ケトアシドーシスの症状と治療方法
ケトアシドーシスの初期症状と典型的な臨床像
ケトアシドーシスの初期症状は、糖尿病の典型的な症状から始まります。強い口渇感と多尿が最も早期に現れる症状で、血糖値の上昇により浸透圧利尿が起こることが原因です。
初期症状の特徴。
- 強い口渇感(polydipsia)
- 頻尿(polyuria)
- 全身倦怠感
- 体重減少
- 食欲不振
進行すると、消化器症状が顕著になります。嘔吐や腹痛は特に小児患者で多く見られ、急性腹症との鑑別が重要になります。また、特有のアセトン臭(フルーツ様の甘酸っぱい匂い)が呼気から感じられることも診断の重要な手がかりとなります。
呼吸器症状として、クスマウル呼吸(深く速い呼吸)が特徴的です。これは代謝性アシドーシスを代償するための生理的反応であり、重症度の指標にもなります。
ケトアシドーシスの診断基準と検査所見
ケトアシドーシスの診断は、明確な診断基準に基づいて行われます。血糖値は通常250mg/dL以上、pHは7.3未満、血清重炭酸レベルは18mEq/L未満、ケトン尿および/またはケトン血症が陽性という4つの基準を満たす必要があります。
診断に必要な検査項目。
- 血糖値測定
- 動脈血液ガス分析
- 血清ケトン体測定
- 尿ケトン体検査
- 電解質(Na、K、Cl)
- 血清浸透圧
アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスが典型的な所見です。アニオンギャップは通常12mEq/L以上となり、ケトン体の蓄積を反映します。
興味深い点として、正常血糖ケトアシドーシスという病態も存在します。これはSGLT2阻害薬の使用により、血糖値が正常範囲にもかかわらずケトアシドーシスを発症する状態で、近年注目されている病態です。
ケトアシドーシスの治療プロトコルと管理方法
ケトアシドーシスの治療は、インスリン療法、輸液療法、電解質補正の3つが基本となります。
インスリン療法。
- 持続静脈内投与が標準
- 初期投与量:0.1単位/kg/時
- 血糖値250mg/dL以下でブドウ糖併用
- ケトン体消失まで継続
輸液療法。
- 生理食塩水による脱水補正
- 初期1-2時間で15-20mL/kg投与
- 循環動態の安定化が優先
- 過剰補液による浮腫に注意
電解質補正。
重症例では重炭酸ナトリウムの投与も検討されますが、代謝性アルカローシスのリスクがあるため慎重な投与が必要です。
ケトアシドーシスの合併症と予後管理
ケトアシドーシスは生命を脅かす重篤な合併症を引き起こす可能性があります。脳浮腫は特に小児で致命的な合併症として知られており、急激な血糖値の低下により発症することがあります。
主な合併症。
高カリウム血症も重要な合併症の一つです。症例報告では、35歳男性がソフトドリンクの多飲により糖尿病性ケトアシドーシスを発症し、高カリウム血症により心停止に至った例が報告されています。
予後の改善には、頻回なモニタリングが不可欠です。
- 血糖値:1-2時間毎
- 電解質:4-6時間毎
- 動脈血液ガス:2-4時間毎
- 意識レベル:継続的観察
ケトアシドーシスの特殊病態と鑑別診断
臨床現場では、典型的な糖尿病性ケトアシドーシス以外にも、様々な特殊病態に遭遇することがあります。飢餓性ケトアシドーシスは、過度な糖質制限ダイエットにより発症する興味深い病態です。
19歳女性の症例では、糖質摂取量を1日30g以下に制限したことで飢餓性ケトアシドーシスを発症し、原因不明のアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスとして入院治療を要した例が報告されています。
糖尿病性舞踏病との合併も稀ながら報告されています。84歳女性の症例では、糖尿病性ケトアシドーシスに合併して左上下肢の不随意運動を呈し、MRIで右大脳基底核の異常信号を認めた例があります。
鑑別診断として重要な疾患。
感染症による誘発も重要な要因です。70歳代女性の気腫性骨髄炎の症例では、尿路感染に起因する感染症により糖尿病性ケトアシドーシスが誘発され、高血糖高浸透圧状態と播種性血管内凝固を合併した複雑な病態を呈しました。