皮膚保護材(ハイドロコロイドなど)の使用
    • 定期的なマスク位置の微調整
    • 皮膚の観察と早期対応

実際の臨床現場では、患者の顔の形状、呼吸パターン、快適性などを考慮して、複数のマスクを試してみることが重要です。また、患者自身にマスクの装着感やリークの有無について確認しながら調整することで、より効果的なフィッティングが可能になります。

NPPVの換気モードと設定パラメータ

NPPVの効果を最大化するためには、患者の病態に合わせた適切な換気モードと設定パラメータの選択が重要です。ここでは主な換気モードとその設定方法について解説します。

主な換気モード

  1. CPAP(持続陽圧呼吸)モード
    • 単一の陽圧を呼吸サイクルを通じて維持
    • 主に閉塞性睡眠時無呼吸症候群や心原性肺水腫に有効
    • 設定パラメータ:CPAP圧(通常4〜15 cmH₂O)
  2. Bilevel PAP(二相性陽圧換気)モード
    • 吸気時と呼気時で異なる圧を設定
    • 主にCOPDや神経筋疾患による高CO₂血症に有効
    • 設定パラメータ。
      • IPAP(吸気陽圧):通常10〜25 cmH₂O
      • EPAP(呼気陽圧):通常4〜10 cmH₂O
      • PS(プレッシャーサポート)= IPAP – EPAP
    • ST(Spontaneous/Timed)モード
      • 患者の自発呼吸をサポートしつつ、バックアップ換気回数を設定
      • 神経筋疾患や中枢性無呼吸に有効
      • 設定パラメータ。
        • IPAP、EPAP
        • バックアップ換気回数
        • 吸気時間(Ti)
      • ASV(Adaptive Servo Ventilation)モード
        • 患者の呼吸パターンに合わせて自動的に圧をサポート
        • 中枢性睡眠時無呼吸や複合性睡眠時無呼吸に有効
        • 設定パラメータ。
          • EPAP
          • PS最大値・最小値
          • 目標換気量

初期設定と調整のポイント

  1. 初期設定の目安
    • COPD急性増悪。
      • IPAP 10〜14 cmH₂O(徐々に増加)
      • EPAP 4〜6 cmH₂O
    • 心原性肺水腫。
      • CPAP 8〜12 cmH₂O または
      • IPAP 14〜18 cmH₂O、EPAP 8〜10 cmH₂O
    • 神経筋疾患。
      • IPAP 12〜20 cmH₂O
      • EPAP 4〜6 cmH₂O
      • STモードでバックアップ換気回数を設定
    • 設定調整のポイント
      • 低酸素血症の改善:EPAP(または CPAP)を増加
      • 高CO₂血症の改善:IPAP を増加(PS を拡大)
      • 呼吸仕事量の軽減:PS を拡大
      • 自発呼吸の不安定:バックアップ換気回数を設定
    • モニタリング項目
      • 臨床所見:呼吸数、呼吸パターン、補助呼吸筋の使用、意識レベル
      • 生理学的指標:SpO₂、EtCO₂、血液ガス分析
      • 人工呼吸器パラメータ:一回換気量、分時換気量、リーク量

設定調整は患者の反応を見ながら段階的に行うことが重要です。急激な設定変更は患者の不快感や不適応を招く可能性があります。また、定期的な再評価を行い、患者の状態変化に応じて設定を最適化していくことが求められます。

NPPVの合併症と対策および終末期での活用法

NPPVは非侵襲的な治療法ですが、適切な管理を行わないと様々な合併症が生じる可能性があります。また、近年では終末期の呼吸困難緩和としてのNPPVの役割も注目されています。

主なNPPV合併症と対策

  1. マスク関連合併症
    • 皮膚障害(発赤、潰瘍、壊死)
      • 対策:皮膚保護材の使用、マスク位置の定期的な調整、適切なサイズ選択
    • 鼻根部の圧迫
      • 対策:クッション材の追加、マスクタイプの変更
    • 結膜炎
      • 対策:マスクのリーク調整、アイシールドの使用
    • 胃膨満と誤嚥
      • 対策:EPAP/IPAPの適切な設定、胃管の挿入検討、食後のNPPV回避
    • 口・鼻の乾燥
      • 対策:加温加湿の適切な設定、人工鼻の使用、口腔ケアの徹底
    • 不快感と不耐性
      • 対策:マスクの適切な選択と調整、換気設定の最適化、短時間からの導入
    • 気胸
      • 対策:高圧設定の回避、基礎疾患(肺気腫など)のある患者での注意深い監視

終末期におけるNPPVの活用

終末期の呼吸困難緩和としてのNPPVは、従来のオピオイドや酸素療法に加えて重要な選択肢となっています。特に以下のような点が重要です。

  1. ゴール設定の明確化
    • Curtis のカテゴリー分類を参考に、以下の3つのカテゴリーに分類
      • カテゴリー1:制限なし(挿管も含めた積極的治療)
      • カテゴリー2:DNI(挿管しない)
      • カテゴリー3:症状(呼吸困難)緩和のみ
    • 医療者と患者・家族間での合意形成が重要
  2. Time limit trial(時間制限付きトライアル)
    • 一定期間(24〜48時間)NPPVを試み、効果を評価
    • 効果がない場合や苦痛が強い場合は中止を検討
  3. 症状緩和としての設定
    • 低めの圧設定(IPAP 8〜14 cmH₂O、EPAP 4〜6 cmH₂O)